第265話 べ、別に大好きってわけじゃないんですからね!!
【視点:エミリア】
「遅いですね……」
レイがサクラとカレンを連れていって数十分経ちます。
私と約束したので、すぐ帰ると思っていたのですが……。
「やっぱり私も付いて行けば良かった……」
帽子をくしゃくしゃしながら悩んでいると後ろから声が聞こえてきた。
レベッカとベルフラウの二人だった。
「レイくんが帰って来たら忙しくなりそうねー」
「そうでございますね。今の間に準備体操でもしておきましょう」
「じゅ、準備体操?」
「はい、軽く体を動かすのです。ベルフラウ様もご一緒に」
「え、えっ?」
レベッカが槍を取り出して、演武のような動きでゆっくり動き出す。それを見ながらベルフラウはぎこちない動きで自分の杖で似たような動きで真似をする。
私はそれをボーっと見ている。
「(呑気ですねぇ)」
それが二人の良いところでもありますが、レイが心配では無いのでしょうか。
少なくとも表面上、レイをそこまで心配しているようには見えません。
「―――ふぅ、お疲れ様でございます」
「――お、終わったのね……半分くらいしか真似できなかった」
二人の準備体操?は終わったようだ。
そのまま二人はこちらに振り向いて、声を掛けてきた。
「それで、エミリア様。レイ様が心配のご様子ですね」
「さっきからそわそわしてるもんね」
「う……」
見られていたみたいです。
「いえ、私も別に心配はしてませんよ?
案外のほほんとした三人なのできっと道草でも喰っているのでしょう。
帰ったらしっかり怒ってあげますよ」
私は、帽子を被りなおして余裕の表情に切り替える。が、
「ふふふ、レイ様の事ばかり考えていらっしゃいますね……」
「えっ!? べ、別にそういうわけでは……!」
「エミリアちゃん……今更隠さなくてもバレバレなのに……」
「うぅ~……」
二人にはバレバレだった。
恥ずかしくて顔が熱くなってきました……。
「しかし、それなら何故エミリア様が同行されなかったのですか?」
レベッカの言葉に私は一瞬肩を震わせる。
「どうしたの? エミリアちゃん」
「ふむ……何か理由がおありなのでしょうか?」
二人が私をじっと見て、答えるのを待っている。
い、言ってしまうと、私の女としての尊厳が………。
「エミリア様?」
「どうしたの? 顔が赤いみたいだけど回復魔法使う?」
二人が私を心配して、更に顔を近づけてくる。
言いたくないけど、言うしかありませんね……。
「その……女の子のレイが可愛すぎて直視できなくて……」
私がポツリと呟いて、それから数秒間が空いて。
「エミリア様……」
「エミリアちゃん……」
二人がちょっと呆れた顔をしながら言った。
「そ、そんな目で見ないでください!!
私だって自分がちょっとおかしいのくらい自覚してますよ!!」
何で女の子の私が、男の子だったレイを綺麗だの可愛いだの思わなきゃいけないんですかね!!
気のせいかもしれないけど、最初に女体化した時よりどんどん綺麗になってる気がしますし、その割に本人は自覚なさそうですし、本当にイライラします!!
「いえ、思ったよりも微笑ましい理由でしたので」
「今のレイくんって本当に可愛いからエミリアちゃんの気持ちも分かるわ」
二人は私に同意してくれてるけど、動揺してたの私だけ……?
レベッカもベルフラウも今のレイに負けないくらい可愛いから、自分基準なのかもしれませんが……何か、私だけ普通だって自覚してしまってヤな感じです。
「はぁ……」
思わずため息をついてしまいます。
「わたくしも今のレイ様はお綺麗だと思います。
ですが、普段の凛々しい男性のレイ様も力強さとお優しさと、わたくしをいつも気遣って下さって、それでいていざという時は力強く抱きしめてくださり……」
その後、レベッカは緩んだ表情を浮かべながら、
「わたくしはやはり男性の時のレイ様の方が……」と締めくくる。
レベッカは、恋する乙女のような表情で空を見つめている。
気のせいかもしれませんが、目にハートマークを浮かべてますね。
「そ、そうですか……」
「レベッカちゃんの愛が予想よりも深くてお姉ちゃん驚くわ……」
……この際、ベルフラウにも聞いておきたいですね。
「ベルフラウは今はどう思ってるんです?」
「女の子のレイくんの事? そうねぇ……正直、カレンさんの気持ちがちょっと分かったかも」
カレンの気持ち?
「ほら、女の子が好きっていうアレ」
「えぇ……!?」
まさかのカミングアウトを聞いてしまいました。
「レイくんが、そのエミリアちゃんに悪戯されてた時に、エミリアちゃんが羨ましかったくらいよ。お姉ちゃんじゃなくてエミリアちゃんの手であんな切なそうな表情を―――」
「そ、その辺で……分かりましたから」
「そう?」
これ以上聞いていると戻れなくなりそうなので言葉を中断させました。
私は別にレイを性的な意味であれこれしたつもりは無かったんですけど、思いの外ベルフラウには刺激的だったのかもしれませんね。
「あの、ベルフラウ様……それは、わたくし達にもそのような感情を――」
「(レベッカ、ストップ)」
レベッカの口元を手で押さえながら小声でレベッカに話す。
「むぐぐ……」
余計な事を聞いてしまったのは私ですが、
返答次第で私達の友情が何か別のモノに塗り替わるのだけは避けなければ。
「そ、それは良いとして、男のレイの事はどう思ってるんです?」
「それはまぁ、私とレイくんは姉弟って関係は守らないとダメだし……。
最近は、私の事をあんまり意識してくれなくなってる気がするから良い傾向なんだけど、私としては複雑な心境ねー」
ベルフラウはレイが家族としての関係を望んだから今の立ち位置にいる。
もし、違う関係を望んでいたら、もしかしたら私達との関係も変わっていたかもしれない。
「ベルフラウ様は異世界の女神様だったとお聞きしましたが……」
「女神様だった人が一人の人間と家族になるって思い切りましたね」
レベッカと私の言葉に、ベルフラウは少し大人びた表情を浮かべて言った。
「あの子は私にとってそれだけ大事な存在だったのよ。
新人の時からあの子の事をずっと見守ってたし、両親と死に別れしたことも考えると放っておけなくて……」
「……」
「……」
その言葉で私たち二人は黙り込む。
仲間でも踏み込んではいけない事項というものがある。
その一つが過去の事だ。
本人が語ってくれるまで、冒険者は過去を探らないのがマナーなのだ。こうやって話してくれるということはそれだけ気安い関係になれたということだろう。
「(女神様に冒険者の常識を当てはめるのはどうかと思いますが)」
心の中で苦笑する。
「で、エミリアちゃんはどう思ってるの?」
「えっ?」
「それは、わたくしも興味がございますね」
「う……」
「私達には散々言わせておいて、自分は言わないのはナシよ♪」
「エミリア様、お覚悟くださいね♪」
これは、逃げられそうにないですね……。
「わ、分かりましたよ……」
その後、二人に散々根掘り葉掘り聞かれました……。
◆
ようやく二人に解放されてから、
結界を張っていたはずのウィンドさんが帰ってきました。
「お待たせしました。レイさんはまだ帰ってきてないようですね。
雷龍が居ないのは当然としても、サクラとカレンも居ないみたいですが……」
「二人も一緒に飛んでいきましたよ。結界の構築は終わったのですか?」
「えぇ、ひとまず村に被害が及ぶような事は無いよう防御結界を多重に張っておきました。並の魔物では入ることすら出来ないでしょう」
「それは何よりです」
ウィンドさんの報告にホッとする。
命が助かっても帰る場所が無くなるのはあまりにも酷ですからね。
「しかし、レイさん達は何処まで行ったのでしょうか。
このままだと魔王の手の者が迫ってきても対応が難しくなりますよ」
「……そうですね」
ウィンドさんの言葉を聞いて私は少し考え込む。
「(時間的に考えると、そろそろ近くに来ていてもおかしくありませんね)」
この山から東に10キロ先に広い範囲の森がある。あそこを通れば魔物が近づいてきても私達がすぐに気付かない可能性があります。もし、魔物達が気配を消して近づくのであれば、あちらのルートが最適でしょうか……。
「あの、ウィンドさん。この辺りには森がありましたよね」
「三人の捜索に行くつもりですか?」
「はい、向かった方向も一緒ですからね。万一、レイ達が雷龍の背中から落っこちて、たまたま進撃中の魔王軍と鉢合わせして大ピンチなんてことも無いとは言えません。村に結界が張られているのであれば、私達も少しくらい離れても大丈夫でしょう」
「私が近くに居ないと結界の維持は出来ませんよ?
それに、いくら防御結界といっても限界がありますから」
「では、ウィンドさんはここに残ってください。
私は森の方まで向かってレイ達の捜索と、魔王軍が隠れ潜んでいないかだけ確認してきます」
それだけ言って私は、崖に向かう。
「エミリア様、お一人では危ないのでは……?」
「私達も付いて行きましょうか?」
二人の申し出は有り難いのですが、
捜索の一点に絞るなら私単独の方が動きやすいんですよね。
丁度、良い魔法を覚えましたし……。
「大丈夫ですよ。空からの捜索なら私一人の方がやりやすいですし」
「空の……?」
レベッカは疑問符を浮かべる。説明するより実践して見せた方が早そうですね。
「方向は……こっちで良いですね。
――我が求めるは大気の力、我が望むは疾風の如く、強大なる風の力よ、
私をその地へと運べ……
魔法を唱えて、私の身体は浮かび上がる。
そのままイメージしながら私は空中で動けるか試してみる。
「よしよし……自力で初めて使う魔法ですが、ちゃんと扱えそうです。
こういう事ですよ、レベッカ。今の私では自分一人が精一杯なのでレベッカまで連れていけないんです」
「飛行魔法を習得出来たのですね……!
なるほど、確かにわたくし達がいると足を引っ張ってしまいそうですね……」
レベッカは少し申し訳なさそうに言った。
「エミリアちゃん、飛行魔法じゃないけど私も一応飛べるわよ。ほら」
ベルフラウは私と同じように、女神パワーで空をプカプカ浮き始めた。ただし、私ほど早く飛べそうにないし、何よりベルフラウが空を飛ぶと発光するせいで目立ってしまう。
「申し出は嬉しいですけど、今回は私に任せてください。二人とも、もしもの時はお願いしますね」
「分かりました。エミリア様も気をつけて」
「無理しないでねエミリアちゃん」
「えぇ、ありがとうございます」
そして、二人に見送られながら私は初めて自力の飛行魔法で空へ舞い上がっていった。
◆
それから二十分程飛び続けて、ようやく森が見えてきた。
「さて………」
上空から森の様子を伺う。すると、木々の間から黒い煙が上がっているのが見えた。
「あれは……? ……いえ、今はそれよりレイ達を探しましょう」
更にスピードを上げて森に向かって飛ぶ。
やがて、その正体が分かった。
「これは……」
森の中で火の手が上がっている。おそらく、ここで戦闘があったのだろう。
いや、あるいはまだ交戦中かもしれない……。
「嫌な予感が当たりましたね……!!」
おそらく魔王軍の魔物達、そしてそれらと戦闘しているのはレイ達だ。
「急ぎましょうっ……!!」
私はさらに速度を上げ、森へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます