女神様といっしょ！

第245話 救出作戦開始！

「絶対に殺してはいけない？」

　ウィンドさんの意外な言葉に、ボクは思わず聞き返した。

「はい……説明すると長いのですが、『雷龍』

　……本来の名は、エージェントオブドラゴンと呼ばれる存在です」

　エージェント？

　それって確か、代理人とかそういう意味だったと思うんだけど……。

「本来は、特定の条件下に出現しこの世界の管理者の代理として動く存在なのです。ですがここしばらく、正常な機能が出来ずに暴走することが多かったため、カレンを含む私達で暴走するたびに抑え込んでいたのです」

「あの、質問いいですか？」

　エミリアは手を挙げて口を挟んだ。

「どうぞ、エミリアさん」

「では失礼して……そもそも、この世界の管理者の代理って何のことですか？」

「文字通りですよ。この世界の神の代理です。

　あくまで神の代わりとして力の行使を行うという役割ですけどね。世界が危機に陥った際、その姿を現し、その元凶を滅ぼして脅威を取り除くという緊急措置のような役割を持っています。故に、通常時は来るべき時までその力を蓄えて人知れず眠っているはずなのですが……」

「本来ならまだ、目覚める段階では無いという話ね」

「はい、しかも今回の目覚めは、今までのように何かしらの問題が起きてというわけではなく、何者かによって意図的に起こされた可能性が高い。故に、機能不全が起こり、半ば暴走を繰り返しているようです」

　……誰かが故意的に起こした？

「誰かって……」

「それは分かりません……ですが、ここに雷龍が住み着いているとするなら、十中八九、あの男（魔軍将）の狙いは……」

「雷龍の捕獲……という事でしょうか？」

　レベッカは、ウィンドさんの言葉を推測して言った。

　しかし、ウィンドさんはレベッカの言葉に被りを振って否定した。

「ただ捕まえるだけではないでしょう。

　雷龍は神から力を与えられた存在です。おそらく、その力を吸収するか、配下にして取り込もうとしていると考えられますね」

「つまり、この山を根城にして、雷龍を飼い慣らそうとしている？」

「ええ、おそらくは。といっても、簡単に出来ることではないと思います。

　仮にも神の代理人ですからね……下手に触れると暴走状態に陥って手が付けられなくなるでしょう」

　それで、何回私達が苦労したことか……とウィンドさんは付け加える。

　ウィンドさんの言葉に、みんなが沈黙する。

「それで、雷龍を殺してはならないといった理由は、そういう事ですか」

「ええ、今は暴走していますが、新たな魔王が生まれた時、雷龍の力は非常に役に立つはずなんです。その時に、雷龍の力が残っていてくれれば……」

「なるほど、そういう事でしたら、雷龍を殺すわけにはいきませんね」

　ボクの言葉に、他の皆も力強くうなずく。

「ありがとうございます。……そして、問題はここからです。

　今の話を踏まえて、私達が何をすべきか……カレン、貴女なら何が言いたいか分かりますよね」

「雷龍を殺さずに無力化し、敵から守り切らないといけないって事よね」

　カレンさんが言うと、ウィンドさんは静かに首を縦に振る。

「カレンの言う通りです。

　まずは、雷龍が本当に居るのか、その姿を確認する必要があります。

　そして、もし存在を確認できたなら敵に奪われないように守る必要もあります。最悪、無力化して転移魔法か何かで雷龍をここから避難させましょう」

「えっと……既に、雷龍が敵に見つかっていて、捕らえられていた場合は？」

「その場合、この場にいる敵を全て倒す必要がありますね」

　難易度が高すぎる……。

　下手をすれば、暴走する雷龍とクラウンを含む魔王の手下たちとの戦いになる。

　そうなった場合、勝てる可能性はかなり低い。

　ボク達は、全員で顔を見合わせる。

「……とりあえず、雷龍の居場所を確認しに行きましょう。

　もし本当に雷龍がいるのであれば、雷龍に危険が及ぶ前になんとかしないと……」

　ボクの言葉に、ウィンドさんは頷くのだが……。

「レイさんの考えは正しいのですが……。生憎と、今の私達の状態は芳しくありません。休息を挟む必要があるでしょう。特に、魔力切れを起こし掛けているカレンとレイさんはすぐさま戦闘できるような状況では無いのでは？」

「確かに……そうですね。少し休んでから行動しましょう」

　◆

　緊急時ではあるが、今のボク達は消耗しきっている。

　今結界で守られているこの場所で、数時間睡眠を取ることになった。

　ボクとカレンさんは消耗が激しいため、それ以外のみんなが交代で見張りをしながらその日の夜を過ごすことになった。

　そして、早朝にて……。

　僕達は、作戦を立ててそれぞれ行動することになった。

「それじゃあ、行ってきますね」

　まず、最も早く動くのはエミリア、レベッカ、カレンさんの三人だ。

　この三人は敵を引き付けるための陽動の役割だ。もっとも危険な役割といえる。特に、敵のリーダー格であるクラウンと交戦する可能性が高いため、戦力を最大限に集中させている。

