第284話 痛恨のミス
それから数時間後―――
ボク達は無事に魔法陣に辿り着き、転移先の村へ戻ってくることが出来た。
出迎えは無かったので、ボク達はそのまま村の宿舎へ戻った。
宿舎に戻るとカエデと金髪ロリっ子が追いかけっこして遊んでた。
『桜井くーん! 助けて、この金髪っ子が私から離れてくれないのー!!』
「待って、カエデ!! アリスね、カエデの為に可愛いリボン持ってるの、付けさせてー!!」
二人には留守番してもらってたけど、仲良くなれたようだ。
『仲良くなってない!!』
「えー? カエデとアリスは仲良しになれたよー? だから今日はアリスの部屋で一緒に寝ようね?」
『ちょ、離れなさい!』
「イヤだもん!」
二人はキャッキャウフフな光景を繰り広げている。
……中身を考えたらの話だけど。
それをミーシャちゃんとサクラちゃんが遠巻きに見ていた。
「アリスとカエデさん仲良くなったねー」
「さ、サクラお姉様……ボク達も今日一緒に……」
「それは断固拒否するね」
「そんな……!?」
サクラちゃんに笑顔で拒絶され、ミーシャちゃんはがっくり項垂れた。
「……ミーシャちゃんは、なんというか……少し変わった子ね」
「あはは……」
姉さんの言葉に、サクラちゃんは苦笑いを浮かべた。
◆
その日の夜、夕食中にて―――
ボクは、今日あったことをエミリアとレベッカにも伝えていた。ウィンドさんとカレンさんは席を外している。二人とも何か別の用事があるらしい。
カエデは村人さんに見つかると色々不味そうなのでボクの部屋で待ってもらっているが、アリスちゃんが散々追い回してたからすでに手遅れかもしれない。
「……聖剣ですか」
「ふむ……その為に、あの魔石が必要だったということでございますね」
「うん、そういうこと」
ボクは、ご飯を口に運びながら返事をした。
……美味しいんだけど、なんか味が薄い気がするのは気のせいだろうか?
「ところで、この食事。誰が作ったの?」
宿舎だから当然料理人がいるはずだ。
「この料理ならミーシャちゃんとアリスちゃんが作ったそうよ。
料理担当のおばさんがいるんだけど避難の時に腰を痛めちゃったんだって」
「それは、大変だったね」
「うん。それで、ミーシャちゃんがお手伝いを申し出たらしいの。最初は断られてたみたいだけど、最後はサクラちゃんも手伝って、三人で作ったみたいだよ」
「なるほど」
見た目通り、良い子たちだなぁ……。
ボクは隣のテーブルに座っているミーシャちゃん達に目を向ける。
そこには、サクラ、アリス、ミーシャの三人が楽しそうに食事をしていた。
「ミーシャの料理は美味しいんだけど味がちょっと薄いよね」
「えっ!? そ、そんなことは……」
「んー、薄味が好みなのかな? 私はミーシャの料理好きだよ?」
「さ、サクラお姉様……結婚してください!」
「え、嫌だよ」
「ガーン!!」
ミーシャちゃんは相変わらずだった。
ジンガさんの心配する気持ちも分かってしまう。
ボクは視線を自分達のテーブルに戻す。
「……えっと、何の話だっけ?」
隣のテーブルの会話が濃すぎて自分が何を話してたか忘れてしまった。
「聖剣を作るために、以前に入手した最高級の魔石を使ったという話では?」
「それだった。二人に相談なく決めてしまってごめんって言いたかったんだよ」
エミリアは食事を終え、食器を纏めながら言った。
「良いですよ。実際手に入れたは良いですけど使いどころに困ってました。
それにしても聖剣ですか……レベッカ、聖剣の事知ってます? 私、魔道具の事はともかく聖剣の事は全然分からなくて……」
レベッカも食事を終えて、口を布で拭いてから言った。
「……ご馳走様でした。……ふむ、聖剣でございますか。わたくしもあまり詳しくは無いのですが……」
レベッカは、自身の記憶を思い出すかのような表情を浮かべながら言った。
「わたくしの故郷の誕生の祠という場所に神剣が祀られていました。
おそらく、それも聖剣の一つなのだと思います。魔を滅するという言い伝えは、まさに聖剣に備わる能力と同一のものですし」
以前にレベッカに聞いたことがある。
レベッカが精霊の儀という試練を受けた時に、
その祠で神剣を手に取って戦ったという話だ。
「レベッカちゃん、その神剣のこと詳しく教えてくれない?」
「はい、ベルフラウ様。
「へぇー……なんか凄そうな名前だね」
「他にも、使い手によってその姿を変幻自在に変えるという特性も持ち合わせております。
簡単に言ってしまえば、剣が得意な物ならば剣の形に、弓が得意なら弓の形にと自在に姿を変えることが可能です。実際、私が使用した時はその姿を槍に変えていました」
水鏡というのは、水面に自分の姿が移るのが鏡のように見えることから付いた言葉だ。
この神剣の意味は、自身の心を写し、その能力さえも水鏡のように写すという意味なのだろう。
「<神威・水鏡>はかつて、女神ミリク様が大地を創造した際に使用し、誕生の祠に神剣を納め、そこから我ら土の民の始祖が生まれた……と、そのような言い伝えがあります」
「成程……ありがとうレベッカ。参考になったよ」
「いえ、お役に立てたようで幸いです」
ボクはレベッカに礼を言い、それからエミリアに向き直った。
「というわけなんだけど、どう思う?」
「ふむ……興味深い話ではありましたが……。そもそも聖剣とは一体なんなのでしょう?
