第273話 ロドク魔軍将最弱説
【視点:レイ】
アンデッドドラゴンと救援に来たウィンドさんが激戦を繰り広げている。
敵の死を恐れない捨て身のような攻撃をウィンドさんは軽やかに躱しつつ、風の魔法で攻撃を加えている。体格的にアンデッドドラゴンの方が圧倒的に大きく、ドラゴン形態のウィンドさんの大きさはそれよりも一回り以上小さい。
しかし、空中では体格差など関係ないようで両者共に互角の戦いをしていた。
「―――ッ!!」
アンデッドドラゴンがブレス攻撃を放つが、ウィンドさんはそれを華麗に回避し逆に風の刃を飛ばす。ウィンドさんの攻撃は精密で、敵の動きを予測しながら放つため確実にダメージを与えていた。
しかし、ダメージを与えても死霊術のせいですぐに傷が修復され、並の攻撃ではひるまずに突っ込んでくるため流石に苦戦しているようだ。
「長期戦は厳しそうですね。やはり元凶を倒さないと……」
「うん、分かってる」
戦況を見守るのを止めて地上から、
アンデッドドラゴンを操っているはずのロドクの元へ向かう。
場所は大体把握できている。
降ろされた場所から少し離れた森の近くの場所で、
ロドクは陣営を整えてボク達を待ち構えているようだった。
『来たか、勇者よ』
ロドクの周囲には、アンデッド達がズラっと並んでいる。
鎧や武器を着込んでいる人間のゾンビだ。その眼は白目を剥いており、体は損壊している。
「人型のアンデッド……」
『そうだ。我の部下達が仕留めた人間を我が死霊術で蘇生させたものだ。
貴様らも殺した後に同じように仲間に加えてやろう』
「お断りします」
「断る!」
エミリアはとレベッカは同時に言い放った。
すると、ロドクはドクロの顔でカタカタと笑う。
『良いぞ、その威勢。だが、この状況でまだ勝てると思っているのか?』
「思っていますよ」
「如何に強力なアンデッドと言えども、わたくし達の敵では無い」
二人は武器を構えて毅然と言った。
ちなみにさっきから言葉遣いが勇ましくなっているのはレベッカの方だ。
『ほぅ……では、勇者よ。貴様はどう思う?
貴様だけは我と直接戦闘していて我との力量差は理解しているだろう?』
「……」
エミリアの攻撃を弾き飛ばした魔力といい、以前ボクが追い込まれた時といい、奴の強さはどう考えても格上だ。ボク達三人で戦ったとしても通常時なら勝率は低いだろう。
でも、勝てないわけじゃない。
こいつを倒すだけの力と想いはカエデから十分に受け取っている。
だからこそ、ボク達は毅然と立ち向かう。
「答えは、こうだよ」
ボクは腰に差していた剣を右手に構えてロドクに向ける。
『ふん……所詮は子供か、己の実力すら正しく理解できていないらしい』
奴はこちらに失望したのか、呆れたようにアンデッドに命令を出した。
『アンデッド兵よ。愚かな生者共を骸に変えてやれ』
「―――ッ!!」
アンデッド兵が一斉に襲いかかってくる。
こいつらもロドクに操られているようだが、その動きは自立しており見た目よりずっと機敏だ。
しかし、それは通常のアンデッドと比較しての話。
「私の出番はまだ無さそうですね」
エミリアは後ろに下がって、敵と距離を測りながら言った。
『……何?』
エミリアの言葉を聞いて、ロドクが不機嫌そうな反応をする。
「うん、任せて」
「エミリア様は露払いが済むまでお待ちください」
ボクとレベッカはエミリアの前に立ち、彼女を守るように迫るアンデッド達を待ち構える。
そして互いに武器を取り出し、アンデッド達がこちらの射程に入った瞬間。
「はあっ――!!」
「ふっ――!!」
ボクの斬撃と、レベッカの鋭い突きがアンデッド達の身体を貫く。
更にそれでも動こうとするアンデッドをレベッカが
『……ふん、だが今のは弱いアンデッドに過ぎぬ。来い』
ロドクは召喚魔法を使用し、更にアンデッド達を呼び寄せる。
今度は人間では無く、スケルトンの群れだった。
が、それはボク達を舐め過ぎだ。
「レベッカ、お疲れ。今度はボクがやるよ」
「はい、ご武運を」
レベッカは後ろに下がり、今度はボク一人でスケルトンの群れの前に出る。
『……愚かな、行け』
スケルトンの群れにロドクは命令を下す。
ボクは剣を構えて、スケルトンたちが動き出す前に即座に斬り掛かる。
スケルトンたちも命令を受けてこちらに剣を持って襲い掛かってくるが―――。
ボクはスケルトンの攻撃を躱しつつ、
そのまま走りながらスケルトンたちを翻弄する。
そして、こちらの姿を見失ったスケルトン達から一体ずつ切り倒していく。
『……っ! 何をやっている!』
ロドクはスケルトン達に喝を飛ばすが、
ロドク自身が戦闘に加わらない限りこの状況は覆らない。
ある程度数を減らしてから僕は魔法を発動させる。
「
唱えたのは、炎属性魔法の中級魔法。
アンデッド系に有効な属性は基本的に光と炎の魔法がよく通じる。
剣から放出された炎を帯びた風がスケルトン達に襲い掛かる。
放出された炎の魔力で残ったスケルトン達を一掃する。
『……ち、仕方ない』
ロドクは再び召喚魔法を使用する。
次は再び、アンデッド達を召喚し数を揃える。
「さっきから随分と雑魚ばかり召喚しますが、あなたまともに戦うつもりあるのですか?」
エミリアは嫌味を込めてロドクに言った。
『ふん、お前こそさっきから後ろに控えているではないか。
私は死霊術士だが魔法使いだ。後ろに控えて戦うのが普通だろう』
「そんなこと言って、実は大したことないんじゃないですか?」
『ふ……魔軍将相手に言うではないか』
ロドクは腕を上げて、こちらに向かって魔法を発動させる。
『
ロドクはエミリアを対象にして強力な攻撃魔法を放つ。
紅の霧が周囲に漂い始め、エミリアを中心として大爆発を引き起こす。
『……ふん、他愛も無い』
ロドクはそれで倒したと思ったのだろう。
しかし、次の瞬間、爆発地点から炎上した炎が氷によって鎮火される。
「<
エミリアはタイミングを見計らって自身の身体に氷魔法を使用していた。
それにより、ロドクの火炎魔法を完全に相殺して無傷で済んだのだ。
エミリアは服に付着した氷をうっとおしそう払い飛ばしながら言った。
「あなたこそ、私達を侮りすぎですよ。
今はエルダーリッチのようですが、所詮あなたも元人間でしょう。元人間のあなたは魔軍将で一番弱いとかそういうポジションじゃないんですか?」
四天王の中で最弱、とかそういうベタな展開はないと思うんだけど……。
エミリアなりの挑発だろう。
「これ以上戦いが長引いても時間の無駄でしょう。レイ、そろそろやりますけどいいですよね?」
エミリアの言葉にボクは頷く。
「では、さっさと雑魚は退場してください」
エミリアの周囲から多数の魔法陣が同時展開される。
そこから大量の火球の魔法が出現し、ロドクの召喚したアンデッド達目掛けて一斉掃射される。エミリアの遠慮のない攻撃に周囲の自然まで巻き込んでいく。
攻撃対象を特定しないかなり雑な攻撃だが、
故にロドク自身にも攻撃範囲が読めず自身にも魔法が飛んでくる。
その威力も非常に高くロドクも攻撃を回避しようと後方に下がっていく。
それを見て、エミリアとボクは互いに示し合わせて頷く。
「……レイ、あいつ孤立しましたよ」
「うん。レベッカ、強化お願い」
魔法の発動を連続させながらレベッカに指示をする。
「はい……レイ様、お受け取りください。
レベッカの強化魔法が入ってボクの身体に銀のオーラが宿る。
更に、それに上乗せしてさっきカエデから借り受けた力を解放する。
『む……その魔法……!』
ロドクが反応したのはレベッカの強化魔法の方だろう。
契約の指輪の方の増幅効果にはまだ気付いていない。
「では、レイ。受け取ってくださいね!
