第313話 Restricted State
何故か団長さんと戦う羽目になった。
こっちは非武装であっちは重武装の鎧ってズルくない?
「さぁ来い!! 言っておくが俺は強いぞ! これでも団長だからな!!」
「えぇいっ!」
僕は剣を持って自由騎士団団長のアルフォンスに斬り掛かる。
こっちはロクな武装をしてないが、あっちは重厚な鎧に包まれてる。
下手な遠慮をするつもりはない。
しかし、彼は軽々と僕の剣を大剣で受け止める。
一旦距離を取って、もう一度斬り掛かるが、こちらの威力に押されることはなく、彼はどっしり構えて再び大剣で僕の剣を防ぐ。
そして、剣のぶつかり合い、単純な力勝負になったところで僕は一旦距離を取る。再び追撃されないか心配だったが、彼は再び剣を構えて余裕そうに言った。
「まだまだっ!! 見た目によらずかなりのパワーだが、俺からすれば温すぎるっ!!」
「くっ……! 戦う理由が酷すぎるのに……!!」
言葉通り、彼は本当に強い。とても手を抜ける相手じゃない。
それに今僕が使ってる聖剣は使用してるだけで魔力を消費してしまう。
龍殺しの剣を持ってこなかったのが仇となった。
故に、長期戦は不利。となると……。
「よし、ここからは本気で戦いますよ!!」
僕は気持ちを切り替えるためにあえて叫んで宣言する。
「おぅ……? まだ本気じゃ無かったって訳か。面白い!!」
「えぇ、ここからはやり方を変えます!」
彼の戦闘スタイルはさっきの打ち合いで少し分かった。彼は全身鎧を着ている。それだけでかなり重いだろうに、更に大きな剣も豪快に振るっている。かなりの筋力の持ち主だ。
だが、彼は戦闘に入ってから初期位置から殆ど動かず、僕の攻撃を大剣で捌いてカウンター気味に仕掛けてくる。
僕から距離を離しても追撃を掛けてこないところを見るに、動き回って戦うタイプじゃない。おそらく、あの人の戦い方は相手から攻め込ませて、隙を晒した瞬間に一撃叩きこんでくる。
典型的なパワータイプの戦士だ。
筋力こそあるが、機敏に動いて戦うスタイルでない。
となれば、ここは少し卑怯な手を使わせてもらう。
僕は聖剣を再び構えるが、斬り掛からずに精神を集中させて魔法を唱える。
僕が魔法を撃とうとしていることに気付いたのか、彼は言った。
「……ん? 魔法か? 言っとくが、この鎧は並の攻撃魔法は通さないぜ。これでも王宮に伝わる由緒ある鎧なんだ。単純な防御性能ならその辺の防具とは比較にならないぜ」
「……確かに、かなり防御力はありそうですね」
僕は人間相手だと本気で斬り掛かれないけど、彼の装備は頑丈そうなだけに実は助かっている。おかげで攻撃を躊躇しないで済む。
「では、これはどうでしょうか
初級炎魔法と比較すると格段に威力があり、その炎球の大きさは使用者の魔力量に依存する。今の僕が普通に使用した場合、直径80センチほどの火の玉を生み出すことができる。
当たり前だが、一般人に撃てば間違いなく死ぬ威力。
それだけの大きさの火球が彼目掛けて一直線に飛んでいく。
「うぉっ! かなりの熱量だな! だが、甘いぜ、この程度なら――!!」
彼は、兜の中でフッと余裕そうに笑い、大剣を振り上げる。大剣は迫りくる炎球を真ん中から真っ二つに切り裂き、両断された火球は彼の真横を通り過ぎて後ろで大爆発をおこす。
「おー、団長すごーい!!」
「ふっ……この程度なんでもないさ。俺に惚れるなよ、サクラちゃん」
サクラちゃんの声援に彼はキザったらしい声で応える。
団長というだけあって、かなりの腕前だ。
だけど、ちょっと油断し過ぎてる。
「あのアルフォンスさん、前見た方が良いかと」
「ん? ……って!!」
僕の言葉に、彼は怪訝な反応をした後に、目の前に再び火球が迫っていることに気付き驚く。
「別に火球は1発で終わりとは言ってません」
「クソッ!!」
彼は大剣を自分の正面に横に構える。どうやら防御するつもりのようだ。
そのまま僕の火球を受けてまた爆発が起きる。
数秒後、煙の中から彼が出てきた。
「な、中々やるじゃないか……だが、俺を侮っちゃいけないぜ」
煙の中から出てきた彼は、声こそさっきほどの勢いはないが大したダメージを負っている様子はない。鎧も多少焦げてはいるが破損した様子もない。ほぼノーダメージといって良さそうだ。
「分かっただろ。キミの魔法はかなりの威力だが、
俺と俺の鎧には通じない。これ以上使っても無駄にMPを消耗するだけだぜ」
「……」
僕は無言でもう一発火球を放つ。
今度は先ほどよりも小さいがバスケットボールくらいはある大きさだ。
それを同時に三連続で放つ。
「チィッ!!」
彼は舌打ちをして、大剣を横に薙ぐ。
僕が放った火球を器用に大剣で切り裂き、小さな爆発を起こして防がれた。
見事な運動神経だ。
魔法をこれほど容易に凌ぐ時点で並の冒険者を越えている。
しかし、彼は何故か余裕があまり無い。必死だ。
強引に魔法を撃ち払っているためか、彼の息遣いも乱れている。
「くっ……」
アルフォンスさんは苦悶の表情を浮かべている。
気のせいだろうか?
