第312話 戦う理由(僕じゃないです)
僕とサクラちゃんを先頭にして王宮内部に入っていくと、
内部に人は殆どおらず、僕達は案内のまま大広間の方へ進んでいく。
王宮の中は、正に教会のような場所だった。
白を基調とした内装で、天井にはステンドグラスが張られている。通路に敷かれた赤い絨毯も綺麗で、所々に花瓶が置かれている。
花瓶に入っている花は見たことがないもので、白い花びらに紫色の花芯が付いている。僕がそんなことを考えながら歩いていると、いつの間にか綺麗に装飾された赤い扉の前に立っていた。
「この先に、レイさんに会わせたい人が居ます」
「そっか」
どんな人か知らされてないけどきっと王様みたいな人なのだろう。
何処かのゲームみたいに「魔王を倒してまいれ!!」とか言われて、「ははぁ! 承りました!!」みたいなやり取りが行われるのだろうか。それだけで済むなら気苦労が無くて済むのだけど……。
「考えても仕方ない……」
そう思い、僕はその扉を開ける、が―――
「……あれ?」
扉の先は開けた広間でステンドグラスと中央奥のに女神様を模したと思われる彫像。それに、左右には椅子が並べられ、彫像の前には豪華そうな椅子と台座が置かれている。
多分この部屋に人が集まって、女神像の前で祈りでも捧げるのだろう。最初の印象通り、ここは教会の聖堂に雰囲気に近い場所だった。
違う点があるとすれば、教祖様が立つと思われる場所が周囲より階段数段分高い位置になっている点か。またその中心部だけ不自然に盛り上がっている。
しかし、この広間には誰も居なかった。
「誰も居ない?」
状況が分からず混乱していると……。
「大丈夫ですよ、レイさん。行きましょう」
「え、何処に?」
サクラちゃんが笑顔で僕の腕を引っ張り前に進もうとする。
「まぁまぁ、大丈夫ですから♪」
「ちょっ!?」
僕はそのまま引き摺られるように、サクラちゃんと一緒に中央の祭壇まで進む。
「……?」
そして、僕達が中央の祭壇付近の不自然盛り上がった場所に立つと。
―――ウィィィィィィィィン
突如、周囲に響き渡る謎の音。
それは元の世界で聞いたことがある。機械が作動するような音だった。
そして、
――ガコンッ!
「うえっ!?」
足元の祭壇が急に沈み始める。落とし穴でもあったのかと思ったが違う。僕とサクラちゃんが立っていた場所が急にエレベータのように動き始めたのだ。
徐々にみんなの姿が離れてどんどん下へと降りていく。
「うわぁああああ!! 何これぇええ!!!」
「大丈夫ですよ、レイさん!じゃあ行ってきますね、皆さん」
サクラちゃんは微笑みを浮かべたまま、皆に手を振っている。
理解できないまま、僕達はどんどん地下へと潜っていった。
◆
「こ、ここは何処……? 僕は閉じ込められたの?」
「落ち着いてください、レイさん。迷子になった子供みたいな表情になってますよぉ」
「だって、この状況で落ち着けって……」
現在、僕達は地下深くの狭い空間に取り残されてる。
どうやらこの部屋の壁は全て石で出来ているようで、継ぎ目らしきものが見当たらない。
真っ暗というわけではなく薄暗いなかにも一応明かりはある。
「それじゃあ、今から移動しますね♪
えっと、確か行く場所は下層の………地下闘技場だったかな」
「闘技場!?」
雰囲気と全く合わない単語が出てきて僕は驚きで声を出す。
サクラちゃんは部屋の壁に手を当ててパネルを操作するように手を動かす。
少しの沈黙の後に壁の一部が光を放ち、隠し扉が現れた。
「さぁ、行きましょう」
サクラちゃんは笑顔で僕を誘う。
正直なところ不安しかないけど、サクラちゃんはそんな僕に構わず中に入っていく。仕方なく僕も付いて行くと、そこには大きな円状の広場があった。
広さは約250メートル四方ぐらいで、天井の高さも25メートル以上あるようだ。ただ、この地下の部屋には当然窓が無いため外の様子は全く分からない。
観客席も用意はされているようだが、歓声などは聞こえず無人だ。
「なんだかコロシアムみたい……」
「コロシアムですよ」
「はぁ!? え、僕今から何かと戦わされるのっ?」
「まぁまぁ、落ち着いて。リラックスしましょー、説明しますから」
そう言いながらサクラちゃんは前に歩いていく。
「レイさんには『陛下』と呼ばれる方に会ってもらいます。
