第237話 1/2
次の日の朝―――
「う………」
窓から朝日の光が差し込んでくる。
外から鳥の鳴き声や人々の喧騒が聞こえてきた。
レベッカが貰ってきてくれたお薬のおかげでぐっすり眠れたようだ。
「体は……」
昨日よりは少し動けるみたいだ。
少し力を入れて上半身を起こしてみる。
「よっと………つつつ……」
数日間、寝ていたせいだろうか。体の節々が痛む。
みんなが体のマッサージしてくれていたおかげで動けないって事はないけど、それでも一気に起き上がろうとすると腰が痛い。
それに少しフラフラする。まだ本調子じゃなさそうだ。
ゆっくりと体を動かし、なんとか立ち上がることが出来た。
「うぅ……軽く目眩が……」
やはり、無理をしてでも体を動かさない方が良かったかもしれない。壁に手を付きながら、部屋の外に出ると、こちらの部屋の方に歩いてくる女性の姿が見えた。
カレンさんとウィンドさんだ。
僕の見舞いに来てくれたのだろうか。
こちらの姿を見ると、カレンさんが駆け寄ってきた。
「二人とも……おはようございます」
「レイ君、立ち上がって大丈夫なの? まだ本調子じゃないって聞いてたけど……」
心配そうな表情で僕の顔を覗き込んできた。
僕は笑顔を作り、大丈夫だと伝えた。
そして、僕の体調を気遣ってくれた二人にお礼を言う。
それから僕達は部屋に戻って、僕は再びベッドに戻る。
暫くの間、僕達は雑談をした。
「傷が残っていないか少し不安でした。ですが大丈夫そうですね」
ウィンドさんは僕の首筋に手を当てながら言った。
「ウィンドさんの治療のお陰ですよ。本当に助かりました」
「フフ、どういたしまして」
加減したつもりだったけど、想像より深く切れてしまったのは内緒だ。
「あの時はびっくりしたわよ、脅かさないでよね」
カレンさんは気丈に振る舞ってる感じだけど、内心かなり動揺していたみたい。エミリアやレベッカにも泣き付かれたし、姉さんにも怒られたし、こういう自己犠牲は避けないとね。
「ごめんね、カレンさん」
「本当よ。こいつがちゃんと説明しないのが一番悪いんだけどね」
カレンさんはそう言って、ウィンドさんとジト目で見る。
「私は悪くありません」
ウィンドさんの即答に、カレンさんは呆れた様子だった。
「まぁ、レイ君の行動のお陰であの状況を切り抜けられたし、あんまり強くは言えないわね」
個人的には説教してあげたいけど、とカレンさんは付け加える。
「あはは……反省します……」
僕もあんな痛い思いはもうしたくない。
「やっぱりしばらくは動けそうにない?」
「うん……まだ体が怠くて……」
まだ数日しか経っていないとはいえ、あれだけの無茶をしたのだ。
「そっか……じゃあ、私達二人で行くしかないか」
「そうですね……少々戦力が足りない気がしますが、あまり時間を掛けられそうにありませんし」
カレンさんとウィンドさんが頷き合って何かを話している。
「二人とも、何の話?」
僕がそう尋ねると、ウィンドさんが言った。
「あのクラウンとかいう男の居所が判明しました。
悟られる前に、こちらから接近して決着を付けようと思います」
「あいつが!?」
僕は思わず声を上げてしまう。
「えぇ、逃げられる前に接触してこちらから仕掛けるつもりです」
「……」
あの男の正体は未だに分からないけど、野放しにするわけにはいかない。
「僕も行きます」
姉さんを人質にしたり街に災厄を呼び込んだ元凶でもある。それにあいつは人間では無い。人を斬るのには抵抗はあるけど、躊躇はしない。
「駄目よ、レイ君はまだ休んでなさい。
あいつの力を見たでしょ? その状態のあなたでは足手まといよ」
「でも……」
確かに、今の僕はまともに戦える状態ではない。
そんな状態で一緒に行ったところで迷惑をかけるだけだ。それは分かっているけど、このまま指をくわえて見ているだけなんて嫌だ。
「ふむ……」
ウィンドさんは顎に手を当てて少し考えると口を開いた。
「私が作成したとっておきの薬があります。それを使いますか?」
「と、とっておきの薬……ですか」
なんだか怪しげな響きだ。ウィンドさんが鞄の中から取り出したのは、小さな瓶に入った緑色の液体だった。
「これは……なんでしょうか」
「さぁ……ですが、味はそれなりですよ」
ウィンドさんは笑顔でさらっと怖い事を言ってきた。
それなり?それなりにヤバい味って意味!?
「一応聞きますが……飲んだらどうなるんですか?」
「……元気になりますよ?」
今の間はなに!?
絶対に体に良くない奴だよ!!
「ウィンド……それ、大丈夫でしょうね……?」
「少々刺激が強いですが、体内の機能が活性化して血液不足も補えるはずですよ。副作用はありますが、死なないので問題ありません」
「ある意味死なないのが欠点になりそうだけど……」
カレンさんが額に手を当てながらため息を吐く。
「まぁ、無理矢理にでも飲んでもらうしかないですね」
ウィンドさんは笑顔のまま、僕に小瓶を差し出してきた。
「……」
僕は手渡された薬を受け取り、無言で見つめる。
「(ど、どうしよう……飲んだらロクな事にならないよ……)」
自分も行くなんて言わなければ良かった……。
「ほら、グイッといきましょう。躊躇すると飲めなくなりますよ」
「うぅ……」
ウィンドさんに急かされて、覚悟を決める。
「……分かりました」
意を決して、僕は薬を飲み干した。
「ぐっ!?」
「大丈夫ですか?」
「は、はい……なんとか」
苦いし、不味すぎる。青汁みたいな味を想像してたけど、まるでヘドロを飲み込んだような吐き気と気持ち悪さが襲ってくる。
「うぷっ」
咄嗟に口元を抑える。やばい、吐きそう。
「これ、本当に大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ。先日届いたマンドラゴラの一部が含まれていますが、毒素は抜いてありますし」
せ、先日……?
緊急依頼の一つに『マンドラゴラの採取』ってあったけど、
あれウィンドさんの依頼だったの!?
そんなことを考えてたら体が熱くなってきた。
体中が沸騰しているみたいに熱い。
「ぐ……ぐうううううううぅぅぅぅ!!!」
「ちょっ……!? レイ君!!」
カレンさんの慌てた声が聞こえるけど、それに反応する余裕もない。
ただひたすらに全身が燃えているように感じる。
それから数分後―――。
僕は耐えられなくなってその場で意識を失った。
◆
――数時間後。
目が覚めると、僕はベッドの上に寝ていた。
頭がボーッとするけど、起き上がると不思議と体が軽い。
どうやら薬の効果は本物のようだ。
だけど、何だろう。
何だか体の調子が変な気がする。
あと声の調子がおかしいし、髪が長くなっているような……。
「ボク、どうしちゃったんだろ……」
自分の体を確かめてみると、いつも着ていた服のサイズが違っていた。いや、服のサイズは同じなんだけど、いつもより何故かブカブカで………何故か一部分が息苦しい。
トントントン、とドアを叩く音が聞こえた。
『失礼致します』と、か細い声が聞こえるとドアが開き、入ってきた。
「レイ様、調子は如何でしょうか。先ほど、ウィンド様が――」
入ってきたのはレベッカだった。
しかし、何故か不自然に言葉が途切れて、こちらを驚愕の目で見つめる。
「れ、レイ様、そ、そのお姿は……!?」
「えっ?」
レベッカが何故か動揺しているが、心当たりがない。
「レベッカ、どうしたのですか?」
「レイくんは大丈夫なの!?」
部屋の外からエミリアとベルフラウ姉さんの声が聞こえてきた。
レベッカと同じく、僕を心配して部屋に来てくれたのだろう。
「た、大変でございます、レイ様が―――!!」
「だから何をそんなに慌てているのですか?」
「そうだよ。ちょっと落ち着いて話してみて」
部屋の中に飛び込んできた二人は僕の姿を見て硬直した。
「レイくんが女の子になってるー!!」
「なんということでしょう!?」
……はい?
僕は二人の言葉の意味を理解するのに少し時間がかかった。
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