第299話 その日の夜にて
買い物を終えた僕達は宿に戻る。
途中で想定外の戦闘があったのでかなり疲労が溜まっていた。
「ただいまー」
「ただいまですー」
宿の一階には休憩室のような場所があり、そこに皆が集まっていた。
「おかえりー、二人ともーって……」
迎え入れてくれた姉さんは僕を見て驚く。
「レイくん、男の子に戻ってるー!!」
その言葉に反応して、皆がこちらに気付いた。
「うん、ようやく戻れたよ」
「そっかー、戻れるかどうか不安だったけど無事に戻れて良かったねぇ」
姉さんは僕の両手を自分の手で掴んでぶんぶん振っている。
「姉さん、喜んでくれるのは嬉しいけどテンション高すぎない?」
「だってー、可愛い弟が一生女の子だったらそれはそれで困るじゃない? ところで、どうやって戻れたの? エミリアちゃんが魔法か何かで戻したとか?」
話を振られたエミリアは姉さんと目を合わせずに、
「え、えぇ……まぁ……」
と、物凄い歯切れが悪い言い方で答えた。流石にあそこで行った行為を姉さんに伝えるわけにはいかない。自業自得ではあるのだけど、主に僕が女の子全員から制裁を受けそうだ。
そこに、僕達の様子を伺ってたレベッカもやって来る。
「お帰りなさいませ、レイ様。エミリア様、上手くいったのですね」
「えぇ、レベッカ。色々予定外の事も起こりましたけど、何とかレイを戻すことが出来ましたよ」
「うん、エミリアのおかげだよ」
レベッカは優し気な笑みを浮かべて言った。
「ふふふ、レイ様が元の姿に戻れて、レベッカとても喜ばしいです」
僕達が霧の塔に向かう前、レベッカはエミリアが何をしようとしていたのか気付いていたように思える。彼女が僕達と同行しなかったのはそれが理由なのかな。
「(流石にエミリアが何をするかまでは気付いていなかったよね?)」
あれに気付いていたとしたら流石に止めた可能性が高い。
「ありがとう、レベッカ。ところで、他のみんなは何やってるの?」
僕は周りを見渡してみると、そこには椅子に座って談笑しているカレンさん達がいた。
「レイ様達が帰ってきたら、一緒に夕食を食べようと話していたんです」
「そっか」
もう時間も遅い。もしかしたら結構待たせちゃったのかもしれない。
「じゃあみんなで食べよう」
「そうね、レイくんが男の子に戻ったお祝いにお赤飯炊かないと……」
「いや、そこまでしなくていいよ!」
そもそもこの世界にお赤飯なんて無いんだけど。
◆
僕達はみんなで集まって街のレストランで夕食を食べることになった。
レストランと言っても、冒険者御用達の飲食店なので、特に格式が高いというわけでは無い。
以前の街ではわざわざ服を着替えて入ったりしてたが、ここは普通に武器や鎧を付けたまま入っても何も言われなかった。
ミーシャちゃんとアリスちゃんは王都に来ないので、ひとまずここでお別れとなる。
その前に、僕が元々男だったことなどを正直に話すことにした。
「じゃあレイさんは本当は男の人だったの!?」
「わー! びっくりだよぉ!」
そうだよね。これが普通の反応だよね。
僕が女の子になってても全然驚いてなかったサクラちゃんがちょっと異常だったのだろう。
『というか、私も桜井君の男の子の姿見たの久しぶりだね』
今日は雷龍のカエデも一緒だ。流石にレストランにドラゴンを入場させるのはどうかと思ったのだけど、冒険者の多い街だから多少の荒事は多めに見られているらしい。
今のカエデが人に危害を及ぼす様な事は無い。
だけど、街にモンスターを入れるのは危険だと思わないのだろうか。
そう思っていたのだけど、ミーシャちゃんが理由を教えてくれた。
「この街には、以前に他の魔物に虐待されていた弱小モンスターが冒険者ギルドで保護されていまして、敵意のないモンスターに対しては、街の人も寛容になっているんですよ」
「へー、そうなんだ」
ミーシャちゃんの説明に納得する。
弱小モンスターを保護したのは、今は冒険者ギルドに働いてる当時の冒険者さんという話だ。少し前に霧の塔が異常事態を起こした時、出現する魔物がぐちゃぐちゃになって上層の強力な魔物に下層の魔物が淘汰されていたらしい。
今はその騒動も収まって通常の状態に戻っているみたいだけど、その時は霧の塔内部にあったポータルもまともに使える状態じゃなくて、大半の冒険者は出入り禁止になったとか。
「霧の塔って変な場所だよね。アリスもサクラ達と一緒に上層目指してたけど、塔の中なのに洞窟みたいな場所に出たり、いきなり海底みたいな場所に飛ばされたりして面白かったよ」
アリスちゃんは当時の光景を思い浮かべるような表情をしながら語る。
僕達は結局5階まで進んで戻ってきたけど、もしここの冒険者として暮らしていたなら完全攻略を目指すなんて事もあったかもしれない。
「みんなは王都まで行くんだよね? アリスも一緒に行きたい~!!」
「王都は色々と厳しくてね。
許可が無いと入るのも大変なの。ごめんねアリスちゃん」
アリスちゃんはカレンさんに向かってダダをこねる。カレンさんは微笑を浮かべながらアリスちゃんの頭を撫でてやんわりと断る。
こういう子供っぽい冒険者の子ってあんまり見ないから新鮮だ。
うちのメンバーは歳こそ若いんだけど、見た目に比べて中身が大人びてるレベッカと僕を年下扱いするエミリアのせいで、パーティ内では僕が一番子供に扱われてる時が多い。
レベッカやエミリアの方が僕よりも年下なのに、ズルい。
最初はレベッカを妹のように可愛がってたけど、自分よりしっかりしてることに気付いて頭が上がらなくなってしまった。それでも時折、年下っぽい幼さを見せるので僕の心を捉えて離さない。
そのせいでエミリアにロリコン扱いされてるけどもう諦めた。
エミリアに関しては、出会った時からずっと今のような感じだ。冒険者歴が長いせいか考え方が僕よりも大人っぽい。
名目上、パーティのリーダーは僕になってる。
でも、エミリアの意見で行動指針を決めてることが多くて、異世界の知識がない僕にとって有り難い存在だったりする。でも、それ以上に僕の精神的な支えという点が一番大きい。
そんなことを考えつつ、二人を横目に見る。
「……何ですか、その目は」
「レイ様、レベッカ達に何か不満があるのでしょうか?」
エミリアとレベッカがジト目で睨んでくる。
「ううん、二人もしっかりしてるなぁって」
僕はそう言って笑ってごまかす。
姉さんとカレンさんに子供扱いされるのは納得している。
二人とも僕より確実に大人だからね。
そうだ。カレンさんに聞きたいことがあったんだ。
僕はカレンさんに呼び掛ける。
「ところでカレンおね……カレンさん、王都に行ったら何をすればいいの?」
最近の癖でお姉ちゃんと言いそうになってしまった。
皆には聞こえてないはずなのでセーフ。
「今お姉ちゃんって言い掛けましたよね?」
「言ってない」
「いや、絶対言った」
エミリアの反論をガン無視して、カレンさんに話し掛ける。
「まず、王都に着いたら服を買わないとね。
その後に王宮に面会の申請を出して受理されたら、ある人物に会ってもらうわ。
あ、その前に王宮で失礼の無いようにマナーの練習かしら?」
な、何か忙しそう。
この世界に来てから礼儀作法なんて全く気にしてなかったし、
これからは覚えないといけないのかな。
「ご安心くださいませ、レイ様。王宮ではわたくしがサポート致しますので」
「うんうん、お姉ちゃんも頑張ってサポートするから頑張ろうね」
レベッカと姉さんが世話を焼いてくれる。
「あ、ありがとう……」
僕一人なら何も分からなかったけど、みんなと一緒なら大丈夫だろう。
「レイの自立は遅くなりそうですね」
「それって僕がみんなに甘えてるから自立出来ないってこと?」
「べっつにー? いつまでも子供のままだなーって思っただけですよ」
妙に絡んでくるエミリアの言葉を間に受けて、僕は他の皆に訊いてみる。
「ぼ、僕ってそんなに自立できそうにない?」
「そんなことないよ、レイくん!」
「はい、レイ様は立派な方だと思います」
姉さんとレベッカはこう言ってくれてるけど……。
「そうやって二人が甘やかすから……」
エミリアは呆れたように声を出す。
「でも、お姉ちゃんとしてはレイくんに構ってあげたいし」
「わたくしとしては、思ったままの事を言っているだけなのですが……」
「まぁ、私は別に良いですけどね。………あの時は妙に男らしかったのに、ナヨナヨしちゃって」
エミリアはどうでも良さそうに言った。
後半は声が小さくて聞こえなかったけど、ちょっとエミリア冷たい?
いつもこんな感じではあるんだけど、刺々しいような。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます