第338話 ブルースフィアちゃん
その後、ようやくインタビューが終わり、
開放されたボクは闘技場を出て、王立図書館に戻ってきていた。
目的は装備の返却と、聖剣の様子を確認するためだ。
「おや、皆さん。予選は終わったんですか?」
ウィンドさんが本から顔を上げてこちらを見る。
「はい、無事に」
「それは何より。ところで、レイさんはどうしてそんなに疲れているんです?」
「あはは、女の子の姿だったから人気が出ちゃったみたいで……。
……聖剣の方はどうなってますか?」
「まだ魔力の充電途中と言ったところですね。
明日までには問題なく使用できるようになると思いますよ」
「そうですか……」
ちょっとホッとした。
明日にはこの身体も元の男の姿に戻るって話だし、
何の憂いも無くなりそうだ。
「ところでレイさん。本戦には男の姿で出るつもりなんですか?」
「え? 当然じゃないですか」
何を言ってるんだろう。
「そこまで人気になっているのであれば、
男性に戻った時、観客にあなただと認識されないのでは?」
「……あっ」
言われてみれば今のボクは見た目は完全に女の子。
何なら中身も女の子っぽいって言われてる。仮に元のボクに戻ったとしても、 観客の人達にはボクがレイだという事が分からない気がする。
というか……。
「(男だとバレたらむしろヤバいんじゃ!?)」
参加者の中にもボクに声援を送ってた人も居たはず。
もし、実は男だったなんてバレたら闇討でもされかねない。
「ふむ……正直、そこまで人気になるとは私も思いませんでしたね。
――
今回に関しては、それを使用して誤魔化せばいいのでは?」
「それは……」
ボクは、右手に嵌めた指輪を見つめる。
この指輪は『身体変化の指輪』という変わった店主のいる魔道具屋で入手したアイテムだ。効果は性別を変化させることが出来る。しかし、一時間程度で効果が切れてしまう。
その事をウィンドさんに伝えると―――
「なら、私が一時借りてもいいですか?
効果時間を引き伸ばす程度の改良ならそこまで時間が掛からないでしょう」
「いいんですか?」
「ええ、構いませんよ。明日、聖剣と一緒に取りに来てください。
それまでには作業を終わらせておきます」
「それじゃあお願いします!」
ボクは、指輪をウィンドさんに預けた。
それと今回借りていた剣と装備を一緒に返却する。
「今日はゆっくり休んでください。
闘技大会は暑苦しい男ばかりだったでしょう。
「あ、わかります? はい、今も早くお風呂に入りたくて……それじゃあ、今日は失礼しますね!」
「ええ、ごきげんよう」
そして、ボクは宿に戻っていった。
「……レイさん、自分を『女』だと認識しているような態度でしたね」
レイさんが出て行った後、私は呟く。
「まぁ、そう仕向けたのは私なんですけど。
――さて、そろそろ作業に取り掛かりましょうかね」
私は、レイさんの去った扉から視線を外し、机に向かった。
◆
次の日の朝―――
朝、目を覚ますと、身体は男に戻っていた。
「良かった……ちゃんと戻ってた……」
前回はしばらく身体が戻らなかったから心配だったけど、今回はちゃんとウィンドさんも約束を守ってくれたみたいだ。
「んー、それにしても……」
自分が女の子だった時の事を考える。
「(何があったかは明確に思い出せるんだけど……)」
どうも、女の子の時は自分の性格が変わってたように思える。
いつもより感情的になってて大声を出したり、嫌いな人や興味の無い相手には容赦ない行動をしたり……。かと思えば、信頼できる相手には甘えてたような……。
「(何より、自分の心の内をあっさり打ち明けちゃうなんて……)」
伝えた相手が信頼できる人だから問題は無いけど、もうちょっと気を付けるべきかもしれない……。
「(ていうか、昨日普通に一人でお風呂に入っちゃったよ)」
女の身体になってたけど心は女の子に寄ってたみたいで、自分の身体を見ても何も感じなかった。
今になって恥ずかしくなってきた。
「か、考えないようにしよう……。
そうだ、もう聖剣の準備の終わってるか確認しに行こう」
それから、僕は姉さん達に声を掛けてから図書館に向かった。
◆
――図書館、深部にて。
ウィンドさんの許可を貰い、一緒に図書館の地下に向かった。
聖剣が置かれている部屋に向かうと、
そこは青白い魔法陣の中で静かに光を称えていた。
「聖剣……綺麗ですね……」
「魔力は十分に溜まっています。レイさん、剣を手に取ってください」
「はい」
ボクは、ゆっくりと鞘に収まった聖剣に手を伸ばし、柄を握る。
「っ!?」
その瞬間、頭の中に声が響いてきた。
『――名前を』
「え?」
突然の出来事に呆然とするボクに対して、ウィンドさんが話しかけてくる。
「大丈夫ですか?」
「今、頭の中に声が―――」
『もう一度、名前を教えて――』
今度ははっきりと聞こえた。
男性とも女性ともつかない中性的な声だ。
この声は……どこかで……。
「………レイ」
頭の中に響く声は何処かで聞いたことがあった。
なので、僕は素直に答える。
『―――レイ、覚えた』
僕が名乗ると聖剣は淡く発光する。
その光が収まると、聖剣から感じる圧力が収まった気がする。
だけど、今までとはちょっと違う感じがした。
『――』
黙っているみたいだけど、聖剣から気配を感じる。
本当に生きているんだ……。
「聖剣に認められたようですね」
「……はい」
聖剣を腰に差し、背中に収める。
「聖剣に意思が宿ったことで、これからは意思疎通しながら聖剣を使用することが出来るようになるはずです」
「意思疎通……」
さっきの声はやっぱり聖剣の声だったんだね。
なら同じ聖剣を持つカレンさんも……?
「カレンさんの聖剣も同じように、意思疎通出来たりするんですか?」
と、僕はウィンドさんに質問した。しかし、彼女は首を横に振る。
「いえ、カレンは正しく聖剣に選ばれたわけではありません。
今は彼女でも扱えるようにカスタマイズされているだけで、本来あの聖剣の使い手は別にいたのです」
「別の?」
「えぇ……先代の勇者です」
「勇者……」
勇者。つまり、以前の魔王を倒したという人物の事だろう。
そんな人が持っていた聖剣……。一体どんな力を持っていたんだろう?
「それはまたの機会に教えますね。
聖剣の扱いですが、基本的に磨いだりしないでくださいね。元となった金属は自己修復機能があるので、多少の刃こぼれなどは自分で修理しますから。むしろ、磨いだりすると聖剣の機嫌が悪くなって戦ってくれなくなりますよ」
「それじゃあどうすれば?」
「聖剣の機嫌が悪い時はとにかく媚びてください」
「媚びっ!?」
「そして、なるべく優しく接してあげて下さい。それだけで十分ですよ」
「は、はぁ……」
よくわからないけど、とりあえずやる事はわかった。
「それで、昨日預かった指輪なのですが……」
ウィンドさんは昨日僕が預けておいた<身体変化の指輪>を取り出す。
「一時間という制約を取り払いました。
これからは常時いつでも男性と女性の身体を切り替えることが出来ますよ」
「ありがとうございます」
身体変化の指輪を受け取り、指にはめる。
「……変なことに使わないでくださいね?」
「使いませんからっ!」
「冗談です」と笑いながら言うウィンドさんをジト目で見る。
本当にこの人は……!
「昨日返してもらった装備ですが、女性の姿で戦うなら必要でしょう。
高価な品ではありますが、レイさんのものにしてもらっても構いませんよ。
また、装備した人間の性別によって見た目も変化します。どうぞ」
そう言いながら、ウィンドさんに昨日返した鎧を渡された。
「さ、女性になってください。
しっかり装備が機能するか確認しないといけませんから」
ウィンドさんは期待に満ちた目でこちらを見つめる。
なんで断り辛い状況にしてくるかな……。
僕は諦めて受け取った鎧を装備する事にした。
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