第331話 脳筋多め

 予選は1チーム二十人で戦うバトルロイヤル戦だった。

 投票の結果、ボクがリーダーに任命されてしまったので作戦を練る。


 また、リーダーが倒された時点で敗北が決定する。

 それを踏まえて作戦を考えないといけない。


「まず、聞きたいんですが、

 攻撃魔法を使用できる方はどれくらい居ますか?」


 ボクの質問に、三人ほど手を挙げる。

 うち、一人はフードを被った小柄な女の子だ。


「なるほど、三人ですね。

 他に、遠距離攻撃可能な攻撃手段を持つ方は居ますか?

 例えば、弓などの攻撃を得意とする人は?」


 次はだれも手を挙げなかった。


「(となると、二十人中十六人が前衛か……)」

 遠距離を主体とするチームがいた場合、間違いなく不利になる。

 少なくともそういったチームに狙われないようにしなければ。


「(この調子だと回復魔法の使い手もあまり居なさそうだ)」

 ボク自身が回復魔法を使用できるため、いざとなったらボクがフォローに回らないといけない。


「―――うん、少しだけ時間を下さい。作戦を纏めます」


 そして、三分ほど時間を貰い、

 ボクは自分なりに色々な場面を考慮して作戦を考案する。


「出来ました!!!」

 ボクはメンバーを集めて、説明をし始める。


 作戦はこうだ。


 ①ボクを中心とした防御陣形をとる。

 敵チームは確実にリーダーを優先して狙ってくる。そのため、ボクは前線に出ることが出来ない。だけど、遠距離攻撃可能な相手がいた場合、後衛にいたとしてもリーダーに狙いを絞ってくる。


 その為にボクに周囲に魔法を使えるメンバーを配置して防御を担う。前衛はボクらを囲むように配置して通常時は壁になってもらう。怪我をしても回復魔法を使用できるボクが即座に治療を行う。


 ②敵に攻撃対象にされないように動く。

 一番怖いのは、敵チーム同士が組んで集中狙いを受けた時だ。

 これを避けるためにこちらは基本目立たないように動く。仮に狙われた場合は撤退できるならその場から離れ、即座に追い返せる状況ならこちらも攻勢に出る。


 ③戦いになった時はアルフォンスさんを主軸に動く。

 敵チームの最大の脅威はアルフォンスさんだ。そのため、彼が正面のチームに睨みを利かせるだけである程度けん制になると考えている。

 

 前衛メンバーはアルフォンスさんの指示に従いつつ臨機応変に対応する。相手はアルフォンスさんを最大警戒するだろう。そこでボク達に意識が向かないならこっちのものだ。ボクを含めた遠距離攻撃組が敵を一気に仕留めに行く。


 ④強そうな相手にはこちらから手を出さない。

 ある意味で最も重要かもしれない。分が悪そうな相手には手を出さないようにする。強い相手に対象にされた時は、基本は逃げの一択だ。


 ただし、もし交戦する時は、

 見くびられないように立ち回る必要が出てくる。

 いざとなれば、相手に強烈な一撃を放って戦意を削がせて撤退を促す。それで相手が撤退するなら良し、無理なら多少の被害覚悟で仕留めに行く。


 もし、周囲にこちらのチームの強さを知らしめられたら上出来だ。


 ⑤背水の陣を保つ

 ボク達が今居る場所は、コロシアムの北西の端を陣取っている。

 今回の戦いは目立たないように動くというのは何度も語っているが、もう一つ警戒すべきなのは挟み撃ちになった時。


 それを回避するためにも、コロシアムの端に陣取りつつ、動くという事だ。常に場外を後ろに保つという危険性はあるが、ある程度幅を取って陣形に厚みを取ることで対応する。


 また、この状態を保てば、背後の奇襲に人員を割く必要が無くなるため、常に正面と左右のみに戦力を絞れる。


 これら5つがボクの考えた作戦。

 もちろん、これらは机上の空論に近い作戦である。実際は、このように動ける可能性は低いだろうけど、基本方針を決めるのは決して悪くないはずだ。


「―――と、こんな感じでどうでしょうか?」


 ボクは時間が押していたので、少し矢継ぎ早に説明を行った。


 そして、ボクが仲間の参加者たちの顔を伺うと―――


「……お前、すげぇな」と参加者の一人に何故か褒められた。


「いや、リーダーに推薦したはいいけど、戦力として正直期待はしてなかったんだ。だけど、ここまでちゃんとした作戦を立てるとは思いもしなかった」


「ええっと……ありがとうございます」


 ボクは戸惑いながらも、感謝の言葉を述べた。

 しかし、アルフォンスさんからボクの作戦に指摘が入る。


「ところで、この俺を主軸にする作戦には文句ないんだが―――

 敵リーダーはキミを含めた魔法使いたちで攻撃を行うという話だったが、レイお嬢さんは魔法に自信があるのかい?

 こう言っちゃなんだが、ここにいる参加者は全員腕利きだ。並の魔法使いでは歯が立たないと考えた方がいい」


 その意見に、他の参加者が頷いて言った。


「それに、4の項目の最後に『相手に強烈な一撃を放って戦意を削がせて撤退を促す』って言ってたが、それは誰がやるんだ?」


「ボクがやります」

 時間が無いので即座に答えた。すると、周囲が驚く。


「―――驚いた。お嬢さん、相当自信があるみたいだな」

「自信というほどではないんですが……」


 正直、魔法のレベルで言えば、ボクはメンバー最下位だ。


 だけど女性の身体になっている今であれば、ボクの魔力はレベッカと同等かそれよりも多少上回る程度にある。それだけの魔力があれば、魔法オンリーで戦えないわけじゃない。


「もし、仮に俺らの大体数が倒れたらどうする? アルフォンスは単独でも生き残るだろうが、アンタはそこまでの実力は無いだろう」


 その言葉に、アルフォンスさんが口を挟む。


「決まっているだろう。俺が全力で守るに決まっている。リーダーとか関係なく、俺は女性を守るために冒険者になったんだ」


 アルフォンスさんは自信満々に言った。

 色々勘違いしているようだけど、彼は本気で守ると言ってくれている。

 ふざけた彼だったが、少なからず真摯な彼の言葉にボクは驚いた。


「――ありがとうございます、団長。

 でもいざ二人で生き残ったら、ボクも前線で戦いますから心配しなくても大丈夫ですよ」


 ボクの言葉に、今度はアルフォンスさんが驚いた。


「き、キミっ! 前衛でも戦えるのか!?」


「え……まぁ、はい。というより、ボクは本来前衛なので」


 今回は作戦上、後衛の方がいいと思ったから後衛を選んだだけだ。

 普通に戦うなら前衛で戦った方が強い。


「そ、そうだったのか……。てっきり、温室育ちのお姫様だと思ってたよ。なら、人数が減ってきた時は背中を任せる。いいかい?」


「はい、任せてください」

 ボクは団長の言葉に笑みを浮かべて答える。


「そ、そうか……」

 アルフォンスさんはボクの方を見ずにぶっきらぼうに答えた。

 彼が女性に対して行う態度としては珍しい。


「それじゃあ―――」

 ボクは上空に表示されたタイマーを確認する。

 もう、残り時間は1分を切っている。


「では皆さん、頑張りましょう!」

 ボクは、掛け声を出してメンバーの士気を上げる。


 そして――


「「「「「おおおおーーーー!!!」」」」」

 フードを被った女の子以外が円陣を組み全員が気合いを入れ直す。


 さぁ、後はもう流れに任せるしかないよ!

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