第222話 暇を持て余した冒険者たちの遊び
街を出て馬車で三時間後くらい経った頃―――
「多分この辺りだよね」
「地図が示す場所も……近くに湿地帯があって……うん、この辺ですね」
僕とエミリアは、地図を見ながら話し合う。
「リーサさん、馬車を停めてください」
「畏まりました」
リーサさんは馬車を停止させ、僕達は馬車を降りて周囲を散策する。
この辺りは地面がぬかるんでいて少し歩き辛い。
「うわ……足が泥だらけになりそうだね……」
姉さんは歩くのが嫌になったのか、前に見た光パワーで宙に浮き始めた。
「え、ベルフラウさん、何それ? 飛行魔法……じゃなさそうね」
カレンさんは驚くというか唖然としている。
「えへん! これが真の姉の女神パワーだよ!!」
姉さんは得意げに胸を張る。
真の姉のパワーなのか、女神のパワーなのかはっきりしてほしい。
しかし、前より自由に動けるようになったのか、浮くだけじゃなくてちゃんと空中で飛ぶことが出来るようになったようだ。以前より動きが軽快だ。
「さすがです、ベルフラウ様!」
レベッカは尊敬の目を向けるが、前に飛んでいた姉さんがドラゴンに襲われたことがあるのであんまり褒めるとロクな事にならない。
「レイ君、前から思ってたんだけど……」
「え、何、カレンさん」
カレンさんは姉さんに聞こえないように、小声で僕に顔を近づけて話す。
口を動かすたびに、カレンさんの息遣いが耳に掛かってくすぐったい。
そしてドキドキする。
僕って結構年上好きなのでは、と最近思い始めた。
「ベルフラウさんが時々言ってる『女神様』って本当は何の事?
この世界には『イリスティリア』と『ミリク』という二柱の女神がいるのは知ってるけど、『ベルフラウ』なんて女神は聞いたことないわよ」
「あー……それは……」
どう説明したものか。
「僕が別の世界から転生した時に、
別の世界の女神様が一緒に付いてきたんです。それが姉さんです」
「…………」
「…………」
何故か僕とカレンさんは無言になってしまった。
「……レイ君、そんなに冗談上手くないわよね」
「冗談じゃないんです……」
気が付いたら一緒に異世界に来てて、
そして何やかんやで姉さんが僕の姉になったんです。
そう説明したんだけど………。
「……レイ君、初対面の女の人を無理矢理自分の姉にしたの?」
「いや、ちがっ!? ……あ、いや、合ってるのかな……」
今思い出すと、半分くらい僕の泣き落としが原因な気がする。
「いやいやいや、今はそんな話をしてないから!」
「まぁ、レイ君のお姉さんがどんな人でも私は気にしないけどね」
でも女神なのは本当なんです。
一応念押しで言ったんだけど、結局信じてくれなかった。
◆
「おーい、ベルフラウー、何か見えますかー」
「ちょっと待っててー」
「ベルフラウ様ー、お気を付けくださいねー!!」
気が付いたら、姉さんが上空十数メートルまで宙に浮かんでいた。
「エミリア、レベッカ……姉さんは一体何をやってるの?」
遊んでいるのだろうか。
「レイ様、お話は終わりましたか?」
「あ、うん、ちょっとね。それで?」
「折角空を飛べるんですし、上空から周囲を探索してもらってたんですよ」
エミリアはそう言って、空を飛んでる姉さんを指差す。
なるほど……。
うん、上空から見た方が確かに早いよね。
それにしても、今の姉さんは光輝いてるなぁ。物理的に。
「姉さんって空飛んでる時は女神さまっぽいよね」
「え、本当? やったぁ!! お姉ちゃん嬉しい!!」
僕の言葉を聞いた姉さんは、急に元気になって更に高く飛び上がった。
本当は『普段は女神っぽくない』って意味だったんだけどね……。
僕が心の中で苦笑していると、レベッカにつんつんと背中を叩かれた。
「どうしたの、レベッカ」
「レイ様。わたくし、レイ様にやってほしいことがありまして」
「僕に? 良いよ、何でも言って」
そう僕が答えると、レベッカは歳相応に嬉しそうな表情をして、言った。
「はい! ではレイ様」
「うん」
「肩車してください!」
うん……?何で肩車?
「え?……別にいいけど」
僕は言われるままレベッカを持ち上げて、肩に乗せた。
レベッカのもちもちしてて柔らかい太ももを頬で感じつつ、頭上の方に目をやる。
そこにははにかんだ笑顔のレベッカの顔が近くにあった。
かわいい……。
「うふふ、ありがとうございます。
以前、レイ様がカレン様に肩車してもらって嬉しそうにしていたので、
わたくしも是非レイ様にやってもらいたかったのです」
「う、嬉しそうだった?」
その時の僕、かなり恥ずかしかったんだけど……。
「とても幸せそうな顔でしたよ」
「……そ、そっか」
僕はカレンさんを見る。彼女は僕の視線に気付くと、顔を赤くしながら目を逸らしてしまった。確かに心の中ではちょっとドキドキしてたかも……。
「それではレイ様、動いてみて下さいませ」
「りょうかーい、じゃあゆっくり動くね」
僕はレベッカを落とさないように慎重に足を動かす。最初は少し怖がっていたレベッカだけど、すぐに慣れたようで楽しげな声を上げるようになった。
「わぁ~、すごいですぅ、レイ様! 高いですねぇ、あははー」
レベッカが歳相応にはしゃいでる!!
普段のレベッカって結構大人びてるから色々新鮮だ……。
僕は思わず微笑む。すると、レベッカがこっちを見下ろしてきた。
「あ、レイ様。今笑いましたね?」
「うん、だって可愛くて」
普段は不用意に言えないけど、つい口に出してしまった。
だって本当に可愛いもん。
「もうっ、そんな事言われたら照れてしまいますよ。でも嬉しいです、レイ様」
ああ~、歳相応のレベッカが可愛すぎる~。
「……何か、楽しそうですね、二人とも」
エミリアが若干何か言いたそうにしている。
レベッカはそんなエミリアを見て微笑みながら言った。
「ふふふ、エミリア様もレイ様に乗りたいですか?」
「違いますよっ! というか、その言い方は誤解されますから止めてください!」
すると、レベッカは不思議そうな顔をした。
「誤解とは?」
「それは……あの……」
エミリアが赤面して口ごもる。
「ふむ……レイ様、誤解とは何のことだったのでしょうか?」
「さ、さぁ……?」
レベッカは知ってて言ってるのか、それとも素なのか……。
五分五分かなあ。
「……」
そしてカレンさんからもちょっと奇異の目で見られてる気がする。
「……カレン、私達もしましょう」
エミリアが突然変なこと言い出した。
「え、するって、何を?」
「肩車」
「えっ」
◆
そして、魔物退治に来た筈なのに、何故か空を飛んでいる姉と、
地上では肩車して遊ぶ二組のおかしな状況になってしまった。
「どうしてこんなことに……」
嫌では無いんだけど、そもそもここに何しに来たのか忘れそうになる。
「レイ様、今は魔物を見つけ出すために、肩車で索敵範囲を広げているのですよ。決して遊んでいるわけではございません」
レベッカは僕の頭の上で、キリッとした表情をしながらそんなことを言っている。
「カレン、もう少し身長高くなりません? 高さが足りません」
カレンさんの上に乗ってるエミリアが真顔で言った。
「無茶言わないでよ……。
というか、<索敵>の魔法使ってるなら肩車の意味ないじゃない!」
そもそも肩車に特に意味が無いと思う。
「楽しいので良いではないですか」
僕達がそんなやり取りをしていると、上空で浮遊してた姉さんが降りて来た。
「お待たせ~、終わったよ。それにしても、みんな仲良しだね」
そう言うと、姉さんはスタッと降り立った。
「お疲れ様、姉さん」
「ちょっと飛んで来たけど、西の方にある森にそれっぽい魔物が飛んでたよ」
「本当!? 姉さんお手柄だね」
目的の魔物を見つけたなら、もう肩車の必要はないだろう。
初めから要らないと言われたら何も言えないけど。
「それじゃあ、みんな行こう」
僕は頭の上に乗っかってるレベッカと、カレンさんに乗っかってるエミリアに言ったのだけど。
「分かりました、レイ様。それではこのままゆっくり進んでくださいまし」
「カレン、揺らさないで進んでくださいね」
いや、降りてよ。
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