第253話 vs真の悪魔(その1)
――一方、少し時間を遡ってエミリア達は……。
【視点:エミリア】
「はあっ!」
「ふん……っ!!」
魔軍将クラウンとの戦闘が始まると同時に、
カレンが聖剣を手にして斬り掛かるが、クラウンはその攻撃を手刀であっさりと受け止める。
「……っ!」
しかしカレンは怯まずに、更に二撃目、三撃目と切り込む。
クラウンは、それを手刀で防ぎながら一歩一歩後退していくが、その背後に回ったレベッカがクラウンに槍の一撃を繰り出す。
だが、その攻撃さえもクラウンは素早く反応し、その長く強靭な足腰で槍の先端を蹴り上げる。
「なっ!?」
完全に死角を突いた攻撃だったはずの槍の一撃に対応されてしまい、
レベッカは一瞬動揺、それにより隙を作ってしまう。
「無駄だ、私に不意打ちなど効かない」
魔軍将クラウンは、ハイキックの態勢から、そのまま足を横に一閃するような形で動かし、レベッカを蹴り飛ばす。しかし、その隙を見逃さなかったカレンは、聖剣の力を解放させる。
「聖剣、解放!!」
カレンの構える聖剣が光り輝き、
クラウンに向かって光を放つ衝撃破が襲い掛かる。
……だが、クラウンはそれに対しても余裕そうな表情で掌を突き出し、いとも簡単にカレンの放った衝撃波を霧散させる。
「――くっ! ならばこれはどうですか! <
二人の奮戦を見守りながら準備をしていた魔法をクラウンに向かって発動させる。
さきほどまでは、カレンとレベッカが巻き込まれないように発動のタイミングを伺っていたが、今しかない。
「……ほう?」
魔軍将クラウンは、私の放った電撃魔法を感心したような表情で見ながら上空に手をかざし……。
「―――
相殺魔法を発動させ、完全に無効化してしまう。
―――っ!!
分かっていたが、この男、強い。
人間の形態の時からも得体のしれない強さだったが、真の姿を現したこいつはその時よりも数段上だ。更に、以前戦った時に比べて、こいつは油断していない。
それもあって、二人も安易に攻め込むことが出来なくなっていた。
「――さて、貴様らばかり攻撃を仕掛けてくるのは癪だな。こちらから攻めることにしよう」
クラウンのその言葉に、カレンとレベッカは警戒し、距離を取ろうとする。
私も、二人の邪魔にならないように、私はカレンから10メートル程度後方に陣取り、
いざ接近された時の自衛手段として、周囲に複数の魔法陣を展開しておく。
もし私に近付いてくるなら、魔法陣から初級魔法が絶え間なく発動する仕掛けだ。
威力はあまりないが、足止めくらいにはなるはず。
そう思いながら、クラウンの動きに注意していると、奴はたった一言呟いた。
「
瞬間、上空から大量の小さな隕石が降り注ぐ。
周囲は隕石の余波か、地震のような揺れが起こり始める。
「なっ!?」
咄嵯にカレンは私達に防御魔法を張るが、クラウンの攻撃は止まらない。
私達が各々でどうにか降り注ぐ隕石の対処を試みていると、クラウンがこちらに接近してきていることに気付く。
このままではやられると思い、用意してあった魔法陣を展開して迎撃する。
しかし、奴は防御の姿勢すら取らずに、私に向かって拳を突き出す。
たったそれだけで、私の開放した多数の初級魔法が消し飛び、私の腹部に激しい衝撃が走る。
「――――――!!」
声すら出せない、凄まじい痛みを受けながら、私は数十メートル後方に吹き飛ばされてしまう。
「え、エミリア!!」
「エミリア様っ!!」
二人の声が聞こえるが……。
私は今の一撃で、奴の流星の攻撃範囲外に吹き飛ばされたが、
二人は今の瞬間も巻き込まれている。
何とか、それぞれ剣や槍で防いだり、回避したりと凌いでいたが、レベッカとカレンは着弾地点を見誤り、隕石の衝突の衝撃を受けて倒れ込んでしまう。
