第322話 人に戦いの基本を教わる女神様

□仲間と一緒に姉さんを鍛えよう!二回目


 姉さんvs僕の二回目の挑戦。

「さっきはベルフラウの妨害が遅すぎました。

 今度は一番最初から妨害を掛けてみて下さい。ベルフラウ」


 エミリアが再び審判を買って出る。


「そ、そうだよね。うん、分かった!」

 姉さんはやる気になっているようだ。


「じゃあ、始めるよー」

「よし、こい。お姉ちゃんが受け止めてあげる!」


 僕を受け止める距離まで近づいたら姉さんの負けなんだよ。

 心の中で突っ込みつつ、さっきよりも早めに姉さんに近付いていく。


 すると―――


「<植物操作>!!」


 姉さんの言葉に反応し、走っていた僕の周囲の草が急成長する。

 そして、それが僕の足元に纏わりつき、足が進まなくってしまった。

 確かにこの技能なら足止めにもってこいだ。


「良い感じですよ、ベルフラウ!」

「その調子でございます! そのまま攻撃魔法に繋げて相手の消耗を狙いましょう」


 エミリアとレベッカが姉さんにアドバイスする。

 しかし、僕は冷静に対処することにした。


<初級風魔法>エアレイド

 僕は周囲に風の刃を発生させ、それを足を拘束している草に向けて放つ。

 すると、瞬く間に無数の刃によって刈り取られ、僕は自由の身になった。


「あ、あれ?」

 あっけなく拘束を解かれてしまった姉さんは再び<植物操作>で僕を拘束しようとするのだが……。


「<初速>」

 植物が成長しきる前に、僕は技能で一気に加速してその場から離れる。

 結果、姉さんの妨害が不発に終わってしまう。


「むぅ~、<初級炎魔法>ファイア!!」

 再び僕に向かって姉さんは火球を放つが、

 軽く横に移動するだけで簡単に回避してしまう。


「くっ、まだまだぁ!!」

 その後も何度か攻撃を放ってくるが、どれも僕には当たらない。


「こ、こうなったら……<束縛>バインド!!」

 姉さんの魔法が発動し、僕の周囲の空間に穴が開き、魔法の鎖がいくつも飛び出してくる。この魔法は対象を一定時間拘束する魔法だ。MPを消費するが、植物操作による拘束よりも効果は強い。


 だけど、甘い。


「――っ!!」

 僕は借りていた訓練用の剣を使って、鎖が飛び出してきた四箇所を瞬時に切り裂く。結果的に、全ての鎖は僕を拘束する前に切断され消滅してしまった。


 刃先が潰れているとはいえ、集中すれば多少威力を上げることが可能だ。


「……え? 何が起きたの?」

 自分の魔法が全く通用しなかったことにショックを受ける姉さん。


「拘束される前に、レイは物理的に鎖を斬り飛ばしたんですよ。

 結果、ベルフラウの魔法は無効化されました」


「えっ!? そ、そんなやり方で無効化出来たの!?」


 姉さんの嘆くような質問に僕は笑って答える。


「まぁ、来ると分かってしまえばね」

 勿論、それなりの攻撃力と判断力が無いと剣だけで対処は難しいけど、ここまで露骨にタイミングが読めるなら無効化は容易い。


「そ、そんなぁ……アルフォンスさんだけじゃなくて、レイくんまで魔法を剣だけで対処できちゃうの……?」


「あの人は特別だと思うけどね……」

 普通はこんな簡単に無効化なんて出来ないだろう。


「ベルフラウの弱点の一つ目ですね」「?」

 エミリアの言葉に、姉さんはクエスチョンマークを浮かべる。


「ベルフラウ、今度は拘束なんて考えずにレイに攻撃して近づけないようにしてください。この際、もうちょっと強力な魔法を使っても構いませんから」


「わ、分かった」

 エミリアの指示に従い、姉さんは攻撃を再開する。


「<植物操作>!!」

 今度は姉さんの周囲の草が伸びていき、僕の方へ襲ってくる。

 拘束ではなく、そこから伸びてきた植物に種が実り、種が爆発を起こす。


「(おお、姉さんの新技だね)」

 心の中で姉さんの技に喜びながら、僕は爆風に当たらないようにその場から離れる。そして、再び姉さんに走っていくと、今度は姉さんが違う魔法を発動する。


<魔法の矢>マジックアロー!!」

 魔力で生成した矢がこちらに飛んでくる。僕は剣を盾にしてそれを凌ぐが、姉さんはそれをガトリングガンのように連射してくる。


 当たらないように僕は横に動くが、姉さんはこちらをターゲットから外さないように移動しながら魔法を放ち続ける。


「良い感じだよ、姉さん!!」「え?」

 これで、姉さんは自身も動きながら攻撃魔法を発動し続けるという二つの行動を同時に行ったことになる。だけど本人はそれが如何に大事な事か、まるで気付いていない。


「……意識できてないという点で、ベルフラウの弱点二つ目ですね」

「そうでございますね……」

 エミリアとレベッカが小声で何か話しているが、僕は姉さんの攻撃に集中することにした。


「<初速>」

 僕は加速して、一気に姉さんの視界から外れた場所に移動する。


「えっ!? き、消えたっ?」


 僕を見失った姉さんは、魔法を中断し、

 周りをキョロキョロ見渡すが、僕の姿は何処にも居ない。

 当然だろう。今、完全に姉さんの後ろに張り付いて視界に入らないようにしてるのだから。


「(まぁ、一回終わらせようか)」

 僕は一旦仕切り直しをするために、姉さんの頭を手で触ろうとする。


 しかし、僕が触れようとした瞬間、


「ベルフラウ様、後ろ、後ろでございます!!」

「えっ?」


 観戦していたレベッカがタイミング悪く姉さんに声を掛けてしまう。

 そして、それを素直に受け取った姉さんはこちらに振り向き。


 もにゅっ!


「…………ん?」

 僕の手は何故か姉さんの胸を鷲掴みにしてしまった。


「きゃああああっ!!」

「わっ……!!」

 慌てて僕から離れ、顔を真っ赤にする姉さん。


「ご、ごめん姉さん……!」

「……はぅ」

 謝ったのだけど、姉さんはそのまま顔を更に紅潮させ、熱暴走を起こしてそのまま倒れてしまった。


「……宣言通り、胸を触ってレイの勝ちですね」

「宣言してないよっ!」


 ……役得だとか思ってないよ?


 ◆


 姉さんが正気に戻るのを待って数分後、落ち着きを取り戻した。

 そして、模擬戦を観戦していたエミリアが、姉さんに弱点を指摘する。


「ベルフラウの弱点

 ①何がしたいのか露骨で次の行動が読みやすい。

 ②無意識に行動しすぎて、自分がどういう状態か判断出来ていません。

 ③攻撃が単調すぎて一つ対処されるだけで後が続かなくなってます。

 ④一度視界から外れただけで動揺し過ぎ。あと、動体視力も低すぎます。

 ⑤接近されただけで攻撃手段が全て無くなって詰みになってます。

 まぁ、他にも色々ありますが、この五つは重要です」


「う……うん……」

 ズバズバと欠点を指摘していくエミリアに、落ち込む姉さん。


「さっきの勝負で言えば、最初足止めをしたのですから即座に違う行動を起こせばよかった。そうすれば、レイも拘束の対処が遅れて時間を稼げたでしょうに」


「そ、その通りです……」

 エミリアの指摘に、更に項垂れる姉さん。


「他にも、折角植物操作で強力な攻撃技を身に付けたのですから、もっと素早く追撃を入れるべきでした。爆風が晴れる前に、次に攻撃を加えればレイだって多少被弾してダメージを負わせることが出来たかもしれません」


「言われてみれば……」

 この辺りの個人連携技は、昨日姉さんが団長相手に実践していた。

 だけど、あれは僕のアイデアで、姉さん自身が考えたわけでは無いから自身の力として身についてなかったようだ。


 けど、良かった点もあった。

 そこをレベッカはフォローを入れる。


「ですが、その後の魔法の矢マジックアローの連射は素晴らしかったですよ。ベルフラウ様」

「そ、そう?」


「ええ、威力が低い魔法の矢でけん制連射することで相手を動かし、自身も一緒に動くことで相手を正面に捉え、狙いを外さないように上手く工夫されているようでした。以前に比べて、確実に命中精度が上がっておりますね」


 今回、姉さんが一番うまく出来たのはそこだろう。その前の新技も悪くなかったし、エミリアの言う通り、その直後に魔法の矢で狙い撃てば中々良い動きになってたと思う。


「……あれ、あの時、私も動いてたの?」

「……本当に自覚していなかったんですね」


 エミリアの呆れ顔を見て、姉さんはクエスチョンを浮かべる。


「えっと、その後は……」

「その後は……まぁ全部論外でしたね」

「えぇっ!?」


「レイが視界から外れた時点でその場からすぐ離れるべきでした。

 あなたは空を飛べるのですから、一旦は空に退避して上空から地上を伺えばレイの居場所を突き止めるのも難しくなかったでしょう。

 それか、走って動いて自身に防御魔法や盾の魔法を使うくらいしないとダメです。でないと、接近された瞬間無防備になってしまいます」


「は、はい……。仰る通りです……」

 姉さんは完全に意気消沈してしまった。エミリアの言っている事はもっともな事ばかりだし、本人も身に染みて分かっているんだろう。


「とはいっても、全部いきなり直すのはちょっと難しくない?」

「でも、それくらいの事が出来ないと初戦敗退しかねないですよ」

「うぐっ!」


 正論を言われ、何も言い返せない姉さん。


「んー……エミリア、姉さんにお手本を見せてあげたら?」


「お手本ですか?」


「うん、エミリアも姉さんと同じ後衛タイプだし、上手い見本があれば姉さんも真似しやすいでしょ」


「なるほど……」


 僕の提案に、納得した様子を見せるエミリア。

 実際、僕達は前衛、中衛、後衛で上手く分かれてるからこういう事も出来るのだ。


「分かりました。では、ベルフラウ、私の動きを見ててくださいね」

「は、はい!」


 姉さんは気合いを入れ直してその場に正座する。


「レベッカ、模擬戦の相手をお願いします」

「承りました」


 そう言って、二人は前に出て、それぞれ距離を取る。

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