第297話 れんあいってむずかしい
「……見事だ、勇者」
ミッドが静かに呟くと同時に、彼はその場に倒れ伏した。
「……う」
たった一撃にほぼ全魔力を注ぎ込んでしまった僕は、
ミッドさんと同じようにその場に倒れてしまう。
「レイ!!」
後ろで僕を見守っていたエミリアが、
僕の傍に駆けつけ床に座り、僕の頭を膝にのせて介抱してくれる。
「大丈夫ですか? どこか痛むところはありませんか?」
「うん、ちょっと疲れちゃったけど、平気だよ」
僕は心配そうに見つめる彼女に微笑み返す。
と言っても、流石にMPがスッカラカンで虚勢に近い。だけど、エミリアの前でカッコ悪い姿は見せたくない。ここは意地でも大丈夫と言わないと。
「……そうだ。ミッドさん大丈夫かな?
僕も手加減なんて出来なかったから全力で倒しちゃったんだけど」
エミリアは苦笑いを浮かべつつ言った。
「普通の人間なら壁に叩きつけられた時点で原型留めてないレベルの勢いでしたけど、多分生きてますよ。五体満足そうですし」
エミリアの言葉で青ざめる。
そこまでの威力になってるとは知らず、手加減抜きでかっとばしてしまった。
「ほ、本当に大丈夫!?」
「た、多分……」
エミリアの自信なさげな返答を聞き、僕は慌てて立ち上がる。
「どこ行くんですか」
「いや、だってミッドさんの安否確認しないと。
それに、もしこのまま放置して死んじゃってたら大変だし、すぐに治療しなくちゃ」
僕はフラフラした身体をエミリアに支えてもらいながら、ミッドさんの元へ向かう。
「「
僕とエミリアが同時に、倒れたミッドさんに回復魔法を使用する。魔力切れの僕と回復魔法が苦手なエミリアだけなので、今は応急処置が限界だ。
彼に手を当ててみると肌は冷たいが、身体の中から鼓動を感じる。
人間のような外見に反しては肌は固くどちらかと言えば、ゴーレムに近い印象を持つ。
所々ヒビ割れのような傷が出来ているが、一応回復魔法で塞がっていく。
「と、とりあえず人殺しにならなくて済んだかな……」
「人ではないと思いますけどね。まぁ、無事を確認出来て良かったです」
ホッと一息ついた僕達。
しかし、その直後に塔の中に変化が訪れる。
ゴゴゴゴ……と音が響くと同時に、僕達の目の前に光の柱が立ち上る。
「エミリア、これって受付さんが言ってた奴かな?」
「ポータルというやつですね。ここに入れば塔から出れるのかも」
僕達はミッドさんの治療を施した後、立ち上がり光の柱の前に立つ。
「それじゃあ出ましょうか」
「あ、エミリア。待って」
先に出ようとするエミリアの手を軽く掴んで、こちらを振り向かせる。
「レイ?」
「ミッドさんが現れて有耶無耶になっちゃったけど、言わせてほしい」
「……」
エミリアは僕の言葉に頷いて、無言でこちらを見る。
「以前から何度も言ってるけど、僕はエミリアの事が好きなんだ。
仲間としてだけじゃなくて、気になる異性としてエミリアの事が……うん、大好きだよ」
「あ……あう……」
僕の告白を聞いたエミリアは顔を真っ赤にして俯いてしまう。
いつもなんだけど、今回も言うタイミングを壮絶に間違えたかもしれない。
もっとこう、いかにも良い雰囲気で告白しても良かった気がする。
「で、でも……レイは、レベッカの事も好きなんですよね?」
「うん」
「おい、即答か」
エミリアの素の一言が僕に突き刺さる。
普段ですます口調のエミリアがキャラを忘れて即突っ込みするくらい鋭い。
「その……レベッカの事が好きなのも本当だよ。
あの子に以前告白された時からずっとレベッカを意識してる」
「もう、それならどうするんです!」
「い、いや……本当にどうしよう……」
僕は感情を相手に伝えることを優先して、後の事を全然考えてない。
今その自覚が出来たけど、言ってから気付くのでは遅すぎた。
レベッカは『一緒に故郷に来てくれれば三人で結婚しましょう』