「(こ、声が出せない……これは……)」
私は何とか両手に力を込めて、起き上がろうとするが、
視線を自身の腹部に移すと、そこから大量の赤い血が流れていた。
「(………傷が、深すぎる……いや、腹部を貫通している……!!)」
自分のお腹に小さく穴が開いてしまっていることに、気付いてしまい、私は青ざめる。
「ふ、二人は……うぐっ……!!」
無理に喋ろうとしたのが、駄目だったのか、
口から大量の血を吐いて言葉を続けることが出来なかった。
「………っ」
私は回復魔法が苦手だ。
無理をして使用しても、この傷を癒すことすら出来ないだろう。
万一を考えて、私はスカートの下にいくつか回復用のアイテムを用意してある。
震える手で、太ももの外側にセットしてあった<万能ポーション>を取り出す。
このアイテムは、傷を癒しHPとMPを一気に回復出来る優れものだ。
体力の回復はすぐには行えないけど、強い痛み止めの効果もあり、多少無茶が利く。代わりに、物凄い高額なため、一本飲むだけで財政が破たんしてしまった冒険者パーティを知ってるが、今は緊急時だ。
「―――っ!! んん……!!」
何とか、ポーションの栓を引き抜いて半分は傷口に、半分は口から飲む。
すぐに効果が表れ、私の傷口は塞がっていくが、その分失った血液までは戻らない。
視界が霞むが、まだ意識はある。
私が動けるうちに、二人を助けないと……。
だが、そんな私の思いとは裏腹に、レベッカは、地面に這いつくばったまま動かなくなっていた。
「れ、レベッカ……!!」
ま、まさか……レベッカが……!!
大切な友人が、死んでいるかもしれない。
断定するには早いと判っているけど、最悪の可能性を想像してしまう。
それだけで、私は絶望感に苛まれ、その場に倒れ込んでしまう。
カレンは、聖剣を杖代わりにして、何とか立ち上がっている。
そして自身に回復魔法を発動、更に、私とレベッカにも順番に使用する。
それで、私達は少々回復出来たものの、レベッカは動く気配が無い。
「―――ほう、今の攻撃で二人生き残ったか。大したものだな」
上空から私達を見下ろしながら、クラウンは称賛の言葉を口にする。
その言葉に、私は怒りの声を上げる。
レベッカが、死んだという可能性を否定しようとする。
しかし、完全に否定できるだけの材料が私にはなく、言葉に出せない。
『―――エミリア、聞こえる?』
カレンは、息を乱しながら、数十メートル離れた私に通信魔法で話し掛けてきた。
本来、魔道具を使用して使う通信魔法だが、魔力が大幅に上がったことで何とか受信することができるようになっていた。
「か、カレン……?」
『……何とか、こいつを私一人で足止めしてみるわ。エミリアは何としてでもレベッカを助けてあげて。……あんなに幼いのに、あれだけ強い子よ。簡単に死ぬわけないわ』
そう言って、カレンは剣を構えて、私を守るように前に立つ。
カレンの言う通りだ。あの子は強い。
きっと、生きているはずだ。ここで諦めるなんて、あり得ない。
私は、そう思い、カレンに返事を返す。
「……分かりました。しかし、一人では……」
『今から私は全力で戦う。
今の状態でも数分くらいであれば持ち堪えるはずよ。その間に』
その言葉に、カレンは命を掛けてでも私達を守るという意思を感じた。
「……死なないでくださいね」
『……もちろんよ』
私は、気付けば涙を流していた。
カレンの覚悟に感化されたのだろうか?
分からないが、涙を止めることは出来なかった。
私は、レベッカが生きていると信じ、再び立ち上がる。
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