第341話 騎士にごり押しで勝つお姫様

 ――闘技大会2日目


 初戦以降、何度かボク達は試合に出て、

 その度に反省会をして各々の弱点を指摘し合っていた。


「エミリア様は、魔法の威力を上げるために余分に詠唱する癖があります。そこを狙われていました」


「う……気を付けます」


「ベルフラウ様は、安全を確保するために後方に退避するのは良いのですが、わたくしたちと離れすぎて孤立してしまうことが多かったです。あまり離れすぎるといざという時に守ることが出来ません」


「ご、ごめんね、レベッカちゃん」


「最後にレイ様、相手を気遣い過ぎて、本気で戦う事を躊躇しています」

「……!」


 痛いところを突かれた。

 流石レベッカ、ボク達の事をよく見ている。


「戦において敵を気遣うのは致命的な欠点といえます。勝てるいくさにも勝てなくなり、下手をすれば命を落としてしまうかもしれません」


「……うん、もうちょっと気を付けるよ。ありがとう、レベッカ」


 そんな感じでレベッカによるボク達の戦闘評価が行われていく。


 ちなみに、当のレベッカだが、対人戦では隙らしい隙が殆ど見られなかった。強いて言えば、ボク達の中で最も走り回りながら戦うため、体力切れと本人の防御の弱さが不安点だが、今のところ追い込まれる状況が無かったので、四人の中で一番安定した戦いぶりを見せている。


 ◆


 そして遂に決勝。

 既に、ボク達は本戦の後半に出場できることは確定している。

 だから、最後の戦いは事実上消化試合なのだけど……。


「よう、レイお嬢さん」

「団長さん……」


 最後は前年の闘技大会優勝者のアルフォンスさんチームだった。

 他のメンバーも、何処かで見たことがある面々だ。おそらく前年の本戦で好成績を残したメンバーなのだろう。


 姉さんも彼の姿を見て、ため息を吐くかのように言った。


「まさか、団長さんとここで当たるなんて……」


「ベルフラウさん! 相変わらずお美しいですね!! 今夜とかどうでしょう!?」


「お断りします」


「そいつぁ残念。ま、それはいいとして……」

 アルフォンスは大剣を構える。


「悪いが、俺達が優勝させて貰うぜ。今回はお互いに本戦の出場が決まってるから軽い手合わせで済ませてやるが、それでも勝つのは俺だ」


「ふむ……自信家の方なのですね」

 レベッカが感心したような表情で言った。


 彼が最も強敵なのは間違いない。

 相性的に考えて、少なくともエミリアと姉さんは勝ち目が薄いだろう。

 レベッカは、もしかしたら優勢かもしれないけど……。


「(他の三人も結構手ごわそうだ……)」


 アルフォンスさん以外のメンバーは、一人は剣士、残り二人は後衛だ。

 ボク達四人と似たパーティ構成と言える。実力的にもここまで勝ち上がっているのだからきっと手強い相手に違いない。


 ただ……。


「団長、女のボクと戦えるんですか?」


「くっ……痛い所を付きやがって……!!!」


 団長さんは悔しそうな声を上げる。

 この人は大の女好きであり、女性に手を上げるのも苦手なのだ。実力的にどうあれ、ボク達四人は女の子メンバーなので彼にとって天敵中の天敵だろう。


 そんな彼の様子に、彼の仲間が呆れて言った。


「アルフォンス。女だから戦えないとか言うんじゃないだろうな?」


「おめぇ、いつからそんな軟弱者になったんだ」


「女に振られまくったのが原因か?

 なら逆に今その怒りをここで向けたらどうだ?」


「うるせぇ、お前らには関係ねぇだろうが!」

 アルフォンスさんは顔を真っ赤にして叫んだ。


「くっ……というか、レイ。

 なんでお前はずっとその姿なんだよっ!!」

「事情があって元の姿に戻るわけにもいかないんですよ……」


 今、男に戻ったら観客から罵声浴びてしまいそう。

 妙な人気が出てしまったが故の結果だけど、もう仕方ない。


 彼の仲間の三人は事情が分かってない。

 だからボク達の話を理解できてないようだ。


「こ、こうなったら、俺はお前だけを狙うぞ! レイ!

