第223話 蛇の悪魔(前編)
僕達は姉さんのお陰で見つけた魔物の元へ向かう。
リーサさんには離れた場所で馬車と一緒に待機してもらっている。
そうして歩いていくと、森の上空に異様に存在感を醸し出す、
明らかに普通の生き物では無いが巨大な魔物の姿を確認することが出来た。
「あ、いた。 みんな、アレだよ」
姉さんが正面に指を差しながら小さく声を出す。
僕達は魔物から見つからないように、森の木の影からこっそりと探る。
姉さんの指差した方向を見ると、
蛇のような非常に長い体の魔物が左右にある翼で空を我が物としていた。
あれが今回の依頼対象の魔物か……。蛇というか……。
「何でしょうね、あれ」
「白と黒の入り混じった翼ですけど、蛇というよりは……」
「ドラゴンみたいよね、妙に細いけど」
一般的なドラゴンの形と違って、日本の神話でよく出てくるような長い体を持つ龍に近いだろうか。直径五十メートルはあろうかという細長い灰色の体をしている。かなり巨大な魔物だ。
左右に翼が数十か所生えていて、顔に当たる部分は細長く先が尖った形をしている。翼の色は白だが、所々黒い斑点があるのが特徴的だ。
しかし何なんだ、この違和感のある感じ……。
神聖そうに見えるが継ぎ接ぎな印象で不気味が勝る。
「……エミリア、あいつ調べてみてくれない?」
「了解です。それでは、
Lv73 <邪龍・ヒュドラ>
<種族:ドラゴン・悪魔>
HP3500/3500 MP1000/1000
攻撃力620 物理防御330 魔法防御330
所持技能:暗黒のレーザーLv50 飛行能力Lv10 突進攻撃Lv20 狂化Lv5
所持魔法:闇属性魔法Lv30
耐性:闇属性無効、光属性半減、状態異常無効
弱点:地属性、炎属性、射撃属性
補足:古びた遺跡に封印されていた<封印の悪魔>の一体。
元々は更に強大な強さを持っていたが、封印された影響で弱体化している。
本来、人語を話せるほどに高い知能を持っていたが、
長く封印されていたせいで知性が下がって話すことが出来ない。
強力な突進攻撃と闇の攻撃が得意。
「やっぱり<封印の悪魔>か……」
前回に続いて、相当強敵と感じるくらいに能力が高い。
「邪龍……ということは、普通のドラゴンでは無いのでしょうか?」
「悪魔族ってあるし魔王の眷属に近い存在なのよ。普通のドラゴンよりも強いのは間違いなさそう」
エミリアの疑問に対して、カレンさんが答えてくれた。
「それで、どうするの?
まだあの邪龍はこっちに気付いていないみたいだけど……」
姉さんは少し空に漂いながら魔物の様子を見ている。
「とりあえず姉さんは飛行を止めて、光ってて目立つし」
「はーい」
そう言って、姉さんは地上に降り立つ。
気付いていないという事は先制攻撃出来るという事だ。
しかし、奴は地上から四十メートルくらいの高さで飛んでいる。
なら、有効なのは攻撃魔法、それに射撃だ。
そして、射撃と魔法が得意なのはレベッカだ。
「レベッカ、行ける?」
「はい、お任せくださいまし」
僕の言葉の意図がすぐに分かったのか、レベッカは木を登って弓を取り出す。
「レベッカー! 最初の一撃だから全力でね」
この一撃が大事なので、念を押してレベッカに伝える。
「全力……! 了解でございます!!」
レベッカは、何故か凄く気合いを入れはじめた。
そして、自身にいくつかの魔法を付与する。
レベッカが使用したのは、主に<強化魔法>だ。<精霊魔法>の併用して、効果量を高めている。
<感覚強化><射程強化><筋力強化>の魔法を連続して使用。
左から順に、命中強化、射程向上、攻撃力強化の効果がある。他にも副次的な作用はあるが、今は省略する。そして、最後に使用するのが、
<付与>は僕が使用する<魔法剣>に似てるけど少し違う。
魔法剣は魔法を通すことが可能な剣に攻撃魔法を一時的に保存する。そして攻撃時に一気に魔力を流し込み、攻撃魔法を遅延発動させ、物理攻撃との同時攻撃を行う技術だ。
対して、付与は遠隔武器に対して属性を付与させる。炎属性を付与させるなら炎と同じ効果が出るし、氷属性なら着弾時に相手を凍らせる。風魔法なら着弾速度の向上など、追加効果を与える。
効果は一度きりで、物理威力も底上げされない。
あまり使い勝手も良くないので、習得者が少ないとエミリアは言ってた。
『――地の力を、我が弓に宿れ――
レベッカが詠唱すると、レベッカの構える矢の色が黄土色に染まる。
更に、レベッカは追加詠唱を行う。
『――世界よ、我が言葉に耳を傾けたまえ………
その詠唱で、レベッカの体に更なる魔力が宿り、それを通して弓と矢に魔力が迸る。
重力の影響か、レベッカが立っていた地面が沈み始める。
僕も初めて見る魔法だ。
「では行きます!!」
レベッカは邪龍に狙いを定め、矢を解き放った。
解き放たれた矢は凄まじい速度で飛んでいくが、途中で失速して落下していく。
……あれ? 外したかなと思ったが違った。
地面に落ちたはずの矢が急加速し、まるで生きているかのように軌道を変えて再び上昇し始めた。
「うそ!?」
「重力を操作しながら矢の軌道を変化させています。これをすることで……」
レベッカが言い終わる前に、邪龍に向かって行った矢が直撃した。
それだけでは無い。その矢が刺さったと同時に、重力が加わり、矢がそのまま邪龍の傷口を抉り、そのまま反対部分まで貫いて天高く飛んでいった。
――GUAAAAAAA!!!
邪龍の悲鳴が周囲に轟き、その大きな声だけで大気が震える。
あまりにも大きな悲鳴で、僕達は耳を塞ぐ。
そのまま魔物は森の中に落下していき、ズシンと大きな音と衝撃を立てて地上へ叩きつけられた。それと同時に、森に住む鳥たちや小動物が森から逃げていく。
「――――と、重力を操作することで、矢の軌道を変化させつつ、
更に命中と同時に重力のベクトルを変化させることで威力を加速させることが可能です」
レベッカは耳を抑えながら、僕達に解説してくれた。
何故か、体がプルプルしているのが気になる。
何だかもう、魔法とか言うレベルじゃない気がするけど……。
というか重力だけではここまで自由自在に矢の軌道を動かせるわけない。
もはやファンネルとかその類じゃないだろうか。
「凄いわね、これなら実体が無い相手以外なら無敵じゃないかしら……」
カレンさんが感心したような声で言った。
「い、いえ、実はそれほど気軽に使えるような魔法ではなくて……」
レベッカは、構えていた腕をゆっくり下げて、そのまま地面にしゃがみこんでぷるぷるしている。
「……レベッカちゃん?」
「急にしゃがみ込んで、どうしたんですか?」
姉さんとエミリアが心配そうにのぞき込む。
「そ、その……実は、さっきの魔法はわたくし自身にも影響がありまして……。
弓矢に重力魔法を付与する影響で、体の方にも重圧の効果が掛かってしまうのです……」
体中が極端な負荷を感じているようだ。
つまり、筋肉痛みたいな状態になってぷるぷる震えているのだろう。
これは確かに気軽に使えない魔法だなぁ……。
「そこまで本気でやらなくても……」
「ですが、レイ様が『全力で』と仰っていたので……」
……ん?
「あれ、僕のせいだったり?」
僕の言葉に、レベッカ以外の全員がこくんと頷く。
「そういう事なので、少しの間、わたくしは動けません。
皆様のご健闘をお祈りしております」
レベッカは体をぷるぷる震わせながら、こちらに手を振る。
「……うん、まぁ休んでてね」
「はい、レイ様…」
まぁ命に別状は無さそうだし、大丈夫だろう。
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