……的な事は言ってたけど、流石にそれを理由にはできない。
「……はぁ、あのですね。レイ」
「……はい」
エミリアはため息を吐いて盛大に呆れた声で言った。
「私もレイの事は好きです。そこは誤解しないでくださいね」
「……うん」
「ですけど、流石に他に気になる女の子がいる。
と、言ってる男の子と公然で付き合う気はないですよ。私はそんな軽い女じゃありません」
「…………うん」
エミリアは僕から目を逸らしながらそう言った。
割とストレートに振られて、僕も若干涙目になっている。
「レベッカに手を出す様な真似はしてないようですからそこは評価します」
「………」
評価されたらどうなるんだろう。
「レベッカも女の私から見ても魅力的で可愛い子ですから、レイの揺れる気持ちも結構分かりますよ」
「分かるんだ……」
むしろ何故分かるのだろう。
が、その後、エミリアは僕にとって衝撃の告白をした。
「少し前に、私もレベッカとキスしたんですよ」
「えっ!?」
「……まぁ、あの時は緊急時だったので」
どうも、重傷を負ったレベッカをエミリアが献身的に手当てをしたらしい。
「びっくりさせないでよ……」
「まぁ、その後改めてキスしたんですが……」
「なんでそういう事を言うの?」
僕の心労を増やしたいのかこの子は。
「だから、こうしましょう。
どうしても私と付き合いたいなら、デートとかする時は、私とレイとレベッカの三人でという事で」
「本当!?」
僕は一瞬、付き合うのがオッケーと言われた風に解釈した。が、
「……??????」
エミリアの提案に、僕の頭がクエスチョンマークで埋め尽くされる。
今、何て言った?
「ど、どういう事?」
「ですから、私と、レイと――」
エミリアは最初に自分を指差して、次に僕を指す。
「―――レベッカ」
そして最後にここにはいない人物の名前を呼ぶ。
「……レベッカも?」
「はい」
どういうことだろう。
僕の気持ちが迷ってるから一緒に付き合うってこと?
だけど、現実は理想とちょっとズレていた。
「えっと……その……好きなんですよ。……レベッカの事も」
エミリアは頬を染めながら言った。
「???」
言ってる言葉は分かるけど、言ってる意味が分からない。
「ほ、本当に鈍感ですねぇ……。
私はレイの事が好きですがレベッカとも仲良くしたいって思ってるんですよ」
「あぁ!そっか!」
ようやく言いたかった事が理解出来た。
つまり、エミリアは僕以外にもレベッカの事も好きという事だ。
はー、なるほど納得納得。
………ん?
「いや、待って! レベッカとエミリアは女の子同士だよね!?」
「愛に性別は関係ないんですよ。知ってました?」
カレンさんを百合だの同性愛者だの揶揄っていた気がするんだけど、
まさかエミリアもその気質があったとは……。
「え……まさか、もうレベッカと付き合ってる……とか?」
「いえ、そういうわけではありませんが……」
どうやらエミリアの片思いのようだ。
「まってまってまってまってまって、それって本当の話なの!?」
「待って待ってって五月蠅いですよ。何回言うつもりですか」
エミリアの容赦無い言葉が僕の心を砕く。
「とにかく、レイは私の事が好きですし私もレイの事が好きですが、同時にレベッカの事も好きという事です。オッケーですか?」
「お、おっけー?」
無理矢理乗せられた。
「よし、解決ですね。しばらくはそんな感じで行きましょう」
「あ、うん」
よく分からないまま、僕はエミリアに押し切られる形で話が纏まった。
「……あれ、結局何も変わってなくない?」
「細かい事は気にしないで下さい。さてと、それじゃあ塔を出ましょうか」
「……」
僕達は光の柱の中に二人で手を繋いで一緒に入る。
その後、数秒経ってから光の柱が起動し、僕達は塔から脱出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます