第230話 通過反応ギミック

 更に一時間半後―――


 魔物とは一度も遭遇せずに、ついに僕達は最深部と思われる地下三階まで到達してしまった。


「ウィンドさん……魔物の気配は……?」


「……この階層の、やはり最深部の大広間ですね。おそらく、呪いの元凶の地点だと思いますよ」

 ウィンドさんはそう言うが、その言葉でさっきまで考えていたことが確信に変わる。


「……姉さん」

「どうしたの、レイくん?」

 僕に声を掛けられて、姉さんが隣に歩いてくる。


「……この状況、どう思う?」


「状況って……まさか……」


「うん……。僕達が入るタイミングを狙いすましたかのように察知して遺跡に入り込んでるみたいだし、今だって封印の場所に魔物を集めている。まるで、これって……」


「……私達を妨害しようとしている?」


 人が襲われてて最深部に逃げ込んだ結果という可能性も捨てきれない。

 だけど、数時間も魔物の集団から逃げきれるとは思えない。

 となると、やはりウィンドさんの言っていた誘導の線が濃厚だ。


「魔物達は最深部の部屋から動こうとしません。もし、あちらが私達の存在に気付いていたとするのであれば、レイさんの推測通りの可能性は高いでしょう」


 だとするなら、相手は僕達の事を知っている?


「その場合、待ち構える相手は一体何が目的なんですか?」


 エミリアが疑問を口にする。

 そうだ、まだ相手の正体が分からない。


「……冷静になりなさいな、エミリア。

 そもそも私達に敵対するような相手なんて限られているでしょう」

 と、カレンさんは言った。


「……という事は?」

 エミリアはハッとした顔をした。


「あの、デウスとかいう仮面男!!」

 エミリアがそう叫ぶと、カレンさんが言った。


「……その可能性もあるかもしれないわね。

 私はまだ会ったことないけど、エミリア達とは直接対面してるのよね」


「でも、どうしてあいつが……」


「それは、本人に訊くしかないんじゃないかしら。

 今度こそ本気で仕留めに来たのか、それとも今回の一件にそいつが絡んでいるのかは分からないけどね。レイ君が勇者であることはまだバレてないはずだけど……」


 私を狙いに来たのかも?とカレンさんは付け加えるが、疑問は残る。


 何故、そいつは僕達がここに来ることを知っていたのかという事だ。偶然という可能性も考えられるけど、いくら何でも間が悪すぎる。


「……レイ様、疑問は尽きませんがそろそろ参りましょう。わたくし達も呪いを解くという目的を達成せねばなりません」


 レベッカが言った。


「……そうですね。ウィンドさん、先導お願いします」


 僕はそう言って、ウィンドさんが指差す方向へ歩き出す。

 地下三階は直線の通路と、広間だけで構成された構造になっていた。

 周囲に別れ道など無く、直線以外に進む場所は無い。


 そして僕達は直線の通路を進み、大広間の入り口の前に立った。

 入り口の前には黄金色をした巨大な関門開きの扉があった。

 高さはおよそ五メートルほどある。


「魔物の気配は……うん、かなり感じるね」

 正確には分からないけど、間違いなくここに魔物達が集結している。

 まさにモンスターハウスといったところだろう。普段なら絶対入りたくない扉ではあるけど……。


「扉を開く前に詠唱でもしておきましょうか、そうすれば魔物が襲ってきても一掃できますよ」

 エミリアの案だ。


「そうだね、それでいこ―――」

 僕が言い終わる前に、周囲からガタンと大きな音が聞こえた。


 ――――ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!


「な、何……!?」

「罠……!?」


 僕と姉さんがそう言った直後、僕達が通ってきた通路の壁が動き始めた。

 左右の壁は徐々に間隔を狭くし、轟音と共に迫ってくる。


「まずいわ!早くこの場から離れないと!」

 カレンさんの言葉に全員が走り出そうとするが、階段は遠く戻ることは困難だ。

 かといって、魔法で脱出する時間もない。


「みんな、広間に入ろう!!」

 僕は黄金の扉に手を置いて体重を掛けて扉を開こうとするのだが……。


「ちょっ……これ、重過ぎる!!」

 僕が全力で押してもびくともしない。レベッカや姉さんも僕に手を貸してくれるのだが、それでも全く動かない。


 このままでは、僕達は壁に挟まれて全滅してしまう!!


「みんな、そこから離れて!!」


 カレンさんは大声を上げながら、聖剣を取り出して構える。

 意図を察した僕達は、被害を受けないようにカレンさんの後ろに回って見守る。


「――聖剣解放―70%― <聖爆裂破>ホーリーブラスト!!!」

 彼女の持つ聖剣が眩しい光を放ち始める。


「いっけぇぇーッ!!!」

 カレンさんはそう叫ぶと、勢いよく振り下ろした。

 すると次の瞬間、凄まじい光の爆発が起こり、周囲の壁にヒビが入り、目の前の黄金の扉は粉々に砕け散った。


「今よ、みんな!!」

 カレンさんの言葉で、僕達は即座に大広間の中に入り、何とか危機を乗り越えた。



 数秒後、両側の壁は激突し轟音を上げ、そのまま動かなくなった。

 もし判断が遅ければ、僕達は全員石の壁に挟まれて死んでいただろう。

 しかし、壁は閉じたままで、僕達は完全に退路を断たれてしまった。


「これは……」

「完全に逃げ道を塞がれましたね」

 エミリアとレベッカはそう言うと、それぞれ武器を構える。


 この広間は暗闇で周囲の様子が分からないが、それでも多数の魔物の気配を感じる。

 いつ襲われるか分からない。


「……姉さん、<閃光>フラッシュで周囲を照らしてくれる?」

「えぇ……」


 姉さんはそう答えると、杖に魔力を込めて<閃光>を唱えた。

 杖の先から放たれた光が部屋全体を照らす。

 その瞬間、僕は自分の目を疑う光景を目の当たりにした。


「そんな……!?」

 そこには、五十を超える多様な魔物と、それ以外にも正体の分からない人間の形をした化け物が数十体、僕達を囲んでいた。


「想像よりも数が多い……」

 エミリアは信じられないといった表情をしている。


「どうやら、私達の事を歓迎してくれるみたいね」

 カレンさんはそう言って聖剣を構えた。


 魔物はあまり見かけない魔物も少数いるが既知の敵ではある。

 問題は、正体不明の『人間の形をした化け物』だ。


 顔や腕、足などの輪郭はそのまま人間で、腕や顔が肥大化して黒ずんでいたり、首そのものが無くなって骨が飛び出ているような奴もいる。

 中には上半身のみで這いずるように動いてる姿もある。


「こいつら……まさか……」

「人間……の、成れの果てと考えた方がいいでしょうか」

 レベッカが言った。


 人間とは考えたくないが、明らかに人間の衣服のような布を纏った化け物が多数いる。それによく見ると、ボロボロになって錆びた剣や杖などを手らしき部位で持ち、体を支えているように見える。


「あの仮面の男は……?」

 エミリアはデウスの姿を探しているが、今のところは見当たらない。

 ここに居るのは凶暴そうな魔物達と、人間の成れの果ての化け物たちだけだ。


<能力透視+>アナライズ………なるほど、ここに存在する魔物は何かしらの手段で強化を施されていますね」

 ウィンドさんが魔法で魔物を解析しながら言った。


「強化?」

「えぇ……といっても強化魔法ではありませんね。外部的な手段で体の筋力を肥大化させて無理矢理強化を施されているようです。その分、かなり生命力を削っているようですが……」


 その強化に思い当たるものがある。<黒の剣>の存在だ。

 あの剣は人間を狂化させるだけでなく、魔物を強制的に進化させて強化する能力がある。


「……となると、やっぱりあの仮面の男がここに来ていた可能性がありますね」


「しかし、先ほどからわたくしが<鷹の目>で周囲を確認していますが、それらしい姿は見えません」


 この広間は姉さんの<閃光>で照らされているため、はっきりと見える。

 奥の方に、おそらく呪いのアイテムが置かれていた台座はあるものの、他に隠れるような場所も見当たらず、他に扉や部屋なども存在しない。


 かといって背後は壁で塞がっており、僕達が気を取られているうちに後ろを通って逃げ出したというわけでもなさそうだ。


「みんな、話はあと!」

 カレンさんがそう叫んだ直後、魔物達は一斉に動き始めた。

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