第257話 レイくん、久しぶりに怒る
カエデの背中に乗って、ボク達は空を飛んで、
静止している隕石から三〇メートルほどの距離まで飛んできた。
――この辺りでいいかなぁ。
「うん、わかった。ところで、どうやるの?」
――ううんとね……。うん、思い出した。
――……桜井君、ちょっと私に強く掴まってて。
「分かった」
ボクは言われた通りにしっかり掴まる。
――うん!じゃあ行くよ!!<究極破壊光線起動!!>
カエデが叫ぶと同時に、口から雷が放たれ始める。
その雷は、次第に収束していき、それが隕石に向かって真っすぐレーザーとして放たれる。そして、隕石に直撃すると、そのまま貫き、貫いた残骸は全て砂のように崩れ去っていく。
残った外殻も形を崩し、パラパラと粉々に地面へ落下していった。
この程度であれば、麓にもほぼ影響はないだろう。
「す、すごい……!」
――すっごいでしょー!! じゃあ帰ろ帰ろ!!
ボクの興奮をよそに、カエデはそのままみんなの元へ戻っていった。
◆
「ただいまー」
――ただまー♪
戻ってくると、みんなが唖然とした顔をしていた。
ウィンドさんだけは比較的涼しい顔をしている。
「す、凄かったですね……」
エミリアがそう言うと、レベッカとウィンドさんも頷いた。
「本当に……あんなことが出来るなんて……」
「流石、雷龍と言うべきでしょうね……」
あれだけの事が出来るなら、魔王だって倒せそうな気がする。
「ボクも驚いたよ」
――えっへん! 私は強いのだ!
――でも、一度撃ったらしばらく撃てないけどね。
「そうなんだ?」
――うん。何か悪用されないための措置らしいよ。
「悪用ってされるの?」
――私みたいに心があるからじゃないかなぁ。
――気まぐれに世界破壊しても困るでしょ?
「そ、それは確かに……」
そして、そんな和やか?な雰囲気をしていると……。
「き、貴様ら……!! 一体何をした?」
いつの間にか、ボク達の目の前には、ボロボロの姿になった魔軍将クラウンの姿があった。
「クラウン!?」
ボクは咄嗟に剣を構え、みんなも同時に武器を構えてにらみ合う。
だがクラウンはそれどころではないようで、カエデに視線を集中させていた。
「雷龍……だと? 我らが、魔王軍が捕獲出来なかったこいつを、貴様らが操ったというのか……そんな、馬鹿な!」
クラウンは酷く驚いている。まさか、自分達が操れなかった存在が、ボク達と協力しているのが信じられないのだろう。
――私、こいつ嫌いかも……。
カエデはそう言った。
暴走状態の時とはいえ、自分の住処を荒らして攻撃してきたもんね。
ボク達もこいつの事は大嫌いだよ。
「丁度いいわ、アンタを生かす気はない。この場で死になさい」
カレンさんは聖剣をクラウンに向けながら言った。
「………くっ!」
魔軍将クラウンは明らかに、カレンさんの威圧に呑まれている。
カレンさんの敵に向ける殺気は本物だ。マナはかなりの量が減っているみたいだけど、それでも今のクラウンを怯ませるだけの凄みがある。
対して、今の魔軍将クラウンは、自身でも制御しきれないほどの魔法を使用したことで、相当魔力を消費している。それに、カエデが突き飛ばした時、こいつの体はもっと大きかったはずなのだが、それが元の人間の大きさよりも少し大きいくらいに戻っている。
時間制限付きの強化だったのか、
それとも魔力不足で変身できなくなったのかどちらかだろう。
しかし、こちらもそれなりの消耗が激しい。
特に戦闘担当のエミリア、レベッカ、カレンさんの消耗はかなりのものだ。
ウィンドさんは戦闘を行っていないはずだが、裏方としてずっと働いていた。あれでも相当な魔力を消費する重労働だったらしい。比較的消耗が少ないのはボクと姉さんだけという事になる。
となると、ここはボクが行くしかない。
「……リディア・クラウン。
以前は姉さんを人質に取って、好き勝手な事をやってくれたな」
「?」
ボクはこいつに相当な恨みがある。以前に、街の呪いを解く際に、こいつは疲労困憊だったボクたちを不意打ちし、姉さんを人質に取った。
あまつさえ、カレンさんに対して自害を強要するような事まで言い出した。
許せるわけがない。誰が許したとしてもボクが許さない。
「覚悟しろ」
ボクは奴に剣を向ける。こいつは絶対に殺す。
しかし、目の前のクラウンは訝し気な目でこちらを見る。
「――誰だ、貴様は?」
「――は?」
こいつ……殺そうとした相手すら覚えてないのか。
「ふざけるな、ボク達を殺そうとしたくせに」
「……? カレン・ルミナリアの仲間という事か?」
どういうわけか会話がかみ合わない。
こいつふざけているのか、それとも相貌失認か何かか?
そこに、横からクイクイと引っ張られる。レベッカだ。
「レベッカ、今は……」
「レイ様、こちらをどうぞ」
レベッカはボクに手鏡を渡してきた。
「手鏡? 今はふざけてる場合じゃ……」
そこまで言って、ボクは鏡を覗きこんだ。そこには……。
「………あれ?」
そこに移ってたのは、どう見ても女の子だった。
「「「「「……」」」」」
全員が黙って見つめてくる。
――そういえば、桜井君、なんで女の子になってるの?
すっごい今更だけど、カエデにそんなことを聞かれてしまった。
何でって……えっと……。
「………わ」
忘れてたああああああああああ!!!!!
ボク、今はウィンドさんの変な薬で女の子になっちゃってたんだよ!!
そりゃあ男のボクしか知らないクラウンが分からないわけだ!
だって、性別が変わってるんだもの!!!
「れ、レイくん……」
「レイ様……おいたわしや……」
「なんか……レイが哀れになってきました」
そこ、黙ってて。
いや、一旦落ち着こう。ここで冷静さを欠いても仕方ない。
「――レイだよ。
アンタが押し付けてきた緊急依頼を受けたパーティのリーダーだ」
「なんだと? 何故、女装している?」
ブツン――。
「女装じゃねーよ!! ふざけんなマジで!!!」
思わずキャラが変わるぐらいブチギレた。ごめん、全く冷静になってなかったよ。ただえさえ死ぬほど嫌いな奴なのに、会話にすらならないとかもう無理。これ以上何も話したくない。
やっぱりこいつは殺す!今ここで息の根を止めてやる!!
「レイちゃん、落ち着いて!」
「お姉さま、いけません!」
「レイちゃーん、落ち着きましょうねー!!」
何でそっちの三人は煽ってくるの!?
特に一番最後のエミリア、馬鹿にしてんの!?
少し離れたところで遠巻きに見ている二人がいた。
カレンとウィンドの二人だ。
「な、何か雰囲気が色々ぶち壊しになったわね……」
「あれほど怒ってるわけですし、彼……いや、今は彼女ですね。彼女一人に任せてみましょうか」
「……本気? 確かに、かなり弱ってはいるけど、それは無謀よ」
「まだ試してないことがあるのです。カレンは聖剣を貸してあげて下さい」
「……どういうこと?」
「簡単ですよ。今からレイさんが行う戦いは、並の武器では耐えられないので……」
ウィンドはそう言って、レイの元に歩いていく。
「レイさん」
「えっ、何ですか? ウィンドさん、ボク今ちょっと機嫌が悪いんですけど!!」
「知ってますよ。でも、私も少し興味があるんですよ」
「興味?」
「はい、あの魔軍将相手にどこまで戦えるのか、見てみたいと思いまして」
「どういうことです?」
「はい、ズバリ言いますが、あなた一人で……」
ウィンドは、魔軍将クラウンを見て、口元に笑みを作りながら言った。
「あなた一人で、あの男を倒してみなさい」
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