第274話 倒した……?

 それから数分後――

 少し痛みが落ち着いた。

 その様子に安心したレベッカはベルフラウ姉さんにボクが怪我したことを伝えに行った。

 エミリアは相変わらずボクの傍に寄り添って、支えてくれている。


「痛みはどうですか……?」

「す、少しはマシになったと思う……」

 実際はまだズキズキ痛むが、それでも最初よりは少しマシだ。


「回復効果もありますが、主に痛み止めの薬ですからね。

 ベルフラウに頼んで、回復魔法で治してもらいましょう……立てますか?」

「うん……」

 言われて、何とか立ち上がる。

 少しフラついたけど、エミリアに支えてもらって倒れずに済んだ。


「おっと……! それにしても、凄いですね。まさか一人で魔軍将を倒してしまうとは……」

「………」

 ……確かに、手応えはあった。だけど、本当に倒せたのだろうか?

「……レイ? どうしたんです? ……そういえば、剣は何処に?」

 ボクは無言で足元を指差す。

 そこには、柄だけになって刀身が完全に溶けて無くなってしまった剣の残骸が転がっていた。

「これは……レイの攻撃に耐えられなかったんですね」

 それだけじゃない。

 最近、戦う相手がどれも強敵だったせいで剣にかなり負担を掛けてしまっていた。

 結果的にはボクの魔法に耐え切れずにこうなってしまったけど、時間の問題だっただろう。


「新しい剣を見つけないとね……龍殺しの剣は今の身体には使えないし」

「まぁ、戦いは終わったことですし、ゆっくり探せばいいですよ」

「……」

 そうだ。

 とりあえず今は、この場を離れよう。

「エミリア、歩けるからもう離していいよ」

「あ、はい。でも一応、支えさせて下さい」

「……分かった」

 そのままエミリアに支えられながら、その場から離れる。

 周囲はボクが放った攻撃魔法の余波でそこらじゅうの木々が未だに燃えてしまっていた。

 ちょっとやり過ぎてしまったかもしれない。


 そして、歩いてるうちにみんなを引き連れてきたレベッカ達と合流することが出来た。


 ◆


「酷い怪我……! 待ってて、レイくん!」

 姉さんがボクの姿を見るなり、すぐに怪我の手当てを始めた。

 包帯を取って、姉さんはそこに手を当てて回復魔法を唱え始める。


 回復魔法によって痛々しかった火傷の傷が少しずつ塞がっていく。


「ごめんなさいね。レイ君達がロドクと戦ってるのは私達も気付いてたんだけど、こっちも戦闘中だったから……」

「本当っにごめんなさい! すぐに倒せると思ってたんだけど、思ったより全然強敵で……」

 カレンさんとサクラちゃんが申し訳なさそうに謝る。


「あはは、良いよ。みんな戦いに必死だっただけだし……」

 姉さんのおかげで痛みがかなり引いてきたため、少しは笑う余裕が出てきた。


「レベッカちゃんに聞いたんだけど、レイ君が一人でロドクを倒したって本当? 凄いじゃない?」

「いや、倒したというか……」

「それにしても、凄まじい魔力を感じましたね。レイ様、お怪我の方は大丈夫でしょうか?」

「うん、平気だよ」


 姉さんに回復してもらった手を軽く見せる。

 まだ痺れと痛みが残っているけど外見は殆ど元に戻っている状態だ。

 ボクがレベッカの言葉に返事をすると、レベッカは安心したように微笑んだ。


「レイくん、まだ治療中だよっ」

「あ、ごめん」

 姉さんの言葉に、ボクは大人しく回復魔法を受ける。

 大人しく回復魔法を受けていて、余裕が出てきたお陰か周りの事に少し気になることがあった。


 今この場に集まってる人数は6人だ。

 ボク、姉さん、エミリア、レベッカ、カレンさん、サクラちゃん。

 ボク達を助けてくれたウィンドさんだけここに居ない。


「治ったよ、れいくーん」

「ありがとう、姉さん」

「どういたしまして♪」


 怪我を負っていた手をまじまじと見る。

 皮が張ったばかりのようだけど以前より少しだけ皮膚が厚くなっている気がする。

 あれだけの大怪我だったのに、魔法って本当に凄い……。


「ところでウィンドさんは何処?」

 ボクは周囲を見渡すが、緑の魔道士さんは見当たらない。


「ああ、あいつは上よ」

 カレンさんの言葉に、ボク達が空を見上げる。

 空を見ると、すぐには気付かなかったが何か大きな生き物が上空で旋回していた。

 かと思えば、時々空が光り輝き、攻撃魔法やブレスが飛び交い、何かと戦っているようだ。

 戦っている相手は、アンデッドドラゴンだった。


「うわ!? 何アレ?」

「あれは……ウィンド様と、アンデッドドラゴンでございますね……」

 レベッカが答える。どうやら、未だに戦闘の最中のようだ。


「手助けしたいところだけど、あんな高くまで飛ばれると手が出せないわね」

 カレンさんの言葉にサクラちゃんが頷く。


「……まだ戦ってる?」

 自分で言葉にしていて、その違和感に気付く。


 あのアンデッドドラゴンは本来もう死んでいる。

 それをロドクの死霊術によって操られていたはずだ。

 それが今も尚、ウィンドさんと戦ってる?


