第232話 忍び寄る影
――戦闘開始から約三十分後。
「はぁ~、終わった」
最後の一体を倒したところで僕はその場に座り込む。
「やっと終わりましたね、レイ様」
レベッカも汗を拭いながら地面にへたり込んでいる。
後衛組もかなりのMPを消耗していたようだが、僕達はその分かなりスタミナを消耗している。更に、魔法剣や強化魔法でMPも削っているため、負担としては僕らの方がずっと大きかっただろう。
「お二人とも、見事でした。ですが、まだ魔力の練りが甘いですね」
ウィンドさんに称賛と、ついでにダメ出しをされた。
「精進します……」
「あはは……」
僕とレベッカは苦笑いをするしかなかった。
「レイさんはいちいち魔力の消費が大きすぎます。無詠唱なんていう才能に頼りきりだから基礎が疎かになっているのです。無駄な魔力を消費せず、最低限の魔力で魔法を使うことを意識しなさい」
「は、はい……」
よく見てるなぁ、この人……。
「レベッカさんは魔法の発動速度が少し遅いです。
もっと早く撃てるよう、意識してください。魔法剣士のレイさんにも言えることですが、前線で戦いながら魔法を使うのですから、魔法を撃つタイミングを逃さないよう、練習しましょう」
「精進いたします……」
「それと、二人とも強力な魔法を使用する割に、魔力が不足しています。
「瞑想ですか? それって、目を瞑って心を静める……」
よくアニメとかでもあるよね。
「
長く鍛錬を積むことで効率的に魔力に変換できるようになります。魔法使いの基礎ですよ。エミリアさんはこれをしっかり実践出来ています」
エミリアが褒められてるけど、当のエミリアは複雑そうな表情を浮かべている。
「な、なるほど……。でも、僕に出来るかなぁ……」
「出来るか、ではありません、やるのです」
「「は、はい……」」
僕とレベッカはウィンドさんの言葉に素直に従う。
というか、ウィンドさんがここまで色々お説教する人だとは思わなかった。
「ウィンド、その辺にしなさいな。今は鍛錬じゃなくて、解呪しに来たのだから」
「分かってますよ、カレン……」
僕達は立ち上がり、広間の奥の方へ向かう。
奥には空の宝箱がいくつか置かれており、中央には黄金のガーゴイル像が置かれていたと思われる台座があった。
「ここに、黄金像を戻せばいいのかな」
「そうね、その前にここに魔法陣を設置しないと」
魔導書に記されていた魔法陣を台座を中心にして描いていく。
更に、供物として<蛇の翼>と<消えない炎の欠片>を設置する。
今更だけど、こんなもので大丈夫なのだろうか。
そして最後に……。
「……誰の血を使うかだよね」
最後の供物として<魔を払う術者の体液>というものがある。
浄化の魔法が使用できるカレンさんと姉さん、それに一応勇者として扱われている僕と巫女のレベッカが該当する。誰かの血を使うかは何度か相談してはいたのだが……。
ぶっちゃけ、今は全員とんでもなく疲労している。
もし今血を抜こうものなら今日一日まともに動けなくなるだろう。
「……僕がやるよ」
少し前に僕の血を使うことを決めていたし、ここで文句を言っても仕方ない。
僕は腕を捲り、自分の剣を取り出し―――
「待った」
姉さんに止められた。
「どうしたの姉さん?」
「ここはお姉ちゃんがやります」
そう僕に告げると、姉さんは自分の指先を切り、
そこから滴る血を使って魔法陣の上から血で描き始めた。
そして、完成した魔法陣の中心に立つ。
「姉さん、どうして?」
「この中だとお姉ちゃんが一番消耗が少なそうだからね。それにここはまだ危険地帯。今、レイくんが戦えなくなると困るかもしれないわ」
「そんなこと……」
「大丈夫。私に任せて」
姉さんは既に覚悟を決めたようだ。僕は何も言えなくなり、下がる。
「それでは準備が整ったようですし、始めましょうか」
ウィンドさんは、何処からか黄金のガーゴイル像を出現させ、台座の中心に設置した。
「……それで、この後どうすればいいの?」
「えっと……最後に、呪いを解くアイテムに術者の血を掛けてください」
エミリアは魔導書を読み上げながら言った。
姉さんは、その言葉に従って、黄金像に自身の血を滴らせる。
すると、魔法陣が光を放ち始めた。
「これで、解呪完了?」
「いえ、ここから呪文を詠唱します。皆は下がっててください」
エミリアは、杖を取り出して、
魔法陣の傍に石床をコンコンと何度か叩いてから、詠唱し始めた。
『我は、汝らに問い掛ける者なり。
我が声に応えよ、魂を震わせよ。
汝らの穢れは、我が手にて祓われるであろう』
詠唱を終えると同時に、魔法陣から光の波動が広がり、広間全体を包み込んだ。
黄金像からは黒い瘴気のようなものが漏れ出し、それらは天へ上っていき、周囲の光にかき消される。同時に、設置してあった黄金像は亀裂が入り、徐々にその輪郭を崩していき、最後には砂のようにサラサラと崩れ去った。
供物として用意した二つも一緒に砂のように消え失せた。
「………ふぅ。これで解呪完了です。
街に掛かっていた病魔の呪いもこれで解消されたはずですよ。
あと数日すれば患者さんも元通りでしょう」
エミリアは、額の汗を拭いながら笑顔で言った。
「やった!」
「おお、流石です……エミリア様」
「一時はどうなるかと思ったけど、なんとかなったね」
僕達は喜びの声を上げる。
「……それじゃあ、帰ろうか」
呪いが解けたのならこんな辛気臭い場所に用は無い。
「そうね、帰りましょうか……っと」
姉さんは僕の元へ駆け寄ろうとしたところで、体がふらついて倒れそうになる。
僕は咄嗟に姉さんを抱き止めた。
「大丈夫?」
「うん、ちょっと血抜きしたからかな……」
姉さんの顔色が悪いように見える。あれだけ血を流したら当然か……。
「ウィンドさん、姉さんがちょっと辛そうなんですけど、負担を軽くするような魔法とか……」
と、僕はウィンドさんに声を掛けたのだが、何故かその姿は何処にも居なかった。
「……あれ? ウィンドさん?」
全然喋らなかったから今の今まで気付かなかったけど、いつの間にかその姿が消えていた。
用事も終わったし、帰ったのだろうか。
それにしたって、お礼くらい言いたかったんだけど……。
「あいつの考えはよく分からないわねぇ」
カレンさんはいつものことよと言いたげに言った。どうやら日常茶飯事のようだ。
そういう事なら仕方ない。なら、帰ることを考えよう。
「結局、通路は相変わらず壁に塞がれたままのようだし、どうしようか?」
「まぁ脱出魔法を使うしかないわよね」
歩いて帰る手段が他に無いし、これ以外の手は無さそうだ。
「………?」
僕に支えられてる姉さんが不思議そうな表情をした。
「姉さん?」
「レイくん、あそこを見て」
姉さんが指差す方向を見ると、
柱の傍にここに居ないはずの人物が立っていた。
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