第256話 究極破壊光線
カレン達が最後の戦いに挑もうとする時――
【視点:レイ】
……何か、明らかにヤバそうな悪魔が上空を飛んでる。
「な、なに、アレ?」
カエデさんの背に乗って空を飛んでいると、ボク達は異様な光景を目撃した。
それは、四メートルはあろう大型の悪魔が、地上で武器を構えているエミリア達に何か凄い魔法を放とうとしてる場面だった。
「……おそらく、魔軍将クラウンですね。化けの皮を剥いだようです」
「あ、あれが……あのクラウン?」
ボク達は、まだ人間の姿のクラウンしか目撃していない。
あれが、クラウンの正体だったのか……。
――桜井君、どうする?
カエデさんに質問され、ボクは迷うことなく答える。
「勿論助けるよ!!」
ボクは力強く答える。
――分かった。それじゃあ、このまま突っ込むね!!
「……えっ?」
カエデさんの言葉に、思わず変な声が出る。
すると、カエデさんはそのまま速度を上げていく。
「ちょっ!? ま、待って!? ちょっとぉぉ!?」
「こ、こわいこわい!! お姉ちゃん、吹き飛んじゃう!!!」
「す、スピードオーバーです。少し、減速を……!!」
――大丈夫だよ!
――桜井くんが自動車で轢かれた時みたいに、一瞬で終わらせるから!!
「人のトラウマを例に出さないでよ!?」
というか、何でボクが死んだ状況を知ってるんだよ!?
そんなこと言ってる間に、もう目の前に迫っていた。
今からではもう減速しようがない。
「……もう、いいや」
ボクは諦めて、大声で叫んだ。
「―――いっけえええええええ!!!
そのままつっこめぇー!!! カエデさーん!!!!」
――いっくよー!!!!
その声と同時に、次の瞬間―――
カエデさんと、その背中に乗っていたボク達は、クラウンにダイレクトアタックを敢行し、魔軍将クラウンだと思われる悪魔はそのまま遠くに吹き飛んでいった。
そして、そんな凄い勢いでぶつかるということは、背中に乗ってるボク達も大変な状況になり、ボク達三人はカエデさんの背中から落下し、そのまま地上に落ちていく。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
「きゃああああ!!」
「……はぁ、
ウィンドさんの判断で、ボク達全員風の魔法で落下時の衝撃が緩和され、無事、無傷で着地することが出来た。
ちなみに、カエデさんは上空で楽しそうに飛んでいた。
◆
何とか、カエデさんの轢き逃げ事故から生還したボク達は、別行動をしていた三人と合流することが出来た。
「レイ……!」
「レイ様! ベルフラウ様! よくぞご無事で……!」
「よかった……二人とも無事で良かったわ……」
三人とも、心底安心したという表情をしていた。
どうやら、相当心配を掛けてしまったようだ。
「うん。なんとか生きてるよ。というか、それよりも――」
ボクは、魔軍将が吹き飛ばされた方向に目を向ける。
そこには、既に誰もいなかった。というか、さっきまで周囲を囲っていた魔物達も居ない。どうやら魔軍将が吹き飛ばされたので、それどころじゃなくて救援に向かったか、それとも逃げたのだろう。
「……あれ、もしかして今ので本当に倒しちゃった?」
「えぇ……まさかぁ……だって、ねぇ? ゲームで言えば、大ボスみたいなやつでしょ?」
「そ、そうだよね……姉さん」
流石に楽観視し過ぎか……
全長二十メートルのドラゴンに超速度で突進されたからって死ぬわけが……
……あれ、普通に死ぬ威力なんじゃ……?
「ところで、レイ。一体何が起きたのですか?」
「そうね、私達からすると急に空から何か飛んできて、魔軍将が吹き飛んでいったとしか言えないんだけど」
「……実は、かくかくしかじかなんだ」
ボクは、今までの経緯を簡単に説明した。
「かくかくしかじかでは分かりません。ちゃんと言ってください」
「そうでございます。ちゃんと説明なさってください」
えぇ……普段は言わなくても二人は察してくれるのにぃ……。
仕方ないので、改めて説明した。
「というわけで、この子が雷龍、本当の名前はカエデさんだよ」
――よろしくねー♪
カエデさんは飛ぶのを止めて、大人しく僕の横に付いて返事をした。
といっても、ボク以外に言葉は聞こえてないようだ。
それにしても、一緒に並ぶと大きさがとんでもなく思える。
「……」
「……」
「……」
何故か、エミリア、レベッカ、カレンさんが黙り込んだ。
「えっと、皆黙ってどうかしたの?」
「……いえ、別になんでもありませんよ」
「はい、特に何も……」
「……そうね。なんというか、凄いわね……良く従えたというか……」
カレンさんの言葉に、エミリアとレベッカが激しく頷いた。
「ところでレイ君、質問いい?」
カレンさんから質問があった。なんだろう。
「何?」
「その……『カエデさん』というのは、雷龍の愛称か何か?」
「愛称というか……ほぼ、本名?」
本名は椿楓で、カタカナでツバキカエデさんだ。
ボクと同じく異世界転生者であり元日本人だ。元々同級生で同じクラスメイトなんだけど、あいにくとボクは登校拒否してたからあまり仲が良かったわけではない。
その事をここにいる全員に伝えると……。
「……レイ様と同じ境遇の方だったのですね」
「あー、言われてみれば……」
レベッカに言われて、確かに思う。
冷静に考えると、この世界で出会った初めての同郷の仲間だ。
「それで、これからどうするの?
魔軍将は倒したわけだし、魔物も散り散りになったっぽいし、もう下山する?」
姉さんの質問に、ボクが答える。
「そうだね……だけど、あの魔軍将が死んだかどうかは―――」
そこで、ボクの言葉が途切れる。
なぜなら、突然、山が激しく揺れ始めたからだ。
「な……なに!?」
「みんな、あそこを見てください!!」
エミリアは、崖の外の遠くを指差して言った。
そこにはカエデさんに轢かれたはずの魔軍将が翼で空を滑空していた。それだけではない、その上には巨大な魔力が集まっており、更に上空には一つ大きな隕石が降り注ごうとしていた。
「ま、魔軍将クラウン……生きていたのね」
「それに、あの魔法……まさか、
ウィンドさんは信じられない、といった顔だ。
「
「宇宙から小隕石を呼び出す魔法です。文字通り、途轍もない破壊力を持つ魔法ですよ。さっきの地震は……宇宙から隕石を呼び寄せたからですか……しかも、あれほど巨大な……!」
そんなの直撃したら、間違いなく死んじゃうじゃない!!
っていうか、あんなのどうやって防げば……!
「それに、この山の麓には村が……!
私達がここで逃げてしまえば、山は崩れ、下の村も壊滅してしまいます!」
「で、でも……このままじゃ皆が……!!」
時間もない、一つの隕石は少しずつだけど徐々にこの山に近付いてきている。このままだと、あと数分後にはこの山に直撃する。そうなれば、ボクたちだけの被害じゃ済まない。
「くっ……さっき使ってた魔法は自分が巻き込まれないように威力を落としていたのね……!」
「今は、距離が離れているから、全力で撃てるというわけですか………!!」
この位置では、とてもじゃないけど間に合わない。
奴は、山ごとボク達を葬ろうとしているのだろう。
「ですが、あの魔軍将、微動だにしませんね……」
レベッカの言葉で、ボク達は魔軍将クラウンを注視する。
確かに、空中で翼で飛ぶ以外、腕を天に構えたまま微動だにしない。
「……予想ですが、あの威力の流星は奴にも制御が出来ないのでしょう。下手に操作を誤れば、自分の方に流星が飛んできて、どうしても慎重にならざるおえないのでは」
「……なるほど。じゃあ、先にあの男を倒せば……」
しかし、ボクの言葉に、姉さんが待ったを掛ける。
「待ってレイくん、それは悪手だよ。流星の魔法は既に放たれている。その状態で術者を倒してしまうと、どこに流星が飛んでいくか分からないわ」
「そっか……それじゃあ……」
どうすればいいんだ……。
そうこう悩んでいるうちに、遂に魔軍将クラウンが口を開いた。
「クハハハッ!!! もう終わりか人間共ぉッ!!」
魔軍将は高らかに笑い声を上げながら叫んだ。
「くそっ! あいつ……!!」
人が何も出来ないからって……!!
「皆さん、ひとまず私が足止めします。その後に考えましょう」
ウィンドさんのその言葉に、カレンさん以外が驚く。
「足止め? あれを足止め出来るんですか!?」
「できます。見ててください……」
そういうと、ウィンドさんは目を閉じて集中しはじめた。
「世界よ、動け、あらゆる事象を捻じ曲げ、空間を歪曲し、我は世界を侵食する。我が言葉に耳を傾けよ―――」
詠唱と共に、降り注ぐ隕石の周囲に極大の魔法陣が展開される。
「ウィンド様……一体、何を?」
レベッカは問うが、今のウィンドさんにそれに答える余裕が無さそうだ。
代わりに、カレンさんが言った。
「レベッカちゃん、今は静かに見てて、すぐに分かるから……」
その言葉に、今度はエミリアが反応する。
「知ってるんですか?」
「まぁね……前に見たことあるから……」
そんな会話をしている間にも、ウィンドさんは魔法を発動させる準備を進める。
「―――世界よ、閉じよ。――
次の瞬間、空から降り注いだ隕石はピタリと動きを止め、動かなくなった。
「止まった……?」
「カレン様、今のは……?」
レベッカの質問にカレンさんが答える。
「時魔法の一つ……
あらゆるものを一定時間物理法則を無視して、その場で静止させる魔法よ」
つまり、時間停止の魔法!?
「す、凄い……そんな魔法が……!!」
――時間停止とか、まるで漫画みたいだね!!
カエデさんがそんなこと言った。
……何か、カエデさん結構呑気だね……。
「……よろこぶのはまだ早いですよ、レイさん」
その言葉に、魔法を詠唱していたウィンドさんは言った。
「ウィンドさん、大丈夫なんですか?」
「大丈夫……と言うのは、私にも分かりませんね。今も私は魔力をあの魔法陣に送り続けていますから。今は静止していますが、そこまで長持ちはしません。今の間に解決策を練りましょう」
そう言うと、ウィンドさんは地面に座り込んだ。
……やっぱり無理してたんだ。
「ウィンド様、ありがとうございます」
「いえ……私も、どちらかと言えば世界を守る側の人間ですので……」
ウィンドさんは、レベッカの礼に対して謙遜する。
しかし、世界を守る側の人間?
「さて、どうしたものか……」
カレンさんの言葉に、全員が頭を悩ませ始める。
「……そういえば、魔軍将クラウンは?」
魔法が止まったというのに、奴も微動だにしない。
「あの男も、
「そうなんですか……」
それを聞いて、ボク達は少しだけホッとした。
これでようやく考える時間が出来たからだ。
「でも、どうやってあれをどうやって処理するんですか?」
「そうね……あの大きさの隕石となれば、並の魔法では全く歯が立たないわ」
隕石の大きさは大体二〇メートルくらい。
雷龍であるカエデさんとほぼ同じくらいの大きさと言ってもいい。
だが、体積や質量を考えればカエデさんの数倍だろう。
仮にこの大きさの隕石が地面に衝突した場合、山は勿論、麓の街まで無事では済まない。どころか、それ以外の場所にも被害が出てしまうかもしれない。
「空間転移で海に落とすとかどう?」
そう言って、姉さんは提案するが、ウィンドさんはそれを止めた。
あの巨岩を海にまで移動させるとなると、距離もあるためかなり骨が折れる。
しかも、魔軍将がそれを見逃してくれるかどうか……。
「私はあまり使ったことありませんが、
爆発魔法で粉々に吹き飛ばすというのはどうでしょうか」
これはエミリアの提案だ。
確かに、そのアイデアは良さそうに見える。
しかし、その案はカレンさんが却下を出した。
「爆発魔法はMP効率が非常に悪いの。あの大きさの隕石を破壊しようとした場合……ウィンド、あんたの魔力で足りる?」
その言葉に、ウィンドは首を横に振った。
「……厳しいですね。おまけに爆発魔法では<精霊魔法>の力を借りることが出来ません。別の手を考えましょう」
今度はレベッカが発言した。
「重圧の魔法は如何でしょうか?
重圧の方向を操作して進路を変更させる……というアイデアなのですが」
その言葉に、ウィンドさんは悩む……。
「かなり良い線……ではあるのですが……それを使って安全な場所に落とそうとする前に、私の
ウィンドさんのその言葉に、レベッカは落ち込んだ様子を見せた。
ボク達も考えてはいるが、中々良い案が出ない。
――ねぇ、私もアイデア出して良い?
カエデさんの言葉に、僕は頷く。
「うん、いいよ」
――えっとね、私の<究極破壊光線>使ったらどうかな。
「……へっ?」
あまりにも突拍子の無い言葉に、思わず変な声を出してしまった。
――……ダメかな?
「いや……駄目じゃないけど……そんなこと出来るの?」
――多分やれるよ。この雷龍は、元々世界の秩序を保つ役割があるみたい。
――もし凄い悪人が出た時の為に、何でもかんでも粉々に打ち砕くっていう究極技があるっぽいの。それが<究極破壊光線>だよ♪
「そ、そうなんだ……」
そんなおっかない技使って大丈夫なのだろうか……。
「……レイ、カエデさんは何と?」
「えっと……カエデさんの究極技みたいなのを使えば出来るっぽいってさ」
「そうですか。なら問題ないでしょう」
あっさりと、ウィンドさんはそう言った。
「ちょ、ちょっと待ってください! 簡単に決めちゃって大丈夫なんですか!?」
「大丈夫です。それに、このままでは皆死にますよ」
「……」
ウィンドさんの言葉は容赦なかった。
「世界の管理者の代理たる雷龍の神業です。おそらくそれに違わぬ能力でしょう。威力さえやりすぎなければ、あの程度の隕石は処理できるはずです。ですよね、カエデさん?」
――もちろん♪
ウィンドさんの質問に自信ありげに答えた。
ただ、ウィンドさんにはその声は聞こえていないと思うから、
傍から見ると実質ドラゴンがどや顔しただけだ。
「カエデさん、頼んでいい?」
――いーよ。……あ、一つお願いがあるんだけど、聞いてくれる?
「ん? 何?」
――私の事、『カエデさん』じゃなくて『カエデ』って呼んで♡
「う、うん……」
なんか急に甘えん坊になった気がする……。まぁ、良いか。
「分かったよ、カエデ」
――やった~。ありがとう、桜井君、大好き!!
――……あっ、言っちゃった♪
……この子のテンションがよく分からない。まぁ、嫌いじゃないけど。
――それじゃあ、桜井君、乗って!
「分かった。それじゃあみんな、ちょっと行ってくるね」
「だ、大丈夫かしら……」
カレンさん、それを言わないで……ボクが一番不安なんだよ……。
「では、レイさん、カエデ……さん、ご武運を」
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