 俺はお前を女だと思わねぇからな!!!」


「あ、はい。よろしく」

 その言葉に、ボク達は一斉に吹き出した。


 ◆


 試合が始まった直後、アルフォンスさんはボクに向かって走り出す。

 他の三人は皆に任せてある。彼の仲間もそれが分かっているのか、ボク達二人の戦いに立ち入らないようだ。


 そして、彼とボクが向かい合い、立ち止まる。


「団長さん、行きますよ」

「こ、来い!」

 団長は大剣を構えて、ボクの出方を見ている。


「(団長さん、やっぱりちょっと戦いにくそう……)」

 ボクが女の子の姿だから、無意識で戦うのを嫌がってるように見える。

 それを意志力で強引に押し止めている感じか。


 ボクも彼相手に手を抜くわけにはいかないし、

 ちょっと悪いけどこの優位を活かして勝負を決めさせてもらおう。


「ふッ!!」

 ボクは短く息を吐き、両手で握った剣を振るう。


「おっとぉ!」

 彼は大剣でボクの攻撃を弾き返す。

 しかし、それに怯まずに更に連撃を叩き込む。


「くっ……! だが、男の時よりも力がはいってねぇぞ!!」

 そう言いながら、団長はボクを押し返そうと剣に力を込めるが―――


 ボクは、そのタイミングで敢えて体のバランスを崩し、身体を彼の側面に入るようにずらす。


「むっ!?」

 そして、そのまま彼の懐に入り込みつつ、彼の横腹目掛けて剣を薙ぎ払った。


「ぐぅ!?」

 流石にこれは予想外だったようで、団長は大きくバランスを崩す。

 ボクはその隙に、一気に仕掛ける。剣を突き出すようにして放つ突き攻撃。


「ぐあっ!?」

 腹部へのダメージに気を取られていた団長は、

 それをまともに食らい、大きく後ろに飛ばされる。


「つ、強いじゃねえか……だが、やっぱり致命傷には程遠いな」

 団長は、腹を抑えながらすぐに立ち上がる。


「(やっぱり女の子の姿だと……)」

 団長の装備している鎧はかなり堅牢だ。いくら聖剣を持つボクでも、男の時と比べて力が大きく落ちている今のボクだと押し切れない。聖剣の力を解放すれば分からないけど、少なくとも……。


「……ん、なんだ?」

「いえ、別に」


 ボクは団長の顔を見て、すぐに目を逸らす。


「(少なくとも、今の団長は本気でやってない)」

 こちらの出方を見ながら今のボクの実力を推し量ろうとしている。

 次の戦いを優位に進めるための戦略だ。


 あくまでこの戦いは前哨戦。

 ここで負けたとしても、次のトーナメント戦で勝てば問題ない。

 だからこそ、ここで手の内を見せるのは避けたい。


「(全力で戦うわけにはいかないかな。だけど、このままだと……)」

 だが、このままだとじり貧で負けかねない。

 手の内を見せないように、既存の手段で勝負を仕掛けるしかない。

 

 なら、ここは魔法で――


 ボクは、後方に大きく跳んで、団長と距離を離す。


「ん、何する気だ?」

「団長、魔法を剣で切るのが得意でしたよね。ですから――」

 ボクは一旦言葉を切る。そして、少し強気な口調で言った。


「――今から使う魔法も切れるのかなって、興味が出ちゃいました」


「ほほぅ? 俺に対して魔法で戦うってか? 以前も効かなかったのに敢えて挑んでくるか。いいぜ、その挑発乗ってやるよ!」


 団長さんは、何処からでも来いと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべる。


「では遠慮なく……」

 ボクは右手の剣を前に突き出し、詠唱を開始する。


「炎よ、集え――」


 まずは魔力を左手に集中させる。

 用意する魔法は、以前にも彼に使用した火球の魔法だ。


 ただし、女性の身体になって体内のマナがより活性化させており威力が跳ね上がってる。時間を掛けて左手の掌からどんどん炎の魔力が膨れ上がる。


「(蒼い星……少しだけ力を貸してね)」

『―――』

 ボクが剣に向かって思念を送るような形でお願いすると、剣の刀身が僅かに光る。そしてそれに呼応するかのように、魔力が流れてくる。


 すると、火球が更に増幅され膨れ上がる。

 最終的な火球は以前の3倍近くの大きさに膨れ上がっている。


 ここまでの大きさでは斬り払ってどうにかなるものじゃない。

 以前の火球の対処法では不可能だ。

 だからこそ、確実にを使用してくる。


「おおう、すげぇな……。

 前見た時の同じ魔法とはまるで別物だ。これがお前の本気か?」

 団長はニヤリと笑って言った。


「だがな、お前は見てたから知ってるだろ?

 俺には切り札絶技がある。ネタが割れてるんだから躊躇する必要はないぜ」

 団長は横なぎに大剣を構える。


「(知ってるよ、もちろん)」


 <絶技・完全相殺>ジャストガード


 アルフォンス団長が得意とする必殺技。

 その効果は、前方から発射された魔法を完全に無効化するというもの。


 今のボクよりもずっと魔力が上の姉さんの攻撃魔法を正面から無効化した恐ろしい技だ。この技がある限り、正面からだと魔法のエキスパートのエミリアであっても突破は容易では無い。


 だけど一度見たことで、打ち破る方法に気付いている。


「はあああッ!!」

 団長が叫び声を上げると同時に、

 彼の周囲に膨大なオーラのような光が集まっていく。


「(あの技だ!!)」

 ボクは彼があの技を使う事を確信する。そして、


「いきますよっ!! <火球>ファイアボール!!」


 そして、ボクは全力で火球を解き放つ。臨界寸前まで魔力を注ぎ込まれた、ボクの火球はもはや単なる中級攻撃魔法に留まらない。


 僅かでも剣を入れた瞬間、大爆発を起こし広範囲を巻き込む。対象を絞っているため範囲そのものは多少絞られるがその威力は上級獄炎魔法インフェルノのそれを上回る。


 が、これは防がれる前提。

 同時にボクは次の本命の魔法の展開を開始する。


「いいぜぇ、とんでもねえ圧力だ!!!」

 団長は目の前に迫る火球のあまりの熱量と大きさに気圧されながらも、

 大剣を振るタイミングを伺う。そして――


「絶技・完全相殺ジャストガードいいいぃぃっっっっ!!!!」

 彼は叫ぶと共に、全身全霊の力を込めて大剣を振り下ろした。


「ぐおおぉッ!?」

 彼の身体に纏っていた光が更に輝きを増し、火球に触れた瞬間、何も無かったのように完全に火球が消滅してしまう。


「――――っ!! な、なんとか無効化出来たか……」

 団長は、目の前の脅威を乗り越えられたことにホッとするが―――


「(だけど、これからが本命ですっ!!)」

 ボクは心の中でそう叫び、今度は右手の剣先から魔法を発動させる。


<上級電撃魔法>ギガスパーク!!!」

 アルフォンス団長が、火球を防いだと同時に、彼の上空から紫電の輝きが迸る。

 ボクの放った魔法は、彼の頭上から雷の如く降り注いだ。


「くそったれええッ!!!」

 しかし、団長はその光景を見るや否や即座に反応する。咄嵯に前方に跳び、そのまま地面に転がり込むようにして、ボクの攻撃をギリギリ回避する事に成功する。


 だが、それだけでは終わらない。


<中級雷撃魔法>サンダーボルト!!<中級雷撃魔法>サンダーボルト!!<中級雷撃魔法>サンダーボルト!!」


 ボクは彼が転がる方向に向かって、ランクを落とした電撃魔法を連発する。


「おい、マジかよっ!?」

 団長は驚愕の声を上げながら、

 それでも立ち上がり、次々に襲い来る魔法を回避していく。


「まだまだぁっ!<中級雷撃魔法>サンダーボルト<中級雷撃魔法>サンダーボルト<中級雷撃魔法>サンダーボルト!」


 ボクは魔力量はそこまでじゃないけど、魔法で一つ誇れる特技がある。

 それが<無詠唱>という技能。


 どういうわけか、ボクは以前から詠唱無しで魔法を使用することに長けている。詠唱が無い分威力は下がるけど、上手く使えばこうやって連発することも可能だ。


 そして、これこそが<絶技・完全相殺>を攻略する方法。


 あの技は真正面から来た魔法に対しては完全に無効化する。

 しかし、絶技放った直後は一瞬だけ無防備になっているように思えた。だからこそ最初の一撃で確実に大技を誘発させ、その後絶え間なく攻撃魔法を連発することで技を使う暇を与えない。


「ぬわああっ!!」

 団長は、流石にまともに防ぐ気にならなかったのか、

 こちらに背を向けて一目散に逃げていく。


「なっ、卑怯者!! 逃げないでくださいよっ!!」

「うっせぇぇ!! この鎧は頑丈だけど、電撃には弱いんだよぉぉぉ!!!!」


 どうやら本当に苦手らしい。

 ボクの魔法が当たるたびに悲鳴が上がる。


「いい加減にしろおッ!!

 おめぇ魔力が切れるまで使い続けるつもりかよっ!!!」


「違いますっ!! 団長が降参するまで使い続けるだけですっ!!!」

 口喧嘩しながらも電撃魔法を撃ち続ける。


「だああーっ! 分かった、俺の負けだ! だからもう勘弁してくれぇぇ!」

 団長は遂に根を上げた。


「よしっ!! 勝ちっ!!!」

 ボクは嬉しくて飛び跳ねてガッツポーズをする。

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