第332話 男に囲まれながら動くお姫様
「それでは、大乱闘、生き残りバトル!! スタートです!!!」
時間になり、サクラちゃんの大きな声と共に戦いが始まった。
「―――さて、行くぞ!」
団長さんの声に合わせて、ボク達は走り出す。
敵チームに挟まれている状況はなるべく避けたい。
それを回避するためにまず端に移動する。
コロシアムは乱戦になってしまえばすぐに他チームと接触する事になる。
端を陣取る事で背後からの奇襲を避けることが目的だ。その後に、コロシアムの端まで移動したら、今度は周囲の状況を確認しながら一旦待機だ。
「周囲の状況はどうだ?」
「周りもすぐには動かねぇな……」
「そりゃあ、いきなり動くのは危険だからな」
アルフォンスさんの質問に、ボク以外の参加者が答える。
「(他のチームもすぐに動かないか)」
今回のルールだと、どのチームも敵から囲まれた状態から始まる。
なのでいきなり相手チームに攻撃を仕掛けてしまうと、そこから一斉に周囲の敵に注目されてしまう。下手をすると袋叩きにされかねない。
だからこそ、敵チームから離れた場所で安全を確保する必要があった。
「―――ん?」
少しして、アルフォンスさんが前方を遠目で見ながら反応する。
「どうしました?」
「いや、どうやら他のチームが動き出したらしい」
「どこですか?」
「ちょうどこの先だな」
アルフォンスさんは前を指差す。
すると、前方には二つの集団があった。
「……あれですね」
殆どのチームはまだ様子見しているが、
コロシアムの中央付近で戦いが始まっているようだ。
片方は、黄色い旗の黄組チーム。
もう片方は、赤い旗の赤組チームだ。
どうやら赤い旗のチームが先制を仕掛けたらしく、
黄色のチームはそれに対抗して前衛が動き始めたらしい。
赤い旗のチームは魔法攻撃で一気に攻撃を仕掛けている。
どうやら魔法使いが多いチームのようだ。
対する黄色チームといえば前衛が多くボク達に近い構成だ。
前衛組の数人が盾を構えながら中距離から放たれる攻撃魔法を防御しつつ距離を詰めている。
「形勢は五分と言ったところだな」
「いや、アレを見ろ」
アルフォンスさんの言葉に、別の参加者が言う。
「黄組の背後に別のチームが向かってきてるぞ」
「何?」
アルフォンスさんが驚きの声を上げる。
「赤と黄が交戦している間に他の部隊が回り込んできたのか……」
背後に回り込んできたのは、黒旗の黒組チームだった。黒組は、黄組が赤組との戦いに気を取られているうちに背後に回って黄組に奇襲する。
不意打ちを付かれた黄組は無防備なリーダーを攻撃されてしまい撃破されてしまった。その後、リーダーが倒されたことで黄色組は全員がその場から消失する。全員空間転移で離脱させられたのだろう。
コロシアムに拡張された音声が響き渡る。
「おおっとお!! いきなり黄旗組がリタイアしてしまいました!!
赤組と交戦中に背後から奇襲を掛けた黒組が見事に撃破したようです!!!!」
サクラちゃんの解説が響く。
「しかし、まだ戦いは始まったばかりです!
今の戦いが切っ掛けになったのか、コロシアムの色々な場所で一気に戦いが始まりましたっ!!
盛り上がるのはこれからですよぉぉぉぉ!!!」
サクラちゃんの言葉通り他の場所でも戦いが起きていた。
ボク達の位置から全ては見えないが、あちこちで戦闘の音が聞こえてくる。
恐らく、各チームが一斉に動いたのだろう。
そして、それはボクらにも他人ごとでは無かった。
「やべぇな。勢い付いた黒組がこっちに来やがる」
「おい、どうする? このままここで待つか?」
こっちに向かってきているのは黒旗のチームだ。
黄組を倒して勢いに乗ったのか、真っすぐこちらに向かってくる。
「いや、待っていても仕方がない。ここは俺達が行くしかないだろう」
「そうだな……。よし、俺達は先に仕掛けるぞ!」
確かに、この状況で逃げる必要もないかな。
正面から来るならいくらでもやりようはある。
「アルフォンスさん、前衛組を指揮しながら接近してください。ボク達は魔法攻撃で相手のリーダーを狙い撃ちします」
ボクの指示に、アルフォンスさんが頷く。
「よし、いくぞ野郎ども!!!」
アルフォンスさんは大剣を構えて先陣を切る。
それに続いて、他の前衛組も後に続いて敵陣に向かって行く。
ボク達後衛組はそれに少し遅れて、敵を観察しながら近づく。
「おらああああああ!!!」
真っ先に駆け込んだアルフォンスさんが敵陣に斬り込んでいく。
彼の大剣が薙ぎ払われると、敵の前衛二体が盾で防御したにもかかわらず吹き飛ばされる。
「流石、剛剣のアルフォンス!!!」
「俺たちも続くぞぉぉぉぉ!!」
アルフォンスさんの一撃を見た前衛組は、負けてられるかと敵チームに突撃していく。
しかし、相手チームもやられっぱなしではない。
アルフォンスさん目掛けて、何人かが火球の魔法で集中して放ってきた。
しかし、アルフォンスさんはそれを見て、ニヤリと笑う。
「はっ―――!! その大きさじゃ、ゴブリンも殺せねぇぜ!!」
彼は大剣を軽く横に薙ぐ。
そこから放たれた風圧のみで、火球は吹き飛び消え失せた。
「――――な、なにっ!?」
それを見た黒組のリーダーは慌てふためく。
そこに、ボク達後衛組がリーダー目掛けて攻撃を仕掛ける。
「今です!!
