第282話 剣を綺麗にしてもらおう!
「……ふむ、なるほどな」
ボク達は今、家の中に招かれてお茶を飲みながらこれまでの事を一通り説明していた。
「そ、それで、お久しぶりです……お爺ちゃん」
「ミーシャか、久しぶりだな。冒険者家業は続けているのか?」
「はい、最近は色々な場所で依頼を受けています」
「そうか、お前も頑張っているようだな」
二人の会話を聞きつつ、ボク達は出されたお茶を飲む。
「(それにしても、ジンガさんにこんな可愛い孫娘が居るなんて……)」
こう言ってしまうと、失礼だが全く似ていない。
だけど、話を聞いているとジンガさんの家系は戦士の家系だとか。
「ミーシャの話だと、ジンガさんはすっごく強いって聞いてるんですど本当なんですか?」
サクラちゃんは興味津々と言わんばかりに身を乗り出してジンガさんに迫る。
「……さてな」
ジンガさんはその言葉と共に立ち上がり、窓の外へと視線を移す。
「……元々、俺は傭兵だった。戦争に参加しては戦場で戦い、殺し合いに明け暮れていた」
懐かしむような口調で語るジンガさん。
「……だが、そんな戦いに嫌気が差してな。
それ以降、俺は戦いから一線を退いて隠居生活をしていた。
たまに依頼を受けて魔物退治をしたりしていたがな」
「え? じゃあ今でも戦えるんですか?」
サクラちゃんは目を輝かせて更に身を乗り出す。
「……こんな老いぼれに興味を持つとは。ミーシャ、面白い友人を持ったな」
「はい、ボクの自慢のお姉様です!!」
「………お姉さま?」
ジンガさんの表情が少し変わったのを見て、ボクは慌てて立ち上がる。
「あ、あのジンガさん。それで、この剣なんですけど……」
ボクは話題を変えようと、持ってきた錆びた剣をジンガさんの前に差し出した。
「……まあいい。ふむ、これが魔物の身体の中から出てきた剣か……」
ジンガさんは、ボクの差し出した剣を受け取った。
「………錆が酷いな。少し手入れが必要だが、それでも良ければ引き取ろう」
「ありがとうございます」
ボクは頭を下げて感謝を伝える。
「(これで、ようやく目的の半分が終わったかな)」
ひとまず錆を完全に落としてしまえば剣としては使えるだろう。それ以降どうするかはまだ考えてないけど、出来ればどういう剣だったのか知りたいところだ。
「では俺は作業場に入るが時間が掛かる。
それまで家の中で休んでいるといい。……一応茶菓子も用意してある」
そう言って、ジンガさんは家の中に入っていった。ボク達もその後についていくように家に上がり込む。そして、居間に戻るとテーブルの上には焼き菓子が置かれていた。
「わー! 美味しそうなお菓子ですね!」
「サクラお姉様、一緒に食べましょう!!」
サクラちゃんとミーシャちゃんが嬉しそうに声を上げる。
「ジンガさんが用意したのかな……?」
正直、こんなお菓子を用意してるジンガさんのイメージが沸かない。
「でも、ジンガさんは独り暮らしでしょ? 彼以外考えられないと思う」
「まぁそうだよね」
姉さんの言葉にボクも同意した。
「(ジンガさんの料理とか凄く気になる……)」
そんな事を思いつつ、ボク達は焼き菓子を食べ始めた。
「お、美味しい……」
焼き菓子はサクッとした食感に程よい甘さが口の中に広がり、
紅茶によく合う味だった。
「レイくんもサクラちゃんも遠慮せずにどんどん食べてね」
「うん、姉さん」
ボクとサクラちゃんは、用意されたクッキーやケーキを次々と頬張った。
「それにしてもこんな丁寧に迎え入れてくれるとは思わなかったなぁ」
以前に訪れた時も、倒れているボク達を全員家に運んでくれた。
だけど、最初の印象はかなりぶっきらぼうな感じだった。
「やっぱりミーシャがいるからじゃないかな? ほら、可愛い孫娘だし」
「えへへ、可愛いだなんて……」
サクラちゃんの言葉で少し納得した。
確かに、ミーシャちゃんが居る事で優しい性格になっている可能性はある。
「そういえば何故レイさんはミーシャのお爺さんと知り合いだったんです?」
サクラちゃんはクッキーをポリポリ食べて、飲み込んでから言った。
「当時、ボク達はダンジョン攻略中だったんだけど、敵が強すぎて攻略に行き詰ってて。知り合いにここに住んでいる人が凄腕の鍛冶師さんってことを聞いて会いに来たんだよ」
「へー、ダンジョンですかぁ。有名なところなんです?」
「有名は有名だったと思うよ。それまで何の変哲もない村だったのが、突如出来た不思議なダンジョンで、一躍冒険者達の人気スポットになったみたいだし」
「突然に? ……霧の塔みたいですね。
いきなりダンジョンが出来るってよくある話なんですか?」
「いや、無いと思うけど……」
まさかあのダンジョンを女神様が運営してたとか夢にも思うまい。
それにしてもサクラちゃんのいう霧の塔ってのちょっと気になる。
そうして、穏やかに話をしながら食事を終え、
その後に談笑をしているとジンガさんが呼びに来た。
「おい、剣の事で話があるからちょっと来い」
「あ、分かりました。……じゃあ、ボクはちょっと行ってくるね」
「みんなで行かなくていいの?」
「大丈夫だよ。剣の状態を見てくるだけだから、それじゃあ行ってくる」
ボクは席を立ち、居間を出て工房へと向かった。
そこにはある程度の錆が取り除かれた、ボクが持ってきた剣が置かれていた。
まだ作業中のようだ。
「おおぉ……」
思わず感嘆の声を漏らしてしまうほど、その金属は美しい光沢を放っていた。
ボクは綺麗に磨かれた部分を手でなぞる。その剣は、見たことのないような青い美しい刃を持ち、錆びていた部分が嘘のように輝きを放っていた。
「ありがとうございます。これなら十分使えそうです」
「……そうか」
ミーシャさんが居ないのが理由か分からないけど、
ボクと二人で話をしているジンガさんは以前会った時と同じ雰囲気だった。
「(この剣なら……)」
少なくとも、壊れた<魔法の剣>の埋め合わせとしては十分だろう。
この調子なら明日までには使えるようになりそうだ。
「その剣、普通の剣では無いな」
しかし、ジンガさんのその言葉に、ボクは剣に触れるのを止めて振り向く。
「それってどういうことです?」
「言葉通りの意味だ。その剣……普通の鍛冶で鍛えられたような武器では無い。
特別な魔法か、あるいは遥かに技術が進んだ方法で生み出された金属のようにも思える。少なくとも、鉱山で摂れるような金属では無いし、武器の製造方法も不明だ」
「そんな事が分かるんですか?」
ボクは驚きながらジンガさんを見る。
「俺はそういう事に目敏くてな。鋼でも軽銀でもなく、ミスリルでもアダマンタイトでもない。少なくとも、俺が鍛冶師として取り扱ったことのある金属ではない。……可能性があるとするなら」
「……するなら?」
「神合金――<聖剣>にカテゴライズされる武器に使用されている。
未知の金属であり邪悪を滅する『対魔物』に特化した金属だと言われている。
――もっとも、俺でも噂程度のことしか知らんが」
ジンガさんの言葉にボクは驚いた。
この剣がそんな伝説級のものだったなんて思いもしなかった。
「今の状態ではただ質の良い程度の武器でしかない。聖剣として必須である魔法石が完全に失われている。それでも俺が作った龍殺しの剣と遜色無いだろう」
<龍殺しの剣>は非常に強力な武器だ。
それこそ竜の素材を使用し、ジンガさんが鍛冶師して相当な経験を積んだからこそ作れた逸品でもある。その武器と魔法無しで同等の武器という事か。
「魔法石なら何でもいいんですか?」
「いや、聖剣に使用される魔法石は普通の魔法石では駄目だ。例えば、そうだな……」
ジンガさんは工房の奥に向かい、一つの紫色の石を持ってきた。魔法石にしてはやや濁っており、十分に磨かれていないものだった。
「これも魔法石なんですか?」
「これは魔石だ。魔法石は魔石を磨き上げ加工したものだが、この状態でも使えないわけじゃない。試しに、柄の部分の丸い窪みにはめ込んでみろ」
言われた通りにすると、刀身が淡く輝いた。
「おぉ……」
が、しばらくすると、その魔石にピキッとヒビが入った。
そして、すぐに砕け散ってしまった。
「これは?」
「それが答えだ。おそらく、その剣は魔石の魔力を吸収して成長する。
しかし、成長に必要な魔力が不足している為に、いずれ限界が来て壊れてしまうのだ」
「成長? 剣がですか?」
「それが聖剣というものだ。聖剣は使い手を選ぶと同時に、聖剣自身に意思があり人と同じように成長する。そいつらは我儘でな。自分に合わないものであれば、どんなに良質なものでも簡単に破壊してしまう」
まさか、剣が意思を持つなんて思ってもいなかった。
「……だが、魔石無しでもそれなりの武器にはなるだろう。その場合、聖剣が成長することは無い。
そのまま使っても問題は無いと思うが……お前はどうしたい?」
ジンガさんは真剣な表情でボクに問いかけた。
「…………」
ボクは少しだけ考える。
おそらくこの武器であれば、十分に戦っていけるだろう。
だけど、今までだってギリギリの戦いだったというのに、この先ただの普通の剣で戦い抜けるのだろうか。
ボクは以前に聖剣を使用したことがある。あの時は一時カレンさんに借りただけだし、全然扱い切れていなかったけどその力強さは十分感じた。
もし、この先、ボクの家族や仲間達を傷付けるような敵が現れた時……ボクは、ただの武器で彼女らを守りきれるだろうか?
それから数分、ボクはじっくり考えて答えを出した。
「……お願いします。ボクは聖剣が必要なんです」
ボクは頭を下げて言った。
いくら剣の腕を上げても魔法が強力になっても、
たとえ勇者と言われてもボクはそんなに強くない。
強くないボクが大切な人達を守るならきっとこの先、聖剣の力が必要だ。
「……そうか。なら、まず聖剣に見合う魔石を探す必要があるな」
「見合う魔石というと、質の良いものとか?」
「ただ質の良いものでは聖剣には相応しくない。
純度の高く魔力が十二分に宿った物でなければ聖剣に拒否されてしまう。
それに、良い魔石は加工が難しく、鍛冶師の技術が必要になってくる。また、見つけたとしても桁外れに高額な事も多い」
「高額って、例えばどれくらいです?」
「俺が知ってる最高の物なら、金貨千枚で取引されたのを見たことがある」
「えぇっ!?」
ボクはその値段を聞いて驚いた。
そんな大金、とてもじゃないけど用意できない。
「普通に考えれば難しいだろうな。
この世界でそれほどの価値のあるものは多くはないだろう」
「どうすれば……?」
「さぁな、何処かの街で売り出されているものを探すか、あるいは最上級の魔物を狩り続けて目ぼしい魔石を探すか……何にせよ、簡単に手に入ることは無い」
折角、強い武器が手に入りそうなのに……妥協しないといけないのだろうか。
何か他に手が無いだろうか、何か―――?
「―――!!!」
そこで、ボクはとあることを思い出した。
今から数ヶ月前に、ボク達はとある鉱山から大量の魔石を入手したことがある。売りに出して殆どは大した値も付かなかったけど、たった一つだけ、売りに出さなかった魔石が無かったか?
「……あります」
「……何?」
「……あるんです。
以前に、ボク達がとある場所に立ち寄った時に入手した魔石が。
多分、それなら――」
その魔石を手に入れた時、エミリアはこう言っていた。
『これ、売れば金貨百枚は下らないと思います』
『これほどのものになると、伝説級の武器や防具に組み込まれるレベルの魔石でしょうし』
エミリアの言葉通りであれば、伝説級の装備。
それこそ、聖剣にすら使える魔石なのかもしれない。
「そんなものを持っていたのか、それは何処に?」
「ボクが預かっています。居間に置いてあるので取ってきます」
ジンガさんにそう言い残して、
ボクは姉さん達が待機している居間へと戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます