第330話 姫扱いされる主人公
「では、シンキングタイムは10分です!! どうぞ!!!」
サクラちゃんは宣言と同時に、コロシアムの外に出る。
そして、コロシアムの上空に大きな文字で「10:00」と浮かぶ。
1秒立つごとに「9:59」と「9:58」とどんどん数が減っていく。
どうやら制限時間を表しているようだ。
「……どうしようか、アルフォンスさん」
ボクがそう言うと、彼は大きく息を吸う。
「ふぅ……まずはチームメンバー全員集まることにしよう。
レイお嬢さん、一緒に付いてきてくれ」
「あ、はい」
アルフォンスさんが歩き出すと、周囲に響く声で言った。
「青旗の連中集まれ!!!」
すると、周囲にいた何人かの参加者が反応して集まってくる。その中に、最初に話し掛けたフードを纏った、顔は分からないけど小柄な女の子の姿もあった。
「あれは、前大会優勝者のアルフォンスじゃねーか!」
「今年も参加してたんだな」
「彼が同じチームメンバーというのは心強いな」
同じく青旗を頭に浮き上がられた参加者が口々に語り出す。
「有名人ですね……」
「はっはっは! これでも剛剣のアルフォンスと言われていますからね!!」
アルフォンスさんは機嫌良さそうに笑う。
「こりゃ、心強いわ」
「ああ、頼もしいな」
集まった人達が声を揃えて褒め称える。
集まったはいいけど、今度はリーダーを決めないと。
といっても、相談するまでも無いだろう。ボクを含めてきっと全員アルフォンスさんをリーダーに選出するはず。なにせ彼は前大会の優勝者だ。実力を考えたら選ばない理由が無い。
「今からリーダー決めを行う!!!
自分から立候補してもいいし、誰かを推薦するのもいい!! 時間が無いから早いとこ決めよう!!」
アルフォンスさんは、大きな声で青旗の参加者たちに意見を募る。
すると―――
「いや、そんなこと言われてもよ」
「あんたしか居ねえだろ。アルフォンス」
「俺達、みんなお前に賭けてるんだよ」
その言葉に、アルフォンスさんは苦笑いを浮かべる。
「おいおい、そんな簡単に言われても困るんだが……」
しかし、最初にボクが話し掛けたフードを被った女の子が、真っすぐボクを指差した。
「―――あなたがいい」
「……え?」
突然の出来事に、ボクは呆けた返事をする。
しかし、その彼女の推薦に、他の参加者が騒ぎ出した。
「いや、それはねえだろ。
こんな弱そうな女をリーダーにしようもんなら、
他のチームから真っ先に狙われちまうよ」
「確かに、弱そうな奴がリーダーだと不利かもしれねぇな」
「(……まぁ、この外見だと男には見えないよね)」
不思議な話だが、今は女と言われることに拒否感が無い。
薬の副作用かもしれないけど、以前ほど女性になったことに対して不快な感情が無いのが不思議だ。
「だが、そいつって開始前に俺たち全員に声かけてくれたやつだよな」
「ああ。俺のところにも挨拶しに来たな」
「俺って外見が怖いせいか女が寄ってこなくて色々諦めてたんだが、
その人は気にせず笑顔で挨拶してくれてたんだよな……」
「私も……話しかけられた」
ボクがリーダーになるのを、周囲の人たちが肯定し始めた。はじめはアルフォンスさん一択だった雰囲気だったのだが、徐々にボクに票が割れてきているようだ。
しかし、同時に反対意見も出始める。
「いやいや、待てよ。どう考えてもリーダーはアルフォンスだろ!!」
「そうだぜ。確かに、見た目はいいし性格も良さそうだから票を入れたくなるが、これはアイドル投票じゃなくて俺たちのリーダーを決める投票だぞ!!」
「い、言われてみればそうなんだが……」
票が割れてしまって言い合う参加者たち。
「ど、どうしましょうか……アルフォンスさん?」
自分のせいで意見が割れていることに戸惑い、つい団長に頼ってしまう。
「ふむ……では、現段階の集計だけ取ってみましょうか。
お前ら、誰に投票したい奴を言え!!!」
そう言って、アルフォンスさんは手を掲げる。
「俺は……アルフォンスだ!」
「俺もアルフォンスだ」
「いやいや、ここはレイお嬢さんでしょ」
「―――」
フードの女の子は無言でボクを指差す。
「……えっと、ボクはアルフォンスさんで」
どさくさに紛れてボクはアルフォンスさんを指名する。
しかし―――
「今のところ俺が9票、レイお嬢さんが10票か」
なんと票が完全に割れてしまい、
残るはまだ無投票のアルフォンスさん本人になってしまった。
「こうなったら決まりだな。
……この俺はレイお嬢さんを指名させてもらう!!」
「えぇ!?」
結果、アルフォンスさんまでボクを指名したおかげで、
ボクがリーダーになってしまった。
「ほ、本当に良いんですか……?」
「はっはっは!! よろしく頼むよ、レイお嬢さん!!」
アルフォンスさんが握手を求めてきたので、ボクは恐る恐る手を差し出す。
すると、彼のゴツゴツとした手が力強く握り返してきた。
そして、ボクの頭に表示されていた青旗に王冠のマークが付いた。おそらく、これがリーダーの証明という事なのだろう。相手チームからも誰がリーダーか分かるという事だ。
「(こうなったら仕方ないか……)」
ボクは覚悟を決めることにする。
「それで、レイお嬢さん。作戦はどうする?
いや、作戦なんて関係なくリーダーである貴女を全力で守るのは変わりませんがねっ!!」
アルフォンスさんは気持ち悪いポーズを取りながら言った。
「わ、分かりました。それじゃあ――」
ボクは、自分なりに作戦を考えることにした。
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