第255話 vs真の悪魔(その3)

【視点:カレン】


「はぁ……はぁ………」

 あれから、私の全魔力を込めながら戦い続けて10分。

 何とか拮抗してた戦いは次第に私に不利になっていった。


「……そろそろ限界のようだな……!!」

 魔軍将クラウンは余裕そうな表情を見せるが、実際は至る所に聖剣技の直撃を受けており、何度か体の部位を消失しては自力で自己再生を行いながら戦っていた。そのため、見た目よりも確実に体力が消耗している。


「……随分、辛そうじゃない。力差がどうのって話はどうしたのかしら?」


「……ふっ、強がるなよ人間……私は余裕がある。だが、貴様の魔力はほぼ消えかかってるではないか。私には分かるぞ、今の貴様はあと一分もしないうちに魔力が枯渇して身動きすら取れないのではないか?」


「……」

 その推測は当たっている。

 全力で魔力を放出し続ければ、周囲からマナを取り込んでも時間の問題だ。


 だが、それでも時間は稼いだ。それに、奴の不可解な能力も……。


「ふ……ぐうの音も出ぬか。では、これでトドメだ……」

 魔軍将は私に、右の手のひらを向ける。その手のひらに魔力が集まっていく……。しかし、よく見ると、その手のひらにはうっすらと何かのひび割れのようなものが見える。


 私はそれを確認し、残った力を振り絞って、聖剣を起動させた。


「はぁぁぁぁぁ!!」

「な、なに……!?」

 そのまま勢いで、奴の突きだした掌目掛けて、聖剣の切っ先で突いた。


 すると――


 ――パリィィィィィン……。


 ガラスが砕け散るような音がした。

 そして、さきほどまでまるでダメージを与えることが出来なかった奴の拳は、

 ついに私の剣をまともに受けて、その手の平を貫通させた。


「……ふぅ……やっぱりね……!」

「くっ……!!」


 魔軍将は穴の開いた右手を庇いながら、こちらを睨みつける。


「アンタ、素手で戦ってるように見えて、実は武器を使ってたわね……。

 おかしいと思ったわ。剣で拳とぶつかった時、やたら金属音が反響する音が聴こえてきたもの。それを使って、通常以上に魔力を集めて、私達の攻撃を無効化したりしてたのね」


 奴が使ってた武器は、おそらく<不可視の宝玉>と呼ばれる魔道具。

 姿を隠す魔法が永続的に掛かっているため、ダンジョンなどに安置されていても誰もそれに気付くことが無い。

 しかしその効果は絶大で、悪魔達がもつ耐性を遥かに凌ぐ防御性能と魔力を増幅し放つ性質を持つ。


 その防御力は伝説の金属、

 オリハルコンと同等かそれ以上の硬さを持つと言われている。

 いままで奴が掌を使って攻撃を防いでいたのは、それが理由だ。


 絶対的な防御性能と魔力増幅効果を併せ持つこの魔道具こそ、こいつの最大の武器だったというわけね。だが、それもこれで破壊した。


 あるいは、もう片手にも同じ魔道具を装備している可能性も考えられるけど、それでも明確な弱点を作れたのは大きい。



「くっ……まさか気付かれるとはな……。だが、それが分かったところで、何になる?この程度の傷ならすぐに修復できるし、お前の魔力はもう底を尽きかけている。もはや詰んだ状況なのは変わらんぞ?」


「確かに、そうね」


 私は少し後ろを振り返る、すると……。


「カレン!!」

「カレン様!!」

 二人の私を心配する声が響く。

 そして、少ししてからこちらに息を切らしながら走ってきた。

 一人はエミリア、もう一人は、さっきまで意識を失っていたレベッカちゃん。


「……ば、馬鹿な……!! あのガキ、何故生きている……!?」


 魔軍将は驚愕した顔を見せる。まぁ、無理もないわね。


「残念だけど、アンタが思ってるより私達はしぶといみたいよ」

 私は二人に微笑む。二人は私の言葉を聞いて、エミリアとレベッカも、微笑み、表情をキッと変えて魔軍将を睨んだ。


 そして、レベッカちゃんは槍を虚空から取り出す。

 そのまま私を庇う様に前に出て、レベッカちゃんは槍を構えた。


「エミリア様、カレン様……お見苦しいところをお見せしました。

 ここからは、このわたくしが全身全霊を持って、この魔軍将クラウンを討ち取ってみせましょう」


 その言葉を聞いた私達とレベッカちゃん自身も同時に笑った。

 しかし、逆にそれは魔軍将にとって侮辱以外の何物でもなかったようだ。


「くっ………!! 死にぞこないがぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 魔軍将は怒りの形相を浮かべながら、レベッカに攻撃を仕掛ける。

 いままでと違って左手、おそらく左手にも宝玉を掌に埋め込んであるのだろう。

 あの武器がある限り、奴に攻撃は通らない。


 ―――しかし。


「解き放て……重力の槍!!」


 レベッカの槍が、魔軍将の左手に振るわれる。

 次の瞬間、魔軍将の左手は、レベッカの攻撃を防ぐどころか、

 そのまま態勢を崩し、左手が地面にめり込んでしまう。


「ば、馬鹿な……!! 何故だ……!!」


 魔軍将は左手を地面に埋め込ませながら苦し気に叫ぶ。

 レベッカちゃんは、槍を魔軍将の喉元に当てた状態で話し始めた。


「魔軍将……さきほどの話、カレン様の通信魔法から情報は聞いていた。高い物理防御と、魔力を増幅する<不可視の宝玉>……と」


 レベッカは、槍を構え、淡々と言った。

 その口調は、味方に対して話す優しく丁寧な言葉ではなく、

 冷たい声と他者を蔑むような口調だ。


「その性質故に、魔道具自身が勝手に魔力を集め、増幅してしまう欠点を持つ。

 つまり、わたくしの<重圧・付与>グラビティの付与魔法すら、その宝玉は勝手に増幅してしまったというわけだ」


「ぐっ……」

 魔軍将クラウンは、悔しげな顔をする。


 奴と会話が始まった時、念の為にエミリアに通信魔法を発動した状態にしていたのが功を為したみたい。 おそらく、今ので奴は左手の<不可視の宝玉>にダメージが入ったはず。


 こうなると、さっきの私の攻撃のように、破壊されてしまうため、打ち合いでは迂闊に乱発は出来なくなるでしょうね。


 ……それにしても、レベッカちゃん。

 さっきまで意識を失っていたというのに、恐ろしく冷静な判断力と、精密な技量ね……。この子が味方で本当に良かった。絶対に敵に回したくないわ。


 私はそんなことを考えつつ、剣を構える。

 レベッカちゃんのおかげで、奴はさっきまでの余裕が全く見られない。

 それに、今の会話中に全力状態を解除していたおかげで少しだけ魔力が回復した。

 これなら、奴を倒すことが出来るかもしれない。


 ――しかし、奴は、


「うおおおおおおおっ!!!」

 突然の咆哮で、周囲の瓦礫が飛び上がり私達を襲う。

 と、同時に、奴はレベッカの魔法を自力で打ち消し、槍の射程から逃れるために翼を羽ばたきながら空に舞い上がった。



「くくくくくくくく………はっはっはっはっはっ!!!!!」


 そして高笑いをする。

 まだ諦めていないのかしら?

 でも、もうさっきまでのような力はないはずだけど……。


 私はそう思いながら、魔軍将を見上げる。

 すると、奴の体から黒いオーラのようなものが溢れ出し始めた。


 そして……。

 そのオーラは次第に、奴の体に集まっていき……。


「―――なっ!?」

「か、体が大きくなっていく……」

「まさか……巨大化!?」

 黒のオーラは、魔軍将の体に集まっていき、その身体を更に強靭にしていく。そして、それが収まった時、今までの大きさの二倍程度の大きさまで体を大きくしていた。


 同時に、奴が何度も自己再生で回復させていた傷も癒されていく。


「ふふふふ……<不可視の宝玉>がなんだ……?

 私はこの体こそが最強の武器だ。それに、魔力もまだまだ残っている。貴様らはさっき<流星>一撃で全滅しかかっただろう? それに再び耐えられるかな?」


「くっ……」


 こいつが使った魔法……あれは時魔法系統の<極大魔法>だ。

 その威力はエミリアが使用する<自然干渉魔法>の<極大魔法>すら凌ぐ強大かつ次元の違う攻撃魔法だ。


 しかし、故にそのMP消費はあまりにも膨大なはず。

 あと1~2度<流星>を使用すれば、魔軍将の魔力は枯渇するだろう。

 私達三人は、それを見抜き、武器を構える。

 

 そう、今のこいつは悪あがきに違い状態だ。

 この窮地さえ乗り切ってしまえば、戦力差は確実に逆転する!!



「……ほう、まさか、凌ぐつもりか?」

 魔軍将は自身が強化されたおかげか、余裕を取り戻していた。

 私達はその質問に答えない。答える必要が無い。


「「「………」」」


 三人、誰もが口を開かない。この場から逃げるつもりなど無いのだから。


「よかろう!! ならばあの世に送ってやる!!!」


 そして、魔軍将は魔力を上空にかき集め始める。

 その魔力量は、最初の一撃を放った時よりも更に上だ。


「……さて、気合入れましょうか!」

 この一撃を凌ぎきれば、私達も勝ち目がある。

 そう信じて、私達は頷き合う。



「覚悟は出来たようだなぁぁぁぁ!! では、し―――」

 魔軍将が今こそ、流星の魔法を発動させようとした瞬間。


 私達の後方から、凄まじい勢いで巨大な何かが空を飛んできた。


 そして、同時に大きな声で―――


「いっけえええええええ!!!

 そのままつっこめぇー!!! カエデさーん!!!!」


 その声と同時に、私達の上空に影が出来て、次の瞬間―――


 魔軍将が、その巨大な飛行物に体当たりされ、吹き飛んでいった。


「な、なにぃ!? ば、馬鹿なあああ!!! こんなことがああ!!」

 魔軍将は叫びながら、遥か数十メートル先の崖の先まで吹っ飛び、そのまま転がっていった。

 私達は何が起きたのか分からず、唖然としていた。

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