「三人共、気を付けてね」

「もし、危なくなったらすぐに逃げて、無理はしないでほしい」

　ボクと姉さんは心配になって声を掛ける。

　本当は六人固まっていきたいところだけど、最重要課題は雷龍を敵から守ることだ。戦うことだけが目的じゃない以上、戦力分散は避けられない。

「大丈夫ですよ、何だかんだで私達は強いですから」

「ふふふ、エミリア様ったら……」

「私もいるし大丈夫よ。昨日みたいなヘマはしないから安心して、レイ君」

　三人とも、頼もしい言葉を残し、出発していった。

　そして、次に向かうのはウィンドさんだ。彼女は、張り巡らされた結界の解除、僕達の連絡役、そして緊急時のサポートなど多岐に渡る。

　地味だが、常に魔法を使用し続けることになる。戦闘に割ける魔力があまり無いため、隠れながら頂上の近くまで移動するとのことだ。

「雷龍の居場所を見つけたら私が通信魔法で連絡します。これをどうぞ」

　そう言って、ボクはウィンドさんに、イヤリングを渡された。

　ボクはそのイヤリングを受け取る。

「そのイヤリングを通して、私が通信魔法で連絡を行います。レイさんは耳にそのイヤリングを付けておいてください」

「はい、分かりました」

　言われた通り、右の耳にイヤリングを付ける。

「もし、戦力的に厳しい状況に陥った場合、それで私に連絡を取ってください。力を貸しますから」

「どうやって連絡を取ればいいんですか？」

「私の名前を呼んでくれれば、すぐに繋がるようにしてあります。ただし、呼んだだけで繋がるようになってしまっているので、不用意に私の名前を呼ぶようなことはしないでくださいね。悪戯するような子は後でお仕置きですよ」

　ウィンドさんは微笑みながらそう言った。

　……なんだろう、ちょっと背筋に悪寒が走った気がするけど……。

「き、気を付けます」

「よろしい、では私は魔法で姿を消して動きます。レイさん達も気を付けてくださいね」

　そう言って、ウィンドさんは以前のようにスゥーっと姿を消した。

「……ふぅ、それじゃあ行こう。姉さん」

「うん、頑張ろうね！」

　最後に、ボク達の役目は、空からの捜索だ。

　最重要の役割ももう一つあるが、今は割愛する。

　この山は敵の結界魔法によって、飛行魔法が無効化されている。そのため、最初に山の麓に入った時に、ウィンドさんの飛行魔法が無効化されて空からの探索が不可能と思われていた。

　しかし、ボクたちのパーティは唯一、飛行が可能な手段が存在する。

　それが姉さんの存在だ。

　姉さんは、女神パワーとかいうよく分からない能力でいつの間にか飛行能力を使えるようになっていた。魔法では無いため、結界の効果には引っかからず、魔法の探知に引っかかることも無い。代わりに、姉さん自身しか飛ぶことが出来ないのが欠点だ。

　しかし、一人くらいなら姉さんに支えてもらいながら飛ぶことが出来るという事だったのでボクが同行することになった。

　姉さん自身、飛ぶことに集中しているといざ戦闘になった時、敵の的になりかねない。そのため、ボクが護衛として付いていくことになったのだ。

「というわけで、お姉ちゃんが作ったこの箒に跨ってね！！」

　姉さんは何処からか取り出した、童話とかの魔女が使いそうな箒を取り出した。

「……なんか凄く嫌な予感がするんだけど……」

「大丈夫！ この子の名前は"サイクロン・ジェット号"だよ！」

　名前だけ聞いたら物凄く早く飛びそうだ。

「これって、勝手に飛べたりするの？」

　姉さんに手渡された箒に跨りながら聞いてみる。

「お姉ちゃんの女神パワーが宿ってるから、ある程度レイくん自身で自由に操作できるよ。だけど、私が近くに居ないと効果を失って地上に真っ逆さまだから気を付けてね！！」

「……それって、どれくらいの範囲？」

「うーんと、私の周辺五十メートルくらいかなぁ……」

　かなり範囲が狭い気がする。

　せめて無線LAN以上の通信距離が欲しかったところだ。

「ちなみに速度はどれくらい出せるの？」

「最大百キロくらいの速度は出せるよ。

　だけど、出したら一瞬で範囲外に出て地上に落ちるから気を付けてね」

「なんでそんな無駄な速度付けたの！？」

「えっと……マロンって奴かな」

「ロマンでしょ……」

「そうとも言うね」

　やっぱり姉さんはどこか抜けていると思う。

「まぁいいや、じゃあ行くね」

　ボクは、サイクロン・ジェット号に跨りながら、箒に微弱な魔力を送り込む。発動の仕方は普通の魔道具と変わらないらしい。すると、少しずつ宙に浮き始めた。

「おお……すごい……」

　最初、箒に乗るなんて怖すぎて嫌がってたけど、この帚、グルグル回って落とされるようなことが無いし、跨っているというのに全然お尻に痛みも感じない。

　乗った瞬間、自身の体重が殆ど無くなったような感覚で、ちゃんと足で箒を固定さえしていれば快適に飛べそうだ。

「ね、凄いでしょ？」

「うん、何か見た目とは裏腹に凄い高性能だね」

「でっしょ～！！ レイくん飛ぶのが辛そうだったから、色々考えてみたんだよ♪」

「姉さん……ありがとう」

　ボクと姉さんは、二人で空へと舞い上がった。

　ウィンドさんの飛行魔法と違い、ある程度自由に動けるし風によって大きく揺らされるようなことも無く、まるで鳥になったかのような気分だった。

　しかし、あまり高くまで飛んでしまうと、少々制御が難しくなる。

　それに、ウィンドさんの通信魔法はボクの耳にしか届かないため、ボクが姉さんから離れるわけにもいかない。そのため、ボクたちは極力離れないように二人並んで飛んでいった。