第258話 vs真の悪魔(決着)
これまでのあらすじ。
女装扱いされてブチギレました。
あと、何故かソロで敵のボスと戦うことになりました。
「え? どういうことです?」
「つまり、こういうことです。少し耳を貸してください」
ウィンドさんはボクの耳元で小さな声で言った。
「カレンの聖剣を貸します。
あなたは<契約の指輪>の効果で、雷龍の力を共有させて戦ってみなさい。
それが、どれほどの力なのか測るのには丁度良い相手だと思いますよ」
確かに、契約の指輪で能力を一時借りることが出来るという話は聞いている。
「なるほど、そういう事ならやってみます」
「はい、頑張ってください。そしてできれば、そのまま倒してきてください」
「……へ?」
「倒してくるといいです。できる限り早く」
…………この人、鬼畜だ!!
「どのみち、その指輪の効果には時間制限があります。なので、早急に!」
「は、はい……」
とんでもない事を引き受けてしまった気がする……。
「それで、どうやって使用すればいいんですか?」
「簡単ですよ。まず、左手の中指にある指輪を右手で握ってみて下さい」
言われた通りにすると、<契約の指輪>から光の輪が現れた。
「これでいいですか?」
「はい、大丈夫ですね。後は、イメージをするだけです」
「イメージ?」
「はい、契約している雷龍の姿と真名を思い浮かべながら、こういうのです。
『我が身に宿れ』と」
「わかりました……」
<契約の指輪>を握りしめると、光の輪がボクの中に入っていく。
全身に力がみなぎるような感覚があり、身体が熱くなる。
「……うぉ」
何だか分からないけど、凄いパワーを感じる。
「レイ君、これ!」
カレンさんが自身の聖剣をボクに手渡してきた。
「えっと……何故カレンさんの剣を?」
「今、レイさんが所持している武器ではおそらく耐え切れません。今はその剣を使ってください」
「分かりました……」
一通りの話が終わって、僕はようやく魔軍将の前に立ち塞がる。
「……ウィンドさん、レイくん一人で戦わせるって正気なの!?」
「落ち着いてください。お姉さん、私は正気ですよ」
「あなたにお姉さんと言われる筋合いはありません!!」
いや、そこで何言ってんの、姉さん……。
「別に、勝算がないわけではありません。
それに、これは彼女にとって必要な試練だと思っていますので……」
「いや、彼! だから!!」
「……彼にとっての試練なので」
ボクの言葉で、ウィンドさんは言い直した。
◆
【視点:魔軍将サタン・クラウン】
「……まさか、蒼の英雄では無く、何の変哲もないお前が私と一人で戦うとはな……。あの女はイカれてるのか?」
「ボクもそう思うよ。だけど、ボクにとっては好都合だ」
「ほう、それはどうしてかな?」
「簡単な話だよ。だって……」
奴は聖剣を両手で構えて言った。
「今はボク一人でお前を潰したい気分だからね」
その言葉を聞いて、クラウンは目を細める。
「(随分傲慢な奴だな……どれ、能力を見てやろう)」
私にここまで言うとは、少なくとも相応の実力者ではあるだろう。
私は<能力透視>で奴の能力を調べてみる。
しかし、その判明したデータを見て、私は目を見開いた。
Lv?? <??????>
<種族:人間・??>
HP????/???? MP????/????
攻撃力??? 魔法攻撃力??? 素早さ??? 物理防御??? 魔法防御???
所持技能:存在秘匿Lv?? 以下、詳細不明
所持魔法:詳細不明
耐性 :詳細不明
弱点 :詳細不明
補足:全てにおいて詳細不明
「な、何だ、貴様……?」
「……?」
思わず声が漏れてしまうが、冷静になるように自身を制する。
「(この女、そこまで魔力が高いようにも思えないが……)」
なのに何故か、<能力透視>で調べようとすると、全ての能力が隠されている。
そのせいで奴の能力の一切合切が不明となっている。
「(存在秘匿の技能だと……何故、こんなものがただの人間に……!?)」
それだけではない。何故か奴から奴以外の魔力を感じる。何処かから別の魔力が供給されているということか?
だが、そんなことが有り得るはずが無い。
「おい、小娘。貴様は何者なんだ」
「――ボクはボクだよ。それ以上でもそれ以下でもない」
「……」
クラウンは考えた。
目の前の少女は何かを隠している。
しかし、それが一体何なのかがさっぱり理解できない。
考えがまるで読めない。
――いや、元より人間は自分とは違う下等な存在か。
「ふん……まぁいい。元より貴様なぞ私の敵では無い。
雑魚共の情報は聞いている。貴様が<地獄の悪魔>を倒したらしいな」
「……」
その女は何も答えない。
「だが、<地獄の悪魔>は我ら真の悪魔とは違う、所詮はただの量産モンスターと変わらん。
そんな量産品如きに苦戦した貴様など、私の敵では―――」
その瞬間、奴の姿がブレた。
「――っ!?」
咄嗟に、私は<不可視の宝玉>がまだ残っている左手を盾にする。
おそらく奴は、こちらに急接近して剣で斬ろうとするはずだ。
だが、この<不可視の宝玉>は物理攻撃に対して強力な防御性能を誇る。それを真の悪魔である私が使いこなすことで、あらゆる攻撃を防ぎきる最強の防具となり最強の武器になる。
あのカレン・ルミナリアと、
死にぞこないの小娘には突破されてしまったが、それは私が油断したからだ。
今の私に油断など無い。故に、奴の動きを読んで確実な反撃を―――
「……な」
腕に痛みを感じた。
見ると、そこには深々と刺さった聖剣があった。
「な、何故……」
自分の左手を見る。奴の剣は、私の左手を通過している。
そうだ、私は間違いなく動きを読めていた。なのに……!!
「何故、<不可視の宝玉>が破られる……!!!」
不可視の宝玉は、絶対防御であるはずなのに、奴の剣は易々とそれを貫通し、私の左腕を貫いている。恐怖を覚えた私は、奴から咄嗟に距離を取る。
「貴様、今何をした……?」
「ただ斬っただけだよ。お前こそ、何故避けなかった?」
「――くっ!!」
……落ち着け。こんな挑発に乗るようでは、真の悪魔に相応しくはない。
「――凄まじい速度だ。しかし、その聖剣。カレン・ルミナリアと経験積みではあるが、私の防御を易々と突破するのは、武器の威力に頼ったものでしかないだろう?」
奴の実力は今の動きを見ただけで一定以上であることは分かる。
おそらく、冒険者の最上位クラスだ。
だが、その攻撃力はあくまで強力な武装に頼った物に過ぎない。
「うるさいな。お前とはこれ以上話もしたくないんだよ」
「―――っ!!」
こいつ……!! 生意気な!!
「――そうか、だがそれはこちらも同意だ。ならさっさと死ぬがいい」
もう様子見は止めだ。
既に二度<流星>を放って消耗が大きい。これ以上長引かせるのは不味い。
「ではいくぞ、せいぜい私を楽しませて見せろ」
「――ボクはお前の顔を見ているだけで不快なんだけどね」
「減らず口を!!」
その口、今すぐ黙らせてやる!!
まず、厄介なのはその武器だ。
どういうわけか、こいつは自分の武器を使わない。
おそらく、自身の手持ちの武器では私と戦うには力不足だからだ。
ならば、その武器をこいつから引き剥がす。
私の両手の武器は破壊されているが、代わりの武器は自前で持っている。
悪魔本来が所持する鋭い爪だ。
私はあまり好きではないが、格闘戦において強力な武器であるのは間違いない。
普段は手の甲の中に収めているが、伸ばして武器として使用するが可能だ。
私は奴に近付き、素早くツメで斬りかかる。
奴も早いが、私には届かない。それに、あの聖剣はリーチがあるが接近され過ぎるとやや使いづらい武器だろう。ならば―――!!
「――遅いよ」
しかし、その女は私が至近距離に入る瞬間に、私の爪を剣で全て切り裂いた。
同時に、私の指を何本も切り落とし、更に近づいてくる。
「―――く、来るな!!」
思わず、無事な方の腕から魔法を発動する。
人間の姿の時に使用する魔法である<炎球>の上位魔法だ。
この至近距離ならば易々とは躱せない。
しかし、奴はそれを一瞬でかき消した。
「――ならば!!」
私は後方に跳んで、更に魔法を放つ。
両手から爆発魔法を連射する。一撃一撃が人間にとって致命傷となる魔法だ。
少々燃費が悪いため、数は絞るが、さっきのように簡単にかき消すことは――
「無限真空斬」
しかし、奴は私が爆発魔法を放つと同時に、全てを真空の刃で切り裂く。
着弾する前の爆発魔法はその衝撃で、奴に届く前に誘爆してしまう。
「――その魔法は見たよ。地獄の悪魔も似たようなの使ってたね」
「なっ――!?」
一度見た技は通じないというのか!?
「こ、この魔軍将に敗北は許されん!!」
こうなれば、この山にまだ残っている部下たちの魔力を強制徴収してやる。
そうすれば再び<流星>の魔法でこいつらを―――!!
「無駄だよ」
「―――っ!?」
奴の言葉に一瞬寒気がした。
「(……駄目だ、この場から離脱しようとした瞬間、奴に殺される……!!)」
根拠はない。無いが……何故か、そのイメージが頭から離れない。
「―――ならばこれを喰らえ!!」
流星ではないが、同じ極大魔法だ。
消耗はさっきの爆発魔法より激しいが、この女は想像よりも強い。
これ以上の出し惜しみは危険だ。
「地獄で後悔するがいい!
私の周囲から多数の魔法陣が展開される。
そして一つ一つが膨大な熱量を伴い、それが上空に飛んでいく。
「あ、あの魔法は……?」
後ろでこちらの戦いを見守っていた女魔道士が呟いた。
流石、魔法使い……。情報では、奴もこの山の戦いに同種の魔法を使ったと聞いている。だが私は人間と違い、一切の詠唱を必要としない。
例えそれが<極大魔法>であったとしても!!
「死ね!! 名もなき人間よ!!!」
空全体を覆う、灼熱の雨が一斉に奴に襲い掛かる。
この炎の弾幕は回避不可能だ。例え炎耐性のある装備であったとしても、その熱量だけで人間は死に絶える。数百度の業火に苦しむか、焼かれて死ぬか、好きな方を選ぶがいい!!
「は、ハハッ!! これが私だ。私は最強の悪魔なのだ!! 」
そうだ、私が負けるはずがない。見ろ、現に奴は何の抵抗も出来ずに………。
何の、抵抗も……。
奴は、ぽつりと呟いた。
「
その瞬間、奴のもつ聖剣に魔力が宿った。そして、風の魔力が奴を包み込み、周囲の炎を遠ざけている。
「無詠唱……だと?」
何故、ただの人間が、我ら真の悪魔と同じ能力を使用できる!?
……いや、一部の人間最強クラスの魔法使いであれば、同じ技能を習得している可能性は僅かに存在する。だが、奴は装備を見る限り魔法使いでは無い。おそらく魔法剣士だ。
魔法剣士は詠唱時間を短縮する技能を有している可能性は高いが、無詠唱などそれとはレベルが違う。
……何を焦っている、私は。
例え無詠唱だとしても奴が使用したのは
無詠唱の能力を持っているのにも関わらず、<極大魔法>を使用しないのはそれが限界だからに違いない。
「くくく……驚いたよ。珍しい技能を有しているな。これは私の油断だった」
認めよう。仮に<極大魔法>を使用できなくとも、魔法剣士でこれだけの技能と上級魔法を習得しているのは十分に破格だ。
長く鍛えれば、蒼の英雄たるカレン・ルミナリアにも届くかもしれない。
だが、それまでだ。どのみちこの女はここで死ぬことになる。
「とはいえだ。その魔法では凌ぐのがやっとだろう?」
そう思い、私は更に魔法を追加する。
「
奴の風の安全地帯、その丁度真上に更に炎魔法を発動させる。
こうすれば、奴の安全地帯は消滅し、耐えることが出来ないはずだ。
奴はこれで詰みが確定した。
そうと決まれば、奴にこれ以上労力を割くのは得策ではない。
プライドが傷付くが、この場は一旦出直すか……。
そう、思っていた。奴が次に一言呟くまでは。
「
奴がその言葉を発した瞬間、剣から凄まじいほどの魔力が放出される。
そして、奴が無造作に一閃すると……。
私が放った全ての炎が風の力で吹き飛ばされてしまった。
「馬鹿……な……」
ありえない。ありえるわけが無い!!
極大魔法が上級魔法に敗れるだと!? そんなことあるはずがない。
それに、奴がさっきから使用している技も不可解だ。剣に攻撃魔法を付与するなど聞いたことが無い。近いのは<付与>だが、それとは明らかに威力が別物だ。
「――ま、まさか」
そして、私は恐ろしいことに気付く。
上級魔法で、極大魔法を打ち破るという事は、奴の魔力は……。
「わ、私の魔力を遥かに凌ぐというのか……?」
一体どれだけの魔力を保有していれば、上級魔法で極大魔法を相殺できるのだ?
「お前は、本当に人間なのか……?」
私には目の前にいる存在が、人型の化け物に見えた。
「さぁ……少なくともお前よりは人間だと思うよ」
奴が聖剣を構え、こちらに一歩踏み出す。
「う、うわああああああああ!!!!」
勝てない、奴には勝てない。
例え身体能力で勝っていても、こいつには絶対に届かない。
完全に敗北を認めてしまった私は、逃げることしか考えられなかった。
しかし……
「……な……」
突然、私の両翼が切断されてしまった。
私は空中の中で自由意志を失い、そのまま崖の外に落下していく。
「ば、馬鹿な……いつだ、奴に何時やられたんだ……?」
痛みはない。そもそも斬られる感覚すらなかった。
気づいたら、既に切られていた。
「こ、このまま死ぬわけには……!!」
不慣れだが、飛行魔法を使用して、この場を離脱するしかない。
幸い、奴は翼を失った悪魔がこの状況で助かるとは考えないだろう。
私でも同じように考える。
不意に、崖の上から魔力を感じた。
「……なんだ?」
私は、飛行魔法を使用し、上空を見上げる。
すると、奴がこちらに顔を出しており……。
そして、奴の周囲には先ほどの魔力量とは比べ物にならないほどの魔力を滾らせていた。
「ま、まさか……!!」
奴の周囲に、まるで雷龍を思わせるほどの雷の魔力が展開されていく。
そして―――
「―――全てを滅ぼし、浄化する、神聖なる雷よ。―――全ての悪を滅せよ」
その、詠唱は……!!
「や、やめろおおおおおおおお!!」
「極大魔法――
奴の詠唱により、巨大な魔力を内包した雷撃が放たれた。
それは一直線に私に向かい、一瞬にして視界は光に包まれる。
「ま、まさか―――」
最期の瞬間、ようやく真実に気付いた。
「貴様―――勇者―――!?」
しかし、そこで私の意識は――――
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