第278話 パーティメンバーを変更してください
あと一歩まで魔軍将ロドクを追い詰めたボク達だったが、
奴は操っていた配下を足止めに使いこの場から離脱し逃走していった。
「逃げられたか……!!」
「仕方ないわね。今は目の前の敵に集中よ!」
「はい!」
ボク達が戦闘態勢を取ると、アンデッドドラゴンもこちらを一瞥してから翼の羽ばたきを緩めてから地上へ降りてくる。それを追って、ウィンドさんも地上まで急降下し、そこでようやく竜化を解いた。
「………重労働です。疲れました」
「お疲れ、ウィンド」
「師匠がドラゴンになったの、すごく驚きましたよー!」
カレンさんとサクラちゃんがウィンドさんを労うが、二人とも視線は敵から外さない。今は目の前に大暴れしていたアンデッドドラゴンがこちらを睨んでおり一触即発の状態だ。
先ほどまで竜化したウィンドさんと戦っていただけあって身体は至る所に深い切り傷や爪跡が残っている。
力が解放した、とロドクは言っていた。
しかし、見たところ大きな違いは感じられない。
が、違うのはその眼だ。さっきまで白目を剥いて涎を垂らして如何にも正気を失ったアンデッドのようだったが、今では生気が戻りしっかりとボク達を見据えている。
闇色のオーラもウィンドさんと戦っていた時よりも膨らんでいる。身体はともかく強くなっているのは間違いなさそうだ。
「力を取り戻したことで理性が戻った……のでしょうか?」
これはレベッカの見解だ。
それが本当ならアンデッドの状態で正気が戻ったという事になる。
「今までロドクに操られていたとするなら、正気に戻った今なら話し合えるかも……?」
サクラちゃんのその言葉に、ボクも希望を抱く。
「……そういう事なら、少しお話してみましょうか」
姉さんはおそるおそるアンデッドドラゴンに話し掛けてみる。
「ええっと……あなた、正気なのよね?」
『グルルルル…………』
アンデッドドラゴンはしばらく警戒するように姉さんの方を見ていたけど、やがてゆっくりと口を開いた。
『…………話すことなどない』
「喋った!?」
ボク達は思わず驚愕の声を上げてしまう。
正気に戻っているとはいえ、アンデッドであることには変わりがない。
なのに、その口から流暢な人間の言葉を紡ぎ出したのだ。
「あ、あの……言葉が分かるならボク達の話を聞いてくれませんか?」
『………』
アンデッドドラゴンは無言だった。
しかし、話を遮ろうとする様子も無かったのでボクは言葉を続けた。
「あなたが無理矢理操られていたのなら、ボク達と戦う理由は無いはずです」
ボクは出来るだけ穏便に済ませようと言葉を選んで話す。
しかし、返ってきたのは否定だった。
『……確かに、身体を操られていたのは事実だ。
だが、私の身体は既に死と再生を何度も繰り返し崩壊しかかっている状態だ。
その状態で力の開放をしたのであれば、私はじきに自壊する。故にここでお前達と戦いを避けたところで私は朽ちて消えることになる。
そのような結末は、かつて龍王と呼ばれた私のプライドが許さぬ』
「そんな……」
ボクは絶句した。彼の言っていることはつまり、戦って死ぬと言っているようなものだ。自我を取り戻して話せるようになったというのにどうしてそうなってしまうのか……。
「……もうこうなれば戦うしかありませんよ」
「ウィンドさん……」
戸惑っていると、いつの間にか隣に立っていたウィンドさんが言う。
「アンデッドドラゴンの正体に気付きました。
おそらくこいつの正体は、龍王ドラグニル……先々代前の勇者が討伐したとされる魔竜です。龍王と自身で名乗っているので間違いないでしょう」
「龍王……?」
「ええ、龍王ドラグニル。世界の果てと呼ばれる荒れた場所を拠点とし部下のドラゴン達を率いて人間や魔物に戦いを挑んで、そして勇者に討たれた。と、英雄譚にはそのように書かれています。
子供に読み聞かせするような童話にもなっていますね。百年以上前の話らしいのですがまさか、魔王軍の傀儡になっていたとは」
ウィンドさんのその言葉に、
龍王と呼ばれたドラゴンは悟ったような表情で言った。
『……ふ、情けない話だ。
かつては大陸全土を我が支配下に置こうとしていたこの私が、骸を好き放題操られ、最期は死を待つのみか。ならばせめて最期くらいは誇りある戦いをして散ろうではないか!』
そう言って、龍王は翼を大きく広げてから戦闘態勢に入る。
『さあ、私と戦え!!』
龍王と呼ばれたドラゴンはボク達を最期に戦う敵と見定めたようだ。
「……私、疲れたのでパスしますね」
「え?」
ウィンドさんはそれだけ言って、後ろに下がってその辺の草むらにちょこんと座り込んだ。
「お姉ちゃんも、龍王さん不憫だから遠慮しようかなーって」
「姉さん!?」
姉さんも一緒になって、後ろに下がって丁度良さげな切り株の上に座って見学を決め込む。
「……私も、後輩と弟分がどれだけ成長したのか見ていたいわね」
カレンさんはそう言いながら聖剣を鞘に収めて、一歩後ろに下がる。
「えぇっ!? 先輩も戦わないんですか?」
カレンさんのその行動に、サクラちゃんが非難の声を上げる。
「ベルフラウさんじゃないけど、私も正直乗り気にならないし……」
「き、気持ちは分かりますけど……先輩無しだと私自信ありませんよ……。ね、レイさんもそう思いません!?」
「……う、うん。でも、まぁ……」
自分としても、あまり積極的に戦いたい気分にはならない。それでも、もう助からないと分かっているのに最後の望みを叶えてあげないのも……。
『……そこの勇者二人よ。
まさかお前たちも辞退するなどと言うのであるまいな?