ただ、陛下はちょっとエンタテイメントが大好きというか……凄く偉い人なんですけど、面白いことが好きなんですよ」
「その面白いことって、僕にとっては不幸だったりしない?」
「諸説あります」
そこは一つの意見に纏めてほしかった。
「でもそんなに怖がらないでくださいね。
私も詳しいことは聞いてないですが、ひとまずレイさんの剣をお返しします」
そう言って、サクラちゃんは預けてあった僕の剣を返してくれた。
「このタイミングで返さないで!! 絶対何かと戦わされる流れじゃん!!」
「えー、もしかしたら剣舞でもしてくれって言われるかもしれないじゃないですかー」
「そんな無茶振りする人が居るわけないでしょ!!」
「私が剣舞得意ですって言ったら、やってくれって頼まれましたけど」
どういう流れでそうなった。
「会うのが怖くなってきたんだけど」
もう今から家に帰りたい……。
「あ、始まったみたいですよ。見て下さい!!」
「え……」
サクラちゃんの指差す方を見ると、いつの間にか円形の広場の中心に一人の鎧姿の人が立っていた。男性は全身に白銀の鎧と兜を身につけていて、その手には大きな大剣を持っている。
「あの人は……」
「んー……あれって……」
僕が訝しんでると、サクラちゃんがちょっと違った反応をしている。
「サクラちゃん、知ってるの?」
「えっと………多分、団長さんです」
団長?
僕が疑問に思ってると、団長と呼ばれた人がこっちに近付いてくる。
そして慌てた様子で彼は言った。
「おいおいおいおい! サクラちゃん、今から一芝居打って彼と戦う流れにするつもりだったのに、何ネタ晴らししてくれちゃってるのさ!!」
兜で顔は分からないが、若い男性の声だ。
「えへへ、ごめんなさい」
団長ってもしかして……。
「……もしかして、自由騎士団の団長……さんですか?」
「……あ、しまった」
今のやり取りで完全に自分の正体をばらしてしまった団長さん。
彼は、もう諦めたのか、やれやれと肩をすくめ兜を外す。
そしてその姿が露わになると……。
「え……?」
僕は思わず驚いてしまう。それは彼の顔に見覚えがあったからだ。
「ん? キミ、俺の事を知ってるのか?」
「あ、いえ、すみません。ちょっと王都の見学中に見掛けたもので……」
「まぁいい。俺は自由騎士団の団長を務めている。名前はアルフォンス・フリーダムだ。よろしく頼む」
「はい、僕はレイと言います。こちらこそよろしくお願いします」
見掛けた場所は、彼が噴水前で多数の女性から追い回されてた時だ。
鎧を見た瞬間、見覚えがあったが間違いない。
「あの、昨日の王都の噴水広場で、何故女性に追い回されていたんですか?」
「な、何故それを!?」
「たまたま見掛けたので……」
今思うとカレンさんが妙に冷たい目をしてた。
団長と副団長という立場なのだから間違いなく知り合いだろう。
知り合いのダメな部分を見て呆れていたのだろうか。
「……あ、あれは仕事の一環だよ。
悪いけど、プライベートな事は秘密にしてもらえるかな」
「そ、そうなんですか……」
女性に追い回される仕事ってなんだよ。
気になるけどあんまり追求してはいけない気がしたのでやめておいた。
「それで団長、結局何がしたかったんです?」
「いや、この自由騎士団団長の俺が揉んでやろうと。
陛下の指示だけどな。彼の力を試してあげてほしいって」
「またそんな事を……」
あやうくこの人とガチバトルする羽目になるところだったのか。そう考えれば、サクラちゃんが正体をすぐに教えてくれたのは助かったのかもしれない。
「お、今キミ安心したか? 安心するのはまだ早いぜ」
「え?」
アルフォンスさんはニヤリと笑った後に言った。
「他に、陛下にこう言われたんだ。
『アルフォンス君。もし、君が勇者であるレイ君に勝てれば、君が今まで私に黙って酒場で飲んだくれて支払いを怠ってた代金を私が支払ってあげよう』と………つまりだ」
アルフォンスさんは再び兜を被りなおし、僕と10メートルほど距離を取って剣を持ちなおす。それを見て、サクラちゃんは嫌な予感を察知したのか、僕から距離を取った。
そして、彼は腹の底からこう叫んだ!!
「俺は、ツケを支払うために君に勝たなければならない!!」
「そんな理由でっ!?」
僕は叫びながら、剣を構えた。
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