第321話 人に戦闘訓練を強制される女神様
それから、僕達は訓練所に戻り、
彼らと団長にお礼を述べた後に解散し、宿に戻った。
「ふぅ……今日は疲れたね」
部屋に戻ると、姉さんはベッドに座り込む。
「うん、お疲れ様」
今日の姉さんは、今まで以上に戦闘経験を積んだ。後は防御面の対策が必要になるだろうけど、これで攻撃面は十分に闘技大会でも通用するだろう。
「レイくんはどうだった? 騎士団の皆と随分打ち解けられたみたいだし、対人戦も十分経験を積めた?」
「うん、バッチリだよ」
心残りがあるとするならやっぱり団長に敗北したことだろうか。
闘技大会でまた戦う機会があるかもしれないけど、姉さんとの手合わせで彼の実力が想像以上だったことを踏まえると、たとえ万全の状態だとしても勝てるか怪しいところだ。
「でも今回の魔法自信があったんだけどなぁ……結局、切り札まで展開できなかったし……」
ん? 切り札?
「まぁ、あれは団長が凄すぎたから仕方ないよ」
姉さんのいう切り札というのは分からないけど、まだあれで全力を出し切ったわけではないらしい。
「ま、でも、これでお姉ちゃんも全然戦えるよね!!」
「そうだね。攻撃面は十分だよ」
「うんうん、攻撃だけなら―――え、攻撃だけ?」
「うん。今の姉さんだと近づかれただけでアウトだからね。だから———」
だから、明日は徹底的に立ち回りの練習をしようね。
そう伝えると、姉さんは、絶望的な表情を浮かべていた。
◆
次の日―――
今度はエミリアとレベッカを誘って、
姉さんの特訓に付き合って貰うことにした。
「ほう、ベルフラウを鍛えると。面白そうですね」
「ベルフラウ様、その向上心は素晴らしいです。
是非、このレベッカにも協力させてくださいまし!」
エミリアとレベッカはかなりノリノリだった。
でも姉さんはどんどん逃げ場が無くなって行くことに青ざめている。
「カレンにも付き合って貰えば良かったのに、誘わなかったんです?」
「なんか、今忙しいみたいだよ」
僕もカレンさんに特訓を付き合って貰ったことがあった。
今回も同じように手を借りようと思っていたのだけど、
「ごめんなさいね。今、私達は色々と忙しくて――」と断られてしまった。
サクラちゃんも同じく慌ただしい状況で、二人とも王宮でずっと仕事をしている。カレンさん付き添いのリーサさんも王宮で二人の手助けをしているようで、しばらく会えていない。
「それなら仕方ないですね。
もしかしたら前に言っていた魔王軍の敵地に侵入する作戦かもしれません」
そういうわけで、今回は僕達四人だけだ。
「まずは、基本的なことから始めようか」
「うぅ、よろしくお願いします……」
姉さんは涙目になっている。
そして、迷惑が掛からないように王都の外に出て、
魔物が少なそうな平地に移動する。
◆
□仲間と一緒に姉さんを鍛えよう!
「まずは近づかれた時の対応だね。
姉さんは後衛だから基本的に相手と距離を取らないと」
「そ、それは分かってるんだけど……中々上手くいかなくて……」
姉さんの言い分としては、距離を詰められてしまうと慌ててしまって上手く動けなくなるらしい。
「ふむ、それならちょっと試してみましょう」
エミリアの提案で、実際に戦ってみることになった。
十五メートル程度の距離を取った状態で、僕が姉さんに近付く。
姉さんは僕に近付かれずに、三十秒間間持ち堪えられるかのテストだ。
途中で会話が入った場合、時間にカウントしない。僕から姉さんに攻撃するのはNGで、姉さんは特技や魔法を駆使して僕に近付かれないように対処する。
攻撃魔法の使用は姉さんのみ弱い魔法だけ許可する。反対に、僕は攻撃行動を一切おこなわず姉さんに触れればOKだ。
触れる箇所は実戦で致命的と思われる個所(例えば、頭や腹部など)に手が触れたら、その段階で勝負ありとなる。
「じゃあ、始めるよ」
「うっ……わ、分かった! いつでもいいよ!!」
姉さんは緊張した様子だ。僕ですらこれなのだから、闘技大会で出場すると思われる人たち相手だともっとガチガチに緊張してしまいそう。
「じゃあ近づくね」
「うん」
姉さんの返事を聞いて、まっすぐゆっくり姉さんに向かって走っていく。走るスピードは大体ゴブリンが走って襲い掛かってくるくらいのスピードを想定している。
「ふぅ……ふぅ……よし、来なさい!」
姉さんは深呼吸をして覚悟を決めたようだ。
僕があと三歩程の距離まで近づいたところで、姉さんは魔法を唱える。
「
姉さんは覚えたての魔法を僕に向かって投射する。しかし……。
「よっ、と」
僕は軽く体を動かし、その魔法を軽々回避する。
そして、そのままちょっとスピードを上げて姉さんに接近する。
「わ、わぁぁぁぁ」
攻撃が回避されたことに慌てて、姉さんは杖を僕に振ろうとするけど、それもステップを踏んで軽く回避。そして、そのまま姉さんの背後に回り込んで肩に手を置いた。
「はい、僕の勝ちね」
「うぅ…………」
姉さんは悔しそうにしている。
「レイ、肩に手を置くのはルール的に勝ったことにはならないのでは?」
「え?」
「頭とか腹部と比べると、肩は致命的とまでにはいきませんよ」
「あ、そうなんだ。ごめんね、姉さん」
どうやらエミリアが指摘してくれた通りらしい。
僕は改めて姉さんの頭を撫でる。これで勝ちの条件は満たしたはず。
「折角なので胸とか触るチャンスだったのでは?」
「エミリアは僕に何をさせたいんだ……」
他の女の子にデレデレするなとか言っといてこれである。
「では次から胸を触ってくださいね。
そうすればベルフラウも嫌だろうし、ちょっとは真剣になるでしょう」
「役得でございますね。レイ様」
「(女の子の考えって本当に分からない)」
自分がまた女になれば、少しは理解できるんだろうか。
「で、でもそれは流石に……」
姉さんは顔を赤らめる。
「ほら、姉さんも嫌がってるよ」
「……嫌とかじゃなくて、そういうのはいつもみたいに寝ているときにこっそりやってくれれば」
「はい!?!?!?」
姉さんのとんでもない爆弾発言に僕が反応する。
「……レイ、最低ですね」「レイ様……」
「ち、違うんだよ!! 僕、そんなことしてないから!!」
エミリアとレベッカはゴミを見るような目で見てくるし、姉さんは耳まで真っ赤にして俯いている。
「だから、私としてはそれはご褒美というか……」
この姉、黙らせてぇ。
「……前言撤回、これからはベルフラウの頭を叩いてください」
「ヒィッ!?」
エミリアの言葉に、姉さんは悲鳴を上げる。
「そ、そんなことしないから安心して」
「ほっ……」
危うく姉にDVする弟みたいになるところだった。
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