「
「
「―――
ボク達の後に続くように、他のメンバー達も魔法を放つ。
「うわぁぁぁぁ」
「ぐぅぅぅ」
「きゃあっ」
複数の魔法攻撃の直撃を受けた黒組のリーダーと、
その周囲の仲間たちは魔法を防ぎきれず消えていく。
どうやら失格になったようだ。
「よっしゃ!! 楽勝だぜ!!」
「この調子で一気に他のチームに攻撃を仕掛けようぜ!!」
前衛組は今ので気を良くしたのか勢い付く。
だが、そこでサクラちゃんの声が響き渡った。
「おっと、黒組が脱落! しかし、青組はまだ油断してはいけなさそうですっ!!
今度は複数のチームが青組に迫ってきているようです!! 別のチーム同士が手を組んだのでしょうか!?」
見ると、いつの間にかボクらの周囲に他のチームの姿が見えた。
白と緑の旗を掲げているチームがそれぞれ一定の間隔を置いて互いに目もくれずにこちらに向かってくる。彼女の言う通り、本当に手を組んでいる可能性が高い。
「おいおい、マジかよ……」
仲間の一人が、面倒そうな顔をするが、
何人かは「前優勝者のアルフォンスがいれば余裕だろ」と、
比較的楽観視していた。
そのアルフォンスさんは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「あの白組と緑組、見覚えのある顔がいやがるな」
「知り合いですか? アルフォンスさん」
「おう、前年の闘技大会の本戦で戦ったやつだぜ。
何人か見覚えがある。俺が叩きのめしたが、流石にこの数相手だと厳しいな」
そして、アルフォンスさんは続ける。
「俺を真っ先に潰しに来たのかもしれねぇな」
「どういうことですか?」
「本戦に入る前に俺を脱落させてしまえば、あいつらが優勝する可能性も上がるからな。この場で俺を群れで倒せばってセコい考えなんだろうな」
……なるほど。
「(団長さんが居れば前衛は盤石かと思っていたけど……)」
逆に、強者を引き寄せる結果になってしまいそうだ。本戦で戦ったという事は、実力者。相手はどちらも他に目をくれずにこちらに迫ってきている。
狙いはリーダーのボクだろうか。
彼らは団長さんと直接戦うよりボクを狙う方が確実だと考えるはず。
「――レイ」
フードの女の子がボクに話し掛けてくる。
「……ん? どうしたの?」
「――同時に攻めてくるなら、片方を先に潰す手は?」
「……それもアリだね」
彼女の意見は正しい。
このまま同時に相手にするのはこっちが不利。
それなら――
「(白組は魔法のまだ射程外、だけど緑組なら―――)」
頭の中で、先に緑組を仕留める算段を立てる。
「緑組を中心に攻撃魔法を使用します」
そう仲間に宣言してからボクは詠唱を始める。
「風の精霊よ、ボクの声に応えて。
我が魔力を以って、敵を薙ぎ払え………!!
魔法を発動すると、強風が吹き荒れる。
その強風は敵陣に向かい、そこから緑組を中心として竜巻が発生し始める。
その光景を見た白組の面々は、慌てて後退していく。
「――なっ!? なんだあの風!?」
「くそっ、これじゃあ近づけねぇ!!」
被害を恐れた白組は、こちらに接近する足を止める。
竜巻は更に規模を広げ緑組全員を巻き込み、上空に投げ飛ばされる。
「今のレイお嬢さんがやったのか?」
「はい。まともに戦う必要もありませんし」
「まぁ、確かにそうだけどよ……。
にしても、あのレベルの魔法を使えるのか」
ボクの言葉に、団長さんは苦笑いをしていた。
広範囲の
今の一撃で緑組はほぼ半壊で10人程度は脱落したようだ。
だけどリーダーはまだ健在のようで残りが消失する様子はない。
「後衛組はこのまま緑組に集中攻撃してください。
白組にこっちの強さを見せつけて、近づかせないように」
「了解!」
「任せろ!!」
「―――」
三人はボクの言葉に応じて、緑組に狙いを定める。
しかし、緑組はこちらの射程内に逃れるために後退していく。
うち、一人だけ魔法を喰らいながらも少しずつこちらに接近してくる。
団長はその様子に感心した様子でボクに言った。
「あれは、去年ベスト8に残ったヤツだ。確か名前は……ダガンだったか」
「強いんですか?」
「見てのとおりタフな奴でな。
去年の大会中は俺の攻撃を何度も耐えていたんだ。
まぁ、最終的には倒したがな」
「なるほど……」
つまり、それだけの実力はあるということかな。
魔法を耐えながら迫ってくる辺り説得力は十分ある。
「よし、奴の相手は俺に任せろ。
レイお嬢さん、今はアンタに指令系統を渡すから白組の方を頼むわ。
こっちにまた迫ってきてるようだからな」
「分かりました」
アルフォンスさんは、剣を抜いて走り出す。
「よう、久しぶりだな。ダガン」
アルフォンスさんの声が聞こえたのか、ダガンは足を止める。
「アルフォンス……!」
ダガンは、アルフォンスさんと向かい合い、得物の槌を取り出す。
「お前が緑組のリーダーのようだな。
悪いが今回は本戦を待たずにここで倒させてもらうぜ」
「やってみろよ。今度こそ、俺がテメェを倒してやる……!」
両者は睨み合う。
そして、二人は同時に動き出した。
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