第264話 外道
――一方、その頃――
【視点:魔王軍、魔軍将サイド】
「――魔軍将ロドク様、大変です!!」
進軍中、我が配下の悪魔たちが急に慌ただしくなった。
どうやら、先行させておいた部隊の監視役が戻ってきたらしい。その後、我らの部下の悪魔共が騒ぎ始めた。一体なんだというのだ。
『騒々しいぞ、何をそんなに慌てている?』
「そ、それが……先ほど、大きな青い龍の姿を確認しました……!」
『――青い龍、だと?』
「は、はい……それで、先行していた部隊がその龍に襲われてしまい、先行部隊が半壊! 特にワイバーン隊の被害が甚大でして―――!」
「チィ……!!」
まさか、このタイミングで現れるとは。
ワイバーン隊は先行部隊の最大戦力だ。先に雷龍が住み着いていた山頂に空から向かわせるために編成しておいたが、まさか仇になってしまうとは……。
『すぐに部隊を再編成しろ。今すぐ迎撃に向かう』
「し、しかし……まだ、我々の部隊は半分近く残っていて……」
『構わん。その龍、おそらくだが、我らが求めていた雷龍に相違ない』
「なっ……!?」
雷龍は報告では暴走状態が続いているとある。
となれば、雷龍自身が我ら魔王軍だけに狙いを絞って襲い掛かってくるという事は考えられない。何者かが操っているのだろう。そして、最も疑いがあるのは、魔軍将サタン・クラウンだ。
『(サタンの奴め……!)』
定時連絡を無視したため雷龍に敗北したとばかり思っていたが……。
奴は魔軍将の中でも一年半前まで封印されていた新参者だ。故に、魔王軍内でも魔軍将で末席として扱われ、さして重要な任務に就いていなかった。
そして数日前、
奴は雷龍を捕獲、洗脳を施し、魔王軍に取り入れる計画を進言してきおった。
初めは、戦力強化のためにと賛成したが……。
それはカモフラージュで、本来の目的は我らに反旗を翻すのが目的か?
せっかく、封印を解いてやったというのに、恩知らずめ!!
「ど、どうかされましたか? 魔軍将ロドク様」
『なんでもない。とにかく、先行部隊に急いで通達してから一旦兵を引け、どのみち並の魔物では歯が立たんだろう。我が直々に出向くしかあるまい』
『(あの龍を使って、我らに歯向かうか、サタンめ……!)』
雷龍の真名はエージェント・オブ・ドラゴン。
あの龍は二柱の女神から力を借り受け、有事の際に現れる忌々しい存在だ。そんな奴をサタンが手駒にして従えたとするなら魔王軍にとって厄介な存在になる。
『(しかし……奴はいつから裏切りを考えていた?)』
地下遺跡で奴の封印を解いてやった時、これから生まれるであろう魔王様に忠誠を誓っていたはず。
あの時から既に考えていた?
しかし、封印を解く際に、我らは利用価値のある存在には刷り込みを行う。
奴にも十分な効果があったはずだが……。
考えても思い当たらない。
だが、どのみち雷龍が我らの敵に回ってしまったのは事実だ。
サタン・クラウンが万に一つ雷龍に敗れたことを考慮に入れて、兵を向かわせて、我も直々に出向いているが、最悪サタンとの戦闘も視野に入れねばならんか……。
『……忌々しい』
――しかし、事実はそうでなかったようだ。
最初の報告とは別の、先行部隊と第二部隊を繋ぐ連絡役から新たな情報が入った。
通信魔法を通して、私に直接声が届く。
「魔軍将ロドク様! 先行部隊が人間たちに強襲を受けました!!」
『なんだと?』
馬鹿な、まさか人間とエージェント・オブ・ドラゴンが手を組んでいる!?
奴はサタン・クラウンが手駒にしたのではなかったのか!?
『どういうことだ? 魔軍将サタン・クラウンや、奴の配下であるガルーダやアークデーモンの姿は?』
「そ、それが……一切そのような姿は見られず……!」
……まさか。
『………そうか、そういう事か』
なるほど、魔軍将サタン・クラウンは我らを裏切ったわけではなかったようだ。
「ど、どういうことでしょうか?
冒険者達が団結して我らに歯向かってきたと、私達は考えていたのですが……」
「―――愚か者が」
「!? も、申し訳ございません!!」
我の言葉に、悪魔や周囲の魔物達が恐怖し地に膝を付け首を垂れた。
吐き捨てるように呟いた言葉は、別に配下の悪魔たちに向けられたものではない。
今のは、我自身に向けた叱咤だ。
『(この程度の事も見抜けぬとは、情けない)』
おそらく、魔軍将サタン・クラウンが我々を裏切っていると、そう思わせるためにエージェント・オブ・ドラゴンを利用したのだ。
そして、それを考案したのはおそらく……。
『―――勇者だ』
「なっ!? ゆ、勇者……? しかし、人間社会において勇者は未だに誕生の兆しが見えないと、人間に化けている調査兵の報告があります」
『それは間違いだ。既に以前から勇者らしき魔力の兆候が見られている。それを人間どもが我らに情報を流さないよう、情報封鎖しているだけに過ぎない』
「そ、そんな……なぜ、その様な事を……!」
『決まっている。魔王様の復活を阻止するためだろう』
「――ッ!! まさか、そんな事が……!」
『あり得る。でなければ我らにエージェント・オブ・ドラゴンを差し向けるような真似は出来ないはずだ。あの龍、おそらく神か、その啓示を受けた勇者で無ければ人間の言う事など聞くまいて』
おそらく、勇者は何処かで雷龍の存在を知ったか、サタン・クラウンの事を嗅ぎつけたのだろう。サタン・クラウンは人間社会に溶け込み、内部から崩壊させる役割を担っていたはず。
その時に、おそらく正体がバレてしまい勇者に追われていたに違いない。
急に、エージェント・オブ・ドラゴンの捕獲の進言をしたのは、自身の立場が危うくなったため挽回するためだったのだろう。しかし、結果、自身と配下は敗北、更に勇者とエージェント・オブ・ドラゴンが結託してしまった。魔王軍にとって痛手だ。
「と、なると……やはり、サタン・クラウン様は」
『案の定、勇者に討伐されたのだろうな。おそらく、エージェント・オブ・ドラゴンは今は勇者の側に付いてしまっている』
こうなってしまえば、我らも早急に魔王様の復活を急がねばならない。
だが……。
『サタン・クラウンめ、余計な真似をしよって! これでは計画が狂うではないか!!』
「ひっ……! は、早く、このことを他の魔軍将様にお伝えせねば……!!」
――他の、魔軍将か。
『待て』
「……?」
これはチャンスだ。おそらく、我らが向かう先にはエージェント・オブ・ドラゴンと勇者共が待ち受けているはず。そして、雷龍もろとも双方を全て我が打倒してしまえば、私は魔王様復活の際、総司令の座を得られるだろう。
そうなればこの手で人間を皆殺しにしてやれる。
この世に生きた人間など不要だ。全ては魔王様と我の傀儡共だけで良い。
「……」
……いや、あるいは。
『……さっきの命令は取り消す。我らも向かうぞ。勇者とその仲間達を捕らえろと森にいる魔物達に命令しておけ。取り逃せば、全て我の傀儡に作り替えてやるとそう脅すのを忘れるな』
「それは、どういう……?」
「ふん、馬鹿が。今兵を下げてしまっては、勇者共が撤退する可能性があるだろう。我ら本隊が向かうまで時間を稼ぐ。勇者共に逃げる時間を無くさせ、我が直々に殺してくれる。
何、奴らがサタン・クラウンを討伐した直後であるなら相応に消耗しているだろう。そこを叩けば、奴らもひとたまりもあるまい」
「な、なるほど。承知しました!」
「では、行け」
「はっ!」
そう言って、最初に駆け込んできた悪魔は翼を広げ飛び立った。
ふむ……。
『これで良いか。まだ見ぬ勇者よ、貴様らの旅路はここで終わりだ。
――ふふふ、楽しみだ。我が、勇者を傀儡にしたとなれば、他の魔軍将共はどう思うだろうなぁ?』
そう呟き、我はくつくつと笑った。
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