何か、僕の想像より消耗してるような。
頭を押さえて辛そうな顔をしている。
もしかして装備すると絶大な効力を発揮する代わりに負担があるとか、
そういうリスクを伴う装備だったりするのだろうか。
悪いけど、それならそれで利用させてもらおう。
僕はこのまま魔法を撃ち続けて、更に彼の消耗を狙っていく。
更に追加で五発放つ。
彼は相変わらず見事に切り払うが、やっぱりさっきよりもしんどそうだ。
そろそろ頃合いか。
「だ、だから無駄だ。これ以上は……」
「……<初速>」
彼が何かを話そうとした瞬間、僕は初速の技能を使用する。
<初速>は最初の踏み出しの速度を極限まで早める効果がある。不意を突いたタイミングで使用することで、彼からの視点だと突然僕が高速移動したように見えるだろう。
「うおっ?」
アルフォンスさんは呆気に取られる。
何故なら、自身が言葉を発している間に僕が懐に入り込んでいたからだ。そして、彼は大剣であるがゆえに、ここまで接近されると反撃も防御も間に合わない。
「くっ!」
「<雷光一閃>!!」
彼が身を引こうとバックステップで下がった瞬間に、僕の技が発動する。
雷魔法を纏った剣による突き技だ。対人で使うとなると威力が高すぎて鎧があっても貫通してしまいそうなので、加減して威力は5割減といったところ。
「ガハッ!?」
アルフォンスさんの身体は後方に吹き飛び、地面に倒れる。
「団長、大丈夫ですか!?」
「アルフォンスさん、平気ですか?」
僕とサクラちゃんは吹き飛んだ彼に駆け寄り、起き上がらせる。
「いててて………」
アルフォンスさんはかなり痛そうにしていたが、無事だった。
雷光一閃が直撃した箇所の鎧は、流石に耐え切れなかったのか大きく凹んでいた。
「待っててください……。癒しの風よ……傷を癒したまえ……
彼の腹部に手を当てて回復魔法を発動させる。
流石に鎧は修復できないけど、これで彼の傷は大丈夫だろう。
「わ、悪い……」
「いえ、元々僕のせいですし」
加減はしたつもりだったのだが、それでもちょっとやり過ぎたと反省する。
「だが、油断した……。まさかこんなにあっさりと負けるとは思わなかったぜ……」
アルフォンスさんは悔しそうな表情を浮かべていた。
「正面からだと厳しかったので少し卑怯な手を使ってしまいました」
僕の剣と彼の大剣ではリーチの差がある。
正面から斬り合うと僕が力で負けてしまいそうだった。なので、彼が不得手そうな中距離から魔法を連発して、防ぐのに手いっぱいにさせたところで隙を突かせてもらった。
「いや……俺の負けだ。キミの実力を認めよう」
アルフォンスさんは、両手を上げて降参の意思を示した。そして、アルフォンスさんは背後を振り返って僕達以外の誰かに向けて言った。
「……こんな感じでどうでしょうか、陛下」
その言葉に僕とサクラちゃんは振り返る。
いつの間にか何人かの兵士さんと、身形の良い恰好をした少年が立っていた。
「陛下……って」
僕の予想では、もっと壮年の王様のような男性を想像していたのだけど、
そこに居たのは僕よりも年下としか思えない少年だった。
「やぁ、こんにちわ。キミがレイ君だね。初めまして」
金髪の男の子は、僕の前に出て笑顔で手を差し出す。
握手を求められているのだろう。
「……はい、お会いできて光栄です」
僕は昨日みんなに教わった行儀作法を思い出しながら失礼のないように近づき、少し姿勢を低くして手を彼の手に重ねる。
「うん、礼儀正しい子だ。
私はグラン・ウェルナード・ファストゲートだ。グランと呼んでほしい」
「はい、グラン陛下」
僕は差し出された手を握り返す。
すると、グラン陛下は嬉しそうに笑みを溢した。
「あの、どうしてここに?」
「ふむ、簡単だ。彼……アルフォンス君にキミと戦わせたのは私の指示だ。
私はキミと彼が戦うところを魔道具を通じて見学させてもらった。そして決着が付いたタイミングでここに来たというわけだな」
グラン陛下はまだグロッキー状態のアルフォンスさんに目線を移す。
そして言った。
「アルフォンス君、負けたから酒場のツケは自分で払うんだよ」
その言葉を聞いてアルフォンスさんは兜を外して落ち込んだ表情を見せる。
「勘弁してくださいよ。
ここまで身体張ったんだから少しくらい情けを下さいって、陛下……」
「ダメだよ。男なら潔く払いたまえ」
「うぅ……すまねぇ、レイ……色んな意味で……」
アルフォンスさんは涙目になりながら僕に謝る。
そして、グラン陛下は言った。
「さて、ここで話をするのもなんだ。場所を変えようじゃないか」
グラン陛下は、周りにいる兵士に目配せをして指示を出す。
「では、ご案内いたします」
兵士の一人が名乗り出て、こちらに向かってくる。
「頼む、では私達は先に向かおう。王宮の案内をしながら彼を玉座の間に連れてきてくれ」
「ハッ!!」
グラン陛下の言葉を受けて、兵士達が一斉に敬礼をする。
「ではレイ殿、こちらへ」
「はい」
僕はアルフォンスさん達と一旦別れて兵士さんに案内をしてもらい、軽く王宮内を見回ることになった。
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