「どうしたんです、レイさん?」

 サクラちゃんの声でボクは自分が思ったことを答える。


「あのドラゴンは死霊術でロドクに操られてた。

 もしロドクを完全に倒していたならあのドラゴンはもう動かないはずなのに……」

 その言葉に、みんなが表情を変える。


「それって、まさか……!」

「えぇ、もしかしたらまだロドクは生きている可能性があるわね」

 ボク達は急いでさっきまで戦闘が行われていた場所へと走る。


「っていうか、レイさん武器どうしたんです?」

 サクラちゃんはボクの空になったままの鞘を見て言った。

「ああ……うん、これだよ」

 左手で握っていた柄だけ残った剣を見せる。


「わっ!……壊れちゃったんです?」

「うん、正直ちょっと困ってる」

 もしロドクが生きてたら素手で戦う羽目になりそうだ。

 勿論、ボクにそんなこと出来ないんだけど。


「今から格闘術教えましょうか?」

「無理無理!!」

 サクラちゃんの提案を全力で断る。

「んー、じゃあどうしましょうか……? あ、そういえば先輩、予備の剣持ってませんでした?」

 サクラちゃんに呼ばれて、カレンさんが振り返る。

「予備……? 持ってるけど、使う?」

「はい! 貸してください!」

 そう言って、カレンさんから受け取った剣を受け取る。

 細身のやや長い剣で、柄の部分が鳥が翼を広げたのような装飾が施されている。

 試しに軽く振ってみるが軽くて扱いやすそうな剣だ。


「えっとね、ウチの家宝の武器だったと思うわ。

 今はこっちの聖剣使ってるけど、それまで私が愛用していた武器よ。しばらく貸してあげるわ」

「カレンさん、ありがとう」

 ボクがお礼を言うと、レベッカが心配そうな顔をしていた。

「カレン様? 家宝とお聞きしましたが……」

「ええ、私が冒険者になるって聞いてお父様が引っ張り出して渡してきたのよ。

 伝説の不死鳥を模って作られたーとか言ってたわよ。お値段もそこそこするみたい」

「お、お高いんですね……」

「でも凄いのよ、この剣。軽い割に切れ味良いし、魔物を斬っても血が付かないの。

 刃こぼれもしないし、水洗いしても錆びないし、何ならお料理に使うお野菜を斬っても問題なく使えるわ」

「そ、それは確かに便利ですね……」

「これだけ便利な機能が付いてて金貨200枚で購入したらしいわ」

「たかっ!?」

 ボクの反応にカレンさんがキョトンとしていた。

「え、高いの?」

「高いですよっ!? 」

 ちなみにボクが使用していた魔法の剣の単価は金貨10枚、龍殺しの剣は金貨30枚だ。

 魔法の剣は改良を加えたもので、龍殺しの剣も素材を持ち寄ったため格安になっているがそれを考えても高額すぎる。

 他にもレベッカが買ったミスリルの槍が闇属性魔法が使えるという強力な効果が付いてて金貨50枚。


「でも、少し前にオーダーメイドして作った馬車より安いくらいよ?」

「えっ」

 衝撃の事実にビビった。

 ボクが中古で買った時の馬車の値段は金貨10枚にも満たなかったのに……。


「か、カレンさん、金銭感覚おかしいよ……」

「そうかしら……?」

 レベッカの方を見ると無言で首を横に振っていた。

 その隣でサクラちゃんは笑っていて、エミリアは呆れていた。

 姉さんは若干恨みの籠った眼で見ている。

「私がこんなにお金のやりくりで苦労してるのにぃ………」

「まぁまぁ姉さん、ウチはウチだよー」

 若干キレ気味の姉さんを宥めつつ、自分の借りた剣をまじまじと見る。

 以前の剣と比べて明らかに高値なのは間違いないが、武器としての性能は決して低くないだろう。


 借り物ではあるが、これなら十分に戦えそうだ。

 そう思いホッとしたのも束の間―――


「……レイさん、先輩」

 サクラちゃんの言葉でボク達は周囲の様子が変化したことに気付いた。

 気温20℃程度だった周囲の温かさがいきなり3~4℃下がったような感じだ。


「……どうやら本当に生きてるみたいね」

「そうみたいだね……」

 ボク達は周囲を警戒しつつぐるりと見渡す。

 しかし、敵の姿は見えない。何処かに隠れているのだろうか。


「あれだけダメージを与えてまだ生きてるとしたら……」

 現状倒す方法が見つからない。


「アンデッドだから普通の方法では無理かもね。

 何か弱点とかないかしら? 例えば、敵を精神的に追い詰めるとか不意打ちで敵の準備が整う前に全員で滅多打ちにするとか。案外効果ありそうじゃない?」

 カレンさんの外道な提案に、ボクは苦笑する。


「うーん、少し提案があるんですけど」

 サクラちゃんのその言葉に、ボクとカレンさんは目をキョトンとしていた。

 そして、色々相談した末にボク達はその提案を受け入れることにした。

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