第231話 待ち構える敵
魔物はどれも強力な存在だったが、僕とレベッカが前に立つ。
カレンさんは中衛で纏まった敵に対して聖剣技を使用する。
姉さん、エミリア、ウィンドさんは更に後方に立ち、壁を背にして陣形を組む。
「聖剣解放50%!
言葉と共に、カレンさんは聖剣を一閃する。
放った<聖破>の光は横一線に敵の前方に飛んでいき、敵前列の魔物達に直撃しそのまま後方に吹っ飛んでいきダメージを与える。
「レイ君、ちょっと怪しい魔物もいるけど今回は躊躇しちゃダメよ!! 加減なんてしたらこっちがやられてしまうわ!」
「はい!!」
僕は答えて剣を構える。
そうだ、さっき情けないところを見せてしまったし挽回しないと!
「
エミリアは炎の魔力を込めた無数の<火球>を放ち、敵の密集している場所に撃ち込んでいく。着弾と同時に爆発が起こり、魔物は吹き飛ばされていく。
「よし、レベッカ!」
「はい!」
僕達二人は一斉に前に出て、正面の魔物達へ駆けていく。
「レイ、今の間に訊いておきますけど、苦手な相手とか居ますか!?」
エミリアの声が僕に飛んでくる。
「あの、人の姿みたいな魔物!!」
「分かりました。そいつらは私とベルフラウがどうにかします!!」
「了解!!」
僕はそう言って走りながら剣を構える。敵は僕の方にも数体向かってきており、その内一体は肥大化した腕を振り上げて殴りかかってきた。
「くぅ!?」
咄嵯に剣で防いだものの、凄まじい衝撃で体が後ろに押し戻される。
しかし、僕の後方から魔力の砲弾が飛んできて、魔物を弾き飛ばした。
「レイくん、そっちの魔物は私達がどうにかするわ!!」
「ありがとう!!」
まだ人間の姿をした魔物は苦手だからエミリアと姉さんの気遣いはかなり助かる。
僕とレベッカは基本的に魔物を狙って武器を振るう。魔物達は、主に各魔物の最上位種ばかりだ。それも通常の個体より能力が高いため、一筋縄ではいかないが確実に一体ずつ倒していく。
カレンさんは時々前衛に出るけど、<聖剣技>を使用しながら範囲攻撃した方が効率的と考えたようで、中距離から敵を攻撃している。こうやって火力技を連発するのが一番得意らしい。
姉さんとエミリアは僕達の支援だ。そして、ウィンドさんといえば……。
「暇ですね………」
最後尾で<能力透視>で得たデータを閲覧しながらぼやいている。他にも何か魔法を使っているようだが、何をしているのかは僕にはよく分からなかった。
「ウィンド!! アンタ、この状況でサボってんじゃないわよ!!」
カレンさんの怒号がウィンドさんに飛ぶ。
同時にカレンさんは前方の魔物達五体ほどを<聖剣技>で一掃する。相変わらずとんでもない強さだ。
「あぁ……すみません、つい……」
「こっちがどれだけ必死になってると思ってるのよ……」
カレンさんはさきほどから<聖剣技>を立て続けに連発している。
流石に消耗が大きいようで、肩で息をしている。
レベッカの方も似たような感じだ。化け物の相手をしているが、数が多すぎるせいで槍のリーチを維持しきれず高速移動しながら戦場を走り回り、隙を見て槍で攻撃している。しかし、化け物たちは上級の魔物ほどの強さでは無いらしい。数発攻撃すれば勝手に体が腐り落ちて自壊していく。
「仕方ありませんね、私も参戦します」
ウィンドさんは<能力透視>を中断し、虚空から杖を取り出して一番近くの魔物に向けた。
「
ウィンドさんは殆どやる気のないようなか細い声で魔法を唱え、真空の刃を繰り出す……が、
その威力は尋常でなく、目の前の魔物どころか、その後方に居た魔物達の体を丸ごと切断し、そのまま後ろ柱まで切断した。
「な、なんですかそれ……」
隣で見ていたエミリア呆然としてウィンドさんの出した魔法の威力に驚いているようだ。
「研鑽の結果です。貴女も頑張れば同じくらいのことできますよ」
「いや、どれだけ頑張っても初級魔法でそれは無理な気がするんですけど……」
エミリアの言葉に僕も同意する。
というか、今の光景何処かで見た覚えがあるんだけど……どこだっけ?
ウィンドさんは何事もなかったかのように次の標的を定めて魔法を放つ。今度は
「凄い……」
エミリアも凄い魔法使いの筈なのだが、初級魔法であんな威力は出せない。
仮にエミリアの<初級風魔法>の攻撃力が200とするなら、ウィンドさんの<初級風魔法>の攻撃力はその倍くらいはある。カレンさんに聞いてた以上にとんでもない魔法使いだった。
しかし、後衛の余裕そうな印象と裏腹に、前列組は必死だ。
いくら後衛が魔法で支援したとしても、剣や槍を振り回す僕達の体力の消耗は早い。大技を連発してるカレンさんも流石にきついようで、技の間隔が少しずつ長くなってきている。
最初は別々に戦っていた僕のレベッカだったけど、
流石に厳しくなってきたので、今はペアを組みながら戦線を維持している。
後方はウィンドさんが参戦したので何とかなるだろう。
「レイ様、わたくし……少し疲れてきました」
「僕もだよレベッカ、あと数どれくらい?」
かなりの敵を倒して、周囲は血の海に染まっている。足元はヌルヌルして気持ち悪いし、なによりも返るような血の匂いが気持ち悪くて、胃液が逆流しそうになる。こうやって、仲間と話して気を紛らわせないとやってられない。
「このペースだと、大体半分といったところでしょうか……」
最初は敵の数は七十といったところだったが、ようやく残り三十程度まで減ってきている。もう少し纏まっていれば一気に数を減らせるのだが、あいにく固まってる敵は少ない。
僕らに余裕は全然無い。姉さんが
「二人とも大丈夫!?」
後方から姉さんの心配する声が飛んでくる。
「うん……なんとか!」
「問題ありません……が、出来れば支援して頂けると助かります」
僕達はお互いに顔を見合わせ、力なく微笑みあう。
そして、気合いを入れ直すようにお互いの顔を見て、再び剣と槍を振るう。
◆
―――エミリアサイド―――
「ウィンド、私も前衛に出るから後はよろしくね」
「分かりました。任せて下さい」
ウィンドさんはカレンに返事を返すと、
カレンは前線に出てウィンドさんは後方から魔法を連発し始める。
「
「
「
「
矢継ぎ早に連発するウィンドさん。
一つ一つの魔法が中級魔法を越える破壊力で魔物達が次々と甚大な被害を伴い、数多の魔物達が消滅していきます。魔法のランクこそ低めのものを使っていますが、その威力は私の中級魔法の威力を軽く超えるほどでした。
――ギャアアアアア!!!
――グアアアアアアアア!!!
――GUUUUUUUU!!!
ウィンドさんの魔法が着弾した場所から魔物達の断末魔が響き渡る。
ここに集まった魔物達は、悪魔系こそいないものの、上位種ばかりだというのにまるで弱小のゴブリン退治のように簡単に掃討されていきます。
「………」
威力もそうですが、その連射速度が凄まじい。
私も連発自体得意なのですが、別系統の連射はそこまで得意ではありません。
出来るのは<火球>や<氷の槍>などを大量展開することで、このやり方なら魔力次第でいくらでも展開出来るのですが、別系統となると話は別です。
この人、魔導書や魔法の教本で名前が載るほどの大魔道士なのですが、ここまで力差があると流石に自信が無くなってきますね……。しょぼん。
「ほら、エミリアさん。あなたも頑張って」
「え!? あ、はい」
突然話し掛けられて、自分の魔法が止まっていたことに気付く。
ここまでくると、もう私戦わなくていいのでは?
そう思ったのですが、まぁちょっと悔しいので私ももう少し頑張ってみます。
気合いを入れ直さねば。
「―――禁じられた魔導書、起動!!」
私より強い人たちばかり現れてちょっと気に入りませんね。
最近、魔導書の力を借りないと周りに付いて行けてない気がします……。
レイには禁止されてますが、
一度<究極魔法>を発動させて目に物を見せてやりたい。
◆
「うわっ……何かすごい」
後ろの方でウィンドさんが戦いに加わったと思ったら、突然攻撃魔法の連射で魔物や化け物たちが爆散していく。さっきまでの苦労が嘘のようだ。
「ほらほら、レイ君もサボっちゃダメよ」
後ろから声を掛けられて、振り向くとカレンさんが剣を持って立っていた。
「カレンさん」
「あいつがようやく仕事するようになったし、私も前線に出るわ。さっさと戦いを終わらせましょう」
さっきまで中衛で戦っていたカレンさんだが、いよいよ直接戦うみたいだ。
「うん、頑張りましょう!」
「ええ、これが終わったらしばらく休みたいわね」
カレンさん、それ死亡フラグだから!!!
そして、さほど時間が掛かることなく魔物の掃討が完了した。
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