第260話 一人目の勇者さん
魔軍将サタン・クラウンを撃破したボク達。
しかし、魔法陣から新たな敵と思われる主から告げられた非情の宣告。
それを阻止するために、ボク達は次の行動に移ることになった。
村に危険を知らせるために、ボク達は一旦パーティを分断する。カエデに乗せられる人数は多くても三、四人、今回は往復を考えて二人だけで戻ることにする。
「レイ様、わたくしなら小柄なので負荷が掛からないかと」
「分かった。じゃあレベッカとボクの二人で行こう」
カエデに地上に降ろしてもらってから、麓の村へ戻り、村人に避難を呼びかけると同時にウィンドさんのお弟子さんと合流する。
その後、村を離れて山頂、または地上で魔王軍を迎え撃つことになるだろう。
「……じゃあ、行ってくるね」
「はい、気を付けてください。私の方から弟子に連絡しておきます」
ボク達がウィンドさん達に別れを告げると、カエデが翼を広げ、ボク達を乗せて飛び立つ。
――大変なことになったね。すぐに地上に向かうよ。
「お願いね、カエデ」
ボクはカエデのドラゴンの頭を撫でながら言った。
そして、ボク達はカエデに麓の村の近くに降ろしてもらう。
「……急ごう!」
ボク達は急いで村に向かった。
カエデは、村の人に見つからないよう一旦降りてから別の場所に待機する。
◆
カエデはドラゴンなので村の人間に見られるとパニックになりそうなので流石に一緒に連れていくことは出来ない。地上に降りたらカエデには村から少し離れた場所に待機してもらった。
ボクとレベッカは、ウィンドさんに言われた通り、村の人の避難を呼びかけ、そしてお弟子さんを見つけるつもりでいたのだが……。
そこには、既に村の人が避難を始めている様子があった。
そしてそれを誘導しているのは、若く可愛らしい女の子三人の冒険者だった。
「みんなー! 早くしないとここに魔王軍が迫ってきます!!」
「あ、アリス達が安全な場所に誘導するから、出来れば荷物を減らした状態で集まってください!!」
「ボ、ボクが村の人を先導します!!」
「ミーシャ!! 声が小さいよ!!」
「は、はぃぃぃ!! お姉さま!!」
それぞれ、三人の女の子が、村の人に声を掛けていた。
「あの子達って……」
「村の人ではないでしょうね……冒険者の方々だと思うのですが……」
レベッカとボクは様子を見ながら彼女たちの正体を探る。
彼女たちはどういうわけか、魔王軍がこの村に迫っていることを知っている様だ。一人は、三つ編みの剣士の女の子、もう一人は金髪碧眼のお人形みたいな女の子だ。
そして、もう一人。その子はボクも知っている子だ。
以前の装備とは違うけど、赤髪で元気オーラいっぱいの美少女……。
ラガナ村で見たリゼットちゃんだ。本名は<サクラ・リゼット>と言うらしい。
リゼットちゃんは今世代の<勇者>でカレンさんの後輩冒険者だ。
魔王軍の襲来を知っているという事は、もしかしてウィンドさんの弟子というのはリゼットちゃんの事なのだろうか?
「サクラお姉さま!! 村の人の避難の準備が整いました」
「このままアリス達が村の人を誘導していけばいいんだよね?」
女の子二人は、リゼットちゃんの指示で動いているようだ。
「うん! 私は残るけど、二人は村の人たちを連れて近隣の村まで避難してて!!」
リゼットちゃんはここに残り、他の二人を逃がすつもりのようだった。
「だ、大丈夫? サクラ?」
「いくらサクラお姉さまでも危険では……?」
どうやら仲間にはリゼットちゃんはサクラと呼ばれているらしい。
「大丈夫! それに、師匠の話では頼りになる助っ人が沢山来るらしいし、もし危なそうだったらみんなで逃げるよ」
「そっか……分かった。でも無理しないでね」
「ボク達、待っていますから!」
三つ編みと金髪の女の子は、名残惜しそうにリゼットちゃんと別れ、村の人たちの避難を始めて村から離れていった。
そこに、ボク達が声を掛ける。
「リゼットちゃん!」
「え……? えっと……?」
ボク達に名前を呼ばれて戸惑うリゼットちゃんだったが、
少ししてボク達に気付いてくれた。
「もしかして……レイさん? 久しぶりですー。そっちの女の子は?」
リゼットちゃんはボクを一瞬見て、怪訝な顔をした。
しかし、すぐにレベッカに視線が移った。
「お初にお目にかかります。わたくし、レベッカと申します。リゼット様がウィンド様のお弟子の方で間違いございませんでしょうか?」
レベッカは丁寧に挨拶をする。
それに慌てたのか、リゼットちゃんも喋り方を少し改める。
「あ、はい。私がウィンド師匠の弟子のリゼットと言います。レベッカさんはレイさんの仲間の方ですか?」
「はい。レイ様のパーティーメンバーでございます……」
二人は丁寧に挨拶をした後で、ボクに向き直る。
「ということは、レイさん達が師匠のいう助っ人ですか?」
「えっと、そういう事になるかな」
ボク達からすると、リゼットちゃんが助っ人の立ち位置になるけど。
「ところで、なんでレイさんがこんな場所に?
それに……何か、様子変わってません? なんだか男の子だったのがまるで女の子になったように見えるんですけど……?」
……やっぱり気付くよね……。
「実は……色々と事情があって、ボクは男じゃなくなったんだよ」
ボクの言葉を聞いたリゼットちゃんは、目を丸くする。
「えっ!? ……師匠ですか?」
「……うん」
こんな異常事態を前にして、すぐにウィンドさんが原因だと判るのは流石弟子と言ったところだろうか。ということは、リゼットちゃんの周りでも珍しくないことなのだろうか。
「そうだ、リーサさん……。
二頭馬車とそれに乗っているメイドさんのこと、知らないかな?」
「あ、カレン先輩のお付きの人ですね。
私達の仲間と避難しに行ったので大丈夫ですよ」
「そっか……って知り合いなんだ」
「はい、カレン先輩に時々付いて行っていたので、私とも面識があるんです」
「なるほど……」
意外な繋がりだ。
「リーサ様がご無事で何よりです。レイ様、リゼット様、他にも積もる話はあるかと思いますが、今は魔王軍を迎え撃つのが先です。移動しましょう」
「あ、そうだね……」
確かにその通りだ。
「レイさん達も戦うんですか? 私が言うのも何ですけど、かなり危ないですよ?」
リゼットちゃんはボク達が魔王軍と戦おうとしていることを心配しているようだ。
「うん、でもこのままだと下手をすればこの村だけじゃ済まない。もしかしたら、近隣まで魔王軍の勢力が及ぶ可能性もあるし、止めないと」
「そ、それはそうなんですけど……」
あれ、もしかしてリゼットちゃんに強さを疑われてる?
「リゼット様、わたくし達を心配なさってくれるそのお気遣い感謝いたします。
ですが、わたくしもレイ様を覚悟を持ってこの戦場に立っております。ですので、ご安心くださいませ」
レベッカはリゼットちゃんに優しく微笑むとそう言った。
「は、はぁ……。分かりました。それなら私もお手伝いさせていただきますね。……えっと、レイさん、レベッカさんって何歳なんですか?」
「十三歳だよ」
「えっ? 私より歳下!? 私より全然しっかりしてそうなのに……」
「あはは……分かる」
何だったらボクより全然大人っぽい。
「それでは、リゼット様も参りましょう」
「あ、うん……分かった」
ボク達は、リゼットちゃんと合流してから村の外に出る。
周囲は既に暗く、地上からは魔王軍が進軍してくる様子は分からない。
ボク達はカエデが待機している場所に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます