第316話 手合わせ
僕達は、闘技大会の特訓という事で王宮内の訓練所に来ていた。
そして団長であるアルフォンスさんの許可を得て、騎士さん達の手合わせに混じって参加させてもらえることとなった。
「レイくん頑張ってねー!」
「うん、わかったよ」
ちなみに姉さんは最初は見学だ。
「それで、相手は……」
僕はアルフォンスさんにそう質問すると、
「おい、相手をしてやってくれ」とアルフォンスさんは周りに言った。
アルフォンスさんが声を掛けた先に居たのは、王宮騎士団の騎士達だった。
「はい! 了解しました!!」
騎士さんはこちらに来て剣を構える。
僕達が戦うことに周囲が気付いて、訓練の手を止めた。
「……誰だ、あの子供?」
「自由騎士団の新入りか? 王宮騎士にあんなの居ないよな?」
周囲が口々に僕の話をしている。
「(そっか、よく考えたら誰も僕の事知らなくてもおかしくないよね)」
勇者という素性は団長さんや陛下といった一部の人間にしか伝わってない。
今は形だけだが、一応『自由騎士団』の新入りとして扱われている。
が、全部は知らないまでも噂にはなっているようだ。
耳を澄ますと、僕の噂が聞こえてきた。
「……いや、俺はちょっと聞いてるぜ。
昨日、アルフォンスさんが手合わせした相手だそうだ」
「へぇ……結果は?」
「それは知らねえよ。そこまで聞いてねえし、そもそもアルフォンスさんが負けるわけないだろ」
「それもそうか。あの人滅茶苦茶強いもんな」
「けど、わざわざ団長が手合わせするってどんな奴なんだ?」
周囲の視線が一気に集まる。
「……あんまり期待されても困るんだけど」
「レイくん、がんばれー!!」
後ろから姉さんの黄色い声が飛んでくる。
「誰だ? あの銀髪の女性」
「すっげえ美人だな……」
「あの子供の知り合いか? 髪の色は似てるっちゃ似てるが……」
「顔はそんなに似てないけど、多分姉弟なんじゃね?」
「なんかもう弟の方がどうでもよくなってきた」
「わかるわぁ……」
……ちょっと外野うるさくないかな?
「(わかるわぁ……じゃないよ!!)」
気を取り直して、前を向いて構える。
「それじゃあ、準備はいいか?」
「はい、お願いします」
「そ、それじゃあ、お手合わせお願いします」
合図と同時に、僕達は動いた。
「……」
「……」
五、六メートルの距離を保ちつつ、
僕と騎士さんは互いに斬り込む隙を伺っている。
お互い、実力が不明だ。
相手は周囲の僕の噂が気になったのか慎重に立ち回ろうとしているようだ。対して、僕もお相手の実力がまだ分かっていないので相手の動きに合わせて動く。
少し距離を離そうとすると、相手は離れないようにこちらに近付き間合いを維持し、僕が近づこうとすると軽く一歩後ろに下がってこちらに隙を与えないように距離を取ろうとする。
剣士としての戦い方はリカルドさんに教わったが、あの人とはまた違う動きだ。
リカルドさんは僕の攻撃を冷静に捌いて隙を突いて崩してくるが、この人はそもそも間合いを維持して中々攻めてこない。
ある種の心理戦だろうか。
こういう読み合いは慣れてないし、対人戦は相手の気持ちになって動けとリカルドさんに教わったが経験不足のせいで思考が読めない。
この調子だといつまでも勝負が続くし集中力が切れてしまいそうだ。
魔物との戦いなら魔法に切り替えて戦うんだけど、流石に訓練中に魔法撃って倒すなんてご法度だろう。
「(よし、こうなったらこっちから仕掛けよう)」
僕は踏み込んで一気に間合いを詰めると、相手はビクリと反応してこちらに剣を当てようとするのだが、その前に、僕は剣を素早く横に薙ぎ払い―――
―――キーン!
