第333話 世界四位の人

 闘技大会の予選がようやく始まった。

 ボクら青組は黒組を撃破することに成功したが、

 白組と緑組に狙いを付けられ、辛い状況に立たされていた。


 戦況を打開するため、団長は緑組リーダーに一騎打ちを挑む。


 二人が戦闘開始したところで視線を白組に移す。

 緑組が白組と協力関係のようで合流してこちらに向かってくる。


「(もう一度、魔法で撃退を―――)」


 そう思ったのだけど、仲間の声でその思考は中断される。


「リーダー! 奴ら、弓を番えているぞ!!」


 仲間の一人が叫んだ。

 そして、複数の矢がこちら目掛けて飛んでくる。


 どうやら白組は遠距離攻撃を主軸にする構成のようだ。

 厄介なことに、前衛が多い緑組との相性も良く彼らも連携して掛かってくる。


「くっ………風よ、我が身を守る盾となれ!<風の盾>エアロシールド

 咄嵯に最近習得した防御魔法を発動する。

 ボクとボクの周囲の仲間達に風の魔法を展開する。無数の矢がボクに襲い掛かるが、それらは風の盾によって阻まれ、直撃せずに横をすり抜けていく。


「(なんとか防いだ……!!)」

 しかし、予想通りボクを集中して狙ってきた。

 油断すると一気に落とされてしまいそうだ。


「前衛組はこちらに迫ってくる緑組に応戦してください!!」

「「「おう!!」」」

 ボクの指示で、残りの緑組に近接武器を持った仲間が突撃していく。

 しかし、全員では無い。

 前衛組のうち数人だけは盾役としてこちらに残している。


「(問題は白組か……)」

 どうやら弓使いが多いメンバー構成のようだ。


「(撤退すると背中から撃たれる。戦うしかない……)」

 こちらの戦力は盾役として残した前衛四人とボクを含めた後衛四人の計八名。

 残りは緑組の対処に追われている。


 対して相手の白組はフルメンバーの二十人。

 うち、弓を持ってこちらを攻撃してくるのは約十人だ。


「(弓に対処する方法は……)」

 一つはさっきのように風の魔法で防ぐやり方。

 それか、飛んできた矢を武器で弾くかだ。


「(長い詠唱魔法は撃たせてくれないか。どうしよっか)」

 無詠唱魔法なら発動は出来るだろうけど、それだと威力も射程も通常より落ちてしまう。詠唱時間の短い中級以下の魔法を当てに行くしか無さそうだ。


 弓は一度放つと次の攻撃までに間隔がある。

 そこがチャンスだ。


「ちょっと強引ですけど、このまま白組に接近しましょう。

 前衛の四人は矢の防御に専念しつつ接近してください。ボクも盾の魔法で援護します」


「分かったぜ!」

「任せろ」

 ボクの言葉に応じて、前衛四人は動き出す。

 こちらが動き出したことに反応し、また白組に動きがあった。


「リーダー、また弓が飛んでくる!!」


 再び飛んできた矢に対して、

 ボクは手を前に出して詠唱し、同じ魔法で防御する。

 ボクが防げなかった矢は前衛が対処する。


「第三射が来る前に一気に接近しましょう!!」

「了解だ」

「ああ、行くぞ!!」


 前衛組は再び走り出す。

「後衛組の三人は射程距離に近付いたら、

 中級以下の魔法でけん制をお願いします!!」

「任せろ!」

 後衛組の三人はこくんと頷く。

 それを確認したボク達も走り出すと同時に、詠唱を開始する。


 そして、数秒後に、第三射が飛んでくるが――――


「「「「おらぁぁぁぁ!!」」」」

 今度は前衛の四人が気合いを入れて防ぎに行く。

 彼らの健闘によって僕らは魔法で反撃を行うチャンスを得た。


「一斉に行きますよぉ!!」

「任せろ!!」

「――反撃を行う」


 複数の魔法が放たれ、白組を襲う。

 攻撃魔法は全て敵の弓使い目掛けて飛んでいき数人が直撃する。

 今の魔法の直撃で、敵の弓使いの何人かリタイアか負傷したようだ。


「(よし、ここまで来たら―――)」

 ここまで接近したなら、初速で一気に近づける。


「(白組のリーダー格は……)」

 白組の中で一番体格の良い人物に視線を向ける。その人物は剣を構えているが、やや後方に位置している。彼の頭上を見ると白い旗と王冠が浮かんでいる。どうやら彼がリーダーのようだ。


「ボクが敵のリーダーを狙います!!

 邪魔が入らないように、周囲の敵をけん制してもらえますか?」


 ボクは仲間にそう告げた。すると……。


「危険だ!!!」

「そういう役目はアルフォンスがやることだろう!!

 キミがすることじゃない!!」


 と、咎められてしまった。

 他の仲間はボクの提案に反対のようだ。


「(どうしよう……)」

 敵との距離感は残り十メートル少しだ。

 その気になれば数秒で敵リーダーに肉薄出来る。

 だけど、仲間の意見に逆らってしまえば信頼関係が崩れてしまう。


 そんなことを考えている間に、白組リーダーが仲間に声を掛ける。


「弓使いは下がれ!! 前衛、前へ出ろ!!

 敵の青組リーダーは目の前だ。一気に討ち取るぞ!!」


「「おう!!」」

 白組リーダーの指示に従い、

 残りのメンバーがこちらに向かって走ってくる。


「(や、やばっ!!)」

 このままだと数の差で圧倒されてしまう。

 敵リーダ―を即撃破しに行かなかったのが完全に不味かった。 


 こうなればと思い、ボクは剣を構えようとするが―――


「お嬢さん、ここは俺たち二人が引き受ける!!」

「お前さん達は逃げろ!!」

 前衛の四人は、剣を構えてボク達を庇うように前に出る。


「で、でも」

「なぁに、ここでお嬢さんを守り切るのが俺たちの役目だ」


 彼らは全力でボクを守ろうとしている。

 それは自分がリタイアしてでも守る覚悟を感じる。


「(確かに、彼らの判断は間違ってない……)」

 ここで彼が消えても死ぬわけじゃない。

 コロシアムの外に出てリタイアという扱いになるだけで、

 最終的にボクが生き残ればいい。


「リーダー、逃げるぞ!」

「―――レイ」

 後衛組の皆がボクを促そうとする。


「―――そ、れは……」

 でも、ゲームだとしても仲間を捨て石にするなんて……。


「ごめんなさい。……それは出来ません」

「何故だ!! このままでは―――」


「―――駄目です。

 ボクは、仲間を見捨てたりは、出来ない……」

 剣を強く握りしめて、絞り出すような声でボクは呟く。


「―――レイ」

「正気か!? この期に及んでそんな甘いことを―――!!」

 皆の叱責が飛んでくる。


 でも、それでもボクは―――


「逃がすわけないだろう、行け!!」

 白組のリーダーは弓使いに指示を出す。

 そして、弓使い達がボクに向かって矢を放つ。


「くっ!!」

 ボクは飛んできた矢に反応して、鞘から剣を出して咄嗟に防ぐ。


「……ん? 魔法使いかと思ったが、剣を持っているのか。

 丁度いい。お嬢さん、ここは一勝負と行かないか?」


 白組のリーダーは笑みを浮かべながら、そんな提案をしてきた。


「……勝負?」


「簡単だ。俺と一騎打ちしようじゃないか。

 キミが勝てば、俺たちはこの場から撤退しよう。

 だが、もし俺が勝ったら―――」


「……勝ったら?」

「この場はキミ達に退場してもらい、その後、キミは俺の女になってもらう」


「……は?」

 何言ってんの、この人。


「悪い話ではないと思うがね。

 キミ達が頼りにしているアルフォンスはダガンが足止めしている。おそらくダガンが負けるだろうが、奴もあれで去年のベスト8だ。意地でも食らいつくだろう。アルフォンスの救援は間に合わない。となると、キミ達はどうやってもこの状況は覆せない。

 だが、もしキミがこの勝負に乗って勝てばチャンスはあるぞ」


「………」

「返答は?」


 正直、かなりムッときたけど……これはチャンスかもしれない。


「分かりました」

 その言葉に、男は口元を歪めた。


「そうか、では始めよう」

 そういって、男は自分の仲間に引くよう指示をした。


 ボクも同じく、

 仲間に引くように指示を出す。しかし――


「リーダー、何故あんな挑発に乗った!?」

「そうだぜ! 俺たちが足止めするつもりだったんだ!」

「アンタが負けたら俺たち全員敗北なんだ、分かってるか!?」


 仲間がボクの判断を非難する。彼らの言葉は最もだ。

 足止めしようとした彼ら四人を犠牲にしてボク達が離脱するのが正解だったのだと思う。


 でも、ボクにその選択は出来ない。


「―――信じてください。ボクは勝ちます」

 これはボクなりの覚悟と責任だ。

 だからこそ、この勝負何が何でも勝つつもりで行く。


 仲間にそう告げると、

 彼らは何か言いたげだったが、何も言わずに引き下がった。


 そして、目の前の男と向き合う。

 男は鋭い眼をしているが、こちらが向き直るとニヤニヤと表情を崩した。

 どうやら、女だと思って完全に油断しているようだ。


「大した自信だ。だが残念だったな。

 俺は前大会でベスト4まで進んでいる。キミ程度ではとても勝ち目がない」


「そうですか」

 ボクは彼の言葉を適当に流して、武器を構える。


「ふん……見た目の割に随分強気じゃないか。

 では、その勇気に免じて名乗ってやろう。俺は、ネルソン。

 雷光のネルソンと呼ばれてるが、仲間は知っているんじゃないか?」


 少なくともボクは知らない。

 が、ボクの仲間は何人か知っていたようだ。


「雷光のネルソンだと……!?」


「たった五分でオークの群れを一人で殲滅したと噂のあの……!?」


「他にもドラゴンキッズ数匹を相手に単独で勝利を収めたっていう話だ」


「マジかよ……。なんでこんなところにいるんだよ……」


 どうやら、冒険者の間では相当有名な人物らしい。


「どうやらお仲間は知っていたらしい。無知なのは君だけのようだ」

「そうみたいですね」


 話を聞くかぎり、確かに彼は実力者のようだ。


 だけど―――


「ネルソンさん、貴方に聞きたいんですが」


「何かな? 今更戦うのが怖くなったのかい? くっくっく……」


 ネルソンは嫌な笑みを浮かべる。

 ボクはそんな態度の彼を、内心見下しながら言った。


「貴方、アルフォンスさんに勝ったことあるんですか?」


 その言葉を聞いた途端、彼の顔が歪む。


「……俺を愚弄するのか!」

「その反応だと勝ったことないみたいですね」


 ボクの言葉に、更に表情が歪み、怒りが見え始めた。


「―――っ! ふん、それは去年の話だ。今戦えば俺の方が強い」


「その割には、直接戦わずベスト8のダガンさんに向かわせたみたいですが。もしかして勝つ自信なかったんじゃないですか」


「……黙れ!! 貴様に何が分かる!!」


「少なくとも、貴方が団長に勝てるとは思えません」

「ぬかせぇ!!!!」


 激昂し、こちらに向かってくる。そして剣を振り下ろしてきた。

 彼のこちらに駆けてくる速度はそれなりに早い。


 ………だけど、正直、


 ボクは彼が振り下ろす剣を自分の剣で受け止める。


 ――ガキンッ!


「何っ!?」


 自分の剣が軽く受け止められたことに驚いた表情を浮かべる彼に対して、こちらはそのまま彼の剣を受け流し、身体を回転させながら彼の左腕に剣を叩き込む。


「ぐおっ……!!」

 ネルソンは、自分の左腕を庇いながら後ずさる。


 ボクは後退する彼に剣を向けたまま語る。


「ボクがこんな見た目だから弱いと思ったのでしょう。

 ですが、ちょっと油断し過ぎですよ」


「ちっ、どうやらそのとおりらしい」

 そう言ってネルソンは苦笑いして、自身の腕に回復魔法を唱える。

 剣によって血が噴き出ていた腕が治療されていく。


「回復魔法ですか……」

「驚いたか、俺はアルフォンスと違って魔法も得意なんだよっ!」

 そう言いながら、奴は更に後退して、違う魔法を詠唱し始める。


「雷光って異名はな、こういうことだ!!」

 そう叫びながらネルソンは左手の掌をこちらに向けながら、青色の光をスパークさせる。


「食らえっ!!<中級雷撃魔法>サンダーボルト!!」

 先程の斬撃とは比べ物にならない程の速度で電撃がこちらに向けて放たれる。

 人ひとり殺すには十分過ぎる威力だと感じた。


 まともに受けてはいけないと感じ、ボクは剣を抜き、電撃が落ちてくると同時に剣を上空に掲げて横に振り上げる。剣の電撃が自身に流れ込む寸前、地面に剣を立てて電撃を地面に逃がす。


「な―――何をやった!?」

「危ないと思ったので電撃の落ちる場所をずらしただけです」


 ボクは普通に言ってのけると、

 ネルソンは信じられないという顔をしてこちらを見つめている。


「(仲間内だと割と当たり前にやってることなんだけど……)」

 そう考えると、ボクの仲間ってみんな規格外なんだなぁと思う。


「くっ……もういい。お前ら、さっさとこの女をやれ!!」

 ネルソンは仲間にボクを攻撃することを指示する。が、


「いや、流石に一騎打ちを挑んでそれは―――」

「そうだぜネルソン、いくらなんでもそりゃあ……」


 どうやら、仲間達はあまり乗り気ではないようだ。

 他のメンバーがまともなことに少し安堵する。


 しかし、彼らの気が変わらないように念押ししておく。


「すみませんが、それをさせるわけにはいきません」

 ボクはネルソンに掌を向ける。

 そして少し詠唱を加えながら魔法を掌に溜めていく。


「集え、炎よ――<火球>ファイアボール


 魔法発動はするが、手に残したまま維持させる。ボクが維持している火球は男の時と比べて1.5倍程度の大きさに膨れ上がっていた。


 そして、ネルソンの仲間達に向けて僕は言った。


「もし、あなた達の仲間の誰かが危害を加えようとしたら、

 即座にこの魔法をネルソンさんに放ちます。この距離でまともに受ければ、彼は間違いなく戦闘不能扱いになってリタイアでしょう。

 リーダーのネルソンさんが倒されたら、あなた達もルール上全員失格になります。

 ―――それでも、ボクに攻撃をしますか?」


 ボクの言葉を聞いて、彼らは動揺している。


「お、俺らを脅す気か!?」


「脅してはいません。ボクはルールに則ったやり方をしています。

 それならむしろ、一騎打ちを強制させてボクに二択を迫った彼の方がよほど脅しをしているとは思いませんか?」


 その言葉に、仲間が更に躊躇し、そして武器を仕舞った。


「お、おい、お前ら!!」

「……いや、ここまで言われて手を出せるわけないだろう。ネルソン」

「それに、こいつらに勝てる気がしない」


 ネルソンの仲間たちは、ボクの後方に視線を移す。そこには緑組のリーダーを倒したアルフォンスさんと他の仲間が戻ってきていた。


 ネルソンは舌打ちをして、剣を鞘に納める。

「ちっ……、覚えてろ……!!」

 ネルソンとその仲間たちは、背を向けてそのまま一目散に逃げていった。


「……助かった」

 何とかなったことに安心してため息をつくと、アルフォンスさんが声を掛けてきた。


「大丈夫だったか? しかし、お嬢さんがここまで強いとは……」


「いえ、アルフォンスさん達が戻ってきてくれて助かりました」


 実際、今のやり取りはリスクが大きかった。

 もし彼らが躊躇せずに攻撃してきたら共倒れになってた可能性がある。


 最後に、彼らが撤退を決めたのは、

 アルフォンスさん達が僕たちの戦列に戻ってきたのが理由だ。


「いや、それでもすげえよ。

 あのネルソン相手に一歩も引かないとは」


 仲間達が口々に称賛してくる。


「ありがとうございます……。それよりも、怪我人は居ませんか?

 ボクも回復魔法が使えるからすぐに治療しますよ」


 ボクは、先程の戦いで負傷した人達を回復魔法で癒していく。

 幸いなことに、大きな傷を負った人がいなかったようで、全員が軽症で済んだ。


「すまない、恩に着る」

「いえ、ボクの未熟な指示のせいで怪我をさせてしまいましたから」


 ボクは思ったことをそのまま口にする。


「なんだこのリーダー、天使か」

「いや、女神だわ」

「マジで惚れそうになった」

「だがボクっ娘だ」

「それはそれでアリ」


「(あ、あれ?)」

 ちょっとなんか流れがおかしくなってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る