第251話 久しぶり
少し遡って、レイ達は―――
【視点:レイ】
雷龍が頂上に突っ込んでしばらくして、今度は頂上の方で大爆発が起こった。
「雷龍の方は分からないけど、爆発の方はエミリアの仕業かな」
エミリアは派手な魔法が好きだから、きっと魔物の集団の真ん中あたりに
そして、そうなれば、敵の首魁であるクラウンも黙ってはいないだろう。事実、あれから頂上で戦いを行ってる気配が感じられない。雷龍が無事かどうかという不安はあるけど……。
「今なら雷龍の近くに行けるわ!」
「そうだね」
ボク達は、空に舞い上がって雷龍の元へ急ぐ。
そのまま頂上まで向かうと、ボク達の行く手を阻んでいた結界も消滅しており、すんなり辿り着くことが出来た。カレンさん辺りが結界を破壊したのか、ウィンドさんが上手くやってくれたのだろう。
頂上は、まさしく戦場跡のような光景だった。
夥しい魔物の死骸と、周囲の森林は今でも激しく燃え盛っており、地面は何処も黒く焼き焦げている。空は闇に包まれており、時々雷鳴が轟いており、地獄とはまさにこんな場所なのだろうと思ってしまった。
「レイくん、あれ!」
姉さんが地上に着地して、指を差しながら叫んだ。
ボクも着地して、姉さんが指さした方に目を向けると、
そこには傷付いた雷龍がうずくまっていた。
「酷い怪我だ……」
身体中ボロボロで、特に翼の部分は完全に折れてしまっているようで、ピクリとも動かない。まだ息はあるようで、微かに呼吸音が聞こえることから生きていることが分かる。
「姉さん、回復してあげて……」
「うん、わかった」
姉さんが傍によって、回復魔法を使用しようとするのだが……。
―――グオオオオオオオオオオオオオォォォォォォ!!!!
突如、雷龍が地響きのような唸り声を上げた。
「きゃあああっ!!」
雷龍の方に向かおうとしていた姉さんはびっくりして尻餅を付いてしまう。
「大丈夫?」
「う、うん……それにしても驚いたわ……」
尻餅を付いた姉さんに手を差し伸べて、姉さんを起き上がらせる。
雷龍を見ると、体を起き上がらせてこちらを睨みつけている。
目は赤く充血している。以前に見た瞳の色では無い。
おそらく、未だに暴走状態なのだろう。
雷龍はこちらが近づこうとすると、唸り声を上げて威嚇してくる。
「キミを傷付けたいわけじゃないんだ! お願いだからいう事を聞いてくれ!」
――グルルルルルルル!!!!!
ダメだ、完全に理性を失っている。
このままだと、また戦闘になりかねない。
もしこれ以上、雷龍を傷付けようものなら今度こそ死んでしまう……。
―――グギャアアアアアアアアア!!!
雷龍は、また暴走状態が酷くなったのか今まで以上に大きな声を上げ、折れた足でその巨体を立ち上がらせた。そして、血の下たる口元を大きく開いて、青白いスパークをバチバチと発しながらこちらに近づいてくる。
この距離では、いくらボク達でも無事じゃいられない。
ボク達は咄嵯に雷龍から離れ、お互い背中を合わせるように構える。
正直、どうすればいいかわからない。
これほど弱っているというのに、雷龍の威圧感は凄まじい。
仮に戦ったとしても、勝てるかどうか分からないくらいだ。
「レイくん、あの指輪を使ってみれば!」
「――いや……」
左手に嵌めてある<契約の指輪>をじっと見る。
この指輪は、魔物、人間を問わず、意のままに操る能力を持っている。
これだけ弱っていれば、確かに、効力があるかもしれない。
だけど、この雷龍にその能力を使いたくない。
理由の一つは、この指輪のもう一つの効果にもある。
この指輪のもう一つの効果は、使用者と契約者の能力を共有するというものだ。
こちらの能力は、最初の能力で傀儡にしてしまうと使うことが出来ない。
それに、無理矢理傀儡にしてから、
後で契約を断ち切ったとしても、この雷龍はきっとボク達を敵視するだろう。
もしこの子が、勇者の味方だとするなら、きっと打ち解ける手段がある。
