第292話 霧の塔

 二人と一旦別れ、ボク達は馬車で待っていたリーサさんとカエデに合流してから街の宿に向かう。カエデに関しては、流石にドラゴンを街に入れるわけにはいけないので、馬と一緒に牧舎で休んでもらうことになった。


 全員の部屋を取ったところで明日の朝まで自由行動だ。


 ミーシャちゃんは、宿の部屋を貸し切っているためボク達とは別の宿に泊まっている。

 彼女とは明日からはまた別行動なため、しばらくは会えないだろう。


「疲れたー」

 部屋に入ると姉さんはすぐにベッドに横になってゴロゴロし始めた。

 この女神様、最近いつもゴロゴロしてる気がする。


「ふふふ、ベルフラウ様、お疲れ様でございます」

 レベッカは、姉さんのベッドにちょこんと座り姉さんの頭を撫でている。

 姉さん気持ちよさそう。


「明日の朝、王都へ向けて出発という事でいいかしら?」

 カレンさんのプランにボク達は頷き、姉さんは顔をベッドに埋まりながら手を上げて了解の意を示す。しかし、それに待ったを掛けるようにエミリアが手を挙げる。


「カレン、私は霧の塔という場所に興味があるのですが」


 カレンさんがさっき言っていた場所だ。

 この街の西の方にある深い霧に覆われた巨大な建造物。

 その見た目から、この街の人からは霧の塔という名前で親しまれているらしい。


「あの場所に? ……うーん、今はもうあそこには用が無いんだけど」

「ちょっとだけです。魔道具収集家としての知的好奇心が疼いてしまって……」

「完全攻略するとか言わないわよね?」

「いえ、そこまで熱心に拘ってるわけではありませんよ。

 前に似たようなダンジョンがあったので少し気になっていまして」


「それなら良いけど……。まあ、確かにあの塔の中には面白い物もあったけどね。でも、本当に少ししか見てないし、何より面倒な仕掛けもあるからあまり長居はできないと思うけど」


「構いません。それで、普通に入れるのですか?」

 エミリアがカレンさんに問うと、カレンさんが答えた。


「この街のギルドで試験を受ければ入れるわよ。試験と言っても別の街で実績がある人は免除されるわ」


「なるほど、それじゃあ行きましょうか」

 エミリアはボクの袖を引っ張って連れていこうとする。


「え、ちょっと待って、ボクも?」

「私一人で行かせる気ですか?」

「いや、別にボクが付いていく必要はないんじゃない?

 折角街に来たんだから服とかアクセサリとか買いたいし……」

 僕がそう言うと、エミリア達は何故か凄く驚かれた。

 

「……可愛い私がレイに頭を下げてお願いしてるですよ。断るんですか?」

 エミリアは断じて頭など下げていない。

 可愛いのは否定しないけど。


「それに、一応ダンジョンですよ。前衛は必要です」

「そうだけど……」

「それとも嫌ですか?」

「うーん……分かったよ。そこまで言うなら一緒に行く」


 ボクは仕方なく付いて行くことを決める。

 姉さん達の方を振り向くと、すっかり安らぎモードになっていた。

 レベッカと視線が合うと、こちらが何か言う前にレベッカが口を開いた。


「カレン様、きりのとう? という場所は、レイ様とエミリア様のお二人だけで行っても戦力的に問題ないのでしょうか?」

「問題ないと思うわよ。 上層ならまだしも下層なら二人の敵じゃないわ」

「左様でございますか」

 レベッカはボク達をチラッと見ながら、どこか納得したように微笑んだ。

「……どうかしましたか、レベッカ」

「いえ、なんでもございません。頑張ってくださいね、エミリア様」

「!!」

「ん?」

 レベッカの応援がエミリアだけに向けられていることに疑問を覚えた。

 すると、エミリアは僕を見ずに言った。


「いっ、行きますよっ! レイ!!」

 エミリアはボクの腕を引っ張ってそのまま一緒に部屋を出て行った。

 何故か機嫌が悪そうなエミリアに連れられて、ボク達は二人でもう一度冒険者ギルドに向かった。


 ◆


「霧の塔の試験を受けたいという事ですか?」

 受付で事情を話すと、受付の女性がボク達に確認してきた。


「はい、そうです」

「失礼ですが、冒険者としての資格は……」

「ゼロタウンの方で登録を済ませていますよ。ほら」

 鞄の中に入っていた、冒険者の登録証を受付さんに見せる。


「では、失礼します」

 受付の人はボク達の登録証を受け取り、それを黒い魔道具に照合する。


「……こ、これは……。いえ、失礼しました」

 受付の人は驚いた顔をしたが、すぐに冷静さを取り戻して入る際の注意点をいくつか教えてもらい霧の塔へ向かうことにした。


 ◆


 霧の塔の傍まで向かうと、塔の周囲は湖に囲まれていた。霧でよく見えないが周囲に小舟なども見当たらず、普通に考えると進むことが出来ない。


「受付さんの話だと、通れる場所があるって話だったね」

「面倒なので空を飛んでいきましょう」


 エミリアが<飛翔>の魔法を唱え、ボクはエミリアの手に掴まりそのまま塔まで飛んでいく。入り口が見えたところで、飛翔の魔法を解除しボク達は地上に着地した。


「ここが霧の塔……」


 目の前には巨大な建造物があった。

 それはまるで、空に向かって伸びるように巨大な円柱のような形をしている。

 周囲は深い霧に覆われており、中の様子は窺えない。


「さて、どうしよっか」

「まずは周囲の調査から始めましょうか」

「そうだね」

 ボク達は塔の外から調査することにした。

 塔の外周だけでも相当な距離があり、一周するだけでも時間が掛かりそうだ。

 壁は普通の石作りとは違い、まるでステンレスのような感触だった。


「素材は何で出来るんでしょうね」

「似たような金属をボクの世界で見たことあるけど、ちょっと違うかな……」

 強いて言えば、ボクの持っている聖剣の素材に似てる気がする。


「まぁいいです。それじゃあ中に入りましょうか」

 ボクは頷き、二人で塔の内部へと入っていく

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