甲高い音が響き渡る。
僕の剣は相手の剣を弾き飛ばし、相手の剣が地面に転がっていった。
「ま、参りました……」
「……ふぅ。ありがとうございました」
相手が降参してひとまず勝負が終わったことに安心する。
それから挨拶をしてから離れた。
「……お、おい。見たか?」
「ああ……すげえ速さの踏み込みだったな」
「距離は五メートルくらい離れてたと思ったんだが、まるで一歩で距離を詰めたみたいだったぜ」
周りの人達のざわめきが聞こえる。
「(……なんか、違和感が?)」
確かに一気に距離を詰めたつもりだけど<初速>の技能を使ったわけでもない。僕としては、中速よりやや早いくらいの速度で斬り掛かったつもりなんだけど、相手の反応が妙に遅かった気がする。
まるで極端に実力差が開いているような……。
「つ、次、俺と戦ってくれ!」
「その次は俺だ!」
今の戦いが終わったのが理由か、
僕と訓練をしようとする騎士さん達がこちらに歩み寄ってきた。
「(……まさかね)」
いくらなんでも、騎士さん達と実力が離れてるわけがない。
そう思いながら、僕は次の相手に向き合った。
◆
それから一時間後、五回ほど騎士さん達と戦って―――
「手合わせありがとうございました」
「ああ……」
僕は六人目の騎士さんと握手を交わして離れた。
そしてそのまま木陰に移動し、座り込んだ。
「レイくんお疲れ様~」
姉さんがタオルを持ってきてくれた。
「ありがとう」
「はいこれ、冷たい飲み物よ」
姉さんは冷たい水が入った水筒を僕に渡してくれた。
汗を掻いて疲れていた僕は中身の半分を一気に飲み干した。
「それにしてもレイくん凄かったわねー。
結局、騎士さん達に六戦して全部圧勝じゃない!」
「うん……」
「三戦目辺りからレイ君の実力を感じ始めて物凄い気迫で攻めてきたり、
逆に滅茶苦茶慎重になって隙を突いてきたりと向こうも必死になってたけど、レイ君慌てずに全部対処してたね。本当に強くなったね!」
「……」
僕は何も答えずに考え込む。
「……どうしたの?」
「うん……何というか、本当に僕って強くなってたんだなぁって……」
「えー、そんなの今更でしょ?」
姉さんはそう言うが、僕にとっては実感が無かったのだ。
リカルドさんの特訓のおかげもあって以前よりは格段に腕を上げたと思う。
だけど、それはあくまで素人の域を脱していないと思っていた。
実際、今までの相手も決して弱くはなかったはずだ。
「昨日戦ったアルフォンスさんの時はこんな気持ちにならなかったんだけど……」
それ以外にも、サイドで戦ったリカルドさん。
霧の塔で戦った人型のゴーレムのミッドさん相手には今日感じたこととは真逆だった。むしろ僕が相手の実力になんとか追いつこうとしてた。
「団長さん? 私はレイ君とあの人の勝負を見てなかったから分からないけど……。
さっき観戦してる時に、休憩中の騎士さん達が色々教えてくれた話だと、あのアルフォンスさんって人、闘技大会で圧倒的勝利を収めた猛者だったって話だよ。それだけ強い相手なら、他の騎士さんたちとレベルが違ったんじゃないかなぁ……?」
「……そうなのかな?」
そもそも仲間の皆の方が自分より強いと思ってたし、今でもそう思ってる。実力の差に気付かなかったのは、周りの皆や手合わせした相手が実力者ばかりだったからなのだろうか。
「そんなに気になるなら試してみたら?」
「試す?」
姉さんの言葉に、僕は首をかしげる。
すると、姉さんは後ろを振り向き、大きな声で遠くに聞こえるように言った。
「アルフォンスさーん!!!」
「はーい、どうされました! ベルフラウさん!!」
姉さんの呼びかけに気持ち悪いレベルの速度で食いつくアルフォンスさんだった。
「ちょっ!?」
僕の抗議の声を無視して、姉さんは言葉を続けた。
「すみません。少しお願いがあるんですけど良いですか?」
「勿論ですとも!! 俺ができることであれば喜んで引き受けます!!」
「ありがとうございます。実はこの子がアルフォンスさんともう一度戦ってみたいと言ってまして」
「は?」
言っても無いことを口にされて戸惑う僕だったが、
姉さんはそのまま話を進行させる。
「それで、もし良ければ手合わせしてもらえないかと思いまして」
「ほう……なるほど」
アルフォンスさんは、僕を値踏みするような眼を向ける。
僕はその眼に一瞬気圧されるが……。
「分かりました。こっちとしてもリベンジを果たしたかったところですよ」
「え、ちょっと待ってください。僕は別に再戦なんて……」
「……と、言ってますが、本人はやる気なので是非お願いします」
僕の意思をガン無視で勝手に話が進んでいく。
そして、アルフォンスさんはこちらを向いて言う。
「それじゃあ、早速やりましょう。
……ふふ、昨日とは違う所を見せてやるぜ……」
アルフォンスさんは何か武者震いしてて僕の言葉が聞こえてない。
怖い。
「レイくんファイト!」
姉さんが無責任な応援を送ってくる。
「(くそぉ、姉さんめ……。あとで覚えてろよ)」
僕は心の中でそう呟きながら、姉さんを恨むのであった。
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