第310話 初めての王宮
「それでね、明日からの予定だけど……」
彼女たちの関係性は置いておいて、今は僕達の話だ。
王都に来たはいいけど、元々任務のあるサクラちゃんとカレンさんは別として、僕達は今のところオマケで来ただけの状態になっている。
ただ、それでも僕はここで会わないといけない人が居るらしい。
嫌な予感しかしない。
「まず、レイ君はやることが沢山あるわよ。
王宮に入る前に、まずは身なりを整えて、最低限の礼儀作法を身に着けないと」
「えっ……あ、うん」
既に一度その話を聞いてたとはいえ、実際にやれと言われると自信がない。
「大丈夫だよ、私も教えてあげますからー!」
「ありがとう、サクラちゃん」
サクラちゃんも僕と似たようなものだろうけど、
王宮で既に仕事をしている立場の人間だ。彼女に教わるなら心強い。
「レイ様、不肖レベッカも微力ながらお手伝いさせていただきます」
「あ、ありがと、レベッカ」
レベッカも幼さに見合わず行儀作法に関しては、見習うべき点が多い。
「お姉ちゃんも手伝ってあげるね」
「うん」
姉さんも今はこうだけど、元々女神様だ。
きっと上品な対応や技術はお手のものなのだろう。
普段の気の抜けた言動からは想像出来ないけど。
「では私も手伝います」
「………」
エミリアは口調こそ丁寧だけど偶に
「おい、何か言ってください」
「なんでもないよ、よろしくエミリア」
「任せてください! レイを見事な紳士にしてあげますよ」
「うん」と返事をするが正直不安しかない。
「そんなに緊張しなくても大丈夫よ。
会わせたい人は立場上はアレだけど比較的気さくな方だから
よっぽど機嫌を損ねなければ大丈夫よ」
カレンさんは僕の緊張を解くように言った。
「それに、もしかしたら意外と仲良くなれるかもしれませんよー?」
カレンさんに続くように、サクラちゃんは人懐っこい笑顔でそう言った。
「???」
立場は偉いけど、気さくで仲良くなれるかもしれない人?
……なんだろ、想像つかない。
◆
――翌日のお昼頃
僕たちは王宮の前にいる。
王宮前の広場には、僕達以外にも多くの人達がいた。
既に僕の事はカレンさんが王宮に報告を入れている。
なので、こうして僕は王宮の中に案内されるのを待っている。
「あの……、本当にこの格好でいいの?」
僕は自分の服装を見て改めて確認する。
今着ているのは、普段の僕が来ていた服ではなく、王宮用の礼装だった。
こんな服を着るのは生まれて初めてだ。
「大丈夫ですよ。似合ってますし、違和感ありません」
エミリアがそう言ってくれるのは嬉しい。
だけど、どうにも落ち着かない。
「ふふん、私が選んだんだから当然よね」
「あら? レイくんはカレンさんじゃなくて私が良いって言ったからこれに決めたんだよねー?」
カレンさんと姉さんは誇らしげに言った。二人の言う通り、この服はカレンさんと姉さんと僕が一緒に選んだものである。 実は僕の意見はほぼ反映されてない。
「それにしても……」
僕は後ろに控えているレベッカとエミリアを見る。
二人は、僕が使用している聖剣を二人で抱えている。
「カレンさん、なんで人と会うだけなのに剣を持っていく必要があるの?
それに、わざわざ二人に持たせなくても……」
「まぁ………念のためね。
今、レイ君に直接持たせないのは、あなたが王宮の人間に対して敵意が無いことを示すためよ。剣はこの後来るはずの王宮の使いに一時預けることになるわ。安心して、ちゃんと帰ってくるから」
カレンさんはそう説明する。
敵意が無いと判明するまで武器を持つこと自体ダメという事か。
ちなみに皆は今回は武器を持ってきていない。
僕達が待っていると王宮の手前の門が開いた。
ようやく王宮の使いの人が来たのだろうか。
そう思い、僕達はそちらを振り返ると―――
「やっほー、レイさーん。こんにちはー」
気の抜けた声で、開放された門から歩いてきたのはサクラちゃんだった。
「あれ、サクラちゃん?」
「もしかして、あなたが使いとして来たの?」
僕とカレンさんが尋ねると、サクラちゃんは可愛らしく答えた。
「はい♪ わぁ、レイさん綺麗な礼服ですねー。剣は持ってきましたか?」
「うん、剣なら……」
僕は背後を振り返る。
すると、レベッカとエミリアが二人で前に出て、サクラちゃんに剣を渡す。
「これで宜しいのでしょうか?」
「レイが直接渡せばいいのに、なんで私達が……」
レベッカはともかく、エミリアは不満そうだ。
サクラちゃんは二人から僕の剣を受け取る。
「ありがとうございますー。剣に関しては形式上、騎士という扱いでも無い人物が王宮で帯刀すると色々問題が出てきまして……」
えへへ、と言いながらサクラちゃんは困った笑いを浮かべる。
そう言うサクラちゃんは、左右の腰に一本ずつ剣を携えている。
僕の視線に気づいたのだろう。
サクラちゃんは鞘に手を当てて言った。
「あ、私は一応、ここでは騎士扱いです。『自由騎士団』の末席ですね」
「自由騎士? ってことは、カレンさんと同じ?」
横にいたカレンさんは僕の質問に頷く。
「サクラの正体を隠したまま王宮に出入りするには、そっちの方が都合が良いのよ。まだ彼女が『勇者』ってことは隠しておきたいから」
「なるほど……」
「それじゃあ行きましょうか。
レイさんには私から説明したいことがあるので、先輩は他の人たちの案内をお願いします。
許可が出るまで王宮の奥に入れるのはレイさんだけですよ」
「わかったわ」
二人のやり取りに僕は慌てる。
「え、ちょっと……ぼ、僕一人でその、立場の上の人と会うんですか!?」
「大丈夫ですよ、きっとなんとかなりますから!」
僕を安心させるようにサクラちゃんは言った。
そして、カレンさんがそれに続く。
「そうそう、別に取って食われるようなことは無いから心配しないで………まぁ、何も起こらないわけじゃないんだけど」
最後に付け足した意味深な言葉に僕は不安を覚えた。
そして、カレンさんは僕の両肩を手で押さえて僕の目を見ながら言った。
「いい、レイ君?
「へっ?」
カレンさんはそう言うと、姉さん達を連れて先に王宮の門へと歩いていった。
彼女の謎の発言に困惑しながら僕達も後に続いた。
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