第238話 レイちゃん

 これまでのあらすじ。

 ウィンドさんの怪しい薬を飲んだら何故か女の子になってしまった。


「いや、そうはならないでしょ!?」

 ボクは、思わず自分に突っ込んでしまった。


「なってしまったものは仕方ありませんよ。諦めてください」

「そうね、私もそう思うわ」

「レイ様、お可愛らしいです」


 状況を受け入れられていないのは自分だけのようだ。

 髪が伸びており、体が小さくなって胸も大きくなっているようだ。

 喉も引っ込み、声もいつもより高くなっていて、本当に女の子になっている。

 下は恐くて確認出来てないけど、多分……。


「どうしてこんなことに……?」


 自分で言っておいてなんだけど、どう考えても原因は一つしかない。

 ウィンドさんのあの怪しい薬のせいだ!!


「カレンさんとウィンドさんは何処!?」

 ボクが起きた時は二人はもう部屋から居なかった。

 だけど、今のボクを放っておくなんてことはしないはず。

 きっと近くに居るはずだ。


「さ、さぁ……」

 三人共知らないようだ。


「ちょっと探してくる!!」

 そう言って、ボクは部屋を飛び出した。


「ちょっ、レイ様、その格好では……」

 後ろでレベッカが何か言っているけど、構っている暇はない。

 まずはウィンドさんを見つけ出して戻してもらわないと!!


 宿の中を探し回ったが、ウィンドさんは居なかった。


 今度は街に向かう。心なしか体調はかなり良くなっていた。

 気を失う前は少し動くだけで倒れそうだったけど、今は全然平気だ。

 それどころかいつもより体が軽いくらいだ。


 ※物理的に軽くなってることに気付いていない。


「それにしても……」

 周囲の人がやたらこちらに目線を向けてくる。

 今のボク、何かおかしいのだろうか。

 そんなことを考えていると、前方から声をかけられた。


「おい嬢ちゃん、ちょっと待ちな」

「えっ? お嬢ちゃん?」


 振り向くとそこにはガラの悪い男が三人立っていた。

 見た目、二十代そこそこでチャラい感じの三人だが、ボクに何の用事だろうか。


「ひひひ……ちょいと俺達に付き合って貰おうか」

「見たことねえ奴だが、まぁまぁ可愛いじゃねえか」


「嬢ちゃん。そんな恰好で外を出ちゃいけないぜ。外は危ないんだからよぉ。これは俺たちが指導しなくちゃあなぁ……ぐへへ」


 ゾクッとした。

 ボクをまさか女だと勘違いしてるんじゃ……?


「あ、ええと、ボクは用事があって」

「おうおう、『ボク』だってよぉ!?」


『可愛いねぇ!!』と口々に言う男達。

 これはマズイ。何とか誤解を解かないと……。


「ぼ、ボクは――」

 必死に弁明しようとするが、相手はそれを聞く耳を持たないようだ。


「まあまあ、とりあえずついてきな」

 といって、ガシッと腕を掴まれる。


「ち、ちょっと待ってください! 話を――」

「うるせぇ!」

 強引に連れて行かれそうになり、


「その子から手を離してくれないかな?」

 凛々しい声が響き渡った。


「ああ!? 誰だてめえ!!」

「邪魔すんじゃねえぞコラァ!!」

「ぶっ殺すぞぉぉぉぉぉ………お?」

 振り返ると、そこに居たのはベルフラウ姉さんだった。



「ね、姉さんっ!?」

「姉さんだぁ? 丁度いい、じゃあアンタも――」

 男は姉さんの腕を掴もうとするが、男達はまとめて拘束される。


「うおっ!?」

「な、なんだこりゃ!?」

「う、動けねえ!?」


 姉さんの束縛バインドの魔法だ。

 男たちは魔法の鎖で縛られ、その場で動けなくなる。

 姉さんがボクの傍に駆け寄ってきた。表情は少し怒っている。


「もう、今のは女の子なんだから気を付けなきゃだめだよ!!」

「姉さん……ごめん」

 自分でも冷静さを見失っていたようだ。

 少し反省しないといけない。


「ほら、これ着て」

 と言って、姉さんは自分の上着を脱いで僕にかけてくれた。


「レイくんってば、パジャマで上の下着も付けずに急に外に出て行くんだから……。そんな恰好してたらガラの悪い男の人に言い寄られても仕方ないよ。反省しないとね」


「え、パジャマ……?」

 上半身も下半身も寝たときのままの恰好だった。

 勢いで出てきてしまったけど流石に恥ずかしい。姉さんの言う通り、女物の下着なんて付けてないから、胸元もかなり際どい状態になっていた。


「(周囲の目線がボクに集まってたのはそういうことか……)」

 体が女になっていようと中身は変わってないから、意識して無かった。


「その格好じゃ危ないし、一旦宿に戻ろう?」

「うん、わかった」


 そうして、ボク達は路地裏から離れていく。縛られた三人は騒いでいるけど、魔法は時間が経つと自然に解除するから問題ないだろう。


 ボク達二人は人目を気にしながら宿へと戻った。

 宿の自分の部屋に戻ると、探し求めていた人物とカレンさんが戻ってきていた。


「あ、ウィンドさん!!!」

 ボクはちょっと怒った様子でウィンドさんに詰め寄る。


「どうも、レイさん。面白い状態になってますね」


「笑い事じゃないですよ!!

 どうしてボクにあんな怪しい薬飲ませたんですか!?」


「性別が変化するのは予想外でしたが、手助けのつもりでした」


「あれで助けになると思ってたんですか……」


「ええ、想定通り、動き回っても平気そうな状態になってますし」


「いや、まぁ確かにそうなんですけど……!」

 体の不調とかは全部消えてはいる。女の子になった以外は。


「でも、そのせいでボクがどれだけ大変な目に遭ったか……!!」


「それはそんな恰好で外に飛び出したレイさんの責任では?」


「うぐっ……! でも性別が変わるなんて誰も予想しないじゃないですか!」


「まぁ、確かにそうですね。すみませんでした」


「むぅ……!!」

 ボクはまだ怒りが収まらなかったけど、傍に居たカレンさんに止められる。


「まぁまぁ、レイ君……今は落ち着きましょ。

 その格好じゃ私達も落ち着かないわね。一旦着替えましょうか」


 確かに、また変な人に絡まれるのは避けたい。

 でもどうしようか。


「姉さん、服貸して?」

「私? 良いけど、レイくんとだと主に胸のサイズが合わないんじゃ……」


 サイズ的に考えたら確かあまり合ってない。

 ただ、ボク個人的にエミリアやレベッカから借りるのは恥ずかしい。

 カレンさんも同様だ。ウィンドさんは後が怖いから避けたい。

 となると、姉さんしか残っていない。


「お願い、姉さん」

「……ちょっと待っててね」

 姉さんは僕の部屋から出て行って、自室へ戻っていった。


「……はぁ、何かもう色々大変だよ」

「私は見てて面白いですけどね。ぷぷぷ」


 エミリアはクスクス笑いながら話す。

 その様子を見て、レベッカも微笑みながら言った。


「レイ様、今のお姿も素敵でございますよ」

「いやいや、そんなこと言われても嬉しくないから……」


 しばらくして、姉さんが部屋に戻ってきた。

「はい、胸以外のサイズは合ってるとは思うけど、試着してみて」

 姉さんが持ってきてくれた服を受け取り、その場で着替えることにした。


「レイくん、下着も用意したから付けてね」

「絶対断る!!」

 今から着替えるという事で、ボク以外の人は全員退出してもらった。


「……ん?」


 よく考えたら、体も動くようになったし、

 この後あのクラウンという男を追うために街の外へ出ることになる。

 外に出るのが決まってるなら、いつもの鎧で誤魔化せるのでは?


 そう考えた僕は、下に着込む服だけ付けて、普段の鎧を身に付ける。

 しかし……。


「あ、あれ……?」

 普段使ってる鎧のサイズも合わず、無理しても重くて上手く動けない。

 女体化した影響で筋力が落ちてしまっているようだ。

 魔法の剣ならなんとか扱えそうだけど、少し重い装備は無理そうだ。

 龍殺しの剣に至ってはまともに振ることすら出来そうにない。


 仕方ないので姉さんに渡された普通の服を着ることにした。


「レイ、着替え終わりましたかー」

 部屋の外で待っていたエミリア達が部屋に入ってきた。


「……うわ、本当に女の子になってます」


「うぅ、あんまりジロジロ見ないで……」


「ごめんなさい。でも、可愛いですよ」


「……ど、どうも」

 ありがとうと言うべきなのだろうか。

 いや、でも男なのに可愛いと言われて喜ぶのもおかしいような……。


「というか、この薬の効果いつ解けるんだろう……」

 このまま一生女の子のままって事は無いよね?


 ボクはウィンドさんに聞いてみた。

「これ、いつ治るんですか?」

 すると、少し間を置いてからウィンドさんは答えた。目を逸らしながら。


「……さぁ?」

「えぇ!?」


 そんな、いい加減な……!

「何せ、性別が変わるのは予想外だったので……。ですが、永続的に続くわけではないと思いますよ。一週間もあれば副作用は消える筈です」


 それでも一週間も女の子状態が続くのか……。


「それよりも、レイさんは今の状態で戦えそうですか?」 

「……どうでしょうか」


 体の不調は無くなってる。さっき走り回った時も平気だった。

 ただ、いつもより筋力が落ちてる。さっきも街のゴロツキっぽい人に腕掴まれて振り払えなかったし、重い方の主武装の武器も今は扱えそうにない。


 それをみんなに伝えると、レベッカが提案が提案した。


「では、魔法に関してはどうでしょうか?

 男性と女性ではマナの総量や魔法の扱いに差異が出ると聞いたことがあります。実戦を行う前に少し練習をした方がいいかと」


 レベッカの言葉に、ウィンドさんが頷き同意の意思を示す。


「そうですね、一度外で試してみましょう」


「レイくん、行こう」

 姉さんに手を差し伸べられ、ボクはその手を取った。

 そして、そのまま手を引かれて宿を出る。

 こんな風にされると、本当に姉妹っぽくなるな……。


 いや、今はそんなことを考えてる場合じゃないな。

 みんなの足手まといにならないように、戦えるか証明しないと!

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