第320話 変態が(元)神を超えた瞬間
姉さんの魔法を悉く無効化してしまうエロ団長。
僕達は二人で相談してこの変態をどうにかしたいと思う。
「お待たせしました」
二人で作戦を立てて自身を取り戻した姉さんは団長の前に立つ。
ただし、立ち位置はさっきよりも遠く、およそ15メートル程度の距離を取っている。
「……? 何故、そんなに離れるのです?
ま、まさか、さっきから俺が全部魔法を切り払うから嫌われてしまったとか!?」
姉さんは元々このエロ団長は嫌いだと思う。
そうであってほしい。
「い、いえ、そうではなくて………。
だって、近くにいると自分もまき込んじゃうから……」
これは姉さんの言葉だ。
だけど後半は小さく呟いただけで多分団長には聞こえていない。
「まぁ、何でもいい!
弟くんと相談して作戦を思い付いたのでしょう?
俺は貴女から逃げも隠れもしませんよ!」
団長はビシッとポーズを決めて宣言する。普通に戦ってる時は割とカッコいいのに、何故女の人が絡むとここまで気持ち悪くなるのだろう。死ねばいいのに。
「そ、それじゃあ行きますね……」
そして、姉さんは杖を上空に掲げる。
まずは一つ目の魔法を発動させる。
「
「……魔法の矢?」
団長は姉さんが使用した魔法に疑問を覚える。
次の瞬間、姉さんの杖から多数の魔法の矢が上空に撃ち上げられる。
「これほどの数を撃ち上げるのは大したものだが、この魔法では俺の鎧に傷一つ付けられませんよ。例え、貴女の魔力が凄まじかったとしても」
団長は余裕の表情で言った。
しかし、姉さんは次の魔法を発動させる。
「
姉さんの周囲から沢山の光の球が同時出現する。
それを杖で遠隔操作し、さっきと同じく上空に撃ち上げる。
光球と魔法の矢の両方が撃ち上げられ、
上空でそれらの魔法が融合し、上空で光り輝いた。
「うおっ! これは……!」
団長は空を見上げながら驚く。
上空には、まだ明るいというのに星々のように光球が浮かんでいた。
「さほど難易度の高い魔法ではないとはいえ、
二つの魔法をこれほど展開しながら複合させるとは――!」
姉さんが使用したのは
これは魔法の基本と言われる<初歩魔法>と呼ばれる系統に属する。
その中で唯一の攻撃魔法だ。
簡単に言えば、魔力で生成した矢の形状の物質を対象に飛ばす。
消費するMPも殆ど無くて、この世界の人間なら誰でも練習すれば習得出来るほど習得難易度が低い。威力も殆ど無く、今の僕が使用しても最弱系統のゴブリンを倒せるかどうかくらいだ。
もう一つ発動させたものは
こちらは<光属性魔法>の一つで、周囲を照らすことが出来る。
この二つを纏めて展開することで、
姉さんは<複合魔法>と同じ現象を起こすことに成功した。
さっき、偶然出来た魔法の応用というわけだ。
どちらも難易度が低い基本的な魔法だが、姉さんの一度に発動させた数が二桁は違う。まるで星空の海のように、空には百を超える光弾が浮かんでいる。
「……凄いな、あれだけの数の魔法を同時に制御できるなんて」
通常、魔法を使用する際には術者の脳裏にイメージが浮かぶ。
上位の魔法使いはイメージに沿って魔法陣が自動で構築され、詠唱によって脳内で描いた通りの現象を引き起こすのだ。今の姉さんは頭の中で明確なイメージが出来ているのだろう。
これだけの攻撃魔法が襲い掛かれば、団長でも確実に被弾するだろう。
ただし、それは団長が効果範囲内にいればの話である。
「考えましたね。これだけの数なら俺でも全部は防ぎきれない。ですがこの場から離脱しつつ、自分に襲い掛かってきた光弾のみ対処すればいいだけの話です!!」
団長の言う通り、それがこの魔法の欠点だ。
如何に無数の光弾といえども、これだけの数を対象に完璧に追尾させるほどのセンスは姉さんには無い。よって距離をとって極力直撃する場所を避け、後はランダムに飛んでくる魔法の矢のみ気を配るだけで防げる。
だからこそ、ここからが姉さんの得意分野だ。
「むっ……!! 足が、動かない!」
団長は直撃を避けるように足を動かそうとするのだが、団長の足は地面から伸びた植物の根によって絡め取られていた。
「こ、これは……!!」
「ふふん! 私のオリジナル魔法よ!」
説明が難しいので、オリジナル魔法という事にしたのだろう。正確には<植物操作>という姉さん特有の技能だ。簡単に言えば、植物を急成長させて自在に操ることが出来る。
といっても、この能力で行える束縛能力はそこまで強いわけでは無い。団長なら数秒で拘束を解けるだろう。
だから、姉さんはその前に次の行動に移る。
「さぁ、今よ!!!
二つの魔法を合成させた、私の新魔法!!
その名も、
姉さんの言葉と同時に、
上空に飛ばした無数の光弾が団長の周囲に一斉に勢いよく落ちてくる。
元が魔法の矢とはいえ、姉さんの持つ魔力は絶大だ。
そのため素の威力でも銃弾クラス。それに、更に光魔法による増幅により、威力が倍以上に跳ね上がっている。例え、強力な防具であっても無傷で凌ぐのは難しい。
「くっ……!?」
団長はその場から離脱することを諦め、上空から飛んでくる光弾の雨を睨み迎撃を行う。
「うぉおおおっ!!!」
団長は剣を振り回し、襲い掛かる光弾を片っ端から落としていく。
しかし、
「ぐぅ……!?」
魔法の矢と光球を融合させ、植物操作でアシストするのは僕の発案だ。
元々、姉さんは魔法の矢の連射を得意としていた。
なら、最初に出来る限り数を揃えて一斉掃射し、そこに姉さんの植物操作で対象を束縛することで、回避困難な範囲火力技として昇華させる。
しかし、姉さんの攻撃はそこでは終わらない。
光弾の雨が止まないうちに、姉さんは次の魔法の発動を準備する。
「魔法術式、魔法の矢……応用……。光魔法、閃光を付与……!!!」
姉さんは複雑な術式を構築しながら、今度は杖に魔法陣を展開する。
「行くわよ、私の更なる新魔法!!
すると杖の先端から強烈な光が放たれ、光弾の雨の中にいる団長に向かって極太のレーザーが放射される。
「……ま、不味い! 防御を!!」
団長は、空から降り注ぐ光弾よりも姉さんから発射されるレーザーの方が脅威と看做したのか、
降り注ぐ光弾に耐えながら、大剣を横に構えて迎撃態勢を取る。
そして、彼はここで初めて技名を叫んだ。
「絶技!!!
団長の全身から白いオーラが放出され、姉さんの魔法に大剣が薙ぎ払われる。
そして、
そして、次の瞬間―――
―――まるで無かったかのように姉さんの魔法が霧散していた。
「い、今のは………」
僕は目の前で起きた現象を見て、思わず言葉を失う。
単に剣で切り払ったわけでは無い。
さっきまで団長が凌いだの魔法のように剣で切り払ったとしても、姉さんが魔法を展開し続けていればずっと攻撃が続く。
なのに、今団長が使用した技は、魔法そのものを完全に打ち消した。
「み、見事……。この俺に絶技を使わせるとは……!!」
団長は姉さんの魔法に、惜しみない称賛を送る。
さっきまで発動していた
「……っ!!」
しかし、称賛されたにも関わらず姉さんの表情は浮かない。
「姉さん……」
実は、この魔法は二重の意味があった。
だけど、同時に周囲を光で激しく点滅させる効果があり、攻撃と同時に相手の視界を奪う。仮に敵がこの技に耐えたとしても、次の攻撃を展開するまでの時間を稼ぐことが出来る。
しかし、完全に無効化されてしまえばそこで終わりだ。
「……私の負けです」
姉さんは、素直に敗北を認める。今の攻撃を無力化されてしまえば、この後に想定した動きは無理だと判断したのだろう。
「俺もあれほどの魔法を見たのは初めてでした。良い経験になりましたよ」
団長も姉さんに礼を言う。
そして、姉さんは団長に近付いて回復魔法を発動させる。姉さんの魔法により、団長が受けたダメージが回復していき、完全に傷が治っていく。
そして、僕達のこの日の訓練は終わりを迎えた。
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