エミリアの攻撃魔法がボクに向かって放たれる。
ボクは剣を天にかざし、エミリアの放った攻撃魔法を剣へ吸収するように受け止める。
『……何だ、その魔法は!?』
ロドクの驚きを無視して、その上から更に自身の
二人分の攻撃魔法がボクの剣に集束させているため、自身の腕にもかなりの熱さを感じるが今は無視。残った周囲のアンデッド達を焼き尽くしながら一直線にロドクに向かって駆け出す。
『くっ……! アンデッドよ、我を守れ!!』
ロドクの命令によってアンデッド兵はロドクの元へ下がろうとする。
しかし、その前にボクの剣から放たれる炎によってアンデッド達は逃げ惑い消滅していく。
ロドクは再び飛行魔法で上空に逃げながらこちらに向かって魔法を放つ。
『何をやったかは分からんが、我に魔法で勝てると思うな!!
ロドクは先ほどよりも大きな規模の魔法を放たれる。その規模は今まで見た中でも一番大きく、まるで巨大な爆弾でも落とされたような衝撃が周囲に走る。
「ぐっ……」
「きゃあぁ!?」
「うわあああっ」
極大の魔法が地上へと投下される衝撃で周囲が揺れ始める。ボクは何とか踏みとどまろうとするが、上空から迫ってくる空爆攻撃に対して立ち向かうだけの力は無い。
しかし、爆発の着弾地点だけは予想できた。
自身に掛かってる強化を最大限に行使し、着弾する前にその場を駆け抜ける。
普段ボク自身が出せる速度の比ではない速さで走り抜け、爆風が収まる前にロドクが居るであろう場所まで辿り着く。
『何だと……!?』
驚愕するロドクの姿が見えると同時に、大きく地面を蹴り上げ跳躍する。
同時に後方で起こった爆風を自身の勢いに乗せて、一気にロドクが飛んでいる場所まで跳ぶ。
「てやあああああぁぁぁぁぁ!!!」
契約の指輪から流れてくるカエデの魔力とレベッカの強化、そして自身に溜めこんで増幅した魔力を一気に放出し。それを剣に込めて解き放つ。
ボクが放った渾身の一撃は、上級獄炎魔法の十倍の熱量を伴いロドクの身体に叩き込む。ロドクの黒装束の鎧はいとも容易く溶解し、骨だけの身体を高熱で溶けていく。
『ガアァッ……馬鹿な……この我が……』
ロドクの身体は頭蓋骨以外熱と衝撃で粉砕され、その一撃の勢いはそれだけに留まらない。命令で地上に待機していたアンデッド達は放出された魔力がまるで熔岩の波のように襲い掛かってきて、次々に飲み込んでいく。
一面焼け野原になったその光景を目に焼き付けると同時に、魔力を放出しきったボクはそのまま勢いを無くして地上へ降り立つ。
「……はぁ……はぁ……」
流石に、今の一撃はロドクにも効いただろう。
だけどボク自身の魔力も相当消費してしまった。それに何より……。
「剣が………」
ボクが使用していた剣の刃の部分が熱量で衝撃で完全に砕けてしまった。魔法の剣という魔力を増幅する効果と魔法耐性を持つ強力な武器だが、流石に限界が来たようだ。
「ぐっ…………!!」
ボク自身も炎の魔法に耐えられず右腕の肩まで大火傷を負ってしまった。柄だけになった剣を辛うじて握っているけど、手首は特に酷く焼け爛れておりまともに動かすことが出来ない。
ボクが火傷の痛みで呻いていると、
後ろからこちらに向かって駆けてくる二人の足音が聞こえてくる。
エミリアとレベッカの二人だった。
二人はボクの怪我を確認すると、酷く表情を硬くして傍に駆け寄る。
「レイ様、ご無事ですか!? ……っ! ひ、酷い火傷……」
「ま、待っててください。
今、新しく生成しておいた痛み止めのポーションを使いますから! 」
エミリアは自身のスカートの中に隠れていた薬ビンを取り出して、ボクの腕に振り掛ける。
振りかけられた青い液体が傷口に染み込み、鋭い激痛を感じた。
「い、いったいぃぃぃぃ!!!」
思わず体を大きく仰け反らせてしまう。
「痛いのは分かりますけど、動かないでください!ちゃんと塗れませんから! レベッカ!!」
「はい。……レイ様、大丈夫でございますから……」
ボクはレベッカに強く体を抑えられ、そのままもう片方の手で身体を支えられる。その間にエミリアは火傷した腕に薬を塗り込み、自分が着ていた服の袖を破ってそれを包帯代わりに巻いてくれた。
そうして、しばらくボクは痛みに耐えながらエミリアに治療してもらった。
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