第293話 OVERKILL
僕達は興味本位で霧の塔内部に入ることになった。
内部は吹き抜けのような構造になっていて中にも霧が立ち込めている
上の方もどこまで先があるのか分からない螺旋のような階段が続いてる。
ボク達は周囲に違和感を感じながらも階段を登っていく。
すると、階段から何か白くて小さいナニカがこちらに向かってくる。
「何、アレ?」
「魔物、だと思うんですけどね……」
こちらに向かってくる魔物と思われる生き物は、見た目子犬のようなもふもふした白い体毛に覆われておりまだ犬や猫と言った方が説得力のある風貌をしている。
その魔物?はこちらに向かって四足歩行でこちらへ向かってくる。体格は五十センチくらいだろうか。本当に魔物なのか怪しく感じてしまい武器を構えるのを忘れてしまう。
しばらく眺めていると可愛らしく、あくびをし始めた。
「………」
ちょっと可愛いと思ってしまった。
が、それは完全な油断だった。
あくびをした口の中に鋭利な牙が見えて、こちらがそれに驚いた途端、まるで隙を突くかのように飛び掛かってきて鋭い牙を剥き噛みつこうとしてきた。
「危なっ!?」
咄嵯に反応して回避するが、避けきれず腕にかすり傷を負う。
ダメージそのものは大きくない。多少痛むけど毒などもないようだ。
「やっぱり、魔物みたいだね」
ボク達は襲い掛かってきた魔物を警戒しながら後ろに下がる。
「油断しすぎです。ここはダンジョンなのですから、未知の魔物がいても不思議じゃありません」
エミリアは杖を取り出し、白い犬のような魔物に魔法を放つ。
「
エミリアの手から放たれた小さな火の玉が白い犬の魔物に命中し、途端に大きく燃え上がる。幾多にも及ぶ戦闘の末に鍛えられたエミリアの魔力は、初級魔法であっても中級以上の威力にまで跳ね上がっていた。白い獣の魔物は悲しげな声を上げながら一瞬で蒸発し消えていった。
「オーバーキルだなぁ」
「仕方ないじゃないですか。まぁあんまり強い魔物じゃないみたいですし、次からはやり方を変えましょうか」
エミリアは頬を指で掻きながら、「反省反省」と呟いている。
「でも、この塔の中はこんな感じで敵だらけなんでしょうね」
「そうだね。気を引き締めて行こう」
ボク達は再び塔の中を進んでいく。
エミリアの予想通り、魔物は沢山出現して何度も戦闘になった。
主に1~2階はゴブリンや白い小さな魔物ばかりが大量に出現した。
気を引き締めてとは言ったけど、レベル外の相手だ。
こちらが多少魔力を集中させるだけで大半の敵は逃げていく。
それが分かったので、基本的には戦わず追い払っていた。
塔の内部は普通の空間だと思っていたのだが、不自然な程に無音だ。これだけ魔物が出現するにもかかわらず、魔物が生活をしていたなどの様子もない。
霧の影響か塔の内部は妙に涼しい。
快適かと言えばそうでもなく、周囲に漂う霧のせいでジメっとしている。
「似てますね」
エミリアが前を歩きながら呟いた。
「似てますね?」
エミリアの言葉に思い当たる節がなく、オウム返しに聞き返してしまう。
「エニーサイドにあったダンジョンですよ。覚えてません?」
「あー、あのダンジョン? 懐かしいね」
「ええ、懐かしいですね。
だけど別に思い出に浸りたいわけじゃなくてですね。あの時のダンジョンって魔物をいくら倒しても次に入るときには復活していたり、魔物が外に出なかったりと明らかに不自然でしたよね」
「え? ……あ、そういう事か」
あのダンジョンは、この世界の技術では成し得ない技術によって作られていた。自然に出来たような洞穴の中には、明らかに別空間の巨大な空間に繋がっており、下へ進めば進むほど地下とは思えないような場所にボク達は翻弄されていった。
それでも、どうにか力を合わせて進み、時には苦戦しながら、時にはやる気を無くしてローテンションで惰性で攻略をしたり、とある人物の介入によってボク達は命を救われて巨悪と戦ったこともある。
エミリアはあのダンジョンとこの塔が似たようなものだと言っているのだ。エニーサイドを完全攻略したボク達だけど、あのダンジョンを作った主とボク達は出会っている。
あのダンジョンは魔物が自然に住み着いたような場所では無かった。
とある人物によってダンジョンを創造され、そこに蔓延る魔物達は彼女が一人で集めたものだ。
その人物の正体は―――
「つまり、ここも女神様……ミリク様が作ったってこと?」
女神ミリク。
レベッカが住まう地、ヒストリアを創造したとされる女神の名前だ。
ボク達は、あの場所で彼女と出会い、勇者になれと言われた。
「(本当にやる羽目になるとは……)」
あの時はその場では協力するって返事をして、しばらく有耶無耶になってたけど、女神様に「勇者になれ」と言われた時点で『はい』か『イエス』の選択しかなかったことをカレンさんに知らされた。
「同じかどうかは分かりませんが、可能性は高いかもですね。
ただ、サクラさん……レイとは別のもう一人の勇者さんはこの塔を攻略したって話でしたよね」
「そう聞いたよ」
「多分この塔でレイと同じように啓示をうけたのでしょう。少し前に名前が出た、もう一柱の女神に」
エミリアの推測を聞いて、
素直に女神様のいう事を聞いている彼女の様子を頭の中で想像できた。
――霧の塔3階にて――
階段を上って最初の部屋に出ると、そこには沢山の魔物が寿司詰めになって沸いていた。
「うわー」「わー……」
ボク達の目の前には、ゴブリン、オーク、コボルトなどの初級の魔物が総勢15体くらいと対峙していた。
魔物達の向こう側には通路があり、どうやらこいつらを倒さないと先に進めないらしい。
魔物達は、ボク達を見て気色悪い笑みを浮かべていた。
「
エミリアはボクの斜め後ろから自身に魔力を集め、地面に杖をコンッと響かせるように叩く。すると、地面の周囲が一瞬だけ紅に染まり敵の足元を素通りしていき、すぐに消失する。
ここまでの魔物なら、これだけでも脅しになる。
しかし、魔物達は何の反応もない。
「駄目みたいですね。ここまでの魔物ならそれだけで追い払えたのですが」
今まで、エミリアの魔力だけで逃げていた魔物達は、一向に逃げる様子が無かった。
「ミリク様のダンジョンの敵みたいに、
絶対に回避出来ない敵として設定されてるのかな」
「そうかもですね。さて、どうします?」
魔物達はジリジリとこちらに近付いてくる。
十数秒後には僕達に一斉に飛び掛かってくるだろう。
「レイ、その聖剣まだ抜いたことないですよね。試しに使ってみては?」
「分かった」
ボクはジンガさんによって復活した聖剣を鞘から解き放つ。
すると、聖剣は眩く光輝き始めた。
「凄い……」
ボクが感嘆の声を上げると同時に、ボクの手の中に光の粒子が集まっていく。
そして、光が収まる頃には、ボクは青白い光を放つ聖剣を手にしていた。
「そんな強そうな武器を使う相手がこんな雑魚敵とは……」
「ま、まぁ……試し斬りに弱い敵と戦うってのは良くある話だから」
「そういうものですか?」
エミリアは少し首を傾げながら、杖を構える。
「じゃあ、とりあえず適当には私もやりますね。残りの魔物はお願いしますね」
「了解」
ボクは聖剣を振り上げて、ひとまず一番近くのゴブリンに斬り掛かる。
ゴブリンはボクの持つ剣を自身の棍棒で弾こうとするのだが、ゴブリンの棍棒が当たる前に、ボクの聖剣はゴブリンを真っ二つにする。斬られたゴブリンは、そのまま後ろに倒れて絶命した。
そのまま青白い斬撃が後ろに飛んでいき、
直線上にいた魔物が全て真っ二つに切り裂かれていく。
「え?……え? また剣先にも触れてなかったのに……!」
ボクが困惑していくと、ボクの剣を握る手にも青白い光が灯っている。
その光はボクから剣に流れ込んでいるように見えた。そして、剣を握ってると何故か少しずつ疲労が溜まっていくような感覚があった。
「れ、レイ、ちょっとその剣使うの止めた方がいいかも、です!」
「え? なんで?」
「自分で気付かないんですか!? レイのMPがさっきからすごい勢いで減り続けてますよっ!!」
エミリアは杖をボクに向けて
「本当?」
ボクは残った魔物から距離を取って剣を鞘に仕舞う。
すると、青白い光は消えていき、身体から何かが抜けていく感覚が消えていった。
「エミリア、どれくらい減ったの?」
「えっと……今ので1/10くらい、上級魔法一発分って感じです」
「ね、燃費悪い……」
女の子の身体だから今は使えないけど、
普段はもう一つの龍殺しの剣で戦った方が良さそうだ。
残った魔物は聖剣の光に怯えて距離を取って様子を見ている。
ボク達は残った魔物を観察しながら、聖剣の鞘に手を掛けたままゆっくりと通り過ぎていく。魔物達はボク達が近付くと後退りするが、結局何も出来ずに通路の奥へと逃げ帰っていった。
「……ふぅ」
ひとまず緊張状態が解けたことで、一息入れる。
「聖剣使うのは切り札として残した方がいいかもしれませんね……」
「うん。まだ完全な力を出せてないみたいだけど、今でも十分過ぎるほど強力かも。……名付けの儀式をすればもうちょっと使いやすくなるのかな」
この剣を使う時は短期決戦を心掛けた方が良さそうだ。
その後、ボク達は魔物と遭遇するたびに、自身の聖剣の魔力をチラチラ見せ付けて魔物を怯えさせ無事にノーエンカウントで切り抜けることが出来た。
やってることが武器をチラつかせてる不良みたいだけど仕方ない。
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