第335話 精神年齢が下がったレイちゃん
予選が終わり、ボクは仲間を探して闘技場内を歩いていた。
すると、ようやく見知った三人を見つけることが出来た。
「あ、見つけた!!」
コロシアムから出て、近くの選手控室に仲間達が集まっていた。
「あ、レイ。ようやく会えました」
「お疲れ様でございます。レイ様」
「レイくんもお疲れさまー♪」
皆はボクに声を掛けてくれた。
「うん、みんなもお疲れさま。
今日はレベッカとちょっと戦うことになって驚いたよ」
「その節は本当に、申し訳ございませんでした」
「ううん、別に怒ってないよ」
ボクはそう言って微笑む。
「ところで、レイ。
あの騎士団長のアルフォンスという男と揉めてたみたいですが……」
「ん? アルフォンスさんなら試合が終わった後にどっかに行っちゃった。まぁ、話の内容はその……ね?」
流石に彼がボクに求婚して、実は男だったことを知り、失恋してしまったことを口には出来ない。もしボクが同じ事をしてしまったら軽く死にたくなる出来事だ。
「……?」
三人は不思議そうに首を傾げる。
ボクは団長の名誉を守るために、話を切り替えることする。
「ところで、みんななんでここに集まってるの?
てっきり魔法陣を出たところで待ってるのかと思ってたんだけど」
「ああ、それなら結果を待ってるんですよ」
「はい。30分後に集計結果を発表するとサクラ様が仰っておりましたので」
なるほど。
といっても、ボクら4人は生き残った状態でタイムリミットを迎えた。
ここにいる4人が本戦に出場するのはほぼ確定している。
つまり、ここで待っている理由は……?
「あれ? 4人共本選出場決定なんじゃ……」
「それが本戦に出場するチームの代表は残るよう指示されたんです。
だから、こうして私達は時間を潰しているんです」
「なるほど。……でも、残って何をするんだろう?」
「ふむ……おそらくですが
”ひーろーいんたびゅー”というものではないかと」
レベッカは、言い慣れない言葉をたどたどしい棒読みで言った。
「ヒーローインタビュー……」
「はい。他のチームの代表者からコメントを貰い、今後の目標などを語る場だと推測します」
「へぇー、そんなのあるんだ。 レイくんは語りたい?」
「急にそんな事言われても……」
とりあえず、ボクは今すぐ帰ってお風呂に入りたいかな。
勿論そんなことは言わないけど。
「色々質問されるかもしれないから覚悟した方が良いかもですよ、レイ」
質問攻めか……あんまり好きじゃない。
だけど、サクラちゃんやカレンさんなら大丈夫かな?
「でも、インタビューしてくる人って多分サクラちゃんか、カレンお姉ちゃんでしょ? それなら少なくとも緊張せずに済むかな」
どっちも顔見知りだ。
特にカレンお姉ちゃんに関しては家族同然だから気安い関係になってる。
「カレンお姉ちゃん……って……。
レイ、女の子に戻って、ちょっと幼児化してません?」
「え、なんで?」
「自分で意識出来てないんですか……」
ボクは何か変なことでも言ってしまったのかな?
「ふむ……心配はないと思うのですが……。
レイ様、もしカレン様やわたくしが『甘えて良いですよー』と言いながら、手を広げてレイ様を抱き止めるようなポーズを取ったらレイ様はどう行動しますか?」
なんだ、それ?
「そんなの………」
もし、カレンお姉ちゃんやレベッカに、そんなことされたら……。
「……抱きしめてもらうかな」
「はい。その反応です」
「どういう意味!?」
「自覚してないようなので教えますが、今のレイの反応はまさに『子供』のそれでした」
「うっ……」
「それだけ素直になっているということなんでしょうけど……。さっきの事もありますし、今のレイは随分と素直過ぎて、異様に距離感も近く感じるんですよね」
「さっきの事って、何かあったっけ?」
「うーん……ちょっと、今試してみます?」
エミリアは、周囲をキョロキョロ見回しながら人が近くにいないことを確認する。そして、少し頬を赤らめてボクに近付いてくる。
「今でもやっぱりちょっと照れますね……では、行きますよ」
「うん?」
エミリアは、そう言いながらボクに更に接近し―――
むぎゅ♪
エミリアは正面からボクに向かって手を伸ばし、そのままボクに抱き付いた。同時にボクとエミリアの胸がお互いの胸に当たる。
「……ど、どうです?」
「え、どうって?」
「こ、こうやって密着すると、恥ずかしいという気持ちが湧き上がって来るはずなんですが……?」
「ううん、別に? むしろ、凄く安心するけど」
温かいし柔らかいし、すっごく癒される。
「そ、そうですか……」
何故か少し残念そうな表情をするエミリア。
「ふむ……今のレイ様は『女性』でございますからね。エミリア様とハグしてもそこまで強い反応しないのは、健全といえば健全なのですが……」
レベッカは、冷静に分析する。
「でも、少し前のレイくんなら、女の子の状態でももっと反応してたよね。特にエミリアちゃん相手の時は」
レベッカの分析に続き、
今度は姉さんが当時のボクの反応と今のボクを照らし合わせて比較する。
「あの時のレイは異性として認識していたってことですかね?
じゃあ、やっぱり今のレイは―――」
「そうじゃないかな?
少なくとも私はレイくんは女の子の姿の時でも、エミリアちゃんのことを異性として好きだったように思ってるんだけどな」
人前でボクがどう思ってるとか推測されるのは正直恥ずかしい。
というか―――
「ボクは今もエミリアの事が好きだよ?」
「…………」
エミリアの顔が赤くなる。
が、しばらくしてエミリアはボクに質問した。
「それって、今、恋愛感情としてですか?」
「…………?」
あれ? どうなんだろ?
言われてみると、エミリアや皆に想う感情が違っているような?
「レイくん、ちょっと質問していい?」
「ん、何、姉さん?」
「まず、お姉ちゃんのこと、どう思う?」
「姉さんは女神なのにボクのお姉ちゃんになってくれてすっごく感謝してるよ。それに、凄く優しくて、包容力があって、それで綺麗で可愛いし、天然なところも大好き。他にも色々あるけど聞く?」
「………じゅ、十分よ」
姉さんは、これ以上はダメだと言わんばかりにボクの話を中断させる。
……なんでだろう? まだ沢山話せるのに。
「……じゃあ、次ね。エミリアちゃんは?」
「エミリアは、ボクが異世界に来てからずっと色々世話してくれたよね。
ボクの事を年下扱いしてくるのは今でもムッと来るし、エミリアに揶揄われたりするときも言い合いになったりするけど、
それでもエミリアを嫌いなることなんて絶対ないよ。ボクはエミリアと出会ってからずっとずっと、エミリアの事が大好きだよ。うーん、他にもいっぱいあるけど」
「も、もういいです! か、勘弁してください」
今度はエミリアに中断されてしまった。
「ふむ……やはりレイ様は男性の時と大きくは変わっておりませんね」
レベッカは冷静に分析を続ける。
「そうなんですか、レベッカ」
「はい。レイ様が皆さまに感じてる気持ちは変わらないかと。
……ですが、恋愛感情ではなく、それが友情や親愛にそのまま置き換わってる印象です」
「えー、そんなことってあり得るのかしら?」
「現に今、そうなっていますし。
……それで、レイ様。わたくしのことはどう思われますか?」
「レベッカの事?
出会った時のレベッカは今にも泣き出しそうな弱い子に見えた。その時はボクはこの子を守らないとって、妹が出来たらこんな感情なのかなって思ったよ。
でも、レベッカはボクが考えるよりずっと強い子で、それでもボクはキミを今でもずっと守ってあげたいと思ってる。
今はむしろボクなんかよりずっと大人な考えで、逆にボクが大人にならないとって思ったりするね。当然だけど、レベッカの事も大好きだよ。これが、今のレベッカに想う気持ちかな」
「はい、問題ございません。むしろ完璧です!」
満足げな表情を浮かべてボクの手を握るレベッカ。
……よかった。
「今の問答で分かることといえば……」
「うん……そうね」
「はい、お二人の言いたいことはよく分かります」
三人はお互い思ったことが合致したのか頷き合い、言った。
「今のレイくんは素直過ぎね」
「今のレイはちょっと素直過ぎます」
「今のレイ様は少し素直過ぎるように思えます」
「うん? どういう意味?」
「レイくん、今までの君ならここまで素直に心の中を吐露出来なかったと思うよ。普通、本人を目の前にすると少なからず抵抗や照れがあるものだから。だけど、今のレイくんはその辺りの壁が全く無い」
「えっと……それは良い事じゃないの?」
ボクとしては、言いたいことがちゃんと言えて嬉しいんだけど。
「まぁ、悪いことでは無いですよ。
ここまで素直に話すのは、今のところ私達だけのようですし」
「そうね……あくまで、ここまで心象を素直に吐露するのは、私達だけみたいね」
「他にそれが該当しそうなのは、おそらくカレン様くらいかと思います。サクラ様は何とも言いようがない感じですが」
「あー、確かにあの子はねぇ……」
「サクラさんに関しては、私達ほど付き合いが長くありませんからね……」
姉さんは苦笑いして、エミリアもそれに同意している。
「……??」
ボクには、その二人が何を言いたいのか分からなかった。
「……レイの状態を一言で纏めるとですね」
「うん」
「今のレイは完全に『女性』であり、
精神状態がまっさらな『子供』と変わらない状態という事です」
「え、そ、そんなことは―――」
「例外は勿論ありますよ。
レイが心を許している人物のみにそうなっているみたいですね」
「じゃあ、ボクが皆にそう感じているのは……」
「わたくし達の事をそれだけ信じて下さってるという事ですね。
その点に関しては、今のレイ様の言葉が聞けて感無量でございます」
レベッカは嬉しそうにしている。
「……ボクは、やっぱり変?」
「いえ、むしろ好ましい変化だと私は思いますよ。
それに、それが嫌だと思う人はここにはいないでしょう」
「うん、そうだね。お姉ちゃんも、レイくんが素直になってくれて嬉しい」
「ですが、常にその状態だと心配でございます。
例えば、レイ様を誑かす悪い方が出てこないかとか」
「大人になると良くも悪くも素直な感情が出せなくなりますからね。
でもそれは悪いことじゃなくて、自身を外敵から守るための防御策でもあるんです。今のレイは、自分を完全に曝け出してしまってるから、ちょっと危ないかもしれないですけど……」
「うーん、確かにそうかも……。
レイくんは可愛いから、油断してる間に悪い人に攫われちゃうかも」
「ちょっ、姉さんまでそんなこと言わないでよ。
ボクだって一応女の子なんだから、万一そういう事があったら――」
と、そこまで言ってから自分の言った言葉に気付く。
……今、ボク、今自分の事を『女の子』だと。
レイのそんな様子を見て、三人は一つの考えを出した。
奇しくもそれは口にしなくても全員一致した考えであった。
即ち―――
「(お姉ちゃんがレイくんを守ってあげないと!!)」
「(レイに危険が及びそうなら、私が彼を守ってあげないと!!)」
「(わたくし、今はレイ様の保護者として、全身全霊でお守りいたします!!)」
「……?」
一人、全く話の流れを理解していないレイだった。
※戦闘時は【心眼看破】のお陰で割と冷静に立ち回れる
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