魔を滅ぼす力を持つ武具の総称とされているのは分かりますが、実際どういう原理で作られた物か誰も証明出来ていないらしいですし」
そのエミリアの質問に、レベッカがまた答えた。
「ふむ……神剣に関しては、女神様自身が創造されたと言われておりますね。
ですが、他の聖剣はどうなのでしょうか?」
「ジンガさんが言うには、普通の方法では製造出来ない武器って言ってたよ。だから、人間が作ったわけじゃないのかもしれないね」
まさか魔物が作ったという事は無いだろう。
ボクが異世界からこの世界に来たように、剣そのものが別の世界から持ってこられた可能性もある。真実は定かではないけど、神に直接問いただせば分かるのだろうか……答えてくれるかは分からないけど。
「まぁ強くて便利な剣って思っておきましょうか」
エミリアの言葉にボク達は同意するように笑った。
食事を終えたボク達は、食器の片付けをして部屋に戻ることにした。
明日は今日作った魔法陣を通って、ジンガさんの元へ聖剣を取りに行く予定でいる。
もしそれが早く済めば、その日のうちに出立するつもりだ。
だから、今日は早く寝て休もうと思ったんだけど、良いことを聞いた。
「この宿舎って、小さいけど大風呂があるんだって」
『大風呂?』
ボクは村人さんに聞いた話を自室にいるカエデと話していた。
「この世界って滅多に大風呂とか無くて、中にはそもそもお風呂に入る文化が無い村とかあったりするんだよ。だから珍しいし、入っておくべきかなって思って」
この世界で得た知識を披露する場がないので、同郷のカエデにここぞとばかりに話す。
ボクの話を聞いてくれたのか、彼女は嬉しそうに言った。
『うん。私も入りたい』
「ドラゴンって入っていいんだろうか……? まぁ見つからなければいいよね」
ボクはベッドから降りて、着替えの準備をする。そしてカエデと一緒に一階へ向かった。村人さんと鉢合わせしないかちょっと心配だったけど、人と会うことは無かった。
一階の入り口の奥には、赤い布と青い布がのれんのように垂れ下がってる二つの小さな入り口があった。異世界文字で、赤い布の方には『女性用』、青い布の方には『男性用』と書かれている。
「えっと、青い方で合ってるかな……」
『……え?』
ボクは恐る恐る青い布をくぐって中に入った。
そこは脱衣所になっており、木製の棚や籠がいくつか置いてある。
「おお、ボク達の世界とそんなに変わらないね。用途が同じだと、自然と構造に似たような感じになるんだろうか?」
『そ、そうだね、桜井君………あの、桜井君?』
カエデが何か言いたそうだったけど、それよりもボクは早くお風呂に入りたかったので脱衣所に向かった。そして、服を脱ごうとする段階でハプニングが起こった。
ハプニングとは、他に男性のお客さんが居たからだ。
ボクの傍にいるカエデはドラゴンの姿をしている。
今のカエデがちっちゃくて可愛いと言っても、村の人は驚くだろう。
「カエデ、ボクの身体に隠れるように動いてね」
『え、いや、今は桜井君が隠れた方が――』
下手に誤魔化そうとすると怪しまれるし、ここは挨拶だけして―――
「どうも、こんばんわー」
「こんばんわ、冒険者さんかい?……えっ?」
「それじゃあ失礼します」
ボクは手早く衣服を脱ぎ捨ててバスタオルを巻くと、浴場に続く扉に手をかけた。
その時だ、後ろから声をかけられたのは。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 女の子!?」
「へ?」
振り向いたボクは、
相手の顔が真っ赤になってこっちを見ないようにしてる事に気付く。
『桜井君、ここ男湯だよ!!』
カエデが見つかるかもしれないという事を気にせずこっちに向かってきた。
「え、男湯だよね?」
『桜井君、今は女の子だよ!!』
「………え」
『……』
ボクはカエデの言葉に固まってしまった。
「ご、ごめんなさい!!」
ボクは謝りながら急いでその場から立ち去った。
◆
「失敗した失敗した失敗した失敗した」
ボクは自室のベッドの上で枕を抱えて悶絶していた。
カエデの言う通りだった。
どうして気付かなかったんだろう。冷静になればすぐに分かったのに……。
「し、しかも、ボク、普通に裸になってたし……!!」
見られなかっただろうか……。今考えると、途中からやたらカエデが割り込んできてたし、何度もボクを止めようとしてた気がする。
あれは多分、見られないようにカエデが体で壁を作ってくれてたんだと思う。中身が男だとしても、女の状態で男の人に裸を見られるのは精神的ショックが大きすぎる。
そして、折角お風呂に入ろうとしたのに入れなくなってしまった。
「どうしよう……お風呂入りたいよぉ……」
昨日はすぐに寝てしまったし、よくよく考えると女の子になって一度もお風呂に入ってないのだ。正直なところかなり汗臭いと思う。
「はぁ……どうしよ……もう外歩けないよぉ……」
決めた。明日は何がなんでも村を出よう。噂になる前にここを出たい。
そんな風に若干ネガティブな感情に浸ってると扉を叩く音が聴こえた。
「はーい……」
ダウナー気味な声でボクはよろよろと扉に向かい、扉を開ける。
すると、そこにはエミリア達が立っていた。
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