第266話 単独行動
エミリアが単身で森へと向かう少し前に時間は遡る。
【視点:レイ】
カエデがワイバーンたちを引きつけている間に、はぐれたサクラちゃんとカレンさんを捜索する。森の中は、意外と湿気も少なく見通しも良い。朝日が差し掛かっているお陰でそこまで暗いわけでも無さそうだ。
「これならすぐ見つかるかな……?」
ボクが着地した地点はサクラちゃん達が着地した地点より少々ズレている。
でも彼女たちが動いてなければ、そこまで時間は掛からないだろう。
――数分後――
「おかしいな……」
森を走り回ったにも関わらず彼女達の姿は見当たらない。
もし仮に着地で怪我をしたのであれば、彼女たちは動くことは出来ないはず。
無傷だったとしても、彼女たちはわざわざ動かずに待っているはずだ。
「………」
少し考えを巡らせよう。
ボク達は魔王軍の配下と思われるワイバーンとそれに騎乗するゴブリンと戦うことになった。結果、半分くらい事故だが二人が上空から落下しそれをボクが追ってきた。
降りた地点はそこまで離れていない。
しかし、二人の姿は見当たらない。数回大きく声を掛けたが返事も無い。
となると、二人が移動してこの場にはもう居ないと考えるべきだろうか。
「……そうなると、森の出口に向かったのかな」
上空から見た感じだと西に進めば、森から出られそうだった。二人もそこに向かったのだろうか。カレンさんも居ることだし、分かってないなら適当に進んだりしないだろう。
「よし、なら早速――!?」
早速移動しようとした矢先に、何者かの声が少し離れた場所から聞こえた。聞き覚えの無い声だったようなので、木の傍に寄りかかって一旦身を隠すことにした。
木の根元にしゃがんで隠れ、周囲を伺う。
すると、何者かの集団の足音が聞こえてきた。何かを話しているようだ。
「おい、さっきの人間は見つかったか?」
「いや、まだだ!」
「くそっ! あの青髪の女、突然襲い掛かって来やがって! 先行して進んでたコボルト隊が全滅しちまった!」
「アークデーモン様も赤髪の女に襲われて負傷しちまった! このままだと、ロドク様の計画が狂っちまうぞ!!」
「上空のワイバーン隊も何故か見当たらねぇしどうなってんだ!?」
会話の内容的に、奴らは魔王軍側の人間だろう。
上空で交戦したワイバーンたちもこいつらの仲間で間違いなそうだ。
しかも、青髪の女と赤髪の女というのにも覚えがある。
カレンさんとサクラちゃんの特徴に合致する。
「(なるほど……)」
二人は森に着陸した際に運悪く魔王軍と遭遇してしまったようだ。
『さっきの人間は見つかったか?』という言葉を前向きに捉えるなら、彼女たちは掴まったり殺されたりはしてなさそうだ。今も森の何処かにいるか、敵の目を掻い潜って何処かに隠れているのだろう。
ボクがそう考えを巡らせていると、また別の方向から声が聞こえてきた。
声が聞こえてきた方に視線を移すと、十数メートル先に羽の生えた悪魔が、大声で何かを話し合っている。
「大変だ! ワイバーン隊が上空から墜落してきたぞ!!」
「な、何だって!? 本当か!?」
「ああ、生き残ったワイバーン隊のゴブリンの話によると、青いドラゴンが途中で襲ってきたらしい!」
「ロドク様の元に向かって報告してくる!!」
「頼んだぜ!!」
そういって、悪魔の一体が空を飛んで東の方へ飛んでいった。
……青いドラゴン。カエデのことだろう。
先ほどから名前が挙がっている『ロドク』というのは、山頂で魔王軍に連絡を入れようとしてた男の名前だ。
捕まえた偵察の悪魔を情報によると魔軍将ロドクという名前らしい。
ここに居る奴らも全員そいつの部下として考えて良さそうだ。
「(参ったな……魔王軍の本隊と鉢合わせするなんて……)」
敵の数を減らす目的はあったけど、直接戦闘は避けるつもりでいた。
こうなってしまうと、無事生還できるかどうかわからない。
孤立状態で、敵の大将に万一遭遇したら勝ち目が無い。
「(すぐ逃げたいけど、二人を探さないと……)」
あの二人がこんな奴らに負けるとは思わないけど、多勢に無勢な状況で敵の大将と遭遇してしまえばかなり危うい。
「――おい、そこにいるのは誰だ?」
そんなことを考えていると、後ろから声を掛けられた。
「――っ!?」
ボクは咄嗟に振り返る。
そこに立っていたのは、さっきまで後ろの方で話していた魔物達だった。
「こいつ、探してた女か?」
「いや、髪の色が違うぜ? まぁ、俺らには髪の色以外差がわかんねぇけどよ」
「ということは別人か。どのみち、生きて帰す気はねえがな」
見つかってしまったか……。
ボクは一歩下がりながら腰の剣を抜く。
「お、俺たちに歯向かう気か?
止めとけよ、お前ら並の人間じゃこのレッサーデーモン様には――」
「黙れ」
ボクは一言短く口にすると同時に、
一番近くに棒立ちしていたレッサーデーモンの首を斬り落とした。
「な……!?」
「こいつ、さっきの奴らの仲間か……!」
「ろ、ロドク様に報告を……!!」
ボクの行動を見て、他の悪魔たちは明らかに動揺している。
「悪いけど、魔軍将に報告を入れさせるわけにはいかない。
今殺したデーモンの言葉を借りるなら『キミ達を生きて帰す気はない』」
ボクはそう言うと共に、再び正面の魔物に斬りかかる。
「ぐあッ……!!」
魔物の両腕が宙に舞い、無防備になったところで首を斬り落とす。
「くそぉ!!」
「ひぃ!! 助けて……!!」
悪魔達は必死になってこちらに攻撃魔法を放ってくる。
ボクは、木の影に移動しながらそれを回避していく。そして、そのまま敵の背後に回り込み、一体ずつ敵の身体を切り裂いて止めを刺していく。
断末魔を上げながら倒れていく悪魔たち。
そして、残ったのは既に腰を抜かして地面を這いずるデーモンだった。
ボクは残った悪魔の首元に剣を突き付ける。
「ヒィィィッ!?」
剣を突き付けると同時に、悲鳴を上げる悪魔。
どうやら、もう戦うだけの戦意は残っていないようだ。
なら、少しくらい情報を訊き出せるだろう。
「オマエ達が探している人間は、赤髪と青髪の女性で間違いないか?」
「わ、わかった、教えるから命だけは……」
「それは良かった。なら、すぐに教えてくれ」
「あ、あいつらは突然空から落ちてきて、何事かと思ったらいきなり俺たちに剣や攻撃魔法を向けて襲って来やがったんだ……。その後、部隊長に斬りかかって、逃げていった……!」
「逃げた方角は?」
「に、西だ」
「そうか……オマエ達の上司……ロドクはこの森に来ているのか?」
「い、いや……魔軍将ロドク様は、まだ森に入っていない……」
「……そうか、ありがとう。もういいよ」
ボクはそう言って剣を首に寄せると、悪魔は恐怖のあまり気絶してしまった。
「……気絶しちゃった」
生かす気は無かったけど、こうなると流石に止めを刺しづらい。
仕方ないので、そのまま顔だけ地面に埋めておいた。
「よし……カレンさん達は西に行ったと言ってたな……」
西は森の出口の方向だ。そこまで行けばきっと会えるだろう。
そう思い、ボクは足早に移動を開始した。
【視点:カレン】
「ここまで来れば大丈夫かしら……」
サクラの飛行魔法で森の中に着地したまでは良かった。
でも運悪く魔王軍の魔物達が進軍中だったため、私達は仕方なく魔物達を討伐しながら移動していく。ここまでの連戦はするつもりは無かったのだけど、
「せんぱーい、何も考えず西に進んできましたけど大丈夫です?」
私の可愛い幼馴染が剣を鞘に仕舞いながら訊いてくる。しばらく見ない間にサクラは装備を新調していたようだ。前に付けてた鎧も可愛かったんだけど、今の装備も凛々しくてこれはこれで素敵ね。
しかし、なんて答えようか……。
適当に進んだだけでノープランだと言ったら呆れられそう。
「――もちろんよ」
ここはいつも通り、自信満々で答えよう。
仮に間違ってたとしてもレイ君が助けに来てくれるでしょ、多分……。
「良かったぁ……。私、空飛んでる時は必死で余裕なくて……先輩が助けに来てくれて助かりましたぉ」
「私も驚いたわよ。急に空から落ちていくんだもの」
「ごめんなさい。師匠から瞑想の訓練をする時に、同時に飛行魔法のイメージをするように言われてたので、ああやって魔法に集中すると誤爆しちゃって」
もう、サクラったらうっかりさんね。
私が居ない時は大丈夫だったのかしら、今更だけど心配になってきた。
「それにしても偶然魔王軍と遭遇しちゃって、私達何気にピンチじゃないです?」
「大丈夫よ。私も一緒だし、これを機に敵を倒すだけ倒しておきましょう。そうすれば、敵の進軍を遅らせられるでしょうし、何なら撤退まで持ち込めるかもしれないわ」
「さすが先輩……考え方も豪快ですね」
「ふふん、サクラがどれだけ強くなってても私は先輩なのよ!」
サクラが勇者になったとしても憧れの冒険者であり続けないとね。
英雄とか言われて私は周りから評価されてるけど、最近だとサクラやレイ君も私と大差ない気がするし、追いつかれちゃいそうで焦ってるわ。勇者って凄いのね……。
「さ、そうと決まれば行くわよ。
森の出口を目指しながら出会った魔物全て倒していくわよ」
「はーい」
そして、森の中を歩きながら遭遇する魔物を片っ端から倒していった。
念の為にレイ君が私達の足取りを追えるようにしておかないとね。
「サクラ、弱い魔物は敢えて止めを刺さないように」
「へっ? なんで?」
「完全に殺しちゃうと魔物が消えちゃうからよ。
レイ君が私達を探しに来る可能性があるし、通った道が分かるように生かさず殺さずギリギリに留めておきましょう」
人間の持つ武器は浄化の魔力が宿っている。
その武器で魔物の命を完全に奪うと魔物は霧のように体が溶けて消えていく。
なので、完全に命を奪わないように加減する必要がある。
「それなら私に任せてくださいー!」
そう言いながら、サクラは両手の短剣を鞘に仕舞う。
「たああああああっ!!」
そして、無手で魔物に突っ込んで蹴散らしていく。
「………」
素手でボコボコに殴られて倒されていく魔物を見ながら私は思った。
「(もう素手だと私より全然強いわね……)」
強くなってくれて嬉しいような悲しいような……。真っ当に剣や魔法で強くなってくれることを期待したのに、何故素手でそんなに強くなってしまったのか。
複雑な想いを抱きながら私は先を急ぐことにした。
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