流石に私も落ち込むぞ?』
龍皇さんが若干落ち込んでた。
そんな同情を買うような言い方をしないでほしい。
「わ、分かったよ……戦いますから……。
レベッカ、エミリア、サクラちゃん。三人はどうする?」
これで、ボク以外戦わないとか言われたらどうしよう。
エミリアは困ったような表情で言った。
「えーっと、私としては龍王と呼ばれた存在の強さに興味があるので……」
「じゃあ、エミリアは一緒に戦ってくれるの?」
「いえ、どっちかというと見学に――」
「よし、じゃあエミリアは参加ということで」
「ちょっ!?」
エミリアが抗議の声を上げてくるけど、これは決定事項だ。
「ほら、エミリア。覚悟決めよう」
「そ、そんなぁ~」
エミリアはガクッと項垂れて、それが理由でとんがり帽子がポトンと地面に落ちる。その後再び立ち上がってとんがり帽子を被りなおしてから、首を軽く振って綺麗な黒髪を揺らして、諦めたように言った。
「もう、仕方ないですね……今回はレイの我儘を聞いてあげます」
「ありがと、さすがエミリア。それで、レベッカはどうする?」
ボクは遠い目をして現状を受け入れたエミリアから、
どうしようか悩んでいる美少女、レベッカに視線を移す。
レベッカは、端正な丸くて柔らかそうな顎に手を当てながら言った。
「……わたくしも、このお方の境遇を不憫だと感じております。
しかし、戦って最後を迎えるという、その武人としての生き様に敬意を払ってみたいとも思うのでございまして……。ここは要望通り、わたくしも共に戦わせていただきます」
「ありがとう、レベッカ。
じゃあ、そういうわけでボク達は四人で戦うことにします!」
「あれ、私の意見訊かないんですか?」
赤髪の少女サクラちゃんはそのまま流されずに待ったを掛ける。
「だめ?」
「出来れば遠慮したいです」
気持ちは凄く分かる。
だけど、戦力的に不安だからここはサクラちゃんも参加してほしい。
なので、少し強引に勧誘する。
「でも、サクラちゃんも勇者だよね?」
「勇者ですけど、拒否権はあると思います」
『……』
ボクたちのやり取りを見て、龍王さんが悲しい目をしている。
さっきまで白目を剥いて戦ってた竜と同じとは思えない。
「どうしても駄目?」
「……う、うーん」
サクラちゃんが竜王の悲し気な目を見て揺れている!?
ここは最後の一押しだ!
「サクラちゃん、もしサクラちゃんが戦うのが嫌ならボクは止めないよ。でも、その前に後ろを見て」
「え、後ろ?」
そう言って、ボクとサクラちゃんは後ろを振り返る。
そこには、離れたところでこちらの様子を窺っている三人の姿があった。
一人は姉さん。
防御結界を敷いて安全を確保したから再び切り株に座っている。
完全に見学するつもりだ。
一人はカレンさん。
ボク達に任せて良いものかと少し心配そうに見つめている。
しかし、片手を剣の柄に添えているところを見ると、緊急時は戦闘参加してくれるかもしれない。
最後の一人はウィンドさん。
戦おうとしないサクラちゃんを睨んでいる。こわっ……。
「サクラ? まさか、戦わないとは言いませんよね?」
威圧を込めた笑顔のウィンドさんがサクラちゃんに問いかけた。
「……ボクが許しても、ウィンドさんが許すかな?」
「が、がんばります」
サクラちゃんが観念したように、剣を抜いて構えた。
これで、何とか四人は戦う意志を見せたことになる。
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