第220話 炎の悪魔(後編)
「……やった?」
今度こそ、倒せただろう。僕はそう思った。しかし、
――GAAAAAAAA!!
炎の巨人は、一瞬体が消えたにも関わらず、再びその姿を取り戻す。
先ほどよりも体は一回り小さいが、それでもなお炎は燃え盛っており、離れている僕からでもその熱量が感じ取れるほどだ。
「そんな!?」
エミリアも驚愕している。これは完全に予想外だった。
姉さん程の威力はないとカレンさんは言っていたけど、それでも奴にとっての弱点なはず。
この一撃で倒せないとなると、倒す手段が……!
僕らがその事実に唖然としていると、奴の炎は更に燃え盛り、炎を放とうと腕の部分をこちらに向けて突き出した。
「
レベッカは、それをさせまいと重力魔法を解き放つ。
巨人はレベッカの魔法を受けて、再びその姿を霧散させ、同時に僕達への攻撃を中断させた。
しかし、数秒後、またしても巨人の姿で魔物はその場に舞い戻る。
何なんだ、こいつ。いくらなんでもしつこい!
「レイ、一応さっきの攻撃は効いているみたいです!!」
エミリアがそう言って、炎の巨人に杖を構える。
「どういうこと?」
「少しですが奴の体が小さくなっています。それに炎の勢いも僅かに……」
確かに言われてみると、小さくなっている気がする。
だけど、それはほんの僅かで、あの巨体を消し飛ばすには至らない。
それどころか、また時間が経つと徐々に大きくなっていく。
<能力透視>で判明した奴の技能に<自己再生>というものがあった。
おそらくこれは体を再生させ続ける技能なのだと思う。
それを使って、奴はダメージを喰らってもすぐに体を修復させているのだろう。
無敵みたいな能力だ。
更に、敵の攻撃は苛烈だ。
――
炎の巨人が空に赤い巨大な魔法陣を出現させる。
どこから膨大な魔力を伴った、炎魔法が展開されていく。
「や、やばっ!!」
「みんな下がって!!
カレンさんが咄嗟に上空に防御魔法を展開するが、巨人は予想外の行動に出た。
――
「なっ!? 二発目!?」
一発目を打ち終える前に、二発目の<上級獄炎魔法>がこちらに放たれる。
巨人の炎魔法は連発することで丸ごと飲み込まんと範囲が広がっていく。
「防御魔法だけじゃ……!!」
一撃ならまだしも、上級魔法二連発は凌ぎきれない。
「レベッカ、あれを使いますよ!!」
「はい! エミリア様!!」
二人は声を合わせて魔法を発動させ、
カレンさんが発動した防御魔法の更に上に魔法を発動させる。
「「
二人の声が重なって同種の二つの魔法が展開される。
炎の巨人が放った炎魔法の一部を魔力相殺によって相殺させることで、威力が少し抑えられる。
しかし、そこまでだ。
炎の巨人はなおも無詠唱で三発目の
だが、三発目となると流石に即座に魔力が集まらないらしい。
それまでと比べて少し時間が掛かっている。
僕は防御魔法の範囲から飛び出し剣を以って巨人へ向かって大きく跳躍する。
そして、瞬間的に魔力を<龍殺しの剣>に吸収させる。
「くらぇぇぇぇ!!!!」
掛け声とともに、魔力を伴った斬撃を放ち、炎の巨人は一瞬霧散する。
それと同時に、上空の魔法陣は消失し、なんとか炎の巨人の攻撃を停止させた。
「た、助かった……」
なんとか、攻撃を止めたものの、放出した魔力量も大きい。
一瞬、膝をつきそうになったが―――
「レイ様!!」
レベッカの声に反応し、咄嗟に前を見る。
すると、炎の巨人はまた姿を現しており、僕に向かって炎を繰り出した。
「――っ!!」
僕は咄嵯に剣に風魔法を付与し、一気に解き放つ!!!!!!
「超級武神風爆殺斬!!」
僕は以前姉さんに名付けられた風の必殺技を放つ。
放たれた僕の二つの真空破は奴の炎とぶつかり合い、炎を切り裂いた。
更にもう一撃の真空破は奴の体に直撃し、再びその姿を一瞬霧散させるが、次の瞬間に元に戻ってしまう。
それと同時に、僕は自身の魔法で後方に吹き飛ばされる。
しかし、何とか距離を取って仲間と合流できたため結果オーライだ。
「でも……やっぱり駄目か……」
さっきの攻撃も、あまりダメージを与えられていない。
僕自身の魔力もかなり使ってしまったし、長期戦は難しいかもしれない。
僕はそんな若干シリアス目な事を考えてたけど、
仲間は目を丸くして僕を見ていた。
「……何?」
ジト目をしながら僕は仲間達に問いかける。
「……いや、さっきの技名……」
カレンさんにあまり聞かれたくないことを突っ込まれる。
だって仕方ないじゃん、姉さんに名付けられたんだもん!!
「嫌がってたのに、結局その名前採用したんですね……。
全く、人の魔法の詠唱に色々ケチ付けておいて、レイの方がよっぽど恥ずかしいじゃないですか」
「うぐっ……!」
ちなみに姉さんが名付けた正式名は<レイくん奥義・超級武神風爆殺斬>だ。
とても恥ずかしくて言えない。
「いいの! 今はそんな事気にしてる場合じゃ無いでしょ!!」
僕は必死に誤魔化すように叫ぶ。
しかし、実際今はあまり余裕が無い。
「次、どうする!? 何とか攻撃は凌げたけど……!」
「魔法攻撃に関してはダメージが通ってるみたいね。だけど、半端な攻撃は大したダメージにならないし、すぐに回復されてしまうみたい。大技を立て続けに連発するくらいしか手段が思い付かないわ」
カレンさんは、再び剣を構える。
「大技っていっても……」
「私の聖剣技とレイ君の私の聖剣技を相殺した技を一気にぶつけましょう。
どっちも単純な物理攻撃じゃないからダメージ自体は通るはず。その後に、エミリアの氷の極大魔法を使用して一気に叩き込めば……」
「……分かりました、やれるだけやってみる!」
「ありがとう……さ、一気に行くわよ。
レベッカちゃん。さっきの魔法で私達の詠唱の邪魔をされないように動きを止めてくれるかしら」
「ではそのように。
しかし、そのまま使ってはすぐに逃げられてしまいそうです。そこで……」
『――精霊よ、その大地を揺るがし、足を封じよ……
レベッカの詠唱が終わり、魔法が完成する。
炎の巨人が立っている地面に大きな亀裂が入り、炎の巨人がバランスを崩すと同時に体の一部が地割れに囚われる。
『更に綴る……――世界よ、私の言葉に応じよ――
レベッカは更に追加詠唱を行い、今度は<時魔法>と呼ばれるうちの一つ、重力魔法を炎の巨人に向けて解き放つ。重圧を受けた炎の巨人はその姿を地割れで割れた地中に押し潰され、僅かずつその身体を小さくさせていく。
しかし、その姿を再び霧散し……。
「――――今よ!!聖剣解放 70%!!
カレンさんの掲げる聖剣が激しく光り輝き、頭上にいくつもの光の剣が現れる。
ほぼ同時に、炎の巨人が再び姿を現すが、その姿は一回り小さくなっている。
「―――解放!! 光の剣よ!!」
カレンさんの号令と共に、頭上の五十はあろうかと思われる光の剣が炎の巨人に降り注ぐ。
その一撃一撃が、奴の炎を少しずつ削っていき、確実なダメージを負わせる。そして、最後の剣が降り注いだ直後、僕は一気に接近し、風の魔力を極限まで付与して、それを解き放つ!!
「――くたばれぇ!!」
僕は剣に全力で風魔法を付与し、奴の巨体を一気に吹き飛ばし、その身体が霧散する。
しかし、そこまでしても奴は再び再生を繰り返し姿を現した。
だが………!!
「体が……!!」
「もう、普通の人と同じくらいの大きさに小さくなってるわね」
炎の巨人はその力を使い果たしたのか、体が小さくなっており、炎の勢いも弱くなっている。
「後は任せてください!!
――――凍えよ、我が世界。あらゆる物質を絶対零度へ導く氷結の世界。
我が前に、立ち塞がる敵を、全て永久の眠りへと誘う。あらゆるものを停止させ、
あらゆるものは動くことは叶わず――」
エミリアの極大魔法の詠唱だ。
長いけど、その分威力は今までの魔法とは比較にならない。
ようやくこれで終わる。ここにいる誰もがそう思っていた。
しかし、その時だった。
―――AAAAAAAAA!!!!
巨人とは言えない大きさまで弱体化した炎の魔物は奇声を上げる。
悪あがきかと思ったが、そうではなかった。奴の体の中心部分から、感じたことの無い熱量を放出し始めて、再び奴は体に炎を循環させていく。
「なっ!?」
「まだ、動けるっていうの……?」
エミリアの魔法はあと少しのところで完成する。
だけど、このままでは間に合わない。
「レベッカちゃん、 さっきの魔法で!」
「はい!」
再び、レベッカが重力魔法を使用し奴の炎の勢いを抑え込む。
しかし、炎の勢いはレベッカの魔法をも凌ぎ、体が再び大きくなり始めた。
……不味い。多分、このままだと……。
このまま<極大魔法>を当てたとしても、倒しきれない可能性が高い。
そうなると、消耗した僕達ではいよいよ打つ手が無くなってしまう。
「え、エミリア! まだなの!?」
「焦らせないでください!! 詠唱することで何とか魔力をかき集めてるんですから!!
集中力が切れると、また魔力を集め直しになってしまいますよ!!」
エミリアは焦って、詠唱を再開するが、僅かにまだ時間が掛かってしまいそうだ。
「な、なんとかしないと……」
奴の弱点は、水と光の魔法だ。でも水属性は誰も使えない。
光属性の浄化はカレンさんが使用したけど、少々ダメージを与える程度にとどまっている。
多分、姉さんの<大浄化>くらいの威力じゃないと致命打は与えられないだろう。
「くそっ、姉さんを連れてきていれば……!!」
つい悪態を付いてしまうが、弱ってる姉さんを連れてくる気には流石に気が引けてしまう。
それに、仮に付いてきたとしても<大浄化>を使用できるほどのMPは残ってないかもしれない。
「……姉さん?」
……そうだ、思い出した。
僕らがここに来る前に、姉さんが渡してくれたものがある。
それを僕はポケットから取り出す。
「……この小瓶」
この小瓶の中身は、聖水。
カレンさんによると一切の不純物が存在しない最高の聖水らしい。
何故、このタイミングで姉さんがそれを渡してくれたか疑問だったけど……。
「―――っ!! これは賭けだ!!」
小瓶の蓋を開けて、今もレベッカが抑え込んでいる炎の魔物に投げつける。
すると、聖水が炎の魔物にかかった瞬間に炎の勢いが一気に衰えていく。
「き、効いた……?」
炎の魔物は再生能力が激減したようで、レベッカの重力魔法に押され始めた。
その炎の勢いも弱くなっており、今はほぼ拮抗状態となっている。
ここまで来れば……!
「ようやく魔法が完成しました!
故に、我の前に敵は無く、故に、全ての存在は我が氷の世界で、永久の安息を得るだろう――!!
喰らえ!!!
エミリアが詠唱を終え、魔法を発動させる。炎の魔物の周囲に巨大な魔法陣が出現し、そこから猛烈な冷気が溢れ出し、炎の魔物を一気に包み込んだ。
そして、炎の魔物の体の炎は完全に消え、実体が露わになった。
黒い人影のような姿で、氷中で時が停止したように身動きできず閉じ込められた。
「……どうでしょうか」
レベッカはゆっくりと重力魔法を解除していき、完全に炎の巨人の動きが止まったことを確認する。これで倒せたと思いたいところだけど……。
「……まだです。あの黒い奴が、まだ動いています」
エミリアの言葉で、僕達は目の前の氷の中に閉じ込められた魔物を凝視する。炎は完全に消えている。おそらく、聖水の効果で自己再生能力が無くなってしまったのだろう。
だが、確かに、エミリアの言う通り僅かに魔物の体が動いている。
「また炎が灯り始めたら復活するかもしれないわね」
「そうはさせないよ。みんな、ちょっと下がっててくれる」
僕の言葉で、僕以外の人間が氷漬けの魔物から距離を取っていく。
距離的に僕から十五メートルくらいかな。
うん、これくらいの距離があればいいだろう。
「レイ君、何か有効な攻撃手段あるの?」
「うん、少し前にウオッカさんから教えてもらった技があって……」
この技は消耗がちょっときついけど、威力は折り紙付きだ。
「……すぅぅぅぅ……」
呼吸を整えて、剣を構えで黒い魔物と向き合う。
「……<衝撃破壊>!!」
僕は魔物の正面手前に思い切り剣を叩きつける。
数秒後、叩きつけた周辺に地震のような揺れが発生し地面や岩が砕けていく。
そして轟音と共に、目の前の分厚い氷と一緒に魔物は粉々に砕け散った。
ちゃんと消滅したか確認していると、
魔物の周囲にほんの1cm程度の赤い球が転がっていたので、それを拾う。
もしかして、これが<消えない炎の欠片>という奴なのだろうか。
覗き込むと、僅かに……中に火が灯っている。炎の魔物が中心から炎を引き出しているように見えたけど、多分これが奴のコアだったのだろう。
「おつかれさま」
そう言いながら、みんなが僕の元に駆け寄ってくる。
「ありがとー。みんなのお陰で助かったよ。
それに、姉さんに貰った聖水も……これが無いと危なかったね」
姉さんは、事前にこの状況を見越していたのだろうか。
「さきほどレイ様は何か拾っていたように見えたのですが……」
「うん、これだよ」
レベッカに言われて、僕はさっき拾ったビー玉のような石を見せる。
「これが<消えない炎の欠片>なんだと思う」
見た目はただの綺麗な球体にしか見えない。
ただ、中を覗くとまるで燃えているかのように中で火が揺らめいている。
鑑定した結果、やはり目的のアイテムだった。
「これで、ようやく一つ目の依頼が終わったね……」
あと二つ……他の依頼もこれと同じくらいヘビーな内容なのだろうか。
正直、これ以上厄介なことに巻き込まれたくないというのが本心だけど、それでもやらなければならない。
「とりあえずは街に戻って報告しましょう。
報酬は後日ギルドの方で受け取ることになると思います」
「そうだね。早く戻ろうか……」
レベッカの言葉を聞いて、僕達はその場を後にした。
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