「姉さん、雷龍を説得してみるよ」
「……そっか」
ボクは雷龍に向き直る。
雷龍は今にもボクを殺そうと鋭い血走った眼で見つめている。
以前に、この雷龍に出会った時、何故か襲ってこなかった。
あの時、もし襲われたらどちらが勝つか分からなかったと思うけど、もしかしたらこの子はボク達に何かを伝えたかったのかもしれない。
もし、本当に伝えたいことがあったのならキミと話をしたい。
この契約の指輪を拾ったのも、ボクとキミが出会ったのも、偶然だったとしても、ここでキミとボクが再び出会ったのはきっと偶然ではないと思う。
それはもしかしたら運命、あるいは神様が与えた使命かもしれないけど――
でも、そんなの関係ない。
こうして傷付いているキミを見て、僕はキミを助けたいと思った。
そして、それがボクに出来ることだと思うから―――
「雷龍……いや、エージェント・オブ・ドラゴン……だよね」
……反応らしい反応は無い。
いや、諦めちゃダメだ。言葉を続けてみよう。
「ボクはレイ。――いや、本当の名前は、桜井鈴って言うんだ」
ボクの言葉に、雷龍が一瞬ビクッと体を震わせて反応した。
レイという名前は、ボクが異世界に来てから名乗ってる名前だ。
元の世界では、桜井という性のごく一般的な家庭に生まれた子供だ。そこには魔物も魔王も居なければ、勇者なんてものも存在しない。どれもおとぎ話の話だ。
「ボクはね、この世界とは別の場所に来たんだ。でもあっちの世界で死んじゃって、今はこっちの世界で出来た仲間と生活してるんだけど――」
何を言えば、雷龍に分かってもらえるか分からない。
何故暴走しているのか、ボクには見当もつかないけど、
それでも何かを伝えたかった。
「えっとね、それでね、隣にいるお姉さん……。ベルフラウって言うんだけど、この人は女神様でね。ボクが無理を言ってお姉さんになってもらったんだ」
「レイくん……それ、今言う必要あるの?」
「いや、そうなんだけど……」
自分でも分からないけど、ボクの事を知ってもらいたいんだ。
「それで一緒に異世界に来て、スライムとかゴブリンとかと戦ってね。
今はエミリアやレベッカっていう凄く可愛い女の子二人とも旅をして、今はカレンさんっていうとても強くてカッコいい人と旅をしているんだよ。
あと、リーサさんっていうカレンさんの侍女さんと、ウィンドさんっていう見た目可愛いけど意地悪な人も一緒だよ」
ボクは、自分が知っている限りの事を雷龍に伝えた。
何となく思ってたんだけど、この子、ボクの話を静かに聞いてくれてる。
暴走してるって事だったんだけど、心はきっとそのままなのだと思う。
「それでね、もう1年くらい経つんだけど……」
ボクの話を聞いて理解しているんだと感じる。
以前に出会った、レーシィという子供の姿の妖精たちと話した時の反応と似てて、見た目の割にこの子、精神年齢はボクとあんまり変わらないんじゃないかな。
「―――それでね、ボクはクラウンっていう悪人を追ってここまで来たんだ。……多分、キミを傷付けた奴だと思う」
ボクがそう言い終わると、雷龍の瞳から涙が流れた。
雷龍の赤く染まっていた目が綺麗な青色に戻っていく。
暴走状態じゃなくなった? そう、ボクは思ったのだけど――
―――久しぶりだね、桜井くん。
「―――えっ?」
今、雷龍が人の言葉を話したような……。
姉さんの方を振り向くと、不思議そうな顔をしている。
もしかして、今の声、聞こえていない?
――もしかして、私の声が聞こえてる?
「……うん、聞こえてる」
女の子の声だ。だけど、同時に雷龍の身体からも唸り声が聞こえる。
すると、雷龍はこちらに首を動かして言った。
――良かった。なら、私の話、聞いてくれる?
「…………」
ボクは、何も言わずに頷き、ただ黙って雷龍を見つめた。
すると、雷龍はまた語り始めた。
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