第315話 訓練所へGO!

「……」

「……はぁ」


 あれから、グラン陛下との謁見を終えた僕達は、一度宿に戻ることにした。これから数日泊まる宿はグラン陛下が手配してくれた宿で、気を利かせてくれたのか中間層の中で最も高価な宿だ。


 部屋は2人部屋が二つ。

 それぞれ僕と姉さん、エミリアとレベッカの二人組に分かれている。

 カレンさんは王都の拠点で泊まっている。


「まさか、こんなことになるなんて……」


 僕は割り振られた宿の一室でため息をつく。

 まさか、王都で開催される闘技大会に出場することになろうとは。魔物退治ならまだしも、冒険者である僕が人と戦う事になるなんて考えたこともなかった。


「どうしよ……自信ないよ……はぁ……」

「はぁ……」

 同じく自信がない姉さんがベッドの中で包まってゴロゴロしている。


「……なんで姉さんはそんなに落ち込んでるの?」

「だって……私は出る気なんて全く無かったのに、何故か勝手に登録されちゃってるし!!」

「あー……」


 王様の命令は絶対みたいな風潮あるよね。それに姉さんは後衛職だ。当然、前衛と戦う機会が多いであろう闘技大会で戦うのは不向きだろう。


「それに、もし負けてしまったら私の威厳が台無しじゃない!! これでも女神様だったのにぃぃぃ!!」

「威厳って……今更過ぎる」


 そもそも、姉さんが女神といっても誰も信じないんだから気にしても仕方ないような。グラン陛下も面白い冗談を言う人だ、みたいな反応してたし。


「エミリアちゃんとレベッカちゃんはなんだかノリノリだし……。

 あの二人は強いから良いところまで勝ち進むんでしょうけど、私は……」


「姉さんは後方支援が役割だもんね」

 基本防御魔法や回復魔法のサポートだし、攻撃魔法はオリジナルのものがあるとはいえ相変わらず扱いは下手だ。


 エミリアも同じく後衛だけど攻撃魔法の扱いに優れてるし、レベッカは、後衛、中衛、前衛どこで戦っても基本的に隙が無い。彼女らのどちらかが優勝してもおかしくないだろう。


「はぁ……やっぱりお姉ちゃんって駄目なのかしら……」

「大丈夫だよ、僕だって多少剣を習った程度だし。お互い頑張ろう」


「……レイくんは最近物凄く強いじゃない。一人だけ勇者とかずるいー!!!」


 姉さんはベッドで足をバタバタさせている。

 スカートが捲れて色々見えそうだけど無視しておこう。


「そんな事言われても」

 大体、僕を勇者にしたのは姉さんも一枚噛んでいるのだ。僕が知らないところでそんなことしておいて、僕を羨ましがるのは色々ズレてる。


「じゃあ姉さんも、女神パワーってやつで戦えばいいじゃん」

 僕は呆れて適当な事を言った。

 すると、姉さんは目を見開きながら枕を抱きかかえて叫んだ。


「それよ!!」

「えっ!?」

 姉さんの突然の大声に驚く。


「そうよ、私には女神の力があるじゃない! そうだわ!その手があった!」

「いやいや、姉さんもう女神じゃないでしょ」

「いーえ! 確かに、今は人間と大差ないけど、いくつか女神時代で覚えて特技とかあるもん! それをフル活用すれば………せ、せめて準々決勝くらいは」


 ……まぁ、やる気が出たみたいだから良しとしよう。


「よーし、そうと決まれば行きましょう!」

「どこに?」

「訓練所よ!! 王宮に兵士さん達が使ってるようなやつあったじゃない。そこで練習しまくるのよ!」

「あぁ、なるほど……」

「レイくんだって対人相手だと慣れてないでしょ? 一緒に練習しましょ?」

「けど……」

 姉さん相手だとやりづらいというか……どっちかというと守ってあげたい人なんだよね。模造刀でも姉さんに剣を向けるのは拒否感がある。


「大丈夫よ、もし戦いづらいならその辺に駐屯してる兵士さんに付き合って貰えばいいし」

「普通に迷惑でしょ」

「細かいことは気にしないの!! ほら行くわよー」

「ちょ、ちょっと姉さん引っ張らないでよ……」


 こうして僕は姉さんに引きずられる形で、

 闘技場の近くにあるという訓練所に連れて行かれた。


 ◆


「ここが訓練所よ!」

「へぇ、結構広いんだね」


 訓練場は闘技場と同じ階層にあり、そこに入ると大きな広場が広がっていた。そしてそこには兵士の恰好をした人と冒険者のような面々が混じって汗を流していた。中には武器を振るって実戦形式で稽古してる人もいる。


「おらぁぁぁぁぁぁ!!! そこのお前、気が抜けてんぞぉぉぉぉ!!!」

「ひ、す、すいません団長……!!」


 訓練場の一か所から何処かで聞き覚えがある声が聞こえてきた。

 どうやら厳しい訓練をしていたようだ。


「気合入ってるわねー」

「そうだね……なんか、どっかで聞いたことある声だった気がするけど」

 しかも昨日聞いたばかりの声だったような。


 声の主に心当たりがあった僕達は、訓練してる人たちの邪魔をしないよう声のする方向にそろりそろりと歩いていく。すると、そこに居たのは昨日手合わせしたアルフォンス団長だった。


「あ、アルフォンスさん」

「ん……?」


 僕が声を掛けると、彼はこちらを向いて兜を外した。


「……げっ」

 ゲッって言われたんだけど。

 どうも、昨日戦ったことが尾を引いてるらしい。雰囲気を察したのか、姉さんが僕とアルフォンスさんの間に入って彼に微笑みかける。


「あはは、ごめんなさいねー、うちの弟が迷惑かけてしまいましてー」

「弟……? 貴女は一体……」


「はい、姉のベルフラウと申します。

 昨日は弟のレイくんと剣を交えていただきありがとうございました。

 お陰で私達も陛下に王宮の出入りを認めていただきまして、これもアルフォンスさんのお陰ですわ」

 姉さんはちょっと猫を被ったような態度で言った。


「い、いや、それほどでも……」

 アルフォンスさんは姉さんの社交辞令に顔を赤らめて嬉しそうにしている。

 姉さん美人だからね、仕方ないね。


「それで、今日は訓練ですか?」

 気を取り直して今度は僕が口を挟む。


「あぁ、その通りだ。最近、魔物の動きが活発化していてな。騎士団も討伐任務が増えてきている。本当は俺の管轄外の仕事なんだが、あいにく王宮騎士団の団長は遠征に出ていてな。こうして俺が訓練を付き合ってるわけさ」


「そうなんですか」


「だが、俺もまだまだ未熟だ。二日後の闘技大会の出場が決まってるんだが、今のままでは以前のように連勝を重ねられるか怪しい。だからこそ、俺自身も鍛え直さないと」


 ……ん? 今、闘技大会って言った?


「それで、キミと……お姉さんはここに何を?」

「えっと、実は……」

「私達も二日後の闘技大会に出ることが決まりまして……。

 少し自信が無くて、ちょっと練習をってことで……」


 姉さんのその言葉を聞いて、アルフォンスさんは驚いた。


「か、彼はともかくとして、貴女が!?」


「はい……そんなに驚く事でしょうか?」


「いや失礼。貴女のようなお美しい人がこのようなむさ苦しい場所に来るのは似つかわしくないと思いまして……」

 あ、こいつ人の姉を僕の目の前で口説こうとしたぞ。


「あら、お上手ですね。でも、今はそういう気分じゃないんです」

 姉さんは笑顔で受け流している。

 どうせならもっと強く言って欲しいところだけど……。


「そ、そうか……。しかし、キミ達姉弟は軽装だな。

 もしよければ、訓練用の防具と武器を貸し出すが……」


 それは助かる。許可は得たとはいえ、まだ王宮に武器を持ちこむのは早いと思って丸腰でここに来ているから何の用意もしてない。


「まぁ、宜しいのですか?」

「えぇ、貴女の美貌を損なわないような防具を用意させて頂きましょう」

「アルフォンスさん、僕の分もよろしく」

「……ちっ」


 はい舌打ちされた。

 そんなに恨まれるような事をした覚えはないんだけど……。


「ふふ、それではありがたくお借りしますね。

 あ、それと私のことはベルフラウと呼んでください。姉では呼びにくいでしょう?」


「わかりました、ベルフラウさん。おお……なんとお美しい名前だ……」


「ふふ、ありがとうございます」


「では、二人ともこっちに。あっちに着替え室があるので」


 アルフォンスさんに連れられて僕達は更衣室に案内される。そしてそこで訓練用防具と武器を借りた僕は、早速訓練場に戻って剣を振るうことにした。

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