第336話 姫様、怒る
それから30分後―――
「さぁ、来場のお客様!
それに参加者の皆様、大変お待たせいたしました!!
ただいまより集計結果を発表させていただきますね!!!」
司会者のサクラちゃんが、
その大きな声をマイクで拡張させ会場全体に響き渡るよう話す。
その声に、観客の声援がコロシアム全体に飛んでくる。
観客の数は最初にボクが見た時よりも10倍に膨れ上がっていた。
観客席の殆どが埋まっており、熱気も凄まじい。
「では、まずは予選通過が決定したチームから順番に発表します!
呼ばれたチームのリーダーと、他に活躍したチームメンバーがいらしたら一緒にコロシアムに上がってください!」
サクラちゃんの呼びかけに、観客から拍手が送られる。
そして、その数秒後に各チームの名前が呼ばれていく。
「まずは、最も撃破数の多かったチーム!
『暴虐と獄炎の大魔法使い』こと紫組チーム! エミリア・カトレットさん!こちらにどうぞ!!!」
「はいっ!!」
エミリアが元気よく返事をして、コロシアムへと歩いていく。
「あれ、エミリア、誰か連れていかないの?」
ボクは疑問に思ってエミリアに問いかけた。
「私が魔法を撃ち続けてたら、いつの間にか敵が消えてたので、これといって活躍してた人は居ないと思います」
「あー、そういえばそうだったよね……」
「あはは、まぁ、エミリアちゃんが強すぎたってことだね……」
姉さんのその言葉に、エミリアは照れながら言った。
「だけどちょっと不可解な事があったんですよ。何故か私が魔法を撃つたびに時々仲間が減ってたんです。最終的に私を含めて数人しか残ってませんでした。不思議ですよねー」
エミリアは機嫌よく笑うが―――
「(いや、それって……)」
「(エミリアちゃん、まさか……)」
「(お仲間を魔法に巻き込んでしまっていたのですね……)」
ボク達三人は苦笑いするしかなかった。
「では行ってきますねー!!
……しかし、暴虐と獄炎の大魔道士って物騒すぎじゃないですか。
まるで魔王みたいな呼称やめてほしいです……」
エミリアはコロシアムに向かいながら、
ぶつぶつと不満を言っていた。
「(むしろ、敵と味方関係なく吹き飛ばしてたエミリアらしいよ……)」
ボクは、心の中でそう思った。
そして多分、観客の人たちも同じ突っ込みを入れたと思う。
エミリアがコロシアムに上がると観客席から声援など飛び始める。中には参加者と思われる怒号や恨み言が混じってる気がしたけど、聞かなかったことにしよう。
「では次のチームの発表です!!
撃破数が2番目に多く、皆様が最も総合力が高いと評価されたチーム!
『癒しの聖女と戦場を駆ける巫女』こと金組チーム!!
リーダーのベルフラウさん、こちらにどうぞ!
あ、出来れば『戦場を駆ける巫女』のレベッカさんもお願します!!」
「あ、呼ばれちゃった」
「指名されては行かざるおえませんね」
二人は、こちらに向き直り。
「それじゃあレイくん、お先にねー」
「レイ様、それでは先に向かって待っておりますね」
「うん」
二人はボクに向かって笑顔で手を振りながら、コロシアムに上がっていった。こちらはエミリアの時と違って、純粋な観客席からの声援と称賛の声が巻き起こった。
「そして次です!! こちらは特に人気のあったチーム!!
『純真無垢の戦うお姫様と最強の騎士』こと青組!!! リーダーのサクライ・レイさん、こちらへどうぞ!!!」
サクラちゃんが、
ボクのチームとボクを指名すると――――
「あ、行きま―――」
「「「「わあああああああああああああああああああ!!!!」」」」
ボクが返事をする前に、今まで以上の熱量のある声援が送られた。
「(うぅ、恥ずかしい)」
でも、これは仕方ないよね。
なんせ前優勝者のアルフォンスさんがチームメンバーにいるし。
が、どうもそういう理由じゃなかったみたいで――――
「レイお姫様ーーーー!!!」
「お姫様ーーーー!!」
「きゃあああああ、かわいいいいいいいいいいい!!!」
「愛してます!結婚してくれぇ!!」
「結婚しようぜ!!」
「お嫁においで!!」
「俺と結婚して下さい!」
なんかもう最後の方は完全に違う叫びになってる人までいた。
「(こ、この人達、本当に大丈夫なのかな)」
女の人もそれなりに混じってたけど、大多数が男だった。
もしこれでボクが本当は男だと知られたら一体どうなるんだろう……。
ボクはそんな不安を感じながら、ゆっくりとコロシアムに上がった。
しかし、途中で『最強の騎士』こと、
アルフォンス団長の姿が無いことに気付いた。
「アルフォンさんも凄く活躍してたし………すぅぅぅぅぅ」
ボクは大きな声を出すために、息を吸い込んで――――。
「あ、レイさん。団長を呼ぶならこれを使ってください」
ボクの近くまで歩いてきたサクラちゃんにマイク型の魔道具を手渡される。
「あ、ありがと。サクラちゃん。
―――団長!! アルフォンス団長!! 上がってきてくださーい!!!」
と、ボクは手渡されたマイクに向かって声を出した。
すると、今度は観客席に座っていたリタイアした参加者たちがざわめく。
「はははははは!! 前優勝者が姫様に呼ばれてるぞ!!」
「おい、出て来いよ! アルフォンス!!!」
「っていうか、あいつリーダーじゃなかったんだな……」
「前優勝者のアルフォンスじゃなくて、
レイとかいう超美少女に話題掻っ攫われてて草生えるわ」
半分くらい嘲りが含まれている気がした。
しかし、アルフォンスさんは呼んでも中々出てこない。
「おいおい、帰ったのかあいつ」
「いうほど目立ってなかったから恥ずかしくなったとか?」
観客席の人たちがざわめき始めた。
そして、それが団長さんや予選通過者の嫉妬や悪口になりかけた時、
ボクは我慢できなくなった。
「団長やボクたちを馬鹿にしないでくださいっ!!!!」
ボクは観客席に向かって叫んだ。
ボクが声を張り上げたことで、観客席は静まり返った。
「団長はボクたちのために頑張って戦ってくれたんです!!
それに他の参加者だってそうです!! みんな、必死に戦ったからこそ、こうして勝ち残ったんです!! だから、参加者の皆さんを馬鹿にするような発言をしないでください!!!」
……ボクは、思っていたことをぶちまけた。
「(……しまった)」
言わなくても良いことまで言ってしまったかもしれない。
エミリア達に、今のボクは素直になり過ぎてるって言われたばっかりなのに……。
「(お、思いのまま全部言ってしまった……どうしよ)」
ボクが叫んだせいで、参加者たちも観客席も静まり返ってしまった。
そんな中、一人の声が響いた。
「――――よく言った、レイ!!」
そうよく通る男性の声が響いたと同時に――――
「とうっ!!!」
観客席に座っていたらしいアルフォンスさんが、
観客席の上部からこちらのコロシアムに飛び込んできた。
「え!?」
ボクは突然の登場に驚いていると、
アルフォンスさんはそのまま地面に着地する。
「アルフォンスさん、今までどこに……」
「わ、悪い……ちょっと気持ちの整理が付けたくてな。
お前の声が聞こえても中々顔を出しにくかった」
アルフォンスさんは、ボクにすまねぇと言いながら謝罪する。
「だが、今の言葉、俺に響いたぜ!!」
そういって、彼はボクの手にあったマイクを奪い取って言った。
「聞いてるか、お前ら!!! 彼女の言う通りだ!!
誰が一番活躍したかなんて関係ない!! 全員が全力で戦い抜いたんだ!! その事実だけは絶対に変わらねえ!!
だからこそ、俺たちは予選を通過した!!! その事実を否定する奴は許さねぇ!!! 文句がある奴は今すぐここに出てきやがれ!!」
アルフォンスさんは、観客席を睨みつけながら言い放つ。
「「「「おぉぉぉぉ!!」」」」
そして、観客席からは大歓声が上がった。
「―――ふぅ、言えたぜ。サクラちゃん、マイク返すぜ」
サクラちゃんは団長からマイクを受け取る。
「ありがとうございます、団長。
青組のお二人の心に響き渡る素晴らしい演説でした!!」
「「うおおおっ!」」
こうして、ボク達青組の紹介は何故か演説として扱われ、しかもやたら人気が出てしまうこととなる。
◆
その後、二組のチームが予選通過したことを発表された。
「白組!!『雷光無双』のチーム!!」
このチームはボク達が一度戦った相手だ。
雷光のネルソンと多数の弓使いで構成された手ごわい相手だった。
しかし、ボクの姿を見ると凄く居心地悪そうにしていた。
「灰組!!『戦陣の猛者』チーム!!」
こちらは、終盤に盛り返してきたチームだ。
他と比べると地味な活躍だったが、堅実に立ち回り予選を通過した。
団長さんの話によると、去年の大会の強豪が複数メンバーにいるらしい。
「以上五チームの本戦出場が決まりました!!」
ボク達の本戦出場が決定した瞬間だった。
「これで、合計100名の参加者が本戦に出場が決定いたしました!!
なお、一部の予選通過した参加者の方が辞退されましたので、後に敗者復活戦を開催し、空いた三枠に別の参加者が選ばれる予定です!!」
会場がどよめくが、元よりそういう事態も考慮していたのだろう。
敗者復活戦のルールもしっかり定められており、バトルロイヤルで活躍したものの惜しくも敗退となったチームの中から数十人が選ばれ、その後に敗者復活戦を行い成績上位三名が本戦に繰り上がることが発表された。
おかげで、観客も少し騒ぐくらいで特に不満は出なかった。
「では、本戦に出場することになった方々にインタビューしたいと思います!!
ではカレン先輩、どうぞー!!」
と、サクラちゃんは、コロシアムの外からもう一人の人物を呼び寄せる。
すると、ボク達にとっては見慣れた鎧を付けたカレンさんが、サクラちゃんと同じマイク型の魔道具を手に持ちコロシアムの階段を上がってきた。
「おお、蒼の英雄カレン様だ………」
「美しい……」
「きゃあああああああ!! カレン様ー!! すきぃぃぃぃぃ!!!」
観客席からそんな声が聞こえてくる。
エミリアの話では、冒険者の中ではアイドル的な扱いを受けてるらしい。それに、一年くらい前に、王宮の依頼で魔王軍の先鋒と戦い、そこでカレンさんは大活躍したって聞いた。
とすれば、ここまで熱狂的なファンが多いのも頷ける。男性にも女性にも大人気のようだ。何なら、女性の黄色い声の方が多く聞こえる。
カレンさんは観客席の人たちの声援に応えて、色々話し始めた。恥ずかしがり屋なカレンお姉ちゃんだけど、意外にも慣れているようで、笑顔で観客席の人たちと話をし始めて和やかに語っている。
その様子をボク達参加者代表はコロシアムから見ていたのだけど……。
「………」
ボクの隣で見ていたアルフォンス団長が、嫉妬深い表情でカレンさんを見ていた。
「団長?」
団長はボクをレイと認めてくれたおかげで、普通の態度に戻っていた。
「あ、いや……何でもねぇよ」
そういって団長は苦笑するが、明らかに何かある顔だ。
「団長、カレンお姉ちゃんも口説いたんですよね?」
ボクは思ったことをそのまま口に出した。
「何故、当たり前のように口説いてると思ったんだよっ!!」
「だって、団長のことだから、カレンお姉ちゃんに惚れ込んでいてもおかしくないかなって……」
「俺のことをどういう目で見てんだ、キミは……」
「え? 女好きのナンパ野郎じゃないですか。
カレンお姉ちゃん美人だし、さっきのボクみたいに声掛けてるんじゃないかと」
「嫌なこと思い出せるなぁぁぁぁぁ!!!!
というか、女好きのナンパ野郎って酷すぎないか!?」
だって、本当のことだもん。
「まぁ、声を掛けたのは事実なんだが……」
「やっぱり」
この人なら間違いなくやってるとは思った。
「いや、だがな……後で後悔したぞ。声を掛けた時にこっぴどく振られた。まぁ、それくらいなら日常だから良いんだが……」
日常的に振られていたんだね。この人。
「その次の日に、あの女は唐突に自由騎士団の副団長として配属されたんだ。
要するに、俺の部下としてな。だが、その時に―――」
『あら? あなた、昨日のナンパ男じゃない。
自由騎士団の団長? あなたが? ……一日で騎士団辞めたくなったわ』
「―――と言われた」
「うわっ……」
カレンお姉ちゃん、結構バッサリいうんだね。
ボクらと一緒にいる時は、凄く優しいイメージがあったんだけど。
「で、その後に、何度か手合わせする機会があったんだが―――」
『――――ふぅん。確かに強いわね。じゃあ私も本気でやるわ』
「と、あの女が言いはじめたら、その後何度か瞬殺された」
「それはお気の毒です……」
カレンお姉ちゃん、滅茶苦茶強いもんね。ボクはカレンお姉ちゃんと目の前の団長とも手合わせしたけど、どっちも凄く強かった。だけど、それでも確かにカレンさんの方が上手だったと思う。
「それ以降、あの女にあまり近づきたくない。なのに、形式上は俺の部下っていうのがな……」
なるほど、それで複雑な心境なのか。
「じゃあ、団長は今はカレンお姉ちゃんの事は好きじゃないんです?」
「いくら俺が女好きでも、自分を嫌ってて自分より圧倒的に強くて何度もボコられた相手に惚れるか」
団長は、珍しく「はぁ~」とため息をついた。
「ところで、レイ。
さっきから『カレンお姉ちゃん』とか言ってるが、もしかして顔見知りだったのか?」
「はい。ここしばらく一緒に旅してたので」
「なるほどな。しばらく王宮で顔を見ねえと思ってたら、あの女は外に出てたのか。しかし、それならお前やお前の仲間の強さも納得だ。あの女と一緒に長旅出来る時点で並大抵じゃねえよ」
「ボクはそんなに強くないですよ。みんなが強かっただけです」
「嘘つけ!! 不調だったとはいえ一度俺を負かした奴が弱い訳ねえだろうが。そうでなくても、訓練所の手合わせの時だって試合でこそお前に勝てたが、勝負には負けたと思ってるぞ」
今の謙遜は団長に失礼だったかもしれない。
「だがな、今回の闘技大会はチャンスだと思ってるぜ。知ってるだろ。今回の戦い、優勝すれば賞金のほかに、あの女と御前試合をすることになってるんだ」
「あ、聞いてます。御前試合とまでは知りませんでしたが」
「で、その御前試合であの女を負かすことが出来れば、
俺はこの王都で再び最強の座を手にすることが出来る!! そうなれば、俺はきっとモテモテだ!!」
「……」
ボクは呆れて何も言えなかった。
でも、壁に向かって全力で向かって行くその姿は尊敬できるものがある。
「……団長、頑張ってくださいね」
「おうよ!!」
団長は笑顔で返事をした。
「まぁ、その前にボクかボクの仲間と戦うことになると思いますが」
それを言うと、団長は頭を抱え出した。
「それなんだよ、問題は………。
クソッ!!! どうして今年はやたら強い女ばかり本戦に出場しやがるんだ!!
元々俺は女と戦うのが苦手なんだよっ!!」
彼の中で、女の子と戦うこと自体結構な試練らしい。
ボクと団長がそんな話をしていると、
観客へのサービスが終わったのか、カレンさんがこちらに上がってきた。
そして、サクラちゃんの拡張された声が響き渡る。
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