第337話 観衆の目線に晒されるレイちゃん

 観客へのサービスが終わったのかカレンさんがこちらに上がってきた。

 そして、サクラちゃんの拡張された声が響き渡る。


「少し長くなってしまいましたが、ここからは私とカレン先輩で本戦参加者へのインタビューに移りたいと思います!!」

 サクラちゃんとカレンさんが軽く会釈をする。


「まずは、圧倒的な強さで予選を勝ち抜いた紫組のエミリアさんにインタビューしたいと思います!!」

 そう言って、サクラちゃんはエミリアにマイクを渡す。

 そして、カレンさんがエミリアに語り掛ける。


「おめでとう、エミリア。本戦進出が決まったけど、今どんな気持ち?」

 カレンさんとエミリアは元々親しい関係だから、敬語も無くてフランクな対応だ。


「……まぁ、正直勝てて当然といった感じでしたね」

 エミリアの言葉に、周囲がザワつく。


「(エミリア、自重!! 自重して!!)」


 ボクはマイクに拾われないように、

 小さな声で手振りと口パクでエミリアに抗議する。


 しかし、エミリアはお構いなく言う。


「大胆な発言ねぇ……。

 ここは腕利きの冒険者も多いのよ、大丈夫?」

 カレンさんは感心しながらもちょっと心配そうだ。


「分かってますよ。ところで、カレン。

 このインタビューって映像魔法で配信されているんですよね」


「?? えぇ、そうよ。インタビューだけじゃなくて、この闘技大会の映像は記録されて、王都内のいくつかの場所からリアルタイムで視聴することが出来るわ」


「では、他の遠く離れた場所からでは?」


「地方の村や町にも一部の施設から視聴は可能よ。

 他にも、この映像を一つの媒体に纏めて、後から映像を見ることが出来るようになってるわ」


「そうですか――――」


 エミリアは、目を瞑る。

 何を言おうか、頭で考えてるのだろう。

 そして、再び目を開開いて、エミリアは口にした。


「――私は、目標があるんです」

「目標?」

 カレンさんは首を傾げる。


「それは、世界に轟く、誰にも負けない大魔法使いになることです」

 エミリアは堂々と言い放つ。


「凄いこと言うわねぇ。

 あなたは十分強いとは思うけど、なんでそこまでになりたいの?」


 カレンさんが苦笑いする。

 エミリアはそれに頷き、強い意思を持って言葉にする。


「―――私は目指してる人がいるんです。

 その人は凄く優秀で、私なんかより全然強くて、だからこそ、その人を超えるにはそれくらいにならないといけないんです」

 エミリアは、ここにいない誰かに語り掛けるように話す。


「……その人の名前は?」

 カレンさんは何かを察したのか、静かにエミリアに問いかける。


「私の姉の、セレナ・カトレットです」

 エミリアははっきりと答えた。


「姉は、私とは比べ物にならないほど優秀な人で、

 でも私にとっては憧れの存在であると同時に、超えるべき壁なんです」


「なるほど、それでさっきの発言に繋がるわけね」


「はい。――ですから、この映像をもし見てるなら、セレナ」

 エミリアはボク達には見せたことのない真剣な表情で、はっきりとした口調で言う。


「私はここにいる。―――貴女に会いたい」

 エミリアはその一言を最後に、インタビューを終えた。


「…………」

 ボクはただ黙ってエミリアを見つめていた。


「(セレナ……さん、か)」

 以前に、エミリアに姉がいることは聞いたことがある。

 エミリアは自分の事を殆ど語らないから詳しいことは分からない。


 だけど―――


「(エミリアは、何故姉さんと離れて冒険者をしていたんだろう)」

 思えば、エミリアは最初会った時は『ソロ』で冒険者活動をしていた。だけど、姉のセレナさんも同じく冒険者だったという話も聞いている。


 エミリアとセレナさんに何かあったのだろうか。


「エミリアさん、インタビューありがとうございました。

 この闘技大会をきっかけに、お姉さんに会えると良いですね」

 サクラちゃんがエミリアに微笑みながら言う。


「では次に、金組のベルフラウさんとレベッカさんにインタビューです!!」

 そして、再びカレンさんが二人に向かって話し始める。


「おめでとう、二人とも。私も二人の戦いぶりには舌を巻いたわ。本戦出場が決まった今の気持ちを聞かせて?」


 カレンさんの言葉に、まずレベッカが答える。


「ありがとうございます、カレン様。

 ですがわたくしはまだまだでございます。もっと精進せねばなりません」


 レベッカはその幼い外見とは裏腹に、

 落ち着いた雰囲気でカレンさんに答えた。


 続いて、今度は姉さんが口を開く。


「私としては、レベッカちゃんや他の皆さんのお陰かしら。

 リーダーをさせてもらったけど、私は皆のサポートに徹してたから」

 姉さんは遠慮気味に言う。


「そんなことないですよ、ベルフラウさん。

 自身の能力を理解しての見事な立ち回りでした。あんなふうにはっきりと役割を立てて作戦通りに戦うなんて凄く難しいですよ。

 レベッカちゃんが単騎で戦ってるのも凄かったけど、ベルフラウさんの機転の良さは私以外にも誰もが認めると思います」


 カレンさんがフォローするように言った。

 すると、姉さんは照れたように頬に手を当て、少し嬉しそうに笑う。


「ふふっ、カレンさんに褒められると嬉しいわね。でも本戦は正直あまり自信が無いかしら。レイくんや皆の戦いを見て色々学んでるんだけどね」

 それを聞いて、カレンさんとサクラちゃんが苦笑する。

 そしてサクラちゃんが何か思い付いたのか、姉さんに話し掛けた。


「あ、それなら私いい方法思い付きましたよ。

 接近戦が苦手なら無理に武器を持たずに、護身術を覚えるんです」


「護身術?」

 姉さんは首を傾げる。


「はい! 私、これでも素手での戦いを学んでるんですけど、

 その中で防御に徹するための技や立ち回りってのがあるんです。

 もしよければ、今度一緒にどうですか?」


「あら、それは良さそうね、楽しみにしてるわ。サクラちゃん」

 姉さんは笑顔で応える。


「はいっ!」

 こうして、二人もインタビューを終えた。


 次はいよいよボク達だ。


「では、観客席の皆さんお待ちかねだと思います。

 青組のレイさんのインタビューに移りますね!!!」


「(えっ? お待ちかね?)」

 サクラちゃんの言葉に、歓声が響き渡る。


「あはは、凄い歓声ですねー!! レイさん、流石の人気です!!

 実は今回、観客席の方で試合中に人気投票をしてたんですよ。

 で、後で発表するつもりだったんですが、なんと一位はぶっちぎりでレイさんでした! 二位から大差を付けてですよ!!」


「(えぇ!?)」

 ボクは驚いて思わず声を上げそうになるが、何とか押し留める。


「あ、あの……サクラちゃん? ボクの何がそんなに票を……」


「そうですねー。まずその外見ですね。非常に可愛らしい衣装に身を包んでますし、どことなく大人しそうな雰囲気が男性のお客さんのハートをガッチリ掴んだんでしょうねぇ……男の子なのに」


 サクラちゃんはちっちゃい声で「男の子なのに」と付け足した。今それがバレるとボクのその後の人生が酷いことになりそうなので勘弁してほしい。


 そして、カレンさんまでコメントを出す。


「最初見た時本当に驚いたわ。

 綺麗になっちゃってるし……言動も変わってて別人かと思ったわよ。

 イメチェンかしら? ……性別までチェンジしてるけど」


「ちょっ……二人とも、今はあんまりそれに触れないで……」

 サクラちゃんとカレンさんの付け足した言葉に、観客の人達が怪訝な反応し始めてる!!

 

 すると、サクラちゃんとカレンさんは、

 突然マイクの音声を切ってから、僕に問いかけた。


「そもそも、なんでレイさんまた女の子になってるんです?」

「うん、私もずっとそれ気になってる」

 二人は不思議そうな顔でボクを見つめる。


「これには深い事情がありまして……」


「一応確認だけど、性別自体変わってるのよね? 男の子のまま女装してるわけじゃないのよね?」


「もし、男のままだったら色んな意味で伝説になりますね……」


「違います。性別自体変わってます……」

 ここ最近、男になったり女になったり忙しいけど、別にボクは女装趣味なんかない。


「で、結局理由は?」

「変な薬を飲まされまして……」


 犯人はこの二人の関係者である。


「師匠ですね」

「あいつね」

 一瞬で状況を理解されてしまった。


 そして、サクラちゃん達は再びマイクの音量をオンにする。


「おっと、すいません! マイクが不調だったみたいです!」

「そうね、不調なら仕方ないわね」

 二人とも今のをマイクの不調という事で誤魔化す気らしい。


「こほん、その容姿は間違いなく人気の要因だと思います!

 どうみても男の子には……じゃなくて、女の私も『かわいい!!』『守ってあげたい!!』って思っちゃいますもんね。特に、お姫様みたいーって感想が多かったですよ!」


「そうよね、これだけ可愛かったら仕方ないかしら。

 ……これ、薬のせいなのかしら? それともレイ君のスペックが凄いって事?」


 ボソッとカレンさんが言葉を付け足す。

 二人とも、ちょくちょくボクの正体バラそうとしてない?


「それに、話題性が大きかったのは青組 VS 白組&緑組 の時ですね!!」


 雷光のネルソンとかいう人と戦った時の話かな。

 変な提案をされちゃったけど、お陰で何とか切り抜けられた。


「真正面から倍の数の相手を打ち破った時は、観客の皆さん反響凄かったですよ!! それに、レイさんとネルソンさんの一騎打ちのシーン! あれも凄く評判が良かったです!!」


「え、あれ見られてたの!?」


「ふふん、ここのコロシアムはあらゆる角度から映像魔法を駆使して記録を取れますからね!! 観客席からもバッチリ見えるようになってますよ!」


「(は、恥ずかしい……)」


「特に、本来なら失策と言われるシーン。

 あそこは前衛の皆さんを見捨ててでも離脱すべき場面でしたが、仲間を想ってレイさんが逃げなかったのは心打たれる人が多かったみたいです。投票理由にもそういった所が評価されてるんですよ」


「(そ、そうだったんだ……)」

 皆に褒められて、恥ずかしさと今度はうれしさも出てきた。


「え、えっと……ありがとうございます」

 ボクは、観客席に向かってお辞儀をする。

 すると観客席からまた歓声が上がった。


「と、何故票が集まったかという話ばかりになってしまいましたね」

 サクラちゃんはコホンと咳ばらいをする。


「さて、話が逸れちゃいましたが、レイさんへの質問コーナーに移らせて貰います! 皆さん、用意は良いですか?」


 サクラちゃんは観客に向かって呼び掛ける。

 すると、一斉に拍手が鳴り響いた。


「(な、なんでボクだけこんなコーナーがあるの!?)」

 他のメンバーは少しトークして終わりだったのに。


「大丈夫ですよ。レイさんならきっと答えられます!」

 サクラちゃんはボクにウィンクをしながらそう言った。


 そして、何処かから取り出したのかアンケート用紙の束を取り出し―――


「では、まずここに届いてる100通の質問を―――――」

「(ひえぇぇぇぇぇぇぇ!?)」


 その後、ボクは30分程質問攻めされ、その後ようやく解放された。残りの二組はボクのように長引くことはなく、数分もしないトークですぐに終わった。なんでボクだけこんな目に……。


 あと、一緒にいたアルフォンス団長だが―――


「四の五のは言わねえ、おれは今年も優勝を狙う!!」


 と、男らしい一言で、歓声が沸いた。

 前大会の優勝者なだけあって、やはりファンも多いようだ。


 ボクとしては、その後のカレンの、

「あははー、すごいわねー、がんばってねー」

 という感情を感じさせない棒読みの返事が印象的だった。

 カレンさんの表情だけは張り付いたみたいな笑顔で何か怖かった。


「では、明日から本戦が始まります!!!

 本戦出場が決まった参加者の皆さん、今のうちに腕を磨いておいてくださいねー!!

 それでは、しーゆーあげいーん!!!」


 最後は、サクラちゃんの言葉で、ボク達参加者は解散となった。





 作者コメント

 TS少女は辱めないと……(使命感)

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