第287話 謎
次の日の朝―――
「それでは、皆さん。王都で会いましょう」
「先輩、レイさん、ミーシャ、それに皆さん。先に行きますね」
ウィンド・サクラ・アリスの三人は、ボク達よりも一足先に王都へ向かうことになった。本来、サクラちゃんのパーティであるミーシャちゃんも一緒に行く予定だったんだけど、旅立つ前にジンガお爺さんに挨拶したいという事でボク達と一緒に後で向かうことになったのだ。
「カエデ……また一緒に遊ぼうね……!」
『アリスちゃん……』
ミニ雷龍のカエデとアリスちゃんは一日一緒に遊んだおかげで随分仲良くなったようだ。別れ際になってもまだ離れたくないようで、抱き合って泣いていた。半日程度先に出るだけなんだけど……。
「レイさん、道中気をつけて下さいね?」
「うん。サクラちゃん達も元気で」
「ふふっ、レイさんったら。サクラは王都にいるんですからそんなに心配しなくても大丈夫ですよ?
ミーシャも、レイさん達に迷惑掛けないようにね」
「はい、お姉様!!」
そして、三人は王都へ先に向かう。ボク達は依頼をしていた聖剣を取り行き、その後にサクラタウンを中継しつつ王都に向かう形となった。
◆
再び魔法陣を使用し転移した森へ向かう。
ボク、エミリア、レベッカ、姉さん、カレンさん、カエデ、ミーシャちゃんの計六人と一匹で森の深部へ進んでいく。
「ここが例の鍛冶師さんが居る場所? 人が住む場所には見えないわね」
カレンさんは周囲を見渡してから言った。
「うん、ここだよ」
カレンさんの言葉を肯定する。
「……この森も色々ありましたね」
およそ半年以上は経過して久々に訪れたエミリアは、しみじみとした感じで過去を回想するように呟いた。
「……ええ、あの時はわたくしがご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」
最初にこの森を訪れた時、
ボク達は何者かによって幻覚の世界の中に閉じ込められてしまった。
その時、真っ先に被害に遭ってしまったのはレベッカだった。
「あれはレベッカちゃんのせいじゃないわよ。誰が狙われてもおかしくない状況だったわ」
「ベルフラウ様……」
姉さんがレベッカをフォローする様に言った。
「……あの、ここで何かあったんですか?」
ミーシャちゃんにくいっと袖を掴まれて質問される。
「えっと……まぁ、色々と」
ミーシャちゃんに尋ねられて少し話すのに躊躇する。
あの幻惑の正体や黒幕に関しては大体正体は掴めている。
黒幕は他でもない魔王軍。
目的の一つは人間たちに恐怖を振りまき、魔王の力の分身である<魔王の影>を呼び出して力を増幅させることだったのだろう。
ボク達はその計画を行っていたこの森の中に偶然入ってしまい巻き込まれた。
「色々と、ですか?」
「うん……まぁ、旅すがらに話すよ」
ミーシャちゃんはあまり詳しい事は話せない。
何せあの時は彼女のお爺ちゃんの命の危機でもあったはずだ。脅威はもう去ったとはいえ、見た目よりも少々幼い印象がある彼女にそのまま話すにはショックが大きいだろう。
『桜井君、この森に前に結界とか張られてたりした?』
森の中を気ままに飛んでいたミニ雷龍のカエデは、ボクの隣に飛んできて言った。気のせいかもしれないけど、昨日よりちょっと大きくなってる。少しずつ魔力が回復してるのかも。
「うん、張られてたよ。あんまり良くないものが」
『魔王軍の連中と似たような気配が少し残ってたよ』
「……やっぱりか」
カエデの野生の勘だろうか。
でも、これで張られてた結界はやはり魔王軍が仕組んだことが確定した。
しかし、何故魔王軍はこの森に結界を構えたのか。
狙いがボク達の可能性もあるだろうけどちょっとピンポイント過ぎる。
もしかしたらジンガさんの方を狙った可能性が?
