第244話 一時撤退!!
「終わったみたいね……」
「そうだね。……まさか、こんな敵にここまで苦戦するとは思わなかったよ」
ふと、この悪魔が最後に言い残したことが気になった。
「こいつ、どうせ貴様らはここで死ぬ、とか言ってたけど……」
「レイ君、忘れたの? さっき、こいつ増援が来るって言ってたじゃない」
「あっ……」
そういえば、そんなことを言っていたような気がする……。
「じゃあ、ボク達このままここに居たらまずいんじゃないのかな」
「多分、そうなると思う」
ボク達がそんな話をしていると、
突然後ろの方から爆発音のようなものが聞こえてきた。
そちらを見ると、魔物の集団がこっちに向かってきている。
「やばっ!」
「さすがに、あの数を相手にする体力は無いわね……」
ボクもカレンさんもかなり消耗してしまっている。
「みんな、何処かに逃げよう!」
ボク達は急いでその場から離れようとするが、体力が尽きかけているボク達よりも魔物の方が足が速くすぐに追いつかれてしまう。
「仕方がない! こうなったら!!」
姉さんは女神の力を解放して、宙に浮きあがった。
「さぁ二人とも、私の手を取って! このまま空に逃げるよ!!」
姉さんの手を掴んで、ボクとカレンさんは空に舞い上がる。
「よし、これなら逃げ切れ――」
「逃がさないよ」
上から声がしたと思ったら、巨大な炎の玉が落ちてきて地面に着弾する。
凄まじい轟音だったが、ギリギリ回避が間に合った。
上を見ると、そいつは知っている人物だった。
見た目は真面目そうな男性……否、人間に擬態した魔王の眷属。
そして、魔軍将の一人<リディア・クラウン>だった。
「リディア・クラウン!!」
カレンさんは怒りを込めてその名を叫んだ。
「やぁ、蒼の剣姫……それにその仲間も……私の知らない人間もこの場にいる様だが……どうやらあれだけ魔物を送り込んだというのに、誰一人キミ達を殺すことが出来なかったようだね。残念だよ」
クラウンは頭を抱える動作をしながら言った。
「全く……力を与えてやったそこの地獄の悪魔のあのザマだし……部下が無能なのが一番の悩みの種かもしれないな」
「何を言っているの?」
カレンさんは剣の柄に手を掛けながら言った。
「まぁいい……どちらにせよ、ここで全員殺せば問題無いことだ」
そう言って、空中で浮いたボク達に、クラウンは手のひらを向ける。
「この状況、キミ達は躱す術がないだろう。仲良く死ぬといい」
「くっ……!!」
次の瞬間、目の前には大きな火の球が迫ってきていた。
「うわああ!!」
ボク達は為す術なく、その攻撃をまともに喰ら――わなかった。
奴が攻撃を放った瞬間、ボク達は既にその場から消失していたのだから……。
「消えた……? 今のは……」
◆
――リディア・クラウンと邂逅した場所から数キロ下山した山道にて。
「ま、間に合った……!!」
「ふう……危なかったね……」
姉さんの<空間転移>が間に合ったおかげで難を逃れることが出来た。
もし、姉さんが居なければ何も出来ずにやられていたかもしれない。
「あ、ありがとう姉さん……」
「いえいえ、みんな無事で良かった」
「そうだ、他のみんなは無事なの?」
「それは大丈夫だよ。レベッカちゃんが知らせに来てくれたからすぐにその場から離れられたはずだし。だけど、下山は多分して無いはず。何処かに隠れているんじゃないかなぁ」
「そっか……」
とりあえず、みんなが無事なのはよかった。でも、これからどうしようか。ボク達の体力も限界に近いし、ここに留まるのはあまり良くない気がする。
「二人とも、ここは一度みんなのところに戻ろう。今後のことを考えないと」
「そうね、問題は何処に隠れたのか分からない点だけど……」
ボク達が頭を悩ませていると、カレンさんがボーっとしていることに気付いた。
「……カレンさん? どうしたの?」
「もしかして、魔力切れ?」
ボク達が心配そうに声を掛けると、カレンさんはハッとした顔をした。
「あ、そうじゃなくてね……。
突然全然違う場所にワープしたから少し驚いちゃって……」
「あー……そっか、姉さんが空間転移使えるの知らなかったよね」
「空間転移?」
「私、元女神様だからそういう凄い魔法も使えるんですー、凄いでしょ?」
「……女神って本当だったのね。驚いたわ」
「えっ……ま、まだ信じてくれてなかったの……?」
姉さんが少しショックを受けた顔で言った。
「ごめんなさい、神様っぽくないからつい疑っちゃってたわ。」
「酷いよぉ……! レイ君、カレンさんがいじめてくるよ~!」
「よしよし、姉さんは悪くないよー」
ボクは姉さんの頭を撫でて慰める。
「まぁ、それは良いとして、ここにずっといると危ないと思うわ」
「それは良いとして、とか言われた……ぐすん」
「確かにそうだね……。よし、まずはみんなのところへ行こう」
とはいえ、姉さんも避難した場所を知らないみたいだし、どこに向かえばいいのやら……。ひとまず、頂上の方に向かうのは諦めて、来た道を戻ろう。
しかし、途中で声を掛けられた。
「それなら私が仲間の場所を知ってますよ」
「え、本当? それならお願い……ん?」
後ろから声が聞こえたので、つい返事をしてしまったけど、今の声はこの場に居ないはずのウィンドさんの声だった。
「ここですよ」
「ひやぁぁぁぁ!!」
物凄い耳元で声がしたのでつい声を上げてしまった。
声がした瞬間、そこには緑の魔道士、ウィンドさんが超至近距離にいた。
きっと、今まで姿を隠していたのだろう。
「もぅ……! びっくりさせないでくださいよ、ウインドさん」
「すいません。驚かせるつもりは無かったのですが」
無表情で彼女は答えた。
「絶対嘘だ!」
「はい、嘘です。実はレイさんの反応を見て楽しんでいました」
「やっぱり……!!」
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて」
姉さんに宥められ、ボクは怒りを抑える。
「ところで、どうしてウインドさんがこんなところに?」
「私は姿を隠しながら皆さんを探しに来たんですよ。丁度皆さんが現れたので、こうして声を掛けさせて頂きました。お互い無事切り抜けられたようで何よりです。
……ひとまず、この場でこれ以上話すのは危険です。皆さんが隠れている場所まで案内します」
「うん、分かった」
ボク達はウインドさんの後をついて行くことにした。
◆
「ここが皆さんが隠れている場所です」
「えっ……!?」
その場所を見た時、ボク達は驚きで固まってしまう。
「……そんなに驚かなくても」
「いや、だって……」
ウィンドさんが指さした場所、そこは何もない崖の先だったのだから……。
「ま、まさかみんな落下したとか……」
「幻覚魔法で周囲を誤魔化しているだけですよ。私について来てください」
そう言って、ウインドさんは先に進んでいく。
何もない崖の先を悠々と歩いていくウィンドさんに敬意を感じながら、ボク達はおそるおそる進んでいく。しばらくすると、周囲の光景がいきなり普通の洞窟の中に切り替わり、そこにレベッカとエミリアが待機していた。
「レイ!!」
「レイ様、ご無事で!!」
二人はボク達に駆け寄ってきた。
「大丈夫だよ、みんなも無事だったんだね」
「はい、何とか。……あのやたら強い悪魔は倒せたんですか?」
エミリアの質問にボク達は頷く。
「うん、かなり苦戦したけどね……。
それよりも、あの男……リディア・クラウンに鉢合わせしたよ」
「えぇ!!?」
「そ、それでどうなったのですか!?」
二人が驚いて聞いてきた。
「……逃げてきた」
ボクがそう答えると、二人はホッと胸をなでおろした。
「良かった……。流石に勝てないと踏んで逃げたのですね」
「まぁね……ボクもカレンさんもボロボロだったし、それでも姉さんが居ないと逃げることすらできなかったよ」
「レイ君の言う通り、私一人じゃ絶対に無理だったわ」
ボクの言葉に、カレンさんも同意する。今思うと、カレンさんのあの言葉は、ボク達に逃げさせるための方便だったのかな。そう思うと、やっぱり残って良かった。
「……というか、よく生きて帰ってこれましたね?」
「そこはほら、女神パワーでどうにかしてみたよ!」
姉さんが得意げに言った。
「あぁ……そういうことですか」
「流石、ベルフラウ様でございます」
「えっへん!」
三人が楽しそうで何よりだよ……。
「ここは索敵を素通りする結界が張ってあります。数時間程度であればここに居てもバレることは無いでしょう。疲れているでしょうし、少しは休めますよ」
ウィンドさんの言葉を聞いて、僕はホッとした。
「そうですか……ちょっと安心……」
一時的とはいえ、休憩できるのは気持ち的にも楽だ。
「それで……どうする? この後、山を下りるの?」
かなり消耗しているボク達だけど、元々はあのリディア・クラウンと戦うためにここまで来たつもりだ。ここで帰るのは少し違う気がした。
「いえ……私達が来たことを知られているため、包囲網を敷かれている可能性があります。飛行魔法が封じられている以上、私達も通れるルートが決まっているため、待ち伏せも容易でしょうし、あまり賢い選択ではないかも……」
ウィンドさんの言葉に、僕達は追い込まれていることを自覚してしまう。
「そうなると……やはり戦うしかないということでしょうか」
エミリアが不安そうに呟いた。
「……
カレンさんの指摘に、ボク達は黙ってしまう。
そいつを倒すためにここまで来たけど、そんな大物相手に勝てるのだろうか。
「あの男は何故、こんな山に悪魔の手下を連れてきているのでしょう」
レベッカがふと気になったように呟いた。
「……それは私も疑問でした。この山はマナが豊富なようですし、頂上に何か強力な存在がいる感覚はあります。ですが、それが何なのか情報足りていません」
ウインドさんは首を傾げた。
「強力な存在……」
……うん? ボク達は、何か忘れている気がする。
この山は何か別の目的で訪れる予定の場所じゃなかっただろうか……。
そう……強力な何かと戦うために……。
「……あ」
思い出した。元々、この山は緊急依頼が出てたはずだ。
「レイさん、何か思い出したのですか?」
ボクの呟きに、ウィンドさんと他のみんながこちらを振り向いた。
「えっと、もしかしたら無関係かもしれないけど……」
「構いません。続きをどうぞ」
ウィンドさんに促されて、僕は頷いて言葉を続ける。
「えっと……この山は緊急の依頼が一つあったんです。確か―――」
『北の山の頂上にて、青い肌の巨大な竜が住み着いたという情報が入った。既に何人もの冒険者が返り討ちにあっており、非常に危険な状況だ。早急な対応を要請する』
北の山というのは今、居るここに間違いない。
そして、問題となるのが『青い肌の巨大な竜が住み着いた』という情報だ。
この竜というのが、おそらく頂上にいる強力な存在の事なのだろう。
「青い巨大な竜……ですか」
「はい、多分、雷龍の事だと思うんですけど」
ボクのその言葉に、ウィンドさんは肩をピクリと震わせた。
「あ、ウィンドに言うの忘れてたわね」
更に、カレンさんの言葉に、ウィンドさんは強く反応をした。
「カレン……今まで知っていて黙っていたのですか……!?」
「え……いや、私も今の今まで忘れていたから……」
「そんな言い訳が通用すると思っているのですか! カレンにはいつも言っているはずですよ! 何故そんな重要な情報を真っ先に伝えないのですか!! 王宮で散々説教したはずですよ! 貴女は他人に情報を伝達するという重要な事柄をいつもいつも後回しにする癖がありますよね!!」
「ご、ごめんってば……」
突然始まった二人の口げんかに、ボク達はポカンとしてしまう。
「あ、あぁ……申し訳ありません。取り乱しました」
我に返ったウィンドさんが、恥ずかしそうに顔を赤くして謝ってきた。
「いえ、大丈夫です」
ボクは苦笑しながら答える。
「えぇと、その竜……雷龍はそんな重要な話だったんですか? 普通に強力な生き物……くらいの認識しかなかったんですけど」
ボクの言葉に、ウィンドさんとカレンさんを除く全員が頷いた。
「……カレン、貴女……」
「その時は、他に優先する事柄があったから説明できなかったのよ」
「はぁ……まぁ、今は置いておきましょう。とにかく、今はその情報が非常に重要になります。
もし仮に、本当に雷龍が居た場合、私達ですら手に負えない可能性もあるのです。それほどに強大な相手となります。ですが……」
ウィンドさんは、ボク達にこう言った。
「仮に、雷龍と戦うこととなっても、『絶対』に殺してはいけません」
ウィンドさんは強い口調で言った。
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