第304話 王都観光
王都の中は、人通りが多く賑わっている。
最初の門を超えてからまっすぐ進んでいくと、大きな噴水が見えてくる。
噴水の周りには、多くの人で溢れかえっており、屋台なども出ている。様々な人々が会話を交わしたり待ち合わせの場所にもなっているようだ。
若い男女が手を繋いで歩いていたり、恋人達に人気の場所なのだろう。
他にも仲の良い友達同士で待ち合わせていたり、中には複数の女性+男性一人で修羅場になっているグループもあり、バリエーション富んでいる。
「一番最後のは私達の状況に似てません? ねぇ、レイ?」
「ノーコメントで」
あの男性は一体何をやらかしたのだろうか。若い女性から少し年配の女性にまで囲まれて、ちょっと豪華目な鎧を付けた冒険者の男性は若干鬼気迫る顔をして後ずさりしている。
そしてタイミングを見計らって、
男性はそのまま後ろを振り向き全力で駆け出して行った。
「あ、逃げた」
男性はそのまま王宮のある方角に一目散に逃げだし、
女性たちは怒り心頭で彼を追いかけていった。
「……」
カレンさんはそれを冷たい目で見ていたけど、
興味を無くしたのかすぐに視線を逸らした。
「あれはなんだったかな、レイくんはどう思う?」
呆れた声で僕に質問する姉さんに、大して考えもせずに返事をする。
「男性の方がナンパとかしてたんじゃないのかな……。
見境なく声を掛けてて、たまたま自分が声を掛けた女性複数と鉢合わせてしまって修羅場になったとか」
あくまで推測の域を出ないけど、雰囲気的にそんな感じがする。
「やっぱりレイに似てません?」
「全然似てないよっ!」
エミリアの発言に僕は語気を若干強めて否定する。
「そんなに怒らなくても……」
「大体、何がそんなに似てるのさ?」
「見境なく人に『好きだー』とか言ったり、一人を選べずに雰囲気に流されてたり、しまいには新しく入ってきた年上の女の子にもデレデレしてるところとか」
「………」
ヤバい、反論できない。
別に見境なく言ってるわけでも無いし四人くらいにしか言ってないけど、
四人に言ってる時点で笑えない。
「エミリア、その新しく入ってきた年上の女の子って私の事?」
「逆にあなた以外にいないでしょ、カレン」
カレンの質問にジト目で返答するエミリア。
ジト目の視線の先にいるのはカレンさんじゃなくて僕だ。
「私にあんなことしてきたくせに相変わらず他の女にデレデレしてて……」
エミリアは若干イライラしながら明らかに僕に向けて独り言を言っている。というか、その発言は色んな意味でヤバい。周りに聴かれたら絶対に質問されてしまう。
「エミリアちゃん、あんなことって何?」
「………あ」
ほら来た!
案の定、姉さんは興味津々という顔をしながらエミリアに問いかけた。
エミリアはその問いに対して非常に答えづらそうにしている。
「な、何でもないよっ、姉さん」
エミリアが口ごもるため、僕がエミリアの前に出て誤魔化す。
「そう?」
姉さんはさほど追及せずにすぐに引き下がった。
「ほっ……」
僕が胸を撫で下ろすと、近くで歩いていたレベッカに袖を引っ張られる。
「?」
僕が視線を下に落とすと、袖を引っ張ったレベッカと視線が合う。
そして「ふふふ」と、
レベッカは特に何も言わず、柔らかい笑みを浮かべながら小さく笑う。
「……はは」
思わず僕は引きつった笑いを浮かべる
レベッカは夢という形で事情を知ってしまっている。他言無用という約束な為、人に言ったりはしないだろうけど、僕の反応を見て楽しんでいるのかもしれない。
かわいいから許すけど。
その後に僕達は、噴水の所を後にしそのまま噴水のある中心の広場からやや離れたところに移動する。広場はベンチや露店などもあり、僕達はそこで少しばかり休むことになった。
「すいませーん、アイスくださーい」
姉さんが露店のアイスクリーム屋に向かって手を振る。
「はいよっ、お嬢様方」
男性の店主は元気よく返事をし、屋台の中からアイスを六つ取り出す。
「わぁ、美味しそうなアイスー!」
「ありがとうございます。いただきますね」
姉さんは嬉しそうに笑いながら、銅貨を数枚取り出す。
が、店主さんはそれを見て渋い顔をする。
「おいおい、お客さん、これじゃあ足りないよ。
アイス一つにつき銅貨三枚だぜ、これじゃあちと足りないな」
店主さんの言葉に姉さんは慌てて言った。
「えぇ? で、でも以前のサクラタウンだとこれくらいの値段でしたよ?」
「そりゃああっちはそうだろうよ。だけど、王都は物価が高いんだ。
お客さん達、もしかして王都に初めて来たのかい? ここの物価は大体他の街より二、三倍は高いから何も考えず買い物してたらすぐにスッカラカンになっちゃうよ。気を付けなよ」
「う……ご忠告、ありがとう……アイス代も払います……」
姉さんは若干涙目になりつつ渋々支払う。
そして、店主さんは屋台の方に戻っていった。
それからベンチに座って、僕達は姉さんに貰ったアイスを食べ始める。
しかし、姉さんは想像以上の出費で少し落ち込んでいるようだ。
「姉さん、大丈夫?」
「うん……」
落ち込む姉さんの肩を、隣にいたレベッカが優しく叩く。
「お値段は張りましたが、このアイスとても美味しいです。
ほら、ベルフラウ様も一口どうぞ。あーん?」
レベッカが姉さんの口に自分のアイスクリームを近づける。
「い、いいの?」
「はい、遠慮なさらずに」
姉さんは恥ずかしそうにしながらもレベッカにされるがまま、彼女の差し出したアイスを一口食べる。
「ほ、本当に美味しい! 他の場所のアイスに比べて、
良く冷えてて甘味も強くて、それでいてしつこくなくてフルーティ!」
姉さんの雑な食レポを聞いてレベッカは優し気な笑みを浮かべる。そして、また姉さんにアイスを食べさせては顔が蕩ける姉さんを見てレベッカは楽しそうに微笑んだ。
「あの、私も宜しいのでしょうか、カレンお嬢様」
「良いの良いの、ベルフラウさんが私達の分も買ってくれたんだから大人しく頂いておきなさい、リーサ」
リーサさんは複雑そうな表情をしながらもアイスを受け取る。
それを見て、カレンさんはアイスを食べ始めた。
アイスを食べてご満悦な姉さんと、姉さんのお世話出来て嬉しそうなレベッカは良いとして、ここまで物価が高いとは予想してなかった。
ここまでの旅で消費した蓄えは、ギルドの依頼などで得た報酬で賄えていたけど、もし王都に長期滞在するのであれば、この物価の高さは痛いかもしれない。
今後のことも考えて、早いところ仕事を探さないと。
「ふぅ、食べ終わったわ」
そんなことを考えている間に、皆アイスを完食していた。
「さてと……そろそろ行きましょうか」
「そうだね」
僕達はベンチから立ち上がると、再び噴水広場に向かって歩き出す。
そして、噴水の所まで戻ってくる。
「……」
エミリアは噴水の前で立ち止まり、じっとその噴水を見つめる。噴水の水はとても綺麗で、透き通っていて、まるで鏡のように空の景色を映している。
彼女はそのまま姿勢を低くし、
左手を後ろに回してスカートを抑えながら、噴水の水を飲み始めた。
「!?」
エミリアの奇行に僕は驚くが……。
「……ぷはっ」
彼女は噴水の水を飲んで、口を拭いながら立ち上がった。
「ふぅ……美味しかった……」
普通に飲める水だったのだろうか。
「この水、マナを含んでいますね。ゼロタウンと同じです」
「本当?」
「はい。おかげで口の中を洗えましたしマナも多少回復出来ました」
こんなところにMP回復の泉があるとは……。
「僕も飲んでみようかな」
「私と間接キスしたいと!? この変態!!」
「なぜそうなる」
適度に言い合いながら僕達は王都の道を進むのだった……。
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