第308話 カニとカニカマくらいの差はある
それから王都の中を巡り、僕達はカレンさんの拠点までやって来た。
「ここが私の拠点ね。あんまり広くないけど我慢してちょうだい」
カレンさんが住んでる場所は貴族の人たちが住んでいる富裕層ではなく、それより一段低い中級層の人々が暮らす区画にあった。中級層の中では少し広めの敷地のある家ではあるけど、裕福層の豪邸と比べるまでも無い。
家の造りはレンガで作られており庭には小さいけど花壇あった。カレンさんはしばらく離れていたようだが、誰かが世話をしていたようで、草花は元気よく育っている。また、花壇の無い場所の平地の地面は固く擦れたような跡がある。
ここまで引っ張ってきた馬車は既に近くの
「あ、お帰りなさい、先輩」
誰も居ないと思っていたカレンさんの家には、エプロンを付けたサクラちゃんが出迎えてくれた。
「ただいま、サクラ」
「すぐ戻ってくると思って料理を作って待ってたんですけど大丈夫でした?」
「ええ、助かるわ」
まさか、ここで彼女と再会するとは思わなかった僕達は、入り口でぽかんとしていた。サクラちゃんが奥にいる僕達に気付くと、笑顔になって言った。
「あ、レイさん達、数日振りですね。男の子に戻れたみたいで良かったです」
「うん、ありがとう」
「サクラちゃん、相変わらず元気そうで良かったわ。それにしてもなんでカレンさんの家に?」
姉さんが質問すると、代わりにカレンさんが答えた。
「この子が王宮で働くようになってから私が王都を留守にするときはいつもサクラに家の管理を任せてるの。基本的にこの子は王宮で寝泊まりしてるけど、花壇を放置するわけにはいかないし」
「じゃあこの家は……」
普段はカレンさんと時々サクラちゃんが泊まりに来ているのか。
僕達みたいな新参者がここに泊まってもいいのだろうか。
「まだレイ君達は宿も取れてないし、今日のところはサクラは王宮で寝泊まりしてもらうわ。ごめんねサクラ」
「構いませんよー。あ、けど折角食事を用意したんだから一緒に食べましょう。レイさん達も一緒にどうぞ」
「僕達も良いの?」
「はい、遠慮しないでくださいねー」
「分かった。ありがたく頂くことにするね」
「私はレイさん達の部屋の準備をしてきますので、先に食堂に行っててください」
「あ、サクラ様。リーサも手伝わせていただきます」
サクラちゃんとリーサさんの二人は二階へと上がって行った。
「さ、みんな上がって。部屋の準備が整うまでそんなに時間が掛からないはずだから、荷物はその辺に置いといて大丈夫よ」
「わかった」
「それでは遠慮なく」
僕達は返事をしてから、リビングに荷物を置く。
そこから隣の部屋のキッチンフロアのテーブルに移動する。
珍しく、この家にはコンロのようなものがキッチンに置かれている。
「カレンさん、これって?」
「珍しいでしょ? ここのレバーを下げるとね……」
カレンさんが説明してくれたが、簡単に言うと魔石を使って火を出す魔道具らしい。原理は知らないが、火を起こすためのエネルギー源となる魔石をセットすることで、レバーを上げることで自動的に火が付くという仕組みだそうだ。
この技術もカレンさんが働いている魔道具開発部門の成果と言っていた。
「(凄いな、魔道具というか機械に近くなってる)」
火を起こすのも明かりを付けるのも、魔法を使えばさして難しくないけど、魔法を使わずに同じ事を行えるのは便利だ。
「それでは、食事にしましょ。お腹空いてるでしょ?」
「うん、ありがとう」
僕達が席に着くと同時に、サクラちゃんが戻って来た。
「お待たせしました。簡単なものですが、腕によりをかけて作りましたから、味わってくださいね。先輩の好きな物を中心に作ったんですよ!」
そう言いながら、サクラちゃんが料理を並べ始めた。
並べられた皿を見ると、どれも美味しそうなものばかり。
そして、一番最初に目に入ったのは、大きなステーキだった。
「これは……牛肉?」
僕の大好物でもあるからつい聞いてしまったが、直後に若干後悔した。
「ええ、牛型の魔物の肉を使ったハンバーグです」
魔物料理だった。
この世界で牛一頭を育成するより、牛型の魔物を狩った方がコストパフォーマンスは明らかに良いのは間違いない。同様に豚を育成するよりも豚型の魔物のオークを狩った方がコスパが良い。
それは分かっているのだけど、普段斬った張ったをしている魔物を食べるのはメンタル的な部分で変わってくる。とはいえ……。
「レイさん、どうしたんです? 食べないんですか?」
「いや、お腹空いてるから食べる」
どうやっても空腹には勝てない。
魔物肉と分かっていて目の前にある美味しそうな料理に手を付けた。
◆
「美味しかった……」
「とても美味でございました」
「これだけ美味しければ、ちょっとしたお店を開けそうですね」
「お姉ちゃんも満足です。少し眠くなってきたわ……」
結局、出された料理を全て平らげてしまった。各々料理の感想を言い合うが好評のようだ。サクラちゃんの作ってくれたハンバーグは特に美味しくて、姉さんは絶賛していた。
この世界で魔物料理を何度も食べている。
味は悪くないため好き嫌いこそあれど人気メニューもあったりする。
依頼で魔物を仕留めて肉を新鮮なうちに納品するような依頼も少なくない。
ただし、魔物によっては毒を持っていたり内臓が酷く臭う事がある。武器で魔物を倒そうとすると勝手に浄化されてしまうので、部位ごとに切り分けたりして浄化を防ぐ必要があり扱いも面倒なのだ。
分類的には討伐依頼ではあるのだけど、余計な制約がある分少々面倒な依頼になっている。その割に報酬は通常の討伐依頼と大差無いため人気は無い。
「サクラも昔に比べると料理が本当に上手くなったわねー。おばさまの教えが上手なのかしら」
カレンさんがサクラちゃんの料理の腕を褒め称える。
二人は家族ぐるみの付き合いもあるらしい。仲が良いのも納得だ。
サクラちゃんは褒められたことを喜びながら言った。
「えへへ、ありがとうです。
でも、私の場合は冒険者になって自分で料理をしなきゃいけなくなったら自然に覚えた感じかなーその日に倒したオークとか牛鬼をそのまま捌いてその日のうちに食べたり、食べられるキノコとそうじゃないキノコの区別を実践で覚えたり、結構大変でした」
彼女の風貌や名前からは想像出来ないようなワイルドな話だった。
けど彼女、いや冒険者にとっては普通なのだろう。
僕達も自分で料理が出来ないから自分でやったことは無いけど、そのまま肉を持ち帰ってお店で料理を作ってもらった経験がある。
「レイさんも食べ終わったみたいだし、食器を下げちゃいますね」
「あ、僕も手伝うよ」
「いいですよー。座っててください」
サクラちゃんに笑顔で断られた。
カレンさんは席を立ちサクラちゃんの手伝いに行った。
二人の後片付けが終わるまで、
僕達はテーブルを挟んで会話を楽しむことにした。
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