そう考えて、ミーシャちゃんに彼の事を尋ねてみようと思った。
「ミーシャちゃん」
ボクよりも少し前に出て歩いていたミーシャちゃんに後ろから声を掛ける。
呼び掛けると肩をビクッと震わせて、ミーシャちゃんは振り向いた。
「は、はい? 何ですか、レイさん」
「ジンガさんの事、少し詳しく教えてくれないかな?」
「お爺ちゃんの事ですか? 良いですよ」
それから、ボク達はジンガさんの家に辿り着くまで、色々と話すことにした。
ミーシャちゃんが言うには、ジンガさんは元々流浪の旅人だったようだ。
だが、旅の途中で、魔物に襲われている町人を助け、腕を買われて国の傭兵として働くことになった。その時に助けた町人の一人である女性が、後にジンガさんと結婚することになる。
「今はもう居ませんがお婆ちゃんもアグレッシブな人だったとお母さんは言ってました。休日には山を登ったり魔物をハントしたりと、腕っぷしも凄かったらしいです。
話によると、二人揃ってドラゴンスレイヤーとして一躍有名人だったとか」
ドラゴンスレイヤー。
大型のドラゴンを倒した冒険者や旅人に送られる称号だ。
この称号を贈られるには条件があり、
まず人間に害を為す存在のドラゴンが相手であること。
そして、そのドラゴンが成体であることだ。
更に条件がありドラゴンと倒したという証明を冒険者ギルドに持っていき、正式に授与されることも必要だ。参加した全員が称号を得られるわけでは無く、最も活躍した人物が称号を得られる。
ちなみに、ボク達が以前に倒した
数日前に倒したアンデッドのワイバーンも対象外だろう。
龍王に関してはちょっと分からないけどそもそも倒した証明がない。
「やっぱり、凄い人だったんだね。あの人」
「はい。若い頃はそれこそ伝説と呼ばれるほどの冒険者だったと聞きました。……ですが」
その後、奥さんに先立たれ失意の底に立たされたジンガさんはある出来事を境に変わってしまったようだ。
「お爺ちゃんは、戦争に参加させられたんです」
ミーシャちゃんは悲しそうな顔をしながらそう言った。
「それは、魔物と?」
ミーシャちゃんは一瞬、言葉を詰まらせて間を置いてから言った。
「……同じ人間が相手の戦争だったそうです」
「ッ!?」
魔物だけじゃなく人間同士でも争っていたのか。
不思議な事ではないけどこの世界でもそこは変わらなかったのはショックだ。
「ボクも詳しくは知らないんです。
ボクが生まれたのは戦争が終わってからずっと後だったから……。
だけど、お爺ちゃんは強すぎたばかりにいつも一番危険な死地にばかり駆り出されて、そこで沢山の人を殺したくもないのに殺してしまって……。
そして最後には、全てが嫌になって行方を晦ませた……その時はまだ子供だったボクのお母さんから、そう聞きました」
「……」
「だから、お爺ちゃんがどんな思いで戦っていたのか、ボクには分かりません。
……でも、きっとお爺ちゃんは苦しんでいたと思います。だって、お爺ちゃんはとても厳しくて怖かったけど、とても優しい人だったから……」
「……そっか」
「ジンガお爺ちゃんが今でも、こんな森に隠れ住んでいるのは、きっと……」
……戦争のせいで心が荒んでしまった自分を、誰にも見られたくないのかもしれない。あくまで勝手な憶測だけど、人間嫌いなのはそういう理由があったのだとするなら納得してしまう。
「だけど、お爺ちゃんはそれでも生き甲斐を見つけたんです」
「……生き甲斐?」
「……はい、自身の生きた証を立てること。
お婆ちゃんに先立たれ、戦争で人生の全てが台無しにされ、全てを諦めかけていたジンガお爺ちゃんを救ってくれたのが、剣を打つことでした」
ジンガさんは生前の奥さんとの思い出を忘れないようにするためか、それとも自分の心を癒すためなのか、ただ無心にひたすらに剣を打ち続けていたそうだ。
「ボクのお父さんが言ってました。……『お前のお爺ちゃんは、自分の全てを投げ打ってでも剣を作り続けている。それを先立たれたお婆さんの墓前に捧げるつもりなのだろう』と……」
「……そっか」
「いくつも剣を打っていくことで腕も磨かれて、鍛冶師として名を上げていったそうです。中には、それこそ伝説級の剣を打ったこともあるのだとか」
「それはどんな剣だったの?」
「詳しくは分かりませんけど、お爺ちゃんはその時に、沢山の魔物達に襲われたことがありまして。
その魔物は今言われている魔王軍の兵たちでした。たまたま、お爺ちゃんが外の世界で材料を集めているときに、魔王軍と鉢合わせしてしまい、そこで……」
「そこで……まさか、ジンガさんが大怪我を!?」
「いえ、お爺ちゃんはその手に持った剣で、一〇〇匹以上の魔物を一人で返り討ちにしたそうです」
「えっ、つよっ……」
逆に強すぎて引いてしまった。
「お爺ちゃんは元々強かったんですよ。
ボクも知ってる限りでは、今のサクラお姉様のように素手でも魔物と互角以上に渡りあえて、武器を使わせれば敵なしだったとか。でも、その剣は特別すごかったみたいです」
「そうなんだ……」
まるで聖剣を持ったカレンさんみたいだ。
「でも、その活躍のせいでお爺ちゃんは、
魔物達の脅威とみなされ付け狙われるようになったとか。お爺ちゃんの命を狙われることを危惧したボクの両親は、お爺ちゃんに戻ってきてくださいと説得したんですけど、突っぱねられちゃって……」
「……成程ね」
もしかしたら、ジンガさんがこの森から出ない理由は……。
人間嫌いとかではなく、荒んだ自分を見られたくないとかではなく、本当は自分のせいで他人を巻き込みたくなかったから……?
となると、あの結界は、まともに戦っても勝てないことを察した魔王軍がジンガさんを狙って仕掛けた罠だった可能性がある。
「レイさん?」
「あぁ、ごめんね。考え事してて」
もし、そうだとしたらジンガさんはボクが思う以上に凄い人だ。
ボクだったらそんな孤独にとても耐えられない。
「ボクがもう一度お爺ちゃんと会いたかった理由なんですけど、
『弱虫だったボクを立派な戦士として鍛えてくれてありがとう』って言葉を改めてお爺ちゃんに言いたかったんです」
「そうだったんだ。……うん、きっとジンガさんも言ったら喜ぶと思う」
「そうですか? ……そうですね、ボクもお爺ちゃんを喜ばせてあげたいです!」
ミーシャちゃんは嬉しそうに笑みを浮かべた。
きっと、ミーシャちゃんはずっとそのことを伝えたかったんだろう。
「ふぅ、これで話せることは全部かな……」
「うん、十分だよ」
それから、ボク達は固い話を止めてジンガさんの家に着くまで雑談をしていた。同い年くらいかと思ってたけどサクラちゃんと同年代のようだ。
そして、しばらく歩いてようやく目的地に到着した。
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