第280話 錆びた剣を復活させよう!

「あ~……つかれたぁ……」

 ボクはベッドの上でぐったりしながら、今日一日を振り返る。昨日はあれから、村に戻ってきた村人達に事情を説明し、魔王軍の侵攻を食い止めたことを報告した。

 村人達と一緒に避難していたリーサさんとも合流出来たし、サクラちゃんも仲間と二人との再会を喜んでいた。


 そして、魔軍将ロドクの呪いを受けて、

 緊急避難としてウィンドさんに保護されていたカエデなんだけど……。


『桜井君が無事で良かったよー!! わあああああんっ!!』

 ボクに向かって小さなミニドラゴンがぶつかってくる。

 そして、ボクの膝の上でぴーぴー泣き始めた。


 この子はこの村の山頂で保護した雷龍という伝説の龍だ。

 その正体は、ボクと同一の世界から転生した中学時代のクラスメイトだ。

 名前は椿楓つばきかえで

 同郷の仲間とこの世界で再会できるとは思わなかった。


「痛いし、疲れてるから少し休ませてよ、カエデ……」

 そのカエデは何故か戻ってきた時には、

 以前の1/20くらいの大きさしかないちっちゃなドラゴンになっていた。


 あと何故かカエデは皆と会話が出来るようになっていた。

 カエデ自身も呪いで弱っており、契約の指輪で力を消耗させてしまった。

 なので今はボクと同じ部屋で休んでいる。


 何故、こうなったか昨日、ウィンドさんに尋ねたのだけど……。


『呪いによる力の制限と彼女自身が大きく消耗した結果でしょう。

 ロドクから受けた呪いは解除できましたが、彼女の力が完全に戻るまでにはしばらく時間が掛かってしまうかもしれません。それまで、<契約の指輪>による力の供給は控えた方が良いでしょう』


 とのことらしい。

 要するに、ボクが契約の指輪を使い続けてしまったのが理由っぽい。

 出会ったその日から頼りっきりだったから、ボクにも責任がある。


 なので、カエデの、

『桜井君と一緒の部屋がいいなぁ……うへへへ』

 とかいう身の危険を感じる発言にも文句を言わず部屋に迎え入れた。

 だからといってこんな引っ付かれても困るんだけど……。


『ところで、桜井君。アレ何?』

 ボクの頬にすり寄ってたカエデが右の翼を広げて指差すように見せる。

 それは、ボクの部屋の壁に飾ってある錆びた剣だった。


「ああ、これ? ドラグニルさんが最後に残していったんだ。

 剣が無くなってしまったし代わりになればなぁ……と思ったんだけど」

 ボクは改めてその錆びた剣を手に取る。龍王の形見でもあるこの剣は、心情的な意味でも手元に置いておきたかった。


『錆び錆びだねぇ……これ使えるの?』

「勿論このままじゃダメだよ。

 少しは砥石で錆びを落としてみたんだけど……まだまだだね」


 ボクはそう言いながら、錆びた剣を眺める。

 すると、そこにウィンドさんと姉さんが入ってきた。


「レイくんおはよー」

「おはようございます、レイさん。お体の方はどうですか?」

「あ、はい。大丈夫です」

 ボクが答えると、二人はボクが持っている錆びた剣に視線を移した。


「レイくん、そういえばあの龍王さん倒した後からその剣持ってたけど、それどうするの?」

「んー、どうしようか」

 錆びを落とせば使えるだろうかと思っていたんだけど、今の状態では使い物になりそうにない。以前に出会った旅人さんから多少、剣の磨ぎ方を教わったんだけどそれだけじゃ駄目そうだ。


「龍王ドラグニルの体内にあった武器ですか……ふむ」


「ウィンドさん、何か分かるんですか?」


「いえ、何かを知ってるわけでは無いのですが……。

 龍王ドラグニルと戦って命を落とした猛者は多かったと聞きます。あるいはその猛者のうち、誰かの剣だったのかもしれませんね」


「でも、何でこの剣が体内から……?」

 ボクはその話を聞いて疑問に思う。


「それは分かりませんが……龍王相手に善戦した戦士が一太刀浴びせて、そのまま残ったのかもしれません。この剣の持ち主は龍王に殺されたか、それとも……」


 ウィンドさんの話の途中で、部屋の扉がノックされた。


「レイさーん、カエデさーん。いる?」

 外から聞こえてきたのはサクラのちゃんののんびりとした声だ。


「あ、うん。ちょっと待ってね」


 ボクは部屋の扉を開ける。

 するとサクラちゃんと、その仲間の二人の女の子が部屋の外で立っていた。


「どーも、レイさん。もしかして取り込み中でした?」

「ううん、大丈夫だよ。どうしたの?」

 ボクがそう訊くと、サクラちゃんは言った。


「私の友だちの紹介をしてなかったので、

 ……というか、初対面かな? ほら二人とも、挨拶!!」


 サクラちゃんは二人をボクの前に引っ張って言った。

 前から思ってたけど、サクラちゃんって意外と押しの強い子なのだろうか。

 背中を押された二人は緊張した様子で言った。


「は、初めまして、アリスと言います! よろしくお願いします!」

 最初にアリスと名乗った子は、金髪碧眼の若干ウェーブの掛かったサラサラの挑発の女の子だ。歳はレベッカと同じくらいだろうか。小柄で見た目は西洋の可愛らしいお人形さんみたい。

 杖を持っているところを見ると、この子は魔法使いかな?


「レイだよ。よろしくね、アリスちゃん」

「は、はい! サクラと同じ勇者なんですよねっ! サインくださいっ!!」

「サイン……?」

 勇者は有名人か何かなのだろうか。


「あ、ごめんなさい。興奮しちゃって……!」

「ううん、良いよ気に――」

 気にしないでって言おうとしたのだけど……。


「うそっ、ヤダ何あれ、かわいい~!!!」

 アリスちゃんは突然目を輝かせて、ボクの部屋に入っていった。

 

 そして、

「なにこのちっちゃいドラゴンさん!!

 すっごく愛らしいんだけど!! ほら、お菓子食べる!?」

『え、何この子……って、口にマフィンを詰めようとしないでー!!』

 どうやら、アリスちゃんは隠れていたカエデを見つけてそっちに意識が向いてしまったようだ。アリスちゃんはカエデを抱きしめたまま離さない。


 突然の事に困惑していると、サクラちゃんが止めに入る。

 それでもアリスちゃんはカエデを離そうとしなくて諦めて戻ってきた。


「ごめんね、レイさん。……それじゃあ、ミーシャ」

 サクラちゃんは、もう一人の女の子の肩を叩いて声を掛ける。

 女の子は肩をビクッと震わせて、サクラちゃんに返事をしてからこっちを向いた。


「ミーシャといいます。よ、よろしゅくお願いしましゅっ!?」


 緊張し過ぎて舌を噛んだ女の子はミーシャと言うらしい。

 白髪の女の子で、長い髪を後ろに括って三つ編みにしている可愛らしい子だ。身長はサクラちゃんよりちょっと高いくらいかな。歳は多分ボクとそこまで変わらないだろう。

 剣と盾を持っているところを見ると剣士だろうか。


「えっと……ミーシャちゃん、よろしくね」

「は、はい……。あの、お聞きしたいことが?」

「なに?」

 聞き返すと、ミーシャちゃんはボクが手に持っていた錆びた剣を指差した。


「あ、この剣?」

「はい……随分と錆びた剣のようですけど……」

「ええとね、まぁ戦利品かな。倒したドラゴンの身体の中にあったというか……」

 詳しい詳細は省くことにした。多分言ってもすぐには信じてもらえないだろう。


「ど、ドラゴンの中に!? ということは……レイさんとサクラお姉様はドラゴンスレイヤーの資格を得たということですか!?」

 ミーシャちゃんは興奮した様子で熱の籠った目でサクラちゃんに詰め寄った。


「(お姉様?)」

 サクラちゃんに対してお姉さまと呼んだミーシャちゃんに一抹の不安を覚えたが、別にサクラちゃんは特に反応はしてなかった。普段から呼ばれ慣れているのだろう。


「んーと、あ……そういう事なのかな?

 でも、確かドラゴンスレイヤーの称号を得るためにはドラゴンを倒したって証明が無いとダメだった気がするよ?例えば、ドラゴンの首を持っていくとか。

 今回倒した龍王……じゃなくて、ドラゴンさんはもう死体が無いから証明は難しい、かな」


「そう……ですか、残念です。

 勇者であり豪傑であり私の最愛のサクラお姉様の新たな武勇伝が増えたと思ったのですが……」

 豪傑って、また女の子に相応しい称号じゃないね。

 っていうか『私の最愛のサクラお姉様』って、サクラちゃんはそっちの方面の子を引き寄せる資質でもあったりするのだろうか。


「ミーシャは剣が気になってたんじゃないの?」

「はっ! そうでした!!」

 ミーシャちゃんはハッとした表情をしてボクの手にある錆びた剣を見た。


「これは……かなり古い武器ですね。

 体内の血のせいか酷く錆びて刃が使い物にならなくなっています。

 でも、ここに大きな魔法石が付いてた形跡もありますし、よくよく見るとかなり綺麗に整った剣だったと思いますよ。もしかしたらかなりの名剣だったのかもしれないです!」


 ミーシャちゃんの言う通り、柄には確かに魔法石の欠片のようなものが残っていた。しかし、殆ど消耗しており、この魔法石はもう完全に死んでしまっている。


「そうなんだ……。それにしても剣に詳しいね」

「ボクのお爺ちゃんが鍛冶師でして……幼少の頃、武芸と一緒に剣の扱い方も教わったんです。まぁ、鍛冶師としては才能が無かったので、結局冒険者やってるんですけど……」

 なるほど、それなら納得だ。


「それなら修理も任せられるのかな? 使えるように修復したいんだ」


「お爺ちゃんにですか?

 でも、ボク今お爺ちゃんの居場所を知らなくて……。

 何処かの森に隠居してるとは聞いたんですが」

「森に?」

「はい……お爺ちゃん、物凄く強いんですけど人間嫌いでして……」


 人間嫌いで、物凄く強くて、森に住んでいる。

 それでいて、鍛冶師なお爺さん……。


「……どっかで聞いたことが……」

「レイさん、お爺ちゃんの事ご存じなのですか?」

「うーん……同じ人かは分からないんだけど、名前は分かる?」


 ミーシャちゃんはボクに言った。


「はい、名前は―――」

「………あ」

 その名前は知ってる。

 今回の戦いで壊れてしまった<魔法の剣>や<龍殺しの剣>を作ってくれた人。

 見た目怖くて気難しい人ではあったけど、とても優しい人だった。


 ボクが考えてると、サクラちゃんが顔を出して言った。

「レイさーん? もしかして、本当に知り合いだったり?」

 ボクはその質問に答える。


「うん、知ってる。……それに、その森にも行ったことがあるよ」

「えっ!? ほ、本当ですか?」

「うん、魔物が沢山出て結構行くのも大変な場所だよ」


 あの人、鍛冶だけじゃなくて素材の加工や魔法石の取り扱いにも精通してる凄い人なんだよね。もしかしたら、この剣も上手く修復して使えるようにしてくれるかもしれない。


「でもなぁ……距離がなぁ……」「???」


 ここまで来るのに一月以上の時間を費やしている。

 今からあの人の住む森まで向かうとなると時間のロスどころじゃない。


「そうだ、姉さん」

 ボクは振り向いて部屋の中のベッドで横になっていた姉さんに声を掛ける。


「え、なに?」

 サクラちゃんとミーシャちゃんを連れて部屋に入って、ボクは姉さんに言った。

「姉さんの空間転移で、あの森まで戻れないかな?」

「えぇー? 確かに、空間転移なら不可能じゃないかもしれないけど……今のお姉ちゃんじゃ絶対無理だよ……」


「そこをなんとか……この剣を直してもらいたいんだよ」

 ボクは手に持った錆びた剣を姉さんに見せる。


「そんなことを言われてもぉ……」

 ダメだ、姉さんに断固として拒否されてしまう。

 しかし、そこに助け舟が入る。


「……空間転移? ベルフラウさんは空間転移を使えるのですか?」

「えっ? あっ、ウィンドさん」

 忘れてた。姉さんと一緒にボクの部屋に来てたんだった。


「使えますけど……一応」

 姉さんはちょっと困った表情でウィンドさんの質問に答えた。

 ウィンドさんは、姉さんの言葉を聞いて言った。


「それなら私が協力すれば、ここから離れた場所まで一気に飛んでいけるかもしれませんよ」

「本当ですか?」

「私は嘘は付きません。一度外に出ましょうか」


 そう言ってウィンドさんは窓を開ける。

 そのまま飛行魔法で外に飛んでいった。


「ここ、三階なんだけど……」

「流石師匠……」


 流石に危ないので、ボク達は普